診療科・部門紹介
心臓血管外科
概要
昭和43年に埼玉県内で唯一の心臓外科として開設されて以来、埼玉県南西部地域の中核病院としての役割を担ってまいりました。
平成22年の病院全棟の建て直しに伴い、最新鋭の人工心肺装置、血管造影装置、手術器材などを導入し、体への負担が少ない低侵襲心臓手術(MICS)や、ステントグラフト内挿術による大動脈瘤治療、人工心肺を用いない心拍動下の冠動脈バイパス術、下肢動脈に対するカテーテル治療、下肢静脈瘤に対するレーザー治療など質の高い低侵襲の心臓血管手術が可能になりました。
当科を選ぶ利点
【低侵襲の心臓血管手術】
従来の方法より体への負担が少ない右小開胸切開や胸骨部分切開による低侵襲心臓手術(MICS)や、ステントグラフト内挿術による大動脈治療(胸部、腹部)が可能になりました。心拍動下冠状動脈バイパス術(OPCAB)では、適切な麻酔管理により、手術室での即時抜管も可能になりました。麻酔科常勤医も18名が在籍し、休日や夜間の緊急手術に対応しています。
【快適な入院環境】
当院は、和光市に所在し朝霞地区を中心とした埼玉県南西部地域の中核病院としての役割を担ってまいりました。最寄り駅である成増は、3路線(東武東上線、有楽町線、副都心線)が利用できますので、朝霞地区にお住まいの方のみならず、東京都23区北西部地域にお住まいの方にも利便性が高いです。敷地内に低料金の駐車場を完備しており、車での通院にも便利です。また、新病院ではプライバシーにも配慮された快適な入院環境が整備されました。ご希望により綺麗な個室も低料金でご利用頂けます。
【心臓リハビリテーション】
当院は、心臓リハビリテーションが認可されています。心筋梗塞や心臓手術後の体力の低下した患者さんに対して、安全な方法で体力を回復させ、精神的な自信を取り戻し、退院や社会復帰の準備を目的とする心臓リハビリテーションを手術翌日から受けることが出来ます。術後の不安を軽減できるものと考えています。
主な対象疾患
心臓血管外科では1)後天性心疾患、2)成人先天性心疾患、3)大動脈疾患、4)末梢血管疾患などを対象に外科的治療を行っています。
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1
後天性心疾患
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虚血性心疾患
狭心症、心筋梗塞、左室破裂など
心臓弁膜症
大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、
三尖弁閉鎖不全症、 細菌性心内膜炎、心房細動手術など
重症心不全
拡張型心筋症、心筋炎、虚血性心疾患に伴う心不全 -
2
先天性心疾患
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心房中隔欠損症(成人低侵襲手術)など
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3
大動脈疾患
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急性大動脈解離、胸部大動脈瘤手術、腹部大動脈瘤など
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4
末梢血管疾患
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閉塞性動脈硬化症、急性動脈閉塞、下肢静脈瘤など
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その他
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心臓腫瘍、慢性心膜炎、内シャント作成など
対象疾患の説明と治療方法
当科では循環器内科、麻酔科、看護師、臨床工学技士など関係各科と医療チームを作り、緊密な協力、連携のもと、最新の手術器材を用いて患者さんに優しい心臓血管手術治療を心がけております。
(心臓血管外科、麻酔科、臨床工学技士、
手術室看護師の医療チーム)
スタッフ紹介
職名 | 氏名 | 学位 | 専門医・認定医等 | 専門分野 |
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心臓血管外科部長 | 配島 功成 |
日本外科学会専門医 心臓血管外科専門医・修練指導者 循環器専門医 胸部大動脈瘤ステントグラフト指導医 腹部大動脈瘤ステントグラフト指導医 浅大腿動脈ステントグラフト実施医 下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医 血管内治療認定医 特定行為研修指導者 臨床研修指導医 日本DMAT 慶應義塾大学医学部客員講師 |
後天性心疾患(弁膜症・虚血性心疾患) 大動脈疾患(大動脈瘤、大動脈解離)の 手術・ステント治療 末梢血管の治療 ペースメーカー挿入 低侵襲心臓手術 |
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心臓血管外科医師 | 村田 哲 | 日本外科学会専門医 |
後天性心疾患(弁膜症・虚血性心疾患) 大動脈疾患(大動脈瘤、大動脈解離)の 手術・ステント治療 末梢血管の治療 ペースメーカー挿入 低侵襲心臓手術 |
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心臓血管外科医師 | 小野 拓哉 | |||
心臓血管外科医師 (非常勤) |
工藤 樹彦 |
医学 博士 |
日本外科学会専門医・指導医 心臓血管外科専門医・修練指導者 胸部大動脈ステントグラフト指導医 腹部大動脈ステントグラフト指導医 臨床研修指導医 慶應義塾大学医学部客員准教授 |
後天性心疾患(弁膜症・虚血性心疾患) 大動脈疾患(大動脈瘤、大動脈解離) 低侵襲心臓手術 末梢血管手術 |
外来初診担当医表
完全予約制 ・・・
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 |
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医師交代制 (午前・紹介) |
配島(午前) |
医師交代制 (午前・紹介) |
工藤(樹) (午前) |
医師交代制 (午前・紹介) |
― | 伊藤(午前) | ― |
村田(哲) (午後) |
― |
※ 当院はすべての診療科が予約制の診療となっております。(初診紹介予約制)
※ 当院での診察順は予約の患者さんが優先となっております。予約をしていない場合は、待ち時間でご迷惑をお掛けしますがご了承ください。
※ 来院をされた日に予約をしていない場合は、受診できない場合があります。
また、受診できる場合でもお待ち願う時間が長くなることが予想されますので、あらかじめご了承ください。
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冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)の外科治療 arrow_forward_ios
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心臓の栄養血管である冠状動脈が狭くなったり、詰まったりすると、心臓の血のめぐりが悪くなり、胸が強烈に痛くなります。これらが狭心症や心筋梗塞の状態です。狭心症や心筋梗塞では、まず循環器内科医による心臓カテーテルによる検査・治療が行われますが、重症の場合は手術(冠状動脈バイパス手術)が必要です。
冠状動脈バイパス手術
この手術は従来、人工心肺装置を用いて心臓を止めた状態にして行われてきましたが、近年、人工心肺を用いず心臓が動いたまま行う心拍動下(オフポンプ)冠状動脈バイパス術と呼ばれる低侵襲の手術が発展してきました。当院ではオフポンプバイパス術を中心に精度の高い手術を施行しています。低侵襲化により術後7日から10日程度での退院が可能となりました。
心拍動下の冠状動脈バイパス術の様子。
吻合直後にはバイパス血管の血流量を測定し、
グラフトの質を評価しています。術後CT検査
心臓カテーテル検査と比べ患者さんの負担が少ないCT検査でバイパスグラフトの開存を確認しています。写真はオフポンプで施行された4枝バイパス術の画像です(白矢印:2本の内胸動脈が冠状動脈に吻合されています)。
左室形成術、左室破裂
心臓の壁の機能異常(重い心不全)や心臓にできた瘤に対しては、心臓の壁にメスを入れる左心室形成手術(ドール手術、SAVE手術)や左心室瘤切除術を行います。急性心筋梗塞の重篤な合併症である心室穿孔には、パッチ閉鎖術を行います。
写真は左室後壁に生じた仮性瘤に対するパッチ閉鎖術です。
写真は心室中隔穿孔(後下壁)に対するダブルパッチ閉鎖術です。
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心臓弁膜症の外科治療 arrow_forward_ios
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心臓の中には血液の流れを一方通行にするため、大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁の4つの弁があります。これらの弁が壊れた状態を弁膜症といい、血液の循環が悪くなり、息切れ、動悸、胸痛、むくみなどの症状がでます。心臓弁膜症は古くはリウマチによるものが多かったですが、最近は僧帽弁の変性による僧帽弁閉鎖不全症、また高齢者の大動脈弁狭窄症が増加しています。
【当院の弁膜症治療には以下の特徴があります】
1. 僧帽弁閉鎖不全症には、自己弁を温存した形成術を中心に施行しています。
2. 僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁疾患、心房中隔欠損症の手術では、低侵襲手術(小さな創)での治療が可能なことがあります。
僧帽弁形成術
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人工弁置換術では手術の後に抗凝固薬としてワーファリンの服用が必要となり、納豆など一部の食品の摂取を控える必要があります。また頻度は低いですが機械弁には血栓が付着したり、生体弁には経年劣化が生じる可能性がある等の欠点があります。そこで人工弁に取り替えないで、自分の弁を修理して使おうというのが弁形成術です。僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症では弁形成術を基本術式としています。
低侵襲心臓手術(MICS法)
通常の心臓外科手術では胸部前面中央にある胸骨を縦に切開し心臓に到達する胸骨正中切開法が標準的で、喉元からみぞおちにいたる20~25cmほどの切開を必要とします。一方、右小開胸法を用いた低侵襲心臓手術では、皮膚切開は6~8cm程と従来の半分以下とし胸骨は全く切開しません。従って早期の社会復帰が可能です。また女性では乳房の下縁に沿った創とすることにより、美容的な観点からも優れています。その小さな切開口から心房中隔欠損孔の閉鎖術、僧帽弁置換や僧帽弁形成術、三尖弁疾患、心臓腫瘍などを行います。比較的若年の方、他に合併症のない方を中心に右小開胸による低侵襲心臓手術(MICS)を慶應義塾大学での数百例の経験の元に施行しています。
右胸の小さい切開から手術をします。
女性では乳房の下縁に沿った創となり、
美容的な観点からも優れています。低侵襲心臓手術の準備風景:
通常の心臓手術の準備に加え、特殊な手術器材や内視鏡用の
モニターなどが配置されます。僧帽弁形成術の術野です。創は小さいですが、
僧帽弁は良好な視野で観察できます。
部分的には内視鏡の補助下で手術操作します。通常の手術より僧帽弁は深い位置にありますが、ほぼ正面視が可能です。
内視鏡画像(右下):乳頭筋断裂による重度の閉鎖不全症です。
心臓手術に内視鏡を導入することにより、
より正確な手術操作が可能となります。安全管理のため経食道心エコー、内視鏡モニターをはじめ
様々な生体情報モニターを設置しています。
麻酔科医師、人工心肺装置を担当する臨床工学技士、手術室看護師などが医療チームを形成して行います。大動脈弁置換術
壊れた心臓の弁を新しい人工弁に交換する手術です。人工弁には、カーボンでできた機械弁、豚や牛の心膜からできた生体弁などがあります。患者さんの年齢、病状などに応じて最適な人工弁を選択いたします。
小切開(胸骨部分切開)での大動脈弁置換術、僧帽弁形成術
弁膜症以外に合併症のない患者さんに対して、従来の半分、10cm程度の創で弁置換術を行う方法です。胸骨を部分的にしか切開しないため、胸郭構造が温存されます。術後の早期社会復帰に貢献できると考えています。
胸骨部分的切開の術野:上行大動脈は術野中央に観察できますが(矢印)、心臓はごく一部しか見えませんが、
小さな創からでも工夫により、大動脈弁置換術をほぼ通常通りに行うことが出来ます。心臓全体は見えない為、
術中の経食道心エコー検査など、麻酔科管理がより重要になります。 -
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大動脈疾患の外科治療 arrow_forward_ios
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大動脈は心臓から出た血液が流れる、体の中で最も太い動脈の血管です。この大動脈が膨らんだ状態を大動脈瘤といいます。動脈瘤は大きくなると破裂の危険性があり、また周囲の臓器を圧迫して不都合を生じます。大動脈瘤は胸部で直径が5.5cm、腹部で5cmを上回ると手術が必要です。一方、大動脈の壁は3層構造をしていますが、この3層のうち中外膜層から内膜層がはがれて裂けた状態を大動脈解離といいます。大動脈解離は薄くなった壁から出血することや、大動脈から分かれる動脈の枝を閉塞して、脳梗塞、心筋梗塞、内臓や四肢の血流障害を来すことがあります。緊急手術が必要となる場合も多くあります。
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急性大動脈解離の手術所見:上行大動脈の壁が裂けて赤く腫れています。緊急手術が必要な状態です。
人工血管置換術
大動脈瘤や大動脈解離の手術では大動脈を人工血管で交換します。特に脳を栄養する血管が関係する弓部大動脈の手術では、脳保護が必要となります。当科では常に脳血流を維持する方法(選択的脳分離体外循環)を用いて、手術中の脳梗塞の予防を図っています。
胸部大動脈瘤の3D-CT検査では動脈硬化を伴った径6cmの嚢状瘤がみられます。3次元画像を構築して精確な手術計画を行い、大動脈瘤を人工血管で置換します。
手術中は脳血流を特殊な方法でモニターし、脳梗塞の予防に努めています。術後3D-CT検査:弓部大動脈が人工血管に置換され、瘤が消失しています。
腹部大動脈瘤
腹部大動脈瘤の術前検査:紡錘状の動脈瘤があります(矢印)。
腹部大動脈瘤の開腹手術
開腹手術が必要な腹部大動脈瘤手術の場合でも、当院では可及的に小切開(8-12cm)で行い、
術後の早期回復を目指しています。小さな開腹創(9cm)による腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術。ステントグラフト挿入術
当院は日本ステントグラフト実施基準管理委員会認定の実施施設(胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤)です。
これまでは大きな開胸、開腹を要する手術が一般的でしたが、脚の付け根(鼠径部)を数センチ切るだけで動脈瘤を治療できるステントグラフト内挿術が発展してきました。動脈瘤の解剖学的位置や形態にもよりますが、多くの方にステントグラフト内挿術による低侵襲治療が可能になりました。腹部大動脈瘤に対するステント治療
ステントグラフト内挿術後の検査は腹部大動脈瘤が消失しています。
胸部大動脈瘤に対するステント治療
枝付きステントグラフト
ハイブリット複合手術
通常の手術のリスクが大きな高齢者などは、予め重要分枝にバイパスによる血流を確保した後に、
動脈瘤に対するステントグラフトの挿入を行います。
(例)高齢者破裂性弓部大動脈瘤に対するステントグラフト治療高齢者(80歳)の弓部大動脈瘤破裂のCT画像
弓部大動脈には頭に行く重要な血管があります。
そのため、予め重要血管の血流のバイパスを行い確保した後に、動脈瘤に対するステントを挿入しますこのように高齢で通常の手術の危険が大きい場合は、ステントグラフト挿入での手術が可能になり、
高齢者の大動脈瘤治療が増えてきています。 -
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末梢血管疾患の外科治療 arrow_forward_ios
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閉塞性動脈硬化症
太腿や骨盤のあたりの動脈が慢性閉塞を起こし、脚の血液が足りなくなった状態です。はじめはなんとなく足が冷たくなった、歩くとだるいなどの症状ですが、次第に進行すると歩行時に痛みが出てきます。
病期が進行するとバイパス術が必要になりますが、最近では体の負担の少ないカテーテルによる血管内治療を第一選択(毎週火曜日の午後が末梢血管外来です)とし、カテーテル治療が不可能な場合に前述のようなバイパス手術を行なっております。骨盤内の動脈の完全閉塞(黄色矢印)と大腿部の動脈閉塞(ピンク矢印)を来たし歩行障害がありました。
右骨盤内の動脈閉塞はカテーテルによる血管内治療(黒矢印)を、左大腿部の広範な動脈閉塞に対してはバイパス術(赤矢印)を施行しました。
当院では適切に適応を見極め、カテーテルでの治療を第一選択とし、不可能の場合は従来の手術によるバイパス術を行っています。下肢静脈瘤
脚の表面にある血管が太くはれて、蛇行しているのが下肢静脈瘤です。静脈瘤は重い病気ではなく、治療も大変ではありません。しかし、治療をしなければ自然に治ることはありません。程度が軽い場合は外来での治療や、日帰り手術が可能な場合があります。入院治療では内翻法によるストリッピング手術を行います。最近では高齢でも治療を希望される方が増えています。
写真左:
高度の下肢静脈瘤の患者さんで、ふくらはぎに静脈瘤(こぶ)が多数見られます(白矢印)。
下腿は血液の鬱滞による皮膚炎や湿疹(黒矢印)を合併しています。写真右:
静脈瘤の手術後、3週間目の状態です。静脈瘤は消失しています(白矢印)。
難治性でした鬱血性皮膚炎も著明に改善しました(黒矢印)。
通常は術翌日に退院です。最近はレーザー治療の導入も開始し、より低侵襲化が可能となりました。このように通常の手術法の他に、様々な低侵襲な治療法を取り入れて、
心臓血管外科治療に対する低侵襲化を目指しています。