診療科・部門紹介
  • 埼玉病院のご案内
  • 診療科・部門紹介
  • 患者さんへ
  • 医療関係者の方へ
  • 職員募集
  • 交通アクセス

呼吸器外科(呼吸器外科診療Q&A(単孔式胸腔鏡手術篇))

埼玉病院 トップ > 診療科・部門紹介 > 呼吸器外科(概要) > 呼吸器外科診療Q&A(単孔式胸腔鏡手術篇)

呼吸器外科

呼吸器外科診療Q&A~単孔式胸腔鏡手術篇

単孔式胸腔鏡手術とは、一つの穴から、すべての手術操作を行う胸腔鏡手術を指します。キズを一つにすることに、メリットはないとする外科医も多くいます。診療領域によっては、キズ一つの単孔式内視鏡手術を、実施の利点なしとしている診療科もあるようです。このような意見は、呼吸器外科の中にもあり、すべての呼吸器外科医が実施している手術ではありません。キズを一つにすることが、科学的にどの程度意味を持つのか、はっきりしたことはまだよくわかっていませんし、外科医の労力に比べて、目に見えて、あるいは感心するほどメリットは多くないと言われれば、強く反論しませんし、反論するためのエビデンスもありません。ただ、キズを小さく少なくというのは、手術の一つの進化の方向性であり、問題なく実施できるのであれば、患者側のデメリットはあまりないように思われます。ここでは、単孔式胸腔鏡手術に慎重な意見を中心に、質問形式でまとめ、当科の考えを回答として記述しました。

Q)単孔式になると、切除できる範囲が狭くなるのではないか?

A)私どもの施設では、多孔式より少し時間はかかりますが、ほとんどの手術で同じ内容の手術が実施可能です。

最も懸念されることは、単孔になることで、手術の内容が悪くなる、具体的には、切除範囲が減ったり雑になったりすることです。特に我が国では、癌手術におけるリンパ節郭清の質低下、具体的にはリンパ節を取る範囲が狭くなることを、危惧する外科医が多いです。手法の変更で、このようなことがあってはならないというのは、私どもも同感です。

このような懸念は、開胸から胸腔鏡へ移る際にも、外科医の間でよく問題提起されていましたが、今では胸腔鏡手術での質低下を懸念する声は、ほとんどありません。胸腔鏡に適した器具の利用や、手順や手技の工夫で解決されることが分かったからです。

単孔式へ移行しようとする今日でもまた、同じ問題に直面しています。確かに、これまでと全く同じやり方では、できない操作はあります。しかし、解決法は同じです。単孔式に適した器具を使い、少し工夫を加えて、丁寧に手術をすれば、ほとんどの操作は実行可能です。その代わり、少し余分に時間はかかるかも知れません。

長年、リンパ節郭清を中心とした肺癌の手術手技に拘ってきた私どもですが、現状、単孔式胸腔鏡手術でも、多孔式胸腔鏡手術や開胸手術と同じ質の手術が、実施できるよう、様々な工夫と新しい器具を導入しており、私ども自身は、従来と同等の手術ができていると判断しています。 切除範囲や質が十分であるかという判断は、手術の内容を第三者となる専門家に見てもらい、評価してもらう必要があるでしょう。当科は、手術の内容を、学会などで随時発表し、専門家の評価を得るようにして参ります。

Q)手術時間が長くなるなら、低侵襲とは言えないのではないか?

A)単孔式だからと言って、術後の経過(侵襲)に影響するほど、手術時間が長くなることはありません。

制限が増える手技で、同じ質を確保するためには、少し時間を余分に必要とすることは否定しません。道具を持ち替えるにも時間が余計かかりますし、小さな器械が増えるため、切離などの操作はより細かくなり、結果として手術時間が従来の方法よりかかります。この問題(手術時間)も、胸腔鏡手術が導入されたころに議論したものです。時間がかかると言っても、単孔式の手術時間が多孔式手術の何倍にもなるわけではなく、術後の経過に影響が出るほど、延びるわけではありません。単孔式で時間がかかる手術は、多孔式でも時間がかかることが、ほとんどです。

一生に一度の手術ですから、影響が出ない程度で、手術時間を多少余分にかける価値はあると、私どもは考えます。手術時間が延びて損をするのは、労働時間が増える手術室勤務者と、ほかの手術に回す時間が減ると言う病院経営者です。一度付けたキズは一生残ります。キズの大きさよりも、手術時間の短縮をメリットと感じる人は、そのような手術方式を選択すればよいのです。

Q)制限のある手術は、危険なのではないか?

A)そのために時間をかけて、慎重に手術をしています。私どもは、操作による危険性の高まりは、手術方法の違いよりも、術者の技量や素養、対処能力の方が大きく影響するものと考えています。

手術操作による危険性は、粗雑・不用意な操作が、原因となることが多く、いわゆる“荒っぽい”手術や、手術時間を気にしたり操作を急いだりする“せっかちな”手術は、確かに危険です。これは開胸であれ、多孔式胸腔鏡であれ、同じです。上手くいかないことがあると、“イライラ”したり、モノやヒトにあたったりする外科医も、ドラマの中だけでなく、実際にもいます。このような人たちは、単孔式や内視鏡手術は、向いてないでしょう。長い臨床経験から、手術操作の丁寧さは、個人の素養によるところが大きいように思います。制限はあるが、克服できる方法があるからこそ、言葉を換えると、丁寧に、慎重に、行えば、無事完遂できるようになったからこそ、単孔式手術が世界中で普及し始めているのです。

Q)単孔式で処理できない状況になったときは、どうするのか?

A)こうしたときは、キズを追加して、多孔式に変更したり、キズを大きくして開胸手術へ変更したりして、対応することになります。

多孔式への移行は、決断さえすれば、1分もかけずに可能です。単孔式とはいえ、キズは4センチ程度あり、キズの近くであれば、覗き込んで直接目で見ることも可能です。多孔式として違う角度から見たり処置したり、それでも難しいようなら、開胸するという手法も使えます。

どのような手法を用いても、呼吸器外科の手術では、手術操作が困難な状況に陥ることはあります。その時、一番必要なものは、手法よりも判断力であり、いざ突発的事象に遭遇した際の、外科医個人の対処能力です。

Q)成熟した多孔式胸腔鏡手術があるのに、わざわざ面倒な単孔式で手術する必要があるのか?

A)統計を取ったわけではありませんが、「できればキズは小さく、少なく」が、多くの患者の願いと思っています。“わざわざ”と思うのは、医者の意見であり、「やりたくない」という気持ちの表れではないでしょうか。単孔式という技術の否定には、つながらない意見と考えます。

切除する対象や範囲が同じであれば、外科治療の効果は変わりません。本来、キズの大きさと治療効果には、因果関係はないはずです。治療効果が同じなら、キズが小さいことにメリットを感じる人は多いはずで、これは手術を受ける患者側の気持ちです。一方で、デメリットとされるものは、主に、手術をする外科医側の、技術的難易度に起因するもので、手術時間がややかかることや、術者のストレス、操作ミスによる組織損傷などです。こうした問題は、技術が成熟すると改善されるものが多く、キズの大きさによらず、技量によって発生し得るものです。

Q)キズが一つだから、痛みが減ったといえるエビデンス(科学的根拠)はあるのか?

A)ありません。痛みを1個分2個分と、定量的な表現してよいかどうかわかりませんが、キズが一つだから、痛みも1個分であると表現はできると思います。ただ、4つに比べて1/4になるとか、2つに比べて半分かどうかは、わかりません。術後続く痛みが、短くなるかどうか、従来の多孔式手術に比べて、痛みが軽減できているのかどうかなど、わかっていません。

直観的には、キズは「より小さい、少ないほうが痛くない」と思われるのですが、実は、キズの大小と術後の痛みの強弱の関係については、厳密な科学的立証は、まだ十分なされていません。同じ内容の手術をしても、人により、あるいは同じ人でも、痛みの度合いや楽・苦痛という感覚は、大きく違い、主観的で、変動しやすい感覚の評価は、科学的には難しいです。旧来の開胸手術から胸腔鏡手術になって、苦痛が少なくなったかどうかさえ、実は科学的にはまだ完全に解決しておらず、エビデンス(科学的根拠)が乏しい状態のまま、今日、内視鏡手術は全盛を迎えているのです。術後が楽そうに見えるという施術者側の感覚的評価や、患者側の需要が高いという現実が先行しているのが、内視鏡手術の実態です。

キズ一つとなって、どの程度痛みが減るのかは、今後の課題ですが、科学的に立証することは、簡単ではなさそうです。

Q)肺を取り出すときにキズを大きくするなら、初めから大きいキズでやれば?

A)単孔式手術に慣れると、キズが中途半端に大きいと、かえって操作が安定しなくなることが分かります。経験的に、指の幅2本分、だいたい4センチあたりが良いようです。

大きいキズの方が、操作が安定するのは、直視下で操作する時だけです。宙を浮かした状態の器具を、直接見ないで、横のモニタ画像を頼りに動かそうとすると、かえって難しくなることは、なんとなく想像できるのではないでしょうか。

また、小さいキズで始めないと、取り出すときのキズを必要最小限にできません。胸腔鏡手術の長い経験の中で、肺を取り出す方法も、随分要領を得て、かなりのケースで、キズを延ばさなくても取り出せるようになりました。皮膚を切り足さなくても、皮下の組織をうまく剥がすだけで、取り出せることも多いです。小さなキズから、肺を取り出せるかどうかは、病巣の大きさや柔らかさ、肋間の幅などに左右され、キズを延ばさないといけないというケースは時々あります。取り出す時、つまり手術の最終段階になって、キズを延ばすことになり、術者としても大変残念ではありますが、取り出せる最少のキズに少しずつ延ばして、取り出しています。