
呼吸器外科(自然気胸の手術に関するよくある質問)
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呼吸器外科
自然気胸の手術に関するよくある質問
ここでは自然気胸の手術適応と手術の内容に関して、よく尋ねられる質問とその回答を記述しておきました。
もちろん、回答は典型的経過をたどった場合を想定しており、時に非定型的な経過をたどることがありますので、本稿の記述はあくまでも参考程度として、ご利用ください。
当然、これらの記述に関わる事項で発生した問題等に関しましては、当方では責任は負いかねますので、ご了承ください。
- Q:自然気胸の手術を受けるにはどんな条件が必要ですか?
- Q:自然気胸の手術ではどこ(の組織)を手術する(取る)のですか?
- Q:手術以外の治療と手術はどっちが良いのですか?
- Q:手術の前後に手術以外の治療をするのですか?
- Q:チューブ(管)による治療とは何ですか?
- Q:再発しても手術は受けられますか?
- Q:巨大肺嚢胞(ジャイアントブラ)と言われましたが気胸の手術を受けた方がよいですか?
- Q:内視鏡(胸腔鏡)を使う手術があるのですか?
- Q:局所麻酔で手術を受けられますか?
- Q:両方(左右)の肺の手術を受けることはできますか?
- Q:癒着療法を受けたことがありますが手術できますか?
- Q:癒着療法とは何ですか?
- Q:癒着療法はよくないと聞きましたが?
- Q:肺からの空気漏れが止まりましたが、やはり手術をした方がいいのでしょうか?
- Q:手術のあとは運動しても大丈夫ですか?
- Q:手術のあとは何を食べても大丈夫ですか?
- Q:手術のあとはタバコをすっても大丈夫ですか?
- Q:手術のあとは旅行しても大丈夫ですか?
- Q:気胸にかかったら2度と飛行機に乗れないのですか?
- Q:手術のあと再発したら?
- Q:続発性気胸といわれました。手術した方が良いですか?
- Q:自然気胸の手術を受けるにはどんな条件が必要ですか?
他の一般的な手術と同じです。両側同時に気胸になっていたり、重症の気胸の状態のまま麻酔をかけることは、非常に危険ですので、事前に空気抜きのためのチューブを、気胸をおこしている胸の中に入れてから麻酔(手術)を行います。
- Q:自然気胸の手術ではどこ(の組織)を手術する(取る)のですか?
どこを取るかは気胸の原因によって異なります。原則的に気胸をおこす元凶となっている病変部位を切除します。
気胸といっても原因はさまざまですが、痩せ型の若年男性に多い原発性自然気胸と呼ばれる 最も多いタイプの自然気胸では、「ブラ」や「ブレブ」と呼ばれている空気のたまった袋状の病変(「気腫性のうほう」と呼ばれます)が気胸の原因となりますので、これを切除する「ブラ切除術」が、原発性自然気胸治療の代表的手術方法になります。続発自然気胸の場合は、気胸の原因となった病変によってどこをどう手術するか変わります。例えば、頻度は少ないものの、肺にできた腫瘍が自壊して穴が開き気胸になったような場合では、腫瘍そのものを切除します。「ブラ」が肺の表面だけでなく、肺の中のほうまで沢山できている様なケース(「肺気腫」が代表的な病気)では、穴だけをふさぐ手術になることもあります。
- Q:手術以外の治療と手術はどっちが良いのですか?
気胸の治療は、経過を見るだけで治る方から、どうしても手術で治さないといけない方までいろいろです。絶対手術がお勧めという方は(1)大量の出血を伴っている気胸、(2)肺にあいている穴がほかの治療ではどうしてもふさがらない方ぐらいです。気胸の治療に最善といえる方法があるわけではありません。「気胸」という状態を治すことは、手術以外の方法でも、ある程度時間をかければ大抵可能です。ただ「気胸」を治している間に、バイ菌が傷や胸の中に増殖したり、「気胸」自体が一旦改善してもまたすぐ「気胸」になったりしがちです。治療の選択はその後の再発の可能性と、治療の重み(体への負担の大きさや危険性)をはかりにかけて検討してください。
- Q:手術の前後に手術以外の治療をするのですか?
気胸の手術は(1)今あいている穴をふさぐことと、(2)次に気胸にならないようすることの二つの目的があります。手術前の時点で穴がふさがっている可能性が高いなら、事前に別の治療を行う必要はありません。穴がふさがっていないか、あるいはその可能性が高い場合は、事前に胸の中から、肺をつぶしている余分な空気を抜くために、胸の中にチューブを入れます。自然気胸の外科治療では、手術のあとに新たな治療をすることはありません。「気胸」再発予防のために内服薬を飲んだり、点滴をしたりすることはありません。手術のときに胸に入れるチューブが抜ければ、そこで治療は終わったと考えてよろしいかと思います。
- Q:チューブ(管)による治療とは何ですか?
気胸は肺がパンクした状態によく例えられます。胸の中(肺とあばらの間の隙間)に、余分な空気がたまった状態を指しているわけです。肺に穴が開いて、そこから空気が漏れて胸の中にたまっていることが多いのですが、もれてくる空気よりも、よりたくさんの空気を体の外に抜いてやれば、隙間の空気はどんどん薄くなって、肺は再び膨らんだ状態に戻ります。空気を抜くには、チューブを胸の中まで入れる必要があります。きちんと胸の中にチューブが入り、余剰の空気を抜くことができれば、ほとんどの方が「気胸」という状態からは脱することができ、特に「呼吸困難」という症状からは解放されます。
胸にチューブを入れるだけでは、肺に開いた穴を閉じることはできませんが、生体の傷を直す力が、この穴をふさぐ方向にうまく働くことで、自然に穴がふさがることがあり、実際にこれだけで気胸が治る確率は、半分近くの方にあるといわれています。
しかし、この治療では穴ができる原因になった病変(多くは「ブラ」と呼ばれるものですが)自体が消失するわけではありません。- Q:再発しても手術は受けられますか?
再発していても手術は受けられます。肺が完全につぶれてしまっているような場合は、初発再発関係なく同じような手術で実施することが可能ですが、前治療で癒着療法などが行われている場合、一度その癒着を剥がす必要があり、少し手術は面倒で時間がかかったり、手術中の出血量も増えたり、肺が(手術操作で)傷ついたりしやすくなります。
- Q:巨大肺嚢胞(ジャイアントブラ)と言われましたが気胸の手術を受けた方がよいですか?
ブラが大きくなって、健常な肺を押しつぶしてまで大きくなってしまっているものが「ジャイアントブラ」と外科医が呼んでいるものです。普通ブラは肺の表面にポリープのようにできて、肺の外側で大きくなるのですが、ジャイアントブラでは肺の内向きへの広がりが著明で、大きくなる割に破れにくい(気胸になりにくい)とも考えられています。ジャイアントブラを手術で取り去るのは、押しつぶされた健常部分の肺を、元の姿に戻してやることが主な目的で、気胸の予防という目的ではありません。ジャイアントブラが原因で、呼吸困難(ひどい場合は血管や心臓まで押しつぶされて上半身がうっ血して顔が腫れ上がるようなこともあります)があった場合の手術の効果は大きく、手術を受けた方の満足度は高いようですが、10年20年と経過すると、残った肺の中からまた大きなブラができることがある、という欠点があります。
- Q:内視鏡(胸腔鏡)を使う手術があるのですか?
今は自然気胸の治療の大半が、胸腔鏡手術で行われています。胸部の内視鏡手術はブラ切除のために生まれたといっても過言ではないと思います。ブラは薄い空気のたまった袋状の病変ですが、破れれば非常に小さなものです。現代の内視鏡手術は、胆石症の胆嚢摘出術を行うために爆発的に普及した技術ですが、これに前後して胸部では自然気胸に対する胸腔鏡下ブラ切除が始められ、今日では標準術式としての地位を固めています。この(胸腔鏡下)手術は、内視鏡を入れるためのの創と手術の器械を入れるための創2-3個がそれぞれ1−2センチ前後ですみ、あばらをこじ開けて行っていた頃の手術(開胸下手術と呼んで区別しています)に比べ美容的にも、また術後の疼痛の面からも優れていると考えられています。(疼痛に関しては個人差があります)
- Q:局所麻酔で手術を受けられますか?
当院では局所麻酔下での気胸手術は実施していません。確かに局所麻酔より全身麻酔のほうが麻酔の危険性は高いのですが、全身麻酔がかけられない程、状態の悪い方以外では、局所麻酔下での手術の苦痛のほうが、デメリットになると私どもは考えております。局所麻酔下の手術は、ゆっくり時間をかけて行いにくいという欠点もあります。私どもは手術の危険を承知で手術を選択される方には、しっかり時間をかけて(といっても1時間ほどの手術ですが)できる限り再発しないような手術を丁寧に行いたいと考えております
積極的に局所麻酔下での手術を行っている病院もあります。局所麻酔下での手術を行うもう一つの目的は、入院期間を短縮することであるようです。特に日帰り手術がご希望なら、局所麻酔下での手術を検討されてもよいかも知れませんが、よく利点と欠点を御理解なさったうえで御選択ください。- Q:両方(左右)の肺の手術を受けることはできますか?
両側の手術は、同時でも、片方ずつでも可能です。めったにありませんが、両側同時に気胸になって、チューブによる治療が間に合わないぐらい、大量に空気が漏れてくるような場合は、緊急手術が必要な場合もあります。普通、両側同時気胸の場合は、まずチューブによる治療が直ちに開始され、肺のつぶれ方がひどいほうから手術を行い、次いで反対側の手術を行うという手順になります。一度の手術で両方の手術が可能です。過去に一側の気胸をおこしていて、今度新たに反対側の気胸をおこした場合(異時性両側気胸)は、初発の手術と同じように手術を行うことが可能です。
- Q:癒着療法を受けたことがありますが手術できますか?
可能です。しかし外科医の本音で言えば「やりにくい」手術になります。癒着があると、通常はその癒着を一度解除してからでないと、気胸自体の手術は大変やりにくく、不完全なものになりやすくなります。癒着を剥がすと出血もしますし、剥がす操作自体で、肺に穴を開けることにもなります。時間と根気が必要になる手術です。
- Q:癒着療法とは何ですか?
癒着療法は、肺とあばらの壁の間に何らかの手法を持ちいて炎症などを誘発し、隙間をつぶしてしまおうとする治療全体を指します。肺とあばらの壁の間に炎症が起きると、その吸収過程で癒着が起きます。癒着により肺はあばらの壁に引っ付き離れなくなります。ブラは肺の表面にできて、あばらとの隙間で大きくなり破綻します。その空間をつぶすことで気胸の発生を防ぎ、破綻したとしても肺の完全な虚脱を防ぐことができます。
炎症を引き起こす手法はさまざまです。化学物質を注入する方法が一般的で欧米ではタルクという「てんかふん」の粉をまくことも多いるようです。ちなみにこの「タルク」は日本では使用が許可されていません。欧米では、手術のときも、気胸の再発防止を目的に、癒着療法をブラ切除と同時に行うことが通例です。その際は胸膜を意図的に切ったり、こすって炎症を起こしたり、タルクなど薬をまいたり、といろいろです。当院では生体内で吸収されてなくなる手術用の縫合糸を、網状に編んだネットを肺の表面に固定する方法を使います。- Q:癒着療法はよくないと聞きましたが?
癒着療法を極端に嫌うのは、日本の外科医に特によく見られる傾向のようです。癒着療法は発熱を伴うことが欠点です。注入する化学物質によっては、強い痛みがあることもあります。物質を注入する方法は、注入する物質が移動して癒着を必要とするところ以外の場所にたまって、呼吸に障害を与えることがあるともいわれています。外科医が最も嫌う理由は、癒着によって次に開胸の手術が必要になったとき、手術が難しくなるからです。再発防止に癒着療法するよりも、気胸が再発したらまた手術をすればよいという主張です。
当院では、これらの欠点を踏まえた上で、生体内で吸収されるメッシュを、肺の表面に固定する方法を癒着療法の一法としてお勧めしております。この方法は発熱が見られることがあるものの、全身状態に影響せず疼痛を伴いません。また最もブラの発生しやすい肺の天辺の部分だけ癒着を誘導できる方法で、この方法を採用してから再発率は従来の手術の1/4近くまで減っています。- Q:肺からの空気漏れが止まりましたが、やはり手術をした方がいいのでしょうか?
気胸の手術は(1)今あいている穴をふさぐことと、(2)次に気胸にならないようすることの二つの目的があります。空気漏れになっていた穴はふさがったことになりますが、穴があく原因となった病変は、おそらくそのままの状態です。手術でその原因病変を取り去ることができれば、再度気胸を起こさずにすむかもしれません。気胸の手術の目的の2番目にあたります。
若い(30歳代までの)痩せ型の男性に多い原発性自然気胸では、このような考え方から手術がよく行われ、9割前後の方が再発せずに暮らすことが可能になっています。もともと肺に病気があって、気胸になってしまう続発性自然気胸という場合では、この効果は随分下がってしまいます。手術の目的と治療効果の予測をよく確認されたうえで、検討されるのがよろしいでしょう。- Q:手術のあとは運動しても大丈夫ですか?
当院では気胸の術後に運動制限はしておりません。気胸の術後再発は多くは2年以内に起こりますが、運動することで気胸の再発が増えるということはないと考えられています。手術直後は傷の痛みもあり、退院後すぐにスポーツ活動といえるような運動をされる方はほとんどないようです。治療後2-3週間過ぎれば、プロスポーツでも復帰できたという報告はありますが、具体的にどの程度の運動がどれくらいの期間できないのか、詳しく調べられた科学的データはありません。繰り返しますが、気胸の術後である事を理由に、運動を回避する必要はありません。
- Q:手術のあとは何を食べても大丈夫ですか?
気胸と食べ物にはまったく因果関係はありません。特別な配慮は必要ありません。
- Q:手術のあとはタバコをすっても大丈夫ですか?
絶対にいけません。若い痩せ型男性に多い原発性自然気胸でも、喫煙と気胸の関係は古くから指摘されています(ただ年齢が若い人が多いので喫煙量が多くなく統計的な裏づけはありません)。タバコは肺に回復不能な障害を与えます。喫煙を続けると、20年後には間違いなく肺がスカスカになってしまう病気(肺気腫といいます)になります。肺気腫は難治性の続発性気胸の代表的疾患です。また手術を受けたいのですか?肺気腫は徐々に進行して、最後は酸素が取り込めなくなる呼吸不全という恐ろしい病気です。残った肺を大切にして下さい。タバコを吸っている人がいたら注意してあげてください。
- Q:手術のあとは旅行しても大丈夫ですか?
旅行自体が気胸の再発を増やすことはありません。気胸が手術で完全に治っていれば、旅行しても大丈夫です。しかし術後2年とくに術後半年以内は術後の再発が多い期間です。気胸を疑わせるような症状がある場合は、必ず医療機関で気胸になっていないか確認して、旅行に出ましょう。特に旅行で飛行機に乗ったり、水中を潜ったりするときは注意が必要です。気胸の状態の人(=気胸を発症している状態の人)が、航空機やスキューバダイビングなど気圧の変動が激しい環境に入った場合、(理論的には)気胸は悪化します。下の質問と回答も参考にして下さい。具合が悪い時に、いつでも医療機関を受診できるような旅行(陸上を移動するだけの旅行)であれば、多くの場合、まったく問題はないと思われます。
- Q:気胸にかかったら2度と飛行機に乗れないのですか?
機内の気圧変動自体が、気胸を新たに発生させることはないと考えられています。軍隊のパイロットに気胸の発生が特別多いことはない、ということが分かっています。したがって飛行機に乗るときに気胸になっていなければ大丈夫です。心配なのは、空港を飛び立ったあと(気圧とは関係なく)機内で気胸になってしまったときです。殆どの気胸は、発生して直ちに生命を奪うような危機に陥ることは少ないと思いますが、それでも中には時間的猶予のない気胸となることも、ないわけではありません。国内ならまだしも国際線でそのような状況になった場合、短時間のうちに緊急着陸できるとも限りません。機内には気胸に対応できる緊急医療機器や、要員はいないと考えるべきです。旅客用航空機には緊急時の酸素投与装置はありますが、客席ごとに酸素が投与できる構造とは限らないようで、機内での対応はまちまちだそうです。米国の航空医学の学会が出しているガイドラインや英国胸部疾患学会のガイドラインでは、気胸が治癒(治る)して3週間は飛行機に乗らないよう勧告しています。またこれらのガイドラインでは、気胸を発症する恐れのある人は、手術など再発の恐れの少ない治療を受けたのち飛行機に乗るべきだとしていますが、決して科学的根拠があるわけではないとも併記しており、現状では何が一番良い方策かは、よくわかっていません。
- Q:手術のあと再発したら?
少しでも再発が減るよう手技に工夫が加えられてきましたが、今の医療技術では、術後再発を完全になくすことはできません。結局、ブラが発生する原因がわかっていない為だと思われます。多くの方に聞くと、再発したときは、気胸特有の痛みでわかるそうです。胸部レントゲン写真1枚で診断が付く病気ですから、近くの病院(日本の医療機関ならまずレントゲン撮影はできるはずです)にかかってください。そのあとの治療は手術前と同じように病状によってかわります。
- Q:続発性気胸といわれました。手術した方が良いですか?
続発性自然気胸は一つの病気ではありません。いろいろな病気によって引き起こされます。気胸の原因になっている病気の種類によって、手術の方法は変わります。中には女性特有の子宮内膜症という病気が原因でおきることもあります。共通部分としては(空気が漏れ続けている場合は)空気漏れをとめる手術がおこなわれますが、若い痩せ型男性に多い「原発性自然気胸」と呼ばれているものと違って、原因疾患が多発していることが多く、手術には気胸再発予防効果はあまり期待できません。一度原因病変を調べた上で手術の適否をお決めになった方がよろしいでしょう。