診療科・部門紹介
  • 埼玉病院のご案内
  • 診療科・部門紹介
  • 患者さんへ
  • 医療関係者の方へ
  • 職員募集
  • 交通アクセス

呼吸器外科(呼吸器外科診療Q&A(胸腔鏡手術の術後経過やその他篇))

埼玉病院 トップ > 診療科・部門紹介 > 呼吸器外科(概要) > 呼吸器外科診療Q&A(胸腔鏡手術の術後経過やその他篇)

呼吸器外科

呼吸器外科診療Q&A~胸腔鏡手術の術後経過やその他篇

ここでは呼吸器外科で行われる胸腔鏡手術の術後経過や、関連する事柄に関して、よく尋ねられる質問とその回答を記述しておきました。

Q)内視鏡(胸腔鏡)手術は手術の後、痛くないのですか?

A)無痛ではありません。小さくてもキズがある限り、相応の痛みはあります。

体表にキズを入れて行う以上、痛くない手術などありません。キズを入れる時に麻酔がかかっていても、癒えるまではやはり痛いです。外見上、傷が治っているように見えても、時に痛んだり、違和感が取れないということは、内視鏡手術に限らず、手術の後には必ず付きまとうものです。内視鏡手術が痛くないということはありません。

従来の開胸手術では背中から脇を通って、乳房の下近くまでキズを入れる方法が、広く行われていましたが、このキズに比べると、胸腔鏡手術の手術当初の痛みの範囲は限定されていて、辛さは少ないようです。実際、手術直後から2-3週間の間の比較では、胸腔鏡手術のほうが、開胸手術より痛みの強さは弱いと言われています。開胸手術も近年は傷の大きさが小さくなっていますが、手術直後はやはり平均して、胸腔鏡手術の方が楽な印象はあります。

Q)内視鏡(胸腔鏡)手術ができないのはどのような場合ですか?

A)技術的に実施不可能な場合と、麻酔管理上実施困難な場合があります。

技術的には(1)安全が担保できないとき、(2)カメラで見るだけでは病巣がわからないとき、(3)肺とあばらの間に空間ができない病態の場合、(4)あばらの間からカメラが入れられないとき(あばらの間が狭い、あるいは骨格が大きく変形している、皮下脂肪が厚すぎる)、などです。体外へ摘出すべき病巣が大きすぎて、あばらの間から容易に出せそうにない時も、胸腔鏡手術のメリットは少ないと思われます。

胸腔鏡手術は手術しない側の肺だけで麻酔を行う分離肺換気麻酔という手法で、麻酔を行います。麻酔中は、片方の肺だけで、酸素を取り込み二酸化炭素を吐き出さなければいけません。肺の機能が悪いと、片方の肺で麻酔ができないことになり、手術の実施自体が極めて困難になります。この問題は、更に特殊な人工肺装置や高頻度ジェット換気というような装置があれば回避できることがありますが、そこまでしても胸腔鏡手術を行う必要があるかはケースバイケースで判断されるべきでしょう。

Q)胸腔鏡では病巣がわからないことがあるのですか?

A)あります。

胸腔鏡は肺という臓器の表面を観察するものであり、肺の内部に病巣がある場合、病巣は直接見えません。肺の表面に出来た間接的な所見を頼りに病巣を推測できることもありますが、見るだけでは限界があります。肺は柔らかいので、触って見ると硬い病巣なら、わかります。近年はCTでしかわからないような、小さく柔らかい肺癌が増えており、外科医泣かせです。小さな傷を通して、指を伸ばして病巣を触って探そうとする姿は、とても最新の外科技術とは思えないものですが、触診なしではわからない病巣が増えつつあります。

Q)胸腔鏡手術は料金が高いのですか?

A)開胸手術より手術料は高いです。

例えば標準的肺がん手術の場合、開胸手術では、凡そ70万円、胸腔鏡手術では凡そ90万円くらいです(手術料だけです。平成26年度の診療報酬を元にしています)。これは、胸腔鏡手術の難易度が高いという意味での、技術的評価という意味と、手術に用いる器材の材料費が開胸手術よりかかるということから、高めに設定されているのだと思います。

胸腔鏡手術にもさまざまな種類の手術があり、手術の種類によって30-90万円程度の幅で手術料も異なります。

医療費の実際は、手術料以外にもかかりますし、治療(入院)期間などでも変わります。あくまで参考にとどめてください。

Q)胸腔鏡で手術した場合、入院費はどのくらいかかりますか?

A)あくまで目安ですが、凡そ100~150万円くらいの診療費がかかります。(当科で肺がんの標準的手術(肺葉切除と縦隔郭清)を胸腔鏡で行い、総入院期間が1週間であった場合の目安)

実際にお支払いになるのはこの3割(~1割)であり、さらに条件が合えば高額療養費負担制度が適用されて、実質負担額は数万円以下になるものと思われます。医療費の実際は、手術料以外にもかかりますし、入院した医療機関、治療(入院)期間などでも変わります。あくまで参考にとどめてください。

Q)胸腔鏡手術では、手術翌日から歩けるのですか?

A)歩けます。

特別な理由がなければ、歩くよう心掛けた方が回復はよいです。最初の何回かはふらつくことがありますので、看護師などの介助の下に歩行するようにしましょう。半日もすればほぼ一人で歩行できるようになります。

Q)胸腔鏡手術では、術後いつから食事ができるようになりますか?

A)手術の翌朝から可能です。

翌日はまだ食欲はないのが普通ですが、食事はできるようになります。2-3日目にはほとんどの方が普通に食事をされています。

Q)胸腔鏡手術なら、日帰り手術はできますか?

A)当科では行っていません。

肺癌手術では翌日以降になって起きる合併症も少なくなく、(治療を目的とした)肺癌の手術では日帰り手術を推奨している医療機関はないと思います。自然気胸などの疾患で、日帰り手術を行っている施設がありますが、当院では全身麻酔を行う胸腔鏡手術では、日帰り手術はお勧めしておりませんし、実施する予定もありません。

Q)胸腔鏡手術の後、いつごろ退院できますか?

A)当科では、肺癌手術の後、4-5日目(手術当日は0日目として数えます)、自然気胸では3日目で退院するケースが最も多いです。

入院期間は、持病や手術内容、合併症など様々な要素で変わってきます。合併症さえなければ、長くても術後6-7日目くらいまでに退院されます。

Q)術後数日で退院して、生活できますか?

A)自力で生活できないと思われる場合は、退院許可していません。

術後数日たつと、入院前と全く同じ活動力ではないかもしれませんが、入院していても退屈と感じるほどには回復しています。自分でトイレを往復して用が足せ、食事が普通に摂れるなら、ご自宅での療養期間に入ります。すぐに重労働はできませんし、遠くへ外出することは無理ですが、食べて寝るだけでも、ご自宅で生活されること自体が、回復に向かう十分なリハビリになります。

Q)胸腔鏡手術の場合、何日くらいの入院期間が必要ですか?

A)当科では、肺癌では1週間、自然気胸では4-5日が目安です。

これはあくまでも、目安です。もちろん開胸手術でも入院期間はどんどん短縮されています。

Q)いつから働けるようになりますか?

A)業務内容により様々です。

経過にもよりますが、頑張れば、翌日には座業、パソコンで処理する程度の業務は可能です。もちろん病院内です。胸腔鏡手術であっても、やはり術後の体力の回復には数週かかります。座っている姿だけなら、術後数日で、ほとんど術後かどうかもわからないほどになりますが、術後 2-3週目くらいでは、まだスタスタ早足で散歩することはできないかもしれません。退院直後は作業が加わると、やはりキツク感じます。術後3日目に復職した医療従事者もいましたが、一般には術後1か月程度は在宅で療養された方が、安心かと思います。就労再開については、手術担当の医師だけでなく、職場の産業医・人事担当者などともご相談になりながら、お決めください。

Q)胸腔鏡手術専門医という制度はないのですか?

A)ありません。

日本内視鏡外科学会は、専門医制度ではなく、内視鏡外科のスペシャリストを認定する技能認定制度を作っていますが、消化器外科や産婦人科などの領域に限られており、呼吸器外科領域で行う胸腔鏡手術に関しては認定制度自体がありません。

呼吸器外科全体の専門医制度(呼吸器外科専門医)では、手術実績として胸腔鏡手術の実績が評価されますが、胸腔鏡手術の専門医という位置づけではなく、基本的な経験があるという程度で取得可能と考えてよいと思われます。専門医制度は2018年以降に大きく変更されました。現在は胸腔鏡手術に特化した専門医制度はありませんが、今後、整備される可能性はあります。

Q)胸腔鏡手術の専門家を、探すことはできますか?

A)一般には難しいです。

ホームページなどで公表されている胸腔鏡手術件数も、件数だけでは実態・内容まではわからず、胸腔鏡手術の技術力評価にはなりません。実際に、どの医師が胸腔鏡手術を担当しているかもわかりません。胸腔鏡手術にはピンからキリまであるのが実情で、呼吸器外科医同士でも、だれがどのような胸腔鏡手術を行っているかわかるのは、ほんの一部の施設や医師に関してだけです。今もし手術を検討しているなら、担当の呼吸器外科医師に直接、胸腔鏡手術について実績などをお尋ねになるのが良いと思います。直接、呼吸器外科医に聞きにくければ、呼吸器外科を紹介して下さる呼吸器内科医やかかりつけ医に評判をお聞きになるとよいでしょう。

Q)最先端の胸腔鏡手術なので、都会の病院で受けたいのですか?

A)胸腔鏡手術に限っては、必ずしも都心の大学病院や有名病院が得意としているとは限らず、都会に行けば大丈夫ということはありません。

大学教授や大病院・がん専門病院などの診療科長が、必ずしも胸腔鏡手術に長じているとは言えません。同じように都会の病院の方が、地方の病院より胸腔鏡手術に長じているとも言えません。部長や教授が胸腔鏡手術をしないで、地方の病院で1~2年研修させた若手医師に胸腔鏡手術を担当させているという病院は、都会にはよくあります。大病院に多くの医師が所属していても、多くは若手の研鑽が目的で、本当に手術に長じている医師は少数です。若手が多いということは、彼らの研鑽のための手術が少なからず行われていることになります。日本では皆保険制度の下、日本のどこでも同じ手術が実施可能です。最先端の医療を実践するためには、実施しようとする外科医自身の実行力とそれを支援できる医療施設があればよく、病院の所在地ではありません。『都会の病院が最先端で、地方の病院は遅れている』ということはありません。

Q)小さい傷から、どうやって肺や病巣を取り出すのですか?

A)取り出す組織の大きさに合わせて、少し傷を大きくして取り出します。

あばらの骨の間に傷を入れて行う胸腔鏡手術では通常複数の傷を必要とし、一つの傷は2センチ前後です。あばら骨の隙間は、1.5センチ前後しかなく、この幅の狭さが組織を取り出すときの障害になります。組織は通常やわらかいので、肺を取り出し袋に入れて強引に引き出せば、あばらとあばらの隙間で組織が若干変形し、すり抜けて、体外に出すことができるわけですが、2センチの傷では、せいぜい短径が3-4センチの塊の組織を取り出すことが限界です。それ以上大きいものを取り出すときは、傷を広げる必要があります。肺はやわらかく、変形しやすいのですが、がんなどの病巣は固く変形しないので、あばら骨の間の筋肉を切るだけでは、どうしても取り出せない時があります。その場合は、傷を広げるだけでなく、あばら骨を切らないと取り出せないこともあります。通常の肺がん標準手術(肺葉切除)であれば、ほとんどの場合4-6センチ程度の皮膚の傷があれば、あばら骨も切らずに取り出せます。

Q)術後にリハビリテーションが必要と聞いたのですが?

A)特別なリハビリテーションは不要で、通常の生活活動で十分です。

「術後にリハビリ」と言う言葉はよく聞きますが、特別な運動訓練や機能回復訓練は不要です。朝に起床し、起きて食事を摂り、用はトイレで足す。あとは普段の休日と同じように、のんびり過ごすことで十分です。通常の生活活動が、退院直後のからだにはちょうど良い回復への運動量になります。疲れたら休みましょう。疲れたら横になっても構いません。3度の食事や、トイレに立つことすら、きつく感じられたら、病院を受診してください。

手術前に、していなかったようなウオーキングやジョギング、スポーツ活動などを、退院後に慌てて始めてはいけません。却って障害になります。退屈で体を持て余しているなら、軽く運動することまでは止めませんが、運動が回復を大いに早めるということはありません。スポーツ活動やランニングなどの活動量の多いものは、術後の影響を感じにくくなってから、高齢者では術後3カ月以降くらいから徐々に始めてください。

Q)術後の呼吸リハビリテーションが有効と聞いたのですが?

A)特別な病気(持病)や合併症がなければ不要です。

呼吸リハビリテーションは、慢性の呼吸器病がある場合などで、呼吸の仕事効率を高め、少しでも楽に呼吸ができるよう訓練することです。入院期間の短縮が叫ばれた頃は、術後、呼吸リハビリの導入が促進されたことがありますが、呼吸器外科領域では術後回復を極端に早めることは、(少なくとも私どもの調査では)ありませんでした。現在のところ当科では、呼吸リハビリをしなくても、術後退院まで4~5日です。呼吸リハビリを実施することで、痰を出しやすくする、腹式呼吸で痛みが少ないとかの利点を強調されることがありますが、今日の胸腔鏡手術ではその利点は殆ど生かせません。

術後は、普通に起きて生活するようにしていれば、ほとんどの場合、呼吸リハビリは必要ありません。

Q)手術前の呼吸の訓練として、笛を吹くような、あるいはボールを吹き上げるような、吹き返しのような器具を使ったことがありますが、そのような練習はないのですか?

A)当科では、呼吸機能訓練器具と呼ばれるものは使用していません。

教科書には、これらの器具が、無気肺の予防などに効果があるとしていますが、数日で退院可能な手術が実施できるようになった今日、特殊な病態や病状になっていない限り、ほぼ必要ないと思います。実際、当科では、手術前にこのような器具を使った呼吸訓練は行っていませんが、とくに後悔するようなケースはありませんでした。開胸手術の時代は、わざわざ売店で購入してもらい、練習してもらっていましたが、手術へのモチベーションを高めることはあっても、実質的な効果は薄かったと思います。肺炎の予防には、なり得ないと思います。

無気肺の予防や改善のために、最も大切なことは起床して活動することです。痛みで咳をするのが苦痛になり、思うように痰を出すことができないなら、鎮痛の方法を工夫して咳をすることです。

Q)気管支を拡げるためのネブライザー吸入は、しなくてもよいのですか?

A)通常は不要です。

術後は必ずと言っていいほど、ネブライザーと呼ばれる吸入器(薬液を霧状にする装置)で、気管支拡張剤などを吸入していた時代もありましたが、術後の合併症予防効果は示されませんでした。気管支拡張剤の吸入は、危険な副作用もあります。術後呼吸器合併症の本質的な要因は、気管支拡張剤などで改善できるものではなく、唯一効果があると認められるのは、喫煙者における術前の禁煙です。早期離床も効果的です。

Q)では、術後呼吸器合併症の予防には、何が有効なのですか?

A)禁煙と早期離床(そうき・りしょう)です。

禁煙の重要性は、改めて述べることはないかと思います。喫煙者と非喫煙者で、喫煙者でも重喫煙者で、呼吸器合併症の頻度は明らかに増えます。いつの時代も、誰が調べても、この点だけは同じで、術後管理・ケアを経験したことがある医療従事者で、異論のある者はいないと思います。早期離床については下のQ&Aをご参照ください。

Q)早期離床とは、何のことですか?

A)「早期離床」は、術後早い時期から床(とこ、ベッド)から出て活動することを意味する医療(看護)用語です。

早期離床は、古くは床ずれ(とこずれ)と言われる褥瘡(じょくそう)対策として、重視されていました。現在でもその点は変わりません。近年は、床ずれ対策に止まらず、深部静脈血栓症予防や、呼吸器合併症予防、生活リズムの回復、譫妄の予防など、非常に幅広い効能が認められるようになっており、術後合併症予防対策として、第一に上げられるべき方策になっています。

Q)なぜ、早期離床が呼吸器合併症予防として効果があるのですか?

A)早期に身体を起こすことは、術後に肺に溜まりがちな痰の排出を促す効果があり、その結果として、痰の貯留に起因することが多い呼吸器関連の合併症を予防できると考えられているからです。

呼吸器外科の手術に限らず、全身麻酔後の術後、問題となる呼吸器合併症の多くは、痰の貯留に始まることが多く、肺の中に溜まる痰を、随時排出(喀出(かくしゅつ)とも言います)できれば、かなりの呼吸器合併症を予防できます。痰を出すためには、(1)痰を出すための力をだせる、(2)特定の場所に過剰に痰が溜まっていない、(3)痰を出す意志がある、ことが必要です。(1)に関して言えば、特殊な病態以外では問題になることは少なく、(2)と(3)が重要です。

(2)の対策としては、体の向きを適時変えて、重力に沿って溜まる痰を1か所に留めない(体位ドレナージと言います)ことが有効で、健常であれば、起きて生活すること自体が、この体位ドレナージとして機能してくれます。ゴロゴロ寝ていないで、起きて生活することが、肺の中を奇麗にしておくためには重要です。無気肺や肺炎になると、酸素の取り込み量が減り、酸素投与が必要となると、更に離床が進まなくなり(ベッド上で寝て過ごすことが増え)、さらに痰が溜まるようになって悪循環に陥ります。

どうしても起き上がれない病態の人では、体の向きを一定時間ごとに変更すること(体位変換と言います)で補います。

Q)痰を出す意識がないとは、どのような意味ですか?

A)通常の術後であれば、咳をすると痛いから、咳で痰を出そうとしない人が多いです。

本来は、生体の反射として、痰が溜まってくれば、咳をして痰を排出しようとする機能が働きます。ところが、痰が溜まっていることを自覚しているにも拘らず、痛みのために、痰を出そうとしない(咳を抑制する)方があり、こうなると、痰が溜まる→気管支(空気の通り道)が詰まる(無気肺、むきはいと言います)となります。痰の中には肺内に常在する菌が混ざっていますので、痰が溜まる→菌が増殖する→肺炎と進んでいくきっかけを作ることになります。

このような場合は、鎮痛の方法を工夫することだけでなく、「ある程度の痛みはあっても、咳をして痰を出すことが必要」ということを、患者自身が手術前からよく理解し、自制心をもって実践することが必要で、術後早期回復のためには必須です。痛みが原因で、咳を自制、躊躇することのないようにと、外科医は少しでも痛みの少ない手術をと工夫してきました。その結果、生まれてきたのが、胸腔鏡手術をはじめとする低侵襲手術です。

Q)痰を出す力がないとは、どんな状態ですか?

A)たとえば瀕死の状態で痰を出す力そのものがないような場合、筋肉の活動を押さえて人工呼吸器が使われているような状態、病気やその治療のために咳を出すための横隔膜と言う筋肉を活動させられない状態、肋骨骨折がひどく咳を出そうにも上手く必要な筋肉が使えないと言った状況などが考えられます。

Q)肺炎にならないように、術後に抗生剤を使っているのではないですか?

A)術後の抗生剤は、主としてキズの化膿を防ぐために使われるもので、肺炎予防用ではありません。

呼吸器外科の手術でも、術後の抗菌剤(抗生剤と化学合成した抗生剤を合わせて、抗菌剤と表現することがあります)が標的としているのは、皮膚常在菌による体表面近くの感染(化膿)です。20~30年くらい前までは、肺炎を起こす菌も対象にした、広帯域で強い抗菌力を持った薬が使われていましたが、薬が効きにくい耐性菌を作りやすいことが分かり、例え肺炎予防として多少の効果があるとしても、現在ではこのような使用方法は取りません。投与期間も、非常に短くなっており、手術当日のみか、せいぜい術後2~3日程度となっています。

Q)今時、肺炎で死んだりするのですか?

A)今日でも、肺炎は、呼吸器外科手術に限らず多くの領域で、手術(後)死亡の原因の第一位か、それに近い重篤な合併症です。

呼吸器外科の手術では、多かれ少なかれ、肺に触れて操作します。それだけでも、肺の内部に炎症が起きる可能性があります。肺を切り取ってしまえば、その分量だけ肺の余力は減ってしまいます。多くの手術で、手術する側の肺(全体)は、虚脱(空気を送り込まず、萎ませること)した状態で行われます。肺が虚脱した状態は無気肺と言う状態と同じです。肺の虚脱と膨張を繰り返すと、肺の内部に炎症を起こしやすいとも考えられており、肺の手術は、術後肺炎を起こしやすい手術です。肺の切除量が多い肺がんの手術では、今なお呼吸器合併症、なかでも肺炎は、死亡に直結する重篤な合併症であり、十分注意を払っていても、皆無になっていません。予防が、第一の対策であり、禁煙と早期離床(別項をご参照ください)に勝るものなしです。

Q)手術が下手だから肺炎になる、のではないですか?

A)個人的な意見ですが、手術の技量で、肺炎の発症率が大きく変わることはないと思います。

肺炎と技量には、直接的な関係はないと思います。手術時間が長い、出血量が多いなどの場合に、合併症が増えることは事実です。しかし、そうした手術のほとんどは、もともとの病気が進行していたり、切除や再建(臓器の通り道を作り直す手術手技のこと)など、複雑な操作が必要な手術であったりしますので、手術時間を手術の技量と直結して考えることにはなりません。長い手術=高い合併症比率ということはあっても、長い手術=下手な手術とは簡単には決めつけられないのです。平均的な外科医と比べて、同じ手術に数倍も時間がかかってしまうレベルなら、何かしら影響があるかもしれませんが、予定の2~3倍の時間がかかることは、外科医の技量に関わらず、普通にあります。
肺炎の発症に最も影響するのは、何と言っても元々の肺の状態であり、その意味で普段より肺を大切にしていただきたいというのが、外科医の願いです。