• 診療科・部門紹介

呼吸器外科

概要

呼吸器外科へようこそ! 呼吸器外科、略して「呼外(こげ)」です。

当科ホームページをご覧いただき、有難うございます。
当院には、平成21(2009)年4月1日から、胸郭・胸腔内病変を扱う胸部の外科として「呼吸器外科」が開設されております。どうぞ宜しくお願い申し上げます。

当院に呼吸器外科が開設されたころは、まだ「呼吸器外科」という名前の診療科は、聞きなれないという方も多く、医師の中にも「胸部外科」や「肺外科」と呼ぶ人も、少なくありませんでした。

名称は「呼吸器」+「外科」ですが、「呼吸器」つまり、肺や気管の病気(肺癌や自然気胸など)はもちろん、「呼吸器」以外の、胸部にある縦隔や胸郭の臓器、例えば肋骨や横隔膜、神経や胸管、胸腺や甲状腺などに発生する疾患を取り扱う「胸部の一般外科」です。

当科では、開設当初より、胸腔鏡手術を基軸にして診療を行って参りましたが、開設当時はまだ、胸腔鏡手術という内視鏡手術を、声高に批判する先生方も、多数いらっしゃった時期で、院内にも否定的に言う関係者もおりました。しかし、術後の経過を見るにつれ、次第に批判を止め、現在では、「手術を受けるなら、是非、胸腔鏡で」と変わっています。胸腔鏡手術は、全国多くの呼吸器外科に普及し、当たり前の手術として実施され、しばらく、この流れが変わることはないでしょう。

今、世界の呼吸器外科は、胸腔鏡手術の次のステップへ進んでいます。最先端技術の提供を目指す当科は、次世代胸腔鏡手術の一つ、キズ一つで行う単孔式胸腔鏡手術を取り入れ、指の幅2本分くらいのキズで、肺癌の手術ができるようになりました。

今後も最新・最良の呼吸器外科診療を、地域の皆様に提供できるよう、日々研鑽に努めて参りますので、どうか皆様にはご愛顧下さいますよう、お願い申し上げます。

当科のサイトでは、診療のご案内だけでなく、広く一般の方へ、肺癌や自然気胸など呼吸器外科領域の診療情報も提供しております。地域の方はもちろん、全国の多くの皆様に、お役に立てば幸いです。

なお、当科ホームページの内容は、すべて当科医師が執筆したもので、当院ホームページ委員会の閲覧・許可を経て、掲載されています。医学的な正確性には、細心の注意を払いつつも、難解な専門用語や数字の羅列などを極力避けて、記述するよう努力いたしました。

多くの皆様に、閲覧していただいております【呼吸器外科診療Q&A】は、下のリンクボタンより該当ページへお進みください。用語や病気、治療法などの解説もQ&Aに掲載しておりますので、併せてご覧ください。

開設までの経緯

呼吸器外科が取り扱う病気の中で、最も代表的なものが肺癌です。肺癌が我が国で近年急増していることは御承知のとおりですが、実はこの肺癌の診療にあたるべき呼吸器外科医は、全国的に希少な状況が続いており、不足していると言われてきた麻酔科医の1/4、産婦人科医の1/5(当該学会の会員数比較、本稿執筆時【2021年3月】)しか、おりません。当院があるのは、東京23区に隣接する埼玉県南部の県境地域ですが、残念ながら、この地域に常勤で働く呼吸器外科の専門医は、決して多くありません。病院内に呼吸器外科が標榜されていても、実際に診療にあたっているのは、アルバイトの医師が、外来診療だけしているということも、少なくないのです。そのような名ばかりの呼吸器外科では、結局、難しい話や手術は、「別の病院で」ということになりがちです。

当院でも、十数年前まで、そのような体制で呼吸器の診療が行われていました。そこで、当院では、平成21年の新病棟建設を機に、肺癌をはじめとする呼吸器の本格的診療を開始することとし、まず平成20年秋に呼吸器内科が、それから半年遅れて、平成21年春に呼吸器外科が開設されました。

充実のスタッフ

昭和16年に陸軍病院として開設された当院の歴史から見れば、当院の「呼吸器外科」は、まだまだ新設と呼ぶべき診療科ですが、赴任したスタッフは、新米ではありません。都心の大学病院はもちろん、がん専門病院、結核治療施設、じん肺専門病院、高度救急センター、肺がん検診機関などなど、呼吸器疾患に関連する様々な診療現場で研鑽を積み、広く呼吸器外科領域全体に、多くの臨床経験を持って、当院に赴任し、呼吸器外科での診療に従事しております。

当科の特徴

開設以来、当科では特に胸部の内視鏡手術(胸腔鏡手術と言います)を、診療の軸に、手術を展開して参りました。令和となった現在、当科での全身麻酔手術のほとんど(9割以上)が、胸腔鏡手術で実施されています。しかも、そのほとんどが、胸腔鏡手術の中でも最も技術的難易度の高い完全鏡視下胸腔鏡手術であり、さらに実施されている胸腔鏡手術の多くは、キズ一つで手術を完了させる単孔式胸腔鏡手術と呼ばれるものです。

胸腔鏡手術は、手術直後の回復が早く、手術を受けられた方はもちろん、その経過をご覧になった関係者・ご家族の多くが、その経過に驚かれます。手術の9割以上が胸腔鏡手術となった今日、開胸手術でなければできない手術など、通常の呼吸器外科手術には、当科には、もうほとんどないと言っても過言ではないかもしれません。

安全管理と説明責任

安全性には十分配慮し、説明には十分時間をかけ、内容も十分吟味しております。例えば胸腔鏡手術なら、その利点だけでなく、限界や欠点も熟知しており、胸腔鏡手術を強要したり、無理な手術をお勧めしたり、決して致しません。一度当科外来で手術の説明をじっくりお聞きください。外来では採算度外視で、時間を掛け、説明を行っております。それでもまだ不安、お前の話は信用できないと言うことであれば、ご希望の医療機関をご紹介します。もちろん、他院からのセカンドオピニオンにも対応しております。治療の選択権は患者本人にあるという姿勢は堅持しており、当科での説明をお聞きなれば、納得いただけるはずです。

なぜ当院で手術を勧めるか

ご承知のように、麻酔科医など一部の診療科では、医師不足が深刻で、著名ながん専門病院や大規模有名病院などであっても、麻酔科医の確保に苦労している病院はたくさんあります。『実は外科医が麻酔をかけている』とか『勤務時間が過ぎたら、麻酔科医が(手術途中であっても)帰宅して不在になる』と言うようなこともあるようです。例え外科医が優秀でも、果たしてこのような病院で安心して手術できるでしょうか。こうした話は、嘘や誇張ではなく、また、医者の少ない遠い地方の話でもありません。非常勤と言う名のアルバイト麻酔医で、手術が成り立っている病院は、実際には多いのです。当院の麻酔科のページもご覧ください。これほどの麻酔科医を揃えている病院は、そう多くはないでしょう。当院では、麻酔に関しては何の心配もありません。麻酔医以外にも、癌診療を担う様々な分野の専門家も揃っています。肺癌の放射線診断や放射線治療を行う放射線科医、最終組織診断を下す病理医、抗癌剤治療を担当する腫瘍内科医、終末期医療に携わる緩和ケア医、医師以外にも、癌治療に特化した資格を持つ看護師や薬剤師をはじめ、退院後の生活や保障などの相談に乗る専門家など、さまざまな領域で呼吸器診療を支える多くの専門スタッフが、日々連携して活動しております。

心臓病や高血圧のある方、手術の夜、不整脈が出たり脳卒中となったら、どうするのでしょうか。当院のように、24時間、循環器科医や脳神経科医が常駐している病院はそう多くありません。救命救急センターもあり、24時間対応です。透析が必要な方も、大丈夫です。胸部の血管を扱う呼吸器外科の手術では、突発的な事故で、心臓外科の支援を依頼することがありますが、おそらく、がん専門病院には、心臓外科は常設されていないはずです。高齢化が進む中、手術の病院選びは、手術を執刀する外科医だけでなく、それを支える診療科が充実したところでなければなりません。過去の手術件数だけで病院を選ぶのは、もう終わりです。

今後も続く呼吸器診療の充実強化

当院では、平成21年に建設された現病棟(本館)への全面移行を機に、呼吸器疾患に対する診療体制の拡充が図られ、十年ほどで当院での呼吸器領域の診療体制は質・量ともに充実しました。

平成30年度に稼働開始した新病棟(新館)には、新たに感染症病床やHCU(ハイケアユニット)を備えた呼吸器病棟ができました。これまで個別に開設され、別フロアで診療を行ってきました呼吸器内科・呼吸器外科は、呼吸器センターとなったこの呼吸器病棟に集約され、呼吸器内科と呼吸器外科で分散していた外来ブースも、平成31年度に一か所に集約されました。手術室も増設され、開設時には週1日しかなかった手術日も週3日まで増えました。新しい手術室には、最新の4K画像システムを備えた胸腔鏡手術システムが用意されています。ゼロから始まった当院の呼吸器診療は、病院の成長や診療科の充実とともに、大きく発展し、癌から救急救命の外傷に至るまで、あらゆる事態に対応できるようになっています。

呼吸器外科手術の今昔

胸部の手術というと『胸の形が変わってしまうのでは』とか、『死ぬまで酸素が必要になるのでは』とか、今でもご心配の方があるようです。しかし、それはもう遠い昔の話のこと。胸部の外科治療は、驚くほど変わっています。いまでは術後の回復も早く、90歳近い年齢の方でも、肺癌手術の後、わずか4-5日で退院されています。術後の入院期間は今や、「もうちょう(虫垂炎)」並か、それ以下です。

もちろん、手術は気軽に受けると言うわけにもいきませんし、手術を受けるには、相応の覚悟と自制が必要となることも事実です。ただ、もし高齢だからとか、持病があるからとかの理由で、手術を避けようとしておられるなら、一度当科外来にお越しになり、私どもの話をお聞き下さい。そして、わからないことがあれば納得がいくまでご質問ください。

毎年、多くの方が当科で手術を受けておられます。どうぞ「埼玉病院の呼吸器外科」を、ご利用下さい。

スタッフ紹介

職名 氏名 学位 専門医・認定医等
がん診療部長 中西 浩三 医学
博士
日本外科学会指導医・専門医
日本胸部外科学会指導医(呼吸器)・認定医
呼吸器外科専門医合同委員会 呼吸器外科専門医
日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡指導医・専門医
産業医、緩和ケア研修修了
日本気胸肺嚢胞性疾患学会評議員
日本呼吸器外科学会評議員
日本気管食道学会評議員ほか
学会や地域の研究会等役員多数、学術雑誌編集/査読委員多数。
呼吸器外科医師 後藤 英典 日本外科学会専門医
呼吸器外科専門医合同委員会 呼吸器外科専門医
日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
緩和ケア研修修了
呼吸器外科医師
(非常勤)
門山 周文 日本外科学会指導医・専門医
日本胸部外科学会認定医
日本呼吸器外科学会指導医・認定医
日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡指導医・専門医
日本呼吸器学会指導医・専門医
肺がんTC検診認定機構 肺がんCT検診認定医
緩和ケア研修修了、日本肺癌学会特別会員ほか

外来初診担当医表

完全予約制 ・・・

月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日
AM 後藤 門山
(肺癌専門外来)
肺癌化学
療法外来
中西
PM 後藤
(縦隔腫瘍専門外来)
受付時間8:30〜11:00(平日 月~金曜日)

※ 当院はすべての診療科が予約制の診療となっております。(初診紹介予約制)
※ 当院での診察順は予約の患者さんが優先となっております。予約をしていない場合は、待ち時間でご迷惑をお掛けしますがご了承ください。
※ 来院をされた日に予約をしていない場合は、受診できない場合があります。
  また、受診できる場合でもお待ち願う時間が長くなることが予想されますので、あらかじめご了承ください。

専門外来のご案内

月曜日午後・火曜日・水曜日・木曜日は、各種専門外来を行っておりますので、ご利用ください。
肺がん検診での精密検査など、二次検診のために受診を希望される方は、火曜日午前の専門外来を、検診以外での肺がんや縦隔腫瘍・腫瘤などの精密検査や診療をご希望の方は、月曜日午後の専門外来をご利用ください。
石綿(アスベスト)をはじめとする、各種塵肺に関連した肺癌や胸膜中皮腫に関わる診療や検査をご希望の方は、木曜日の専門外来をご利用ください。

  • 外来診療案内 arrow_forward_ios

  • 場所

    呼吸器外科外来は病院2階Gブースに設置されています。
    呼吸器外科外来は病院2階の北西側です。1階よりエスカレータで2階に上がり、
    右手奥にUターンして進んでください。紫色が外来Gブースの目印です。
    呼吸器内科や(一般)外科とは外来診察室の場所が異なりますのでご注意ください。

    診察時間

    ここでは当科を初めて受診される方を、新患あるいは初診といい、それ以外の方を再来あるいは再診として記載しています。
    (保健証の提示とは関係ありません)

    月~金曜日:午前9時~午前12時が診察時間で、受付は午前11時30分まで
    (手術日にあたる火曜日~木曜日は、原則新患の方のみで、再診は急患の方のみの臨時対応とさせていただいております。)

    完全予約制です。予約を取る方法は、当院の事務受付で申し込む方法、電話で申し込む方法の他、かかりつけ医の施設を経由する方法などがあります。詳しくは当院ホームページの別ページをご覧ください。

    上記時間以外も、可能であれば時間の許す限り、診療に応じております。

    診療内容

    おもに呼吸器・縦隔・胸郭の疾患で、外科治療(手術)を必要とする方の診療を取り扱っております。
    主な治療対象の疾患は肺癌、自然気胸、縦隔腫瘍などで、胸部外科疾患のうち、心臓・血管疾患、食道疾患、乳腺疾患を除いた全ての疾患です。
    詳細は取扱い疾患のページをご覧ください。
    甲状腺以下の頚部疾患や気管病変についても診療しておりますのでご利用ください。
    セカンドオピニオンや、外科治療をすべきかどうかお悩みの場合もご相談ください。
    セカンドオピニオン受診については当院規定があります。そちらをご参照ください。
    病状や疾患によっては、当科ではなく、呼吸器内科など、他の診療科での診療をお勧めすることもございます。

    外来初診担当医

    火曜日・水曜日・木曜日は手術日のため、交代で外来を担当します。
    ご紹介状をお持ちの初診の方、カルナ経由でのご予約の方のほかは、有症状の急患の方のみの受付となります。
    ご紹介状がない初診の方、再診の方は、月曜日・金曜日の外来をご予約・ご利用ください。
    手術等で診療できない場合は、呼吸器内科医が診察を担当することがあります。

    お願い

    診察には受診予約だけでなく、できる限り【診療情報・レントゲン写真(あるいは画像データ)】をご持参ください。その他必要な検査データがあれば、ご持参ください。
    もし他の病院で検査など行われていれば、それも診察の際にお持ちください。
    手術を前提にご紹介いただく場合は、可能な限り、ご家族とともに受診していただきますようお願い申し上げます。特に近年は、ご高齢の方の受診機会が増えております。
    ご高齢の御夫婦だけの受診ではなく、御子息・御令嬢などいらっしゃる場合は、可能な限り、ご同伴で受診してください。
    未成年者の場合は、必ず保護者との受診をお願い申し上げます。

    お断り

    14歳以下の小児につきましては、当院小児外科での診療をお受けください。
    また、漏斗胸など整容的手術は当院形成外科での診療となっております。
    上記時間以外も時間の許す限り診療に応じておりますが、手術などで診察できないことがあります。ご了承ください。
    外来では問診と説明に十分な時間をかけております。そのため一人当たり診察時間が長くなることがあり、時間予約制となっているにもかかわらず、長時間お待たせすることがございます。
    誠に恐れ入りますが、ご理解ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

  • 診療方針〜基本姿勢 arrow_forward_ios

  • 基本姿勢

    私どもは常に国内最高水準の医療を提供することで、地域医療に貢献できるよう、鋭意努力しております。
    私たち呼吸器外科の手術に対するモットーです。

    1. 1

      治療として成り立つ手術を行う

    2. 病気は取れればよいと言うものではありません。あくまで治療として科学的に意味のある質の高い手術でなければなりません。実績や宣伝のために、むやみに手術を強要したり、不要な手術までお勧めしたりいたしません。1件1件の手術を丁寧に行い、手術件数を他施設と競いません。

    3. 2

      歩いて入院した人は歩いて帰れる手術を行う

    4. 技術的に病巣が取れても、その人の生活が成り立たなくなっては本末転倒です。これを見極めるためには、深い知識と十分な経験が必要です。
      ただ単純に年齢や検査の数字だけで判定するだけなら、機械が判定しているのと同じです。人間が判断することの意義を大切にしています。

    5. 3

      治療手段の最終決定権は患者にある

    6. 外科治療に当たっては、意義・危険性など時間が許す限り説明をし、納得をいただた上で、治療(手術)を実施します。
      手術をお受けになるか否か、ご家族の方も含め、充分お話合いの上、ご自身で決断してください。痛いも、
      辛いも体験しなければならないのは患者御自身です。嫌々手術を受けても決して良い結果は期待できません。

    7. 4

      病名は隠さず告知します

    8. 病名も含めて、私どもが理解している知識や持ち合わせている情報は全てお話します。納得がいかない場合や、他の施設での治療をご希望であれば、他施設へご紹介させていただきますので、遠慮なくお申し出ください。

      私たちは、常に「もし自分が同じ条件であったらどのような手術を受けるか」を基準に考え、治療を計画提案しております。治療が複数ある場合は、それぞれ利点や欠点とともに提示いたします。特定の治療方法に誘導しないために、あえて個人的な意見や感想は申し上げないようにしています。ご容赦ください。

    具体的には

    胸腔鏡を使った手術の普及と適応拡大を目指しています
    当科スタッフは、開発当初から内視鏡手術(胸腔鏡手術)に取り組み、肺癌や縦隔腫瘍、自然気胸や重症筋無力症などに早くから応用し、普及にも努力して参りました。胸腔鏡を利用した肺がん手術の普及のカギと言われ、特に困難とされていた縦隔郭清術の手技を確立させ、開胸でも難しい気管・気管支を再建する手術などでは、世界的にも例がない難易度の高い手術を、胸腔鏡下に成功させて参りました。胸腔鏡手術は良性疾患のみとか、小型の肺癌のみとか、制限された範囲の病気にしか行わない呼吸器外科もありますが、当科では、可能と判断できるものは胸腔鏡での手術を遂行しており、開設以来、大半の手術が胸腔鏡を使った手術で行われております。

    心臓外科や整形・形成外科と協力した大きな手術(拡大合併切除術)も行います
    一方で人工心肺装置を使っての肺・心臓の同時手術のような大きな開胸手術も実施しています。同じ呼吸器外科でも、施設によっては、頸部(首)の手術や、心臓外科的な手技を必要とする手術を取り扱わないところもありますが、当科では、手術に必要なら、心臓や大血管に病変が及ぶならば心臓血管外科医と、喉頭や食道などでは耳鼻咽喉科医や消化器外科医と、胸郭や骨に関わるときは形成外科医や整形外科医と協力しながら手術を計画・実施します。幸い当院には経験豊富で協力的な各領域の専門医が常勤しております。

    集学的治療に取り組みます
    集学的治療とは、手術か薬かというような、何か一つの単独での治療手法で疾患を治そうとするのではなく、多種多様な治療手段を組み合わせて治療に取り組むやり方のことです。当院には呼吸器外科だけでなく呼吸器内科の双方に、地域の呼吸器診療の基幹病院に相応しいスタッフが質・量ともに揃っており、放射線科や麻酔科、病理検査科などとも協力しながら診療にあたっています。定期的なカンファレンスはもちろん、随時これらの診療科と連絡を取り合い、治療を進めています。手術を補完する抗がん剤治療(化学療法)や放射線治療などを組み入れた集学的治療も、これらの関連診療科とともに行います。

    新しい治療法や検査法の開発に取り組みます
    当科は、少しでも良い手術、少しでも良い治療や検査方法を求めて、診療に直結した臨床研究に取り組んでいます。大学のような研究機関ではありませんので、基礎医学研究は行いませんが、診療に直結した臨床医学の分野では、これまでにも、特に胸腔鏡手術の領域や気胸の診断治療で、幾ばくかの成果を上げることができたのではないかと自負しております。今後も医学・呼吸器外科学の発展に貢献できるよう臨床研究にも精進して参ります。

    診察や説明には十分な時間をかけます
    手術の是非を決めるためには、充分な情報取得と提供の時間が必要です。問診(情報を聞きとる診察手技)と説明に時間をかけていますので、診察の際は時間に余裕を持ってお越し下さい。通常、初診診療には1件1時間程度の時間がかかります。治療方針決定にあたっては、時間をかけ、理解していただくまで説明をしておりますが、説明の相手がご高齢者だけ、あるいは患者おひとりだけでは十分な説明責任を果たせなくなっております。最終的に治療を選ぶのは患者自身であっても、ご家族の承諾なしには手術をお受けできない場合もありますので、患者お一人での受診は避け、可能な限り、ご家族とともに御来院ください。
    肺がんや自然気胸など、主な疾患や胸腔鏡手術などの治療手技についての治療方針は別ページをご覧ください。

  • 診療方針~胸腔鏡手術(内視鏡手術) arrow_forward_ios

  • 有益であり、今後は手術の主流になると位置づけています

    一部には依然、内視鏡手術の是非に関する議論があることは事実ですが、当科では、胸腔鏡手術は早い術後回復が期待できるという点で意義があるものと考えております。現在の胸腔鏡による手術の手技は、開胸に勝るとも劣らない物であり、術後の回復過程を目にすれば、敢えて開胸手術に回帰する理由があるとは思えません。当科では、手術適応と考えられる胸腔内疾患のほとんどで、胸腔鏡を利用した手術が実施されております。

    技術的にできる見込みがあればトライするのが基本姿勢です

    近年の保険改正で、ほとんどの呼吸器外科疾患で、胸腔鏡手術の保険が適用されるようになっています。技術的に、胸腔鏡手術では不可能と思われる場合は、決して多いものではなく、時間をかければ、胸腔鏡手術で手術出来ることがほとんどです。
    手術に時間がかけられないような体力の弱い方は別として、多少の時間をかけても、胸腔鏡手術では、術後回復期の経過は良いとの印象を持っており、外科医の常識に照らして非常識にならないという範囲であれば、時間をかけても胸腔鏡手術で完遂できそうなら胸腔鏡手術で手術を遂行する方針です。

    胸腔鏡手術を強要したり無理な完遂を目指したりしません

    当科の胸腔鏡手術施行率は、大変高い状況ですが、当科では胸腔鏡での手術を、(一部の疾患を除き)一方的に強要したり、お勧めしたりはいたしておりません。加えて、必ずしも胸腔鏡手術での完遂をお約束するものでもありません。長い経験から胸腔鏡手術の利点だけでなく、欠点や限界も熟知しております。一般の方だけでなく、時には医師の間でさえも、不十分・不正確な情報に基づくと思われる誤解がみられることや、最新技術というだけで、過度な期待がある場合も少なくありません。胸腔鏡手術は、開胸手術での充分な技術的裏付けがあった上で行われているものであり、安全性や治療意義など、患者ご自身だけでなく、ご家族にも、事前に十分ご理解いただいた上で、初めて実施できるものであることをご承知おきください。

    技術的理由以外にも麻酔が困難な場合は実施不能です

    胸腔鏡手術は分離肺換気麻酔と言う特殊な麻酔が必要です。
    この麻酔が実施できない方や、技術的に困難な方では、胸腔鏡手術はできません。個々の事例につきましては、当科外来までご相談ください。

    原則として完全鏡視下手術で行います

    現在では、ほとんどの呼吸器外科施設で、胸腔鏡手術を謳っていますが、胸腔鏡手術には厳密な定義な無いため、手術時間のうちの1%でも胸腔鏡を使えば、胸腔鏡手術と呼ぶことが可能です。モニター画面で手術を遂行する胸腔鏡手術を、専門医の間では完全鏡視下胸腔鏡手術と呼び、熟練が必要な、真の意味での内視鏡手術と言われていますが、実際に、どの病院でどの程度の手術が、この完全鏡視下手術が行われているかわかっていません。当科の胸腔鏡手術は基本的に『完全鏡視下胸腔鏡手術』で正真正銘の胸腔鏡手術です。
    (当科でも少数ではありますが、完全鏡視下以外の胸腔鏡手術は行われています。)

    胸腔鏡手術手技の発展向上を目指します

    当科スタッフは、胸腔鏡手術の黎明期である1990年代からこの手技に着目し、20年前には創設されたばかりの胸腔鏡手術手技研究会(現在は日本内視鏡学会に統合)の第1回大会で、優秀賞を得ました。その後も胸腔鏡手術の改良に努め、現在までに当科の胸腔鏡手術の内容は、日本外科学会や日本呼吸器外科学会手術ビデオライブラリーに多数登録され、全国の呼吸器外科専門医や若手医師の教育・研修用として利用されております。また、スタッフの一人は日本呼吸器外科学会から胸腔鏡手術インストラクターにも指定されており、平成25年には当院で、関東地区の胸腔鏡手術セミナーも開催しました。この領域では県内はもとより、国内でも極めて高い技術レベルにあるものと自負いたしておりますが、今後も我が国における胸腔鏡手術手技の発展向上に貢献できるよう努力して参ります。

  • 診療方針~単孔式胸腔鏡手術 arrow_forward_ios

  • 単孔式胸腔鏡手術とは

    単孔式胸腔鏡手術とは、一つの穴から、すべての手術操作を行う胸腔鏡手術を指します。体壁に開ける手術操作用の穴を、外科用語で『孔(こう、英語ではアクセスポートaccess portまたは単にポートport)』と呼び、一つの孔から行う胸腔鏡手術という意味で、単孔式胸腔鏡手術となります。現在主流の胸腔鏡手術のほとんどは、複数のポート(孔)を使う方法のため、これらと区別するため、「単孔式」と表記されています。

    肋骨に阻まれて、隙間の狭い肋間に、横長の大きな創を作らなければ、手術ができなかった呼吸器外科にとって、小さな創ひとつから、様々な手術ができるようになったことは、呼吸器外科の歴史にとっても、大変意義深く、ロボット支援手術とともに今後大きな可能性を秘めた方法と言われています。

    単孔式胸腔鏡手術は、胸腔鏡手術登場のころから試みられていましたが、肺の一部を削り取って終わるような単純な手術に留まっていました。内視鏡手術の技術や、手術機器の改良・開発が進んだことで、改めて単孔式の胸腔鏡手術が見直されるようになり、2011年の肺癌に対する単孔式胸腔鏡手術の報告(Gonzálezら Interact Cardiovasc Thorac Surg誌 2011)を契機に、急速に広がっている手技です。現在では、肺癌や自然気胸、縦隔腫瘍など様々な疾患に対する手術が、単孔式胸腔鏡手術で実施されています。

    単孔式胸腔鏡手術は、英語ではSingle-port VATS, Single incision VATS, Uniportal VATSなどと表記されており、ユニポートVATSと呼ぶことが多いです。 VATSはVideo-assisted thoracic (または thoracoscopic ) surgeryの略で、胸腔鏡を使って行う手術全体を総称する用語です。

    キズの大きさ

    キズ*1といっても、大きなキズでは、あばらの間を大きく開けて行った旧来の開胸手術と変わりません。あまり小さすぎても、病変や臓器を取り出せません。厳格な定義はありませんが、概ね4センチ前後のキズで行う胸腔鏡手術を単孔式胸腔鏡手術と見なす*2のが、今のところ、多くの呼吸器外科医にとって納得・了解できる目安でしょう。今では、単孔式と区別するために、複数のキズで行う従来からの胸腔鏡手術を、わざわざ多孔式胸腔鏡手術(マルチポートバッツ、multiportal VATS)と呼び分けることもあり、更に、キズひとつではないものの、従来より減らしたような場合を、Reduced port VATS(まだ訳語はないようです)と称するようになっています。

    *1:皮膚が、一部でも切れたり裂けたりすれば、日常生活では「キズ」と言います。医学では、手術などの治療や検査の目的で、意図的に皮膚に「キズ」を入れた場合は、「キズ」と呼ばずに「創(そう)」と呼びます。ただし、注射針の刺し傷のように、皮膚の下の組織が露出することなく、あとも残さずに、自然にきれいに治る場合は除きます。創以外の「キズ」が「傷」で、怪我で皮膚が切れれば「外傷」です。ここでは、一般の方にも理解しやすいよう、手術の創にも「キズ」の字を使いました。ちなみに、「キズ跡」のことを医学では「痕(こん)」と言い、これは手術でも外傷でも同じように呼びます。

    *2:手術操作に必要な最小限のキズの長さの最大公約数が、およそ4センチという理解が良いと思います。この長さは単孔式手術を実施するうちに、次第に集約されてきた、いわば経験による至適あるいは最頻値と言えるもので、根拠となる科学的な事実や理論はありません。当然、体格の違いや病変の大きさによっても、キズの長さは変わります。特に病変が大きいと、4センチのキズで切り取れても、体外に取り出せないことがありますので、手術の最終段階に、キズを少し大きくすることもあります。手術の意義が、4センチという特定の長さに起因するものではないので、長さに拘り過ぎて無理をしないよう、手術の柔軟性を確保するために、あえて厳密な定義を避けていると言えるかも知れません。

    単孔式胸腔鏡手術が目指すもの

    単孔式手術は、古くて新しい手法です。今、なぜ単孔式胸腔鏡手術が見直され、諸外国で広まっているのか、単孔式胸腔鏡手術のメリットやデメリットだけでなく、専門家が交わす議論の論点が理解できるよう、これまでの内視鏡手術や単孔式手術が辿ってきた道のりを、簡単にご紹介します。

    キズなし手術が外科医の夢
    手術でキズができると、痛みや跡が残ります。あとあとの痛みや、キズ跡のことが気になって、手術をタメラッテしまうこともあるでしょう。痛みも跡も、できる限り減らし、無くしていくためには、できるならキズは小さく、理想を言えばキズなしに、手術できなければなりません。

    キズなし手術は、夢物語としても、キズを可能な限り少なく、小さくと思うのは、手術を受ける人の願いであるだけなく、毎日のように他人をキズつけている外科医にとっても、偽らざる望みです。

    麻酔のおかげで、少なくとも手術の最中は、痛みなしが実現できています。しかし、麻酔は所詮、一時だけのもの*3。麻酔が覚めて、術後それなりに日時が過ぎれば、キズ付いた体は痛みます。病気を治すために、病巣や臓器を切り取る以上、痛みが出る*4ことは避けられず、治療の対価として耐えるべきもの(英語では患者のことをpatient、耐えるという言葉を使います)という考え方が、医療者の中にも浸透していました。

    *3:術後のキズの痛みを和らげる方策は、開胸手術時代から様々考案され、試されてきました。胸のキズの痛みには、理論上、肋間神経が関与していると考えられています。該当する肋間神経をアルコールや凍結でブロックする方法、局所麻酔薬で麻痺させる方法、神経を切ってしまう方法などなどです。神経を麻痺させたり、切断したりすれば、痛覚とともに知覚も鈍麻します。痛みは減っても、触覚も犠牲になりがちです。また、人によっては、神経を切断することで、かえって知覚の異常を感じるようになることもあります。残念ですが、術後の痛みだけを恒久的に減ずる良い方法は、見つかっていません。幸い、術後の痛みは、多くの人で、時間とともに減じます。手術直後であれば、背中の脊髄のそばを麻酔する、硬膜外麻酔という方法が有効で、多くの病院で、術後の鎮痛用に使われています。この麻酔は、術後数日程度の短期間しか利用できません。

    *4:臓器や組織は、切ってもあまり痛みを感じません。切った肺が痛いとか、切った胃が痛いとは感じることはなく、痛いのは、ほとんど皮膚のキズです。これは肺や胃などの臓器に比べ、皮膚には知覚神経が多く分布しているからと考えられます。皮膚のほか、知覚神経が多い骨(骨膜)のキズも強い痛みがあります。胸部の手術は、肋骨(骨膜)を傷つけることが多く、皮膚の痛みだけでなく、肋骨の痛みも加わって、腹部のキズより痛むと考える胸部外科医は多いです。

    「キズひとつ手術」試行錯誤の時代
    近代外科は19世紀終盤に、始まったとされていますが、まだ麻酔法が発達していなかった時代であり、今よりずっと痛みの問題は、大きかったでしょう*5。そのせいか、すでに近代外科が芽生え始めたころには、小さなキズ一つで手術を行う方法が考案されていました。しかし、小さなキズ一つでは、たとえ何か見えたとしても、何か成すことは難しいし、できたとしても、大したことはできません。何とかできたとしても、小さなキズから取り出せるモノは、小さな臓器や組織だけです。発展性のない手術方法は、なかなか普及しませんでした。

    第二次世界大戦前に、気管内挿管による全身麻酔が米国で開発され、手術ができる範囲が広がるようになると、外科医の間では、むしろキズは広く大きいほうが良いとされるようになっていきます。遅れて戦後我が国でも、米国の麻酔技術が導入されると、手術はより大きくなりはじめ、様々なキズの作り方が考案されました。キズは大きいほうが安全であり、うまい外科医のキズは大きいと指導する医師もいました。

    *5:結核が猛威を振るっていた時代、我が国では戦後しばらくまで、結核の外科治療は局所麻酔で行われていました。痛みや苦しさを訴える患者を励ましながら、手術をしていたそうです。手術中に患者が意識を失うことも多かったようで、止血技術もほとんどない時代、手術は時間との勝負、手術室は文字通り命懸けの修羅場だったと、先輩呼吸器外科医たちから、教わりました。

    手術の拡大路線「大きいことはいいこと」
    気管内挿管による全身麻酔の登場で、外科手術は飛躍的に進歩しました。長時間の手術が、安定して実施できるようになり、我が国での経済の発展を追うように、外科手術も拡大路線をひた走ります。大きく取ることが、手術の治療効果をより高めると考えられ、告知もない時代、競うように、取って取って取りまくる手術が行われていました。

    拡大路線の転換点
    ところが、バブルのころには、手術の治療成績は、頭打ちとなっていただけでなく、手術が必要以上に大きくなったことで、術後の合併症や後遺症などの障害も増え、「リスク(危険性)」ということが問題視されるようになりました*6。すでにこのころまでに、一部の癌手術(乳癌)で、切除範囲を適度に減らしても、治療効果には差がないことが示されていて、他の癌でも、手術の大きさと治療効果の関係を、再評価しようとする動きが始まりました。ここに至って、手術の拡大路線は、大きな転換点を迎えたのです。

    *6:このころまでの癌手術の治療成績は、現病死の割合で示すのが一般的でした。現病死とは、治療対象となった病気で死んだという意味で、現病が癌の場合、その癌が再発や進行して死亡したことを意味します。つまり、治療の合併症や治療の対象でなかった持病などで死亡した場合は除かれています。合併症の発生が、問題視されるようになったこのころから、治療成績は合併症などでの死亡者も含む、全死亡者の割合で示すように変わっています。全死亡者とは、現病による死亡だけでなく、合併症や持病による死亡はもちろん、事故死・自殺なども含み、原因を問わず、死亡した人すべてを指します。現在では、手術の成績は、この全死亡者(用語としては全生存者になっています)の割合で示すのが原則です。

    低侵襲という言葉を謳った内視鏡手術の登場
    今日普及している内視鏡手術は、近代外科創成から100年近くたった20世紀終盤、1980年代に始まったものです。ちょうど我が国では、バブル景気が始まったころです。内視鏡を使った手術では、それ以前の手術(開胸・開腹手術)に比べれば、圧倒的に小さなキズで手術ができるようになりました。キズが小さくなったことで、手術直後の痛みはかなり軽減したと言われ、手術に「低侵襲*7」という考え方が定着しました。

    *7:体への負担やダメージを、侵襲という言葉で表現します。具体的な何かを指す言葉ではなく、抽象的な概念です。人体への影響を表現するときに、便利なことから、医学では頻繁に使われますが、特定の検査結果や数値で、推し量れないため、何をもって低侵襲や高侵襲とするかなど、議論を複雑にし、解決不能なものにしています。

    時期尚早で普及しなかった初期の単孔式胸腔鏡手術
    キズが小さい内視鏡手術では、小さなキズを通せるように、細長い手術器具・器械を使います。内視鏡手術の登場で、キズ一つ手術実現の可能性は、一気に高まりました。内視鏡手術が開始されるとすぐ、1990年代初めには、単孔式内視鏡手術が、いくつか試みられました。しかし、当時の内視鏡手術は、手術に使う道具も、手術の手順や方法も、試行錯誤の繰り返し、画質も昔のアナログTV放送レベル、できる手術も、できる外科医も、限られていました。まだ、根幹となる内視鏡手術自体の安全性にも、疑問を投げかける外科医が多い時代で、その内視鏡手術を、単孔式で実施することへの批判が相次ぎ、結局内視鏡手術でも、その後しばらくの間、単孔式手術が主役を占めることは、ありませんでした。

    内視鏡手術は多孔式で成熟した
    今や、外科治療の主流となった感のある内視鏡手術ですが、多くの内視鏡手術では、キズは複数できます。体の中を内視鏡で見るためのキズに、操作用の器具・器械*8を入れるキズを、いくつか加えることで、様々な手術に対応します。内視鏡手術普及の先駆けとなった腹腔鏡下胆嚢摘出術では、通常3~4個のキズを入れるのが標準的で、開発当初から現在まで、キズの数は、あまり変わっていないようです。より複雑な内視鏡手術では、キズが4~5個となることもよくあり、最新と言われているロボット支援胸腔鏡手術では、肺癌の手術を例にすると、最低でも5~6個のキズが必要となっており、技術の進歩に反して、より多くのキズが必要になるという逆転現象(?)も起きています。

    *8:手術で使う道具の多くは、外科医が手で持って、手で道具を動かして、組織を切ったり縫ったりします。このような道具のことを「器械」と呼び、器械は、自ら切ったり縫ったりの動作はしません。ちなみに「機械」は、装置そのものが作動して何かの作業を成すものを言い、人はスイッチを操作するだけの装置が機械です。鑷子(せっし、ピンセットのこと)や持針器などの金属製の器械や器具を、「鋼製小物」とも呼びますが、手術操作に直接関係ないものも含むこともあり、外科医はあまり使いません。

    内視鏡手術の進化は多孔から単孔へ
    今日的な内視鏡手術*9の始まりから十数年、21世紀に入るころには、内視鏡手術は、様々な領域に拡大、標準的な手法として浸透しました。映像技術や手術器械の改良が進んだだけでなく、外科医の知識や技術も蓄積洗練されました。熟練した外科医であれば、かなり複雑な手術も、内視鏡下に行えるようになり、逆に典型的な手術なら、キズを小さくしたり、減らしたりして行うことも、さほど困難ではなくなっていきました。こうして、再びキズを減らして行う手術が、脚光を浴びるようになり、その中で、呼吸器外科領域に広がってきた技術が、現在の単孔式胸腔鏡手術と呼ばれる手術方式*10です。

    *9:体内を覗くだけの内視鏡の始まりは、19世紀初めといわれていますが、手術をするための内視鏡、つまり内視鏡手術の始まりは、20世紀初めで、ヤコビウス(Jacobaeus)という人が、膀胱鏡を腹腔(おなかの中)や胸腔(胸のなか)の観察や治療に応用できるとした報告(1911年)とされています。当時の内視鏡は、レンズを通して目で直接覗き込むもので、明かりも点かないものでした。その後、胸部領域では、特に結核の治療として発展しました(ちなみにヤコビウスは、当時、結核の治療法の一つであった、人工気胸の効果を上げるために、胸膜の癒着を焼灼する手技を、この内視鏡(今で言う胸腔鏡)で行っていましたが、手術=開胸であった当時、この内視鏡による癒着焼灼術は閉胸式と呼ばれていました)が、20世紀の中盤には衰退し、しばらく使われることはありませんでした。しかし内視鏡の技術はその後も受け継がれ、映像技術と融合して、世界最初の胆のう摘出術(1987年)につながり、現在の隆盛をみることになります。20世紀前半までの内視鏡手術と区別する意味で、今日的な内視鏡手術という言葉を使いました。

    *10:「単孔式」という言葉も「胸腔鏡手術」のやり方を表現しているにすぎません。同じように、「胸腔鏡手術」といっても、胸腔鏡手術という特定の術式があるのではなく、胸腔鏡を使った様々な手術を総称する言葉です。いずれも、手術のやり方(外科医はアプローチとか到達方法と呼びます)を表現した用語です。手術に「方式」という表現は、医学では使いませんが、ほかに良い用語がないため、本稿ではこのような表現を使いました。本来は、単孔式胸腔鏡下肺癌手術とか、単孔式胸腔鏡下ブラ切除術とかのように、後半に具体的な手術内容を付記して初めて、手術術式と呼べる表現になります。

    単孔式胸腔鏡手術に関する我が国と世界の情勢
    日本の呼吸器外科では、世界的に見て、胸腔鏡手術への取り組みが早くから行われており、今日まで、非常に質の高い手術が、広く行われてきました。日本の呼吸器外科医の多くは、従来の多孔式胸腔鏡手術に、すでに十分熟達しており、ほとんどの手術を、多孔式胸腔鏡手術で行うことができます。そのためかどうかわかりませんが、日本の呼吸器外科医の多くは、ロボット支援手術の必要性を強く感じておらず、また単孔式への移行にも、消極的と言われています。

    一方、胸腔鏡手術の導入が遅れた諸外国の施設では、近年になって、ロボット支援手術や単孔式胸腔鏡手術を、積極的に取り入れる姿勢に転じてきており、次世代の内視鏡手術として普及し始めています。米国を中心としたロボット支援手術を積極的に進める国々と、単孔式胸腔鏡手術を積極的に取り入れているアジアや欧州の一部の地域に分かれているのも特色で、いずれにせよ、日本式の多孔式胸腔鏡手術は、すでに時代遅れ扱いです。このままでは、日本の胸腔鏡手術も、携帯電話のように、ガラパゴス化の道を歩むことになるかもしれません。

    遅ればせながら、我が国でも、単孔式手術を積極的に取り入れようとする施設は増えてきました。今、単孔式胸腔鏡手術は、国内外を問わず、各種学会や論文で必ず取り上げられる、重要なテーマになっています。日本呼吸器外科学会では、数年前から、若手外科医に対して、単孔式手術で有名な海外の病院での研修を斡旋しており、資金を援助する活動を始めました(日本呼吸器外科学会フェローシップ)。

    近い将来の外科学の方向性
    21世紀の外科は、内視鏡手術時代として始まりました。21世紀も四半世紀が過ぎつつある現在、世界の胸腔鏡手術は、次のステップに進みかけており、その一つの方向が、キズを最小で最少の一つに収めて行う単孔式手術です。おそらくこの手術方式は、現在盛んに開発が進むロボットアームの技術*11と融合していくものと、予想されています。

    *11:現在、我が国でロボット手術と呼んでいる手術方式は、厳密にはロボット支援手術と言います。なぜ「支援」を入れるかといえば、ロボットが手術を実行しているのではなく、実際にはマニュアル式の手術だからです。体内で臓器に直接触れる手術器械は、アームの先端に取り付けられ、外科医はアームを遠隔操作して、手術器械を動かすという仕組みです。手術用のロボットは、精密な電子部品を作ったり、流れ作業の中で車を組み立てたりする産業用ロボットとは全く違います。自律的に動いたり、自動運転したりはできません。アームの先に装着される手術器械・器具は、手術中、人間の手による交換が必要で、手術着を着た外科医が、そのために患者の横でスタンバイします。この交換要員の外科医は、機器に不具合が生じたら、ロボット装置を緊急停止させ、取り外して、緊急開胸手術をその手で実施します。肺癌のロボット支援手術では、キズは4つの孔に加えて、一つの緊急用補助開胸窓を必要とするなど、最先端の産業技術であるはずですが、手術の低侵襲化には、あまり貢献できていないようにも見えます。

    単孔式胸腔鏡手術に対する当科の取り組み

    私どもは、国内に胸腔鏡手術が導入され始めた1992年から、胸腔鏡手術に取り組んで参りました。およそ30年の胸腔鏡手術の経験の中で、当初は難しいと言われた肺癌のリンパ節郭清の手技を確立し、世界初の気管再建手術を成功させ(Surgery誌 2005)、気管支形成の手技を開発(Annals of Thoracic surgery誌 2007)してきました。私どもは、胸腔鏡手術の導入以来、日進月歩の最先端技術を活用しながら、手術の低侵襲化に努力してきましたが、いずれも多孔式での胸腔鏡手術でした。近年、単孔式胸腔鏡手術にマッチした医療機器*12が、次々と開発されるに至り、当科でも単孔式胸腔鏡手術を取り入れました。

    すでに当科では、標準的肺癌手術ならば、リンパ節郭清という癌手術の付帯的手技も含めて、単孔式で実施できるようになっています。キズ一つで、何でもできるようになったとまでは、まだ言えませんが、少なくとも当科で行う胸腔鏡手術の9割程度は、単孔式で実施できるようになっています。

    *12:特に、ここ10年に開発・改良された4K映像システム、エネルギーデバイスと言われる特殊な血管閉鎖システム*13、小型改良された自動縫合器*14などは、単孔式胸腔鏡手術の実現に大きく貢献しました。

    *13:1926年ボビーとクッシングによって実用化された電気メスは、今日、大きく改良され、エネルギーデバイスと呼ばれるようになっています。電気メスは、高周波電流を体内に通し、発生する熱エネルギーで、組織内の水分を昇華させて組織を切る、あるいは、組織の蛋白質を凝固させ、血管を塞いで止血するという装置です。現在では、高周波を巧妙に調整することで、さまざまな効果を生む装置に発展しています。電気メスとは別に、器械の先端を超音波で振動させて、組織の変性を起こす装置なども開発されており、一括してエネルギーデバイスと呼ばれます。最新のエネルギーデバイスは、繊細でかつ強力になっていて、従来では閉鎖止血が難しいとされた肺の血管も、ボタン一つで閉鎖できるようになっています。

    *14:現在の胸腔鏡手術を実現可能にした装置が、内視鏡手術用自動縫合器と言われる装置です。肺の手術では、肺を切ったり、縫ったりする必要がありますが、これを容易にしてくれる装置が自動縫合器です。糸を針で縫い付け、ハサミやメスで切り分けるのではなく、ホッチキスのような形状の金属を、複数の列に並べて肺に打ち込み、打ち込まれた金属の列の間をナイフが自動で進んで、肺を切り分けると同時に、切れ端が金属で閉鎖されるようになったものが、自動縫合器です。ステープラー(stapler)と呼ぶ外科医が多いです。ハンガリーの外科医ペッツが、1924年「胃断端縫合器」として開発したものが原型です。内視鏡手術専用のものが、1992年ごろ発売されましたが、初期のものは、挟める肺の厚みも限定的で、全体も直線状の構造でしたが、その後、先端に関節部分ができ、先端部を回旋・屈曲させて使えるようになったものや、肺だけでなく、血管にも使えるようにしたものも作られ、更に最近では、電動化され、先端をより狭小・小型化したものなどが使えるようになりました。

    単孔式手術のメリット

    単孔式となったと言っても、あくまで手術のやり方、方法(到達法)が変わっただけで、病巣を切り取ったり、縫ったりして治すという外科治療としての、手術の本質部分は同じです。換言すれば、「キズが一つになっただけで、何も変わってない」わけですから、その変化はあまり大きいものではない、のかもしれません。

    確かなことは「痛む場所は1か所」
    痛む場所が、限定された1か所となることは、胸部の手術直後には、大きな意味を持ちます。当たり前ですが、痛むところを下にして、横になれば、刺激で強く痛みます。睡眠中に、不用意に寝返りを打つと、激痛で目が覚め、体は疲れているのに、熟睡できません。高齢での手術が多い肺癌の手術では、睡眠不足は、様々なトラブルのもと*15になることが分かっています。

    呼吸器外科の手術では、脇の下や背中側の広い範囲に、キズを作ることが多く、広い範囲に痛みがあると、仰向けに寝ていても痛み、横向きになっていても痛みます。痛みに対する不安感で、寝付けない事態に陥ることも少なくありません。術後の睡眠不足は、様々な精神的・肉体的不調を招くので、できるかぎり避けるようしなければなりません。

    痛む範囲が限られ、痛くない範囲が広がれば、下にして寝られる向きが増え、安眠しやすくなります。たったそれだけのことのように思われるかもしれませんが、とても大きな改善です。寝られないなら、睡眠剤を服用すれば良いという考えもありますが、それでも目が覚めるのが、手術直後のキズの痛みであり、それでも痛みなく寝ようとするなら、翌朝ふらつくほどの薬が必要になる時もあります。

    痛む場所が、狭い範囲に限られているということは、特に痛みが強い胸部手術の後*16では、単孔式手術にとって最大のメリットになると考えています。

    *15:一番多いのが、せん妄と言われる状態で、突然起き上がって叫んだり、錯乱、興奮状態になったりします。術後は早期離床(そうきりしょう)と言って、できる限り昼間は起きて生活することが、合併症予防につながる一番良い方法と考えられていますが、睡眠不足では、昼間にウトウトしてしまい、生活リズムをさらに崩すことになりがちです。

    *16:手術のキズの痛みの強さは、場所により異なるといわれています。同じ腹部では、上腹部より下腹部のほうが痛みは強くないですし、肋骨を切る開胸より、胸骨(胸の中央にある骨)を切る開胸のほうが痛みは少ないといわれています。腹部と胸部では、圧倒的に胸部の痛みのほうが強いというのが、両方の手術を受けた人に共通する感想です。呼吸器外科の手術は、上に挙げた中でも一番痛みが強い肋骨を切る開胸手術が、標準手術でした。呼吸器外科医が、当初より内視鏡手術への関心を示し、広く普及したのは、術後の痛みで起きる問題に、長い間、悩まされ続けてきたためかも知れません。

    キズは目立ちにくい
    この点は、説明の余地がないでしょう。ただ、美容的な手術として実施するものではありません。

    最後に

    長い外科の歴史の中で、試行錯誤されてきた「キズ一つでの手術」が、ようやく実現しつつあります。日本の呼吸器外科は、局所麻酔下、平圧開胸*17という、想像を絶するような結核手術で興隆し、その後数十年をかけて、今、4センチというキズ一つで、当時よりもはるかに複雑な手術を成し遂げ、90歳近い人でも、数日で退院できるようになったのです(個人差があります)。

    確かに、エビデンスベース(科学的根拠に基づく)として、単孔式胸腔鏡手技を評価すれば、今のところ、言えることは「この小さなキズ一つで、肺癌の手術ができる時代になった」「キズが減っているので、すこしは楽になったに違いない」という、非常に主観的な感慨や満足感だけしかない、のかも知れません。ただ、これを成せたのは、外科技術と産業の進歩であり、キズを減らしたい、キズを減らすことが患者の利益になるという外科医の強い思いであることは、間違いありません。同じことは、きっと手術のキズを見た多くの人に、感じてもらえると思います。

    「最新医療を地域に提供する」を、診療方針の柱の一つとしている当科としては、単孔式胸腔鏡手術に、特に施行上の問題となるようなデメリットがない限り、この技術を追求し、需要がある限り、その技術を提供していくことにしております。

    単孔式手術に関しては、今なお専門医の間で、賛否様々な意見が交わされており、その状況は、四半世紀前、胸腔鏡手術が導入され始めたころに、よく似ています。単孔式胸腔鏡手術に対する賛否の意見と、当科の見解を、当科のQ&Aページに別途掲載しましたので、併せてご覧下さい。

    *17:戦前の我が国では、肺の手術も局所麻酔、つまり麻酔薬を切開する場所に直接、注射して行う麻酔法で、行われていました。今でも歯の治療などでおなじみの麻酔法が局所麻酔です。当時はまだ人工呼吸器がありませんでしたので、手術中は、患者自身が呼吸し続ける必要があり、現在の全身麻酔と違って、意識をなくすことはできません。胸を開ける(これを開胸と言います)と、胸の中に大気が入り込み、肺は萎みます。萎んだ肺では呼吸ができなくなりますので、反対側の肺を使って、一生懸命息をし続け、肋骨や筋肉を切ったりしている間、ただただ痛みに耐え、息苦しさの中、手術が終わるのを、待つしかなかったのです。結核時代は、まだ肺を切り取ること(直達手術と呼びました)は難しく、大半の手術は、肋骨や筋肉を切り落として肺を潰す、虚脱療法でした。その虚脱療法をより確実に行うためにヤコビウスが考案したのが、世界最初の胸腔鏡です。

  • 診療方針~肺がん arrow_forward_ios

  • 以下に原発性肺癌について、当科の方針や治療の特徴などお示しします。

    肺がんは、肺の細胞を母地として発生する原発性肺癌と、他臓器の癌が肺に転移してくる転移性肺癌に大別されます。特に断りがない時は原発性肺癌に関する記述です。

    肺がんの治療指針

    肺がん治療では唯一、治る(医学的には『治癒』と言います)治療が外科治療です。折角、手術を実施できる基準にあるのに、持病のために、あるいは術後の状態を過度に危惧して、手術を断念してしまっては、戦わずしてがんに敗北を宣言する、つまり死を覚悟することに等しいとも言えます。

    肺がんの治療方針は、世界的におおむね合意された判断基準があります。当科でも、基本的にはそれに従って治療法を選択します。この判断基準は、常に検証され続けており、新しい治療や薬剤の登場で変わることも少なくありません。最新の情報については担当医とご相談いただきたく存じます。

    【外科治療に関する基本方針】
    可能であれば全ての方が、手術を受けられるように、例えリスク(危険性)は高くても、病状や体力が許す限り、手術を実施できるよう努力いたしております。患者ご本人とご家族が治療に対する危険を充分覚悟して下さるなら、私共もそれにお応えしていかなければならないと考えております。手術がご希望ならあきらめずにご相談ください。

    もちろん、危険を冒すには、あまりに無理があるようなケース、倫理的・論理的に問題があるケースでは、手術をお断り、あるいは他の治療をお勧めしております。

    【外科治療以外の治療との組み合わせについて】
    抗がん剤や放射線治療などとの組み合わせ治療については、従来より様々な意見があり、またその有用性については繰り返し議論が行われております。治療効果が最も高い最善の治療法をお勧めすることが原則ですが、個別のケースについては担当医とご相談ください。抗がん剤や放射線治療など手術以外の治療は、当院呼吸器内科や放射線治療科と共同で治療を進めています。

    【非浸潤腺癌の治療方針】
    非浸潤性腺癌(以前は限局型細気管支肺胞上皮癌と呼ばれていました)は、CT検査で、スリガラス陰影(GGO、Grand Glass Opacityなどと略されています)と呼ばれる所見で発見される、初期の肺がんの一つです。このタイプの肺がんにつきましては、術式や治療方針などについて、現在もまだ、専門医の間で様々な意見が出ております。現実問題として、医療現場で個々に手術内容や治療方針などについて判断せざるを得ません。非浸潤性肺腺癌につきましては、画像所見や経過、大きさや場所などを勘案して、ケースバイケースで判断しています。

    【肺がんに対する胸腔鏡手術】
    当科は胸腔鏡手術の実施率が高いことが特徴で、肺がんに対する胸腔鏡手術を積極的に推進しております。時間をかけてもできない手術は別として、時間をかければできるなら胸腔鏡手術を遂行する方針です。胸腔鏡手術の実施方針などは別のページもご覧ください。

    【術後入院期間の見込み】
    標準手術とされる肺葉切除と縦隔郭清を行った場合、胸腔鏡手術では、術後4-5日、開胸手術では6-8日です。

  • 診療方針~縦隔疾患 arrow_forward_ios

  • 以下に縦隔の疾患について、当科の方針や治療の特徴などお示しします。

    縦隔手術の特徴

    【多様な疾患を含む割に、診断技術が遅れており、診断のための手術も多い領域です】
    『縦隔(じゅうかく、【英】mediastinum)』は右肺と左肺の間の領域を指す場所の名前で、臓器の名前ではありません。縦隔には首から胸、腹を繋ぐ臓器の通り道で、心臓をはじめ多くの重要臓器が存在します。外界とのつながりがなく、いくつかの骨に囲まれて、病巣があっても容易に到達できない場所です。画像診断で、『どの場所に、どのような形状のものがあるか』は分かっても、体外から直接病巣を見たり採取したりできないため、『何ができているか、どんな病気か』という質的診断が困難な場合が多い領域です。

    縦隔に発生する疾患は、発生の母地となっている臓器(原発臓器と言います)と発生した病気の種類の組み合わせで多種多様なものがあります。珍しい病気も多く、とても一人の外科医ですべての疾患を経験できる数ではありません。

    疾患の種類が多く、各々の患者数が少ないと、統一的な治療法を科学的に確立することは難しく、治療法が確定しているのは、ごくわずかな疾患だけです。

    治療方針の決定のためには、『どの臓器に発生した、どんなタイプの病変か』を明らかにしなければなりませんが、縦隔疾患には、CTやMRI検査しか有効な検査法がないのが医療の現状で、診断確定のために病巣を摘出してみるという手術も行われています。

    代表的な縦隔の疾患

    日頃の診療で、よく見られる縦隔疾患は、自己細胞が変質・増殖して塊状の病巣となる腫瘍性疾患と、内部に液性の物質を満たして大きくなる嚢胞性疾患です。呼吸器外科ではこの他に、重症筋無力症という難病に対して、縦隔にある胸腺(免疫担当臓器と言われる)を摘出する手術が、縦隔の手術として行われることが多い疾患になります。

    【縦隔の腫瘍性疾患の場合】
    『縦隔腫瘍』という診断名は、かなり大雑把な表現で、この診断名では治療方針を定めることはできません(どのような病気があるかは、当科HPの取り扱い疾患のページをご参照ください)が、一部の縦隔腫瘍を除いて、摘出術の対象となることがほとんどです。

    腫瘍性疾患の場合、手術の第一目標は「腫瘍を完全に摘出すること」です。このとき、腫瘍の発生した組織を一部あるいは全部一緒に取ることが多いです。例えば、胸腺の腫瘍では、腫瘍だけでなく腫瘍になっていない胸腺も一部併せて取るというようなことになります。

    <良性の縦隔腫瘍>
    良性の場合は、胸腔鏡手術による切除が多く行われております。胸腔鏡手術の宿命として、腫瘍の大きさが5センチ以上あると、体外へ引き出すことが困難となります。胸腔鏡手術での摘出をご希望なら、あまり病巣が大きくならないうちに(可能なら2~3センチの大きさの段階までに)、摘出されるようお勧めします。

    <悪性の縦隔腫瘍>
    悪性の場合でも、血管や胸壁の周辺臓器の合併切除が必要ない場合は、胸腔鏡での手術が可能であることが多いです。 一部の縦隔腫瘍では、手術ではなく、抗がん剤治療が行われますので、その場合は呼吸器内科での治療となることがあります。 縦隔腫瘍は、時に巨大化して小児の頭大ほどになったり、進行して周囲の臓器を壊しながら広がったりすることがあります。こうした場合でも、縦隔腫瘍では、合併切除を含めた外科切除が有効なことがあり、あきらめずに手術を検討する価値があります。特に胸腺腫では、完全に摘出できなくても、たとえ不完全な切除であっても、腫瘍をできる限り摘出することによって、一定の治療効果を上げることができます。 悪性縦隔腫瘍の手術は、肺がん手術と違い、一定の決まった手法では、対応できません。特に進行例では、一例一例全部違う手術になると言っても過言ではありません。胸部だけでなく、縦隔に繋がる頸部や腹部の知識や手術経験、血管や骨格の切除や再建などの技術も駆使する必要があります。当科では、胸腔鏡や種々の開胸方法だけでなく、合併切除や再建法など、様々な技術・手法を駆使し、手術方法を検討し、可能な限り多くの手術に対応できるよう準備しております。

    <術後入院期間の見込み>
    縦隔腫瘍では、合併切除や追加の治療が必要なければ、胸腔鏡手術の場合、術後3-4日で退院されています。開胸手術では、合併切除を要する大きな手術である場合がほとんどですが、術後5-10日程度で退院されるケースが多いです。

    【縦隔の嚢胞性疾患の場合】
    病変の大半を水分で満たすような病変を嚢胞と言います。近年CT検診の普及で発見機会が増えています。

    縦隔の嚢胞性疾患は、経過観察でも問題ないことが多いですが、大きくて、あるいは大きくなってきて、周辺の大切な血管や神経を圧迫して、不快な症状を引き起こすケースも見られます。また、比較的小さくても、発生する場所が骨格に囲まれた狭い場所であった場合には、圧排による症状や所見を見せることがあります。稀に、病巣が画像では嚢胞のように見えたけれども、切除してみると腫瘍であったということもあり、注意が必要です。確実に診断を確定するためには、切除しかなく(皮膚の上から、針を使って嚢胞内容物を取っても、診断がつかないことが多いです)、経過観察が不安な場合は、切除する方が良いでしょう。

    もし、『どうせ、そのうち切除する』と決めているなら、外科医としては、病巣が小さいうちに切除することをお勧めします。小さい嚢胞は簡単に胸腔鏡で切除できますが、大きくなってしまうと、取る最中に破れて中身が出てしまったり、病巣が完全に取れなかったりと、結構面倒です。炎症を起こすと、周囲の臓器までキズを入れてしまう危険性も増えます。当科としては、開胸手術で嚢胞性疾患を取ることはお勧めしていません。

    <術後入院期間の見込み>
    多くの縦隔の嚢胞性病変は胸腔鏡で切除でき、術後2-3日で退院されています。

    【重症筋無力症の場合】
    眼瞼下垂(まぶたが下がってしまう症状)や夕方になると筋力が低下することが特徴となる重症筋無力症では、胸腺腫の有無にかかわらず、胸腔鏡での拡大胸腺摘出術を実施しております。

    重症筋無力症手術を胸腔鏡で行うことは、体格や特定の部位では、肺癌手術よりも難しいことがあり、なかなか胸腔鏡手術が認められなかった領域ですが、私どもは、多くの改良を加えて、開胸手術と同等の術式が可能となっております。

    重症筋無力症では胸腺腫が良く合併しています。筋無力症状ではなく、胸腺腫と言う腫瘍が進行していて、周辺臓器の合併切除が必要になっている場合は、開胸(胸骨縦切開)での手術となることが多いです。

    重症筋無力症手術は、手術前後で特殊な管理が必要で、手術の是非も、年々変わっております。全国的に見て、管理に慣れている呼吸器外科医は限られておりますが、当科スタッフは多くの症例を胸腔鏡で実施し、十分な経験を積んでおりますのでご安心ください。

    術前術後の病状のコントロールは当院脳神経内科と連携しながら実施しております。

    <術後入院期間の見込み>
    重症筋無力症の程度により大きく異なりますが、重症筋無力症が軽症であって、経過が良好である場合、胸腔鏡手術では4-5日、開胸手術でも5-7日です。重症筋無力症に対する手術の効果は、術後即座には現れませんので、術後は引き続き脳神経内科で継続治療となることがほとんどです(薬が減量になったり、内服治療が不要になることが手術の目標です)。

  • 診療方針~自然気胸 arrow_forward_ios

  • 以下に自然気胸について、当科の方針や治療の特徴などお示しします。

    気胸の要因によって治療方針が変わり呼吸器内科と治療を分担します

    自然気胸はブラ・ブレブの破綻によって起こる原発性自然気胸と他の肺疾患が進行した末路として肺が破れて起こる続発性自然気胸に分けられ、夫々で治療方針や経過などが大きく異なります。治療方法には経過を見る場合、直ちに排気の治療を行う場合、手術を前提に治療を開始する場合があり、当院では治療手段の違いによって、当科と呼吸器内科で診療を分担担当します。

    【原発性自然気胸の場合】
    気胸の状態によって治療方針が決まります。当院では、若年者の自然気胸は原則、当科が初診担当いたします。外来日以外では当科宛てに直接お電話ください。時間外や担当医不在時は、内科あるいは呼吸器内科が診療を担当し、外科的治療が必要な場合は随時当科が引き継ぎ、診療を担当いたします。

    【続発性自然気胸の場合】
    高齢者の続発性自然気胸は、原則的には非手術療法(保存的治療)をお勧めしています。その場合、基礎となる肺の疾患の治療もありますので、呼吸不全を伴う気胸の場合は、呼吸器内科での保存的治療が望ましいですが、保存的治療で改善が得られない場合は、手術になる場合があります。

    自然気胸の治療基本的方針

    気胸の治療には、外来で経過を見るだけでよいものから、排気治療(ドレナージ)が必要なもの、緊急に手術が必要なものまで多様です。特に大量の出血を伴っている場合は緊急の手術が行われます。進行する呼吸困難がある場合はドレナージを急ぐ必要があります。下のような場合は手術が選択されます。

    ・ 大量の出血を伴っている場合は、急いで手術しなければ、急速に危険な状態になります。

    ・ 排気治療(ドレナージ)では対応できない程、ひどい空気漏れがある場合は、手術が行われます。

    ・ 空気漏れが重症でなくとも、空気漏れが止まらない場合は手術になります。

    ・ 両側の同時気胸は、排気治療(ドレナージ)が一旦行われますが、気胸が改善しても、手術を勧める場合が多いです。

    ・ 再発を繰り返す場合は、気胸が改善しても、手術を勧める場合が多いです。

    気胸の手術では、一旦空気漏れが止まり、気胸が改善した後に、長期休暇など時期を見計らって手術をするなどの方法も可能です。
    当科では、一度も気胸を起こしたことのない肺に対する手術は、原則として勧めていません。
    ダイビングなどの免許取得のためや、職業上減圧高圧環境に身を置く必要があって、気胸予防手術を希望する場合は、その旨担当医にお伝えください。

    外科治療について

    【原発性自然気胸の場合】
    胸腔鏡による手術が実施可能です。
    気胸の原因となっている気腫性肺嚢胞(ブラやブレブと呼ばれています)を、健常な肺の場所で切り取る『ブラ切除』と、ブラが発生しやすい肺の頭側部分(肺尖、はいせん)に広く癒着を起こさせる治療を施して標準の手術術式としています。

    <術後入院期間の見込み>
    原発性自然気胸の胸腔鏡手術の手術時間は、概ね1(~2)時間で、麻酔時間も含め3時間程度、術後入院期間は、概ね2-3日です。

    【続発性自然気胸の場合】
    続発性自然気胸では気胸の原因となっている肺の基礎疾患や胸腔内の状況により、術式も様々で、手術にかかる時間も、1時間程度で終わる場合から数時間かかる場合まで様々です。手術に時間がかかることもありますが、ほとんどの場合、胸腔鏡手術で実施可能です。
    続発性自然気胸では、もともと肺の基礎疾患が進行していて、酸素療法が必要な場合も少なくなく、術後死亡率の高い疾患もあります。安易な手術選択は禁物です。呼吸不全があるような場合は、呼吸器内科と連携して、下にお示ししているような、手術以外の治療方法も無いか治療方針を決定します。

    <術後入院期間の見込み>
    続発性自然気胸では気胸の原因となっている肺の基礎疾患の状態により、術式だけでなく、術後の入院期間も2-3日程度の場合から数日から2~3週間もかかる場合まで様々です。

    【麻酔が困難な場合もあります】
    胸腔鏡手術を行うには、分離肺換気麻酔法(手術をしない側の肺だけで、麻酔管理する方法)ができなければいけません。呼吸状態が悪い続発性自然気胸では、この麻酔さえ困難な場合があり、麻酔ができないと手術もできません。分離肺換気麻酔が困難なケースでは、人工肺を使って手術をする方法もありますが、心臓外科医や心臓麻酔を熟知した麻酔医など、大がかりな手術になります。幸い当院には、熟練の麻酔科医や必要なスタッフが多数常勤しております。一度ご相談ください。

    外科治療以外の治療(保存的治療と言います)

    排気治療は気胸を改善させる治療ですが、原因となっている空気漏れを直接止める治療ではありません。
    間接的に空気漏れを抑えようとする治療で、以下のような治療があり、当科でも実施しています。

    【(化学的)癒着療法】
    気胸を起こした胸の中(胸腔)に物理的に障害(炎症)を惹起させ、組織の修復素材である線維素や組織液を大量に胸の中に浸出させることで、気胸の原因となっている肺の穴の修復を促進します。同時にあばらと肺のそれぞれの胸膜の間に癒着を引き起こさせ、例え将来、肺に穴が開いても、肺が虚脱(小さくなること)しないように予防する治療です。
    化学的に癒着を起こさせる物質(薬品)は、何種類かありますが、実はこれらの薬品は、我が国で気胸治療用として保険で認められた物がなく、化学的癒着療法は国内ではあまり積極的に行われておりません。

    【気管支塞栓療法】
    穴の開いた肺に通ずる空気の通り道(関与気管支)を、特殊な栓で詰めてしまう治療です。気管支鏡という内視鏡で、のどに麻酔をかけて栓(詰め物)を必要な気管支まで運びます。栓で詰った気管支に通じる肺は、空気が出入りしなくなるので、空気の漏れも止まります。漏れが止まっている間に穴がふさがるのを待ちます。栓は後日、気管支鏡を使って取り外すことができます。
    この治療は最近保険が使えるようになり、当院でも治療を開始しました。
    確実性がやや劣ることもあり、手術ができないような場合の治療法に位置づけられます。

    気胸治療は気胸を専門とする医療機関で

    気胸の診断は、レントゲン検査さえあれば決して難しいものではなく、とりあえずの初期治療(排気治療)も、多くの医療機関で一般内科や救急部で救急処置として行われています。しかし、初期診断や治療の容易さに反して、病態や、根本的な治療についてはまだ不明な点も多く、解明が進んでいない疾患です。

    残念なことに、初期段階の診断や治療が一見容易なため、不適切な外科治療や通説が、医師の間にも、あたかも真実のようにまかり通っている領域でもあり、目立ちにくいですが、知識や技術の差で、治療の巧拙がはっきり出る領域です。

    私どもは胸腔鏡手術が日本に導入されたころから、自然気胸に対する再発の少ない胸腔鏡手術の術式を提案し、今日では、私どもが行っているこの術式は、多少のバリエーションの違いはあるものの、類似の方法も含めれば、多くの気胸専門施設が標準手術として施行しています。2013年には気胸の空気漏れをCTで検出するという新しい検査法を世界に先駆けて開発・発表して参りました。多くの気胸を治療して多くの経験をしてきましたが、今でも気胸を上手く治療することは難しいと感じます。

    全国でも自然気胸の専門家といえる医師はわずかで、自然気胸に限定した専門医制度はありませんが、初期治療はともかく、少なくとも初期治療に続く根本的な治療の段階では、気胸治療の最新の技術と知識をもつ医療機関での治療をお勧めします。

    当科が開発した気胸の空気漏れをCTで検出する検査法

    2013年に米国胸部医師学会雑誌CHESTに発表したCT検査で気胸の空気漏れを描出する検査法をご紹介します。

    気胸はレントゲン1枚あれば分かる病気ですが、何処が破れているか調べるのは大変です。肺からの空気漏れをレントゲン検査で描出する方法は、長い間、1960年代に開発された胸腔造影法しかありませんでした。気胸を起こしている被験者(患者)にレントゲン透視台に寝てもらい、胸の中(胸腔)にX線造影剤を注入してレントゲン透視・撮影する方法です。発声などすると造影剤中に気泡が現れ、これを撮影します。なかなか手間のかかり、体力のない患者には実施がためらわれるような検査で、ブラ自体の所在はCTで分かるようになった今日、特別な目的がないと実施されない検査法になっていました。積極的に実施している施設もあります。

    私どもは、いくつかの条件はあるものの、CT検査で、気胸で肺から漏れた気泡を描出することに成功し、複数のブラの中でどのブラが破れているかを推定することにも成功しています。最近はシネ3D-CTで、空気が肺から漏れる様子を動画撮影することにも成功しています。

    • (Nakanishi et al., A New Method to Detect Air Leakage in a Patient With Pneumothorax Using Saline Solution and Multidetector-Row Spiral CT Scan. Chest 2013;144(3):940-946.)

    この検査方法は先の胸腔造影に比べると、検査方法が平易で、数秒/ 回と短時間で撮影できること、画像を3D 再構築できるので、任意の方向から画像を観察できること、肺内の病変と一緒にCT 画像に描出でき、病変との関連性が明確であること、アレルギーの心配のあるX 線造影剤の代わりに、生体にとって最も刺激性が少ない生理食塩水で撮影できることなど、が利点です。これまで空気漏れしている病変の場所を確定する方法は、手術しかないという実情でしたが、この検査法の精度が上がれば、手術なしに空気漏れの場所を特定できるようになり、手術せずに空気漏れを止める治療も可能になるかも知れません。

  • 診療方針~そのほかこんな時は arrow_forward_ios

  • 以下に疾患や治療方法別に、当科の方針や治療の特徴などお示しします。

    頚部の手術について

    鎖骨上窩の腫瘍や頚部気管病変、頚部と胸郭にまたがる手術なども行っています。

    当科スタッフは、日本気管食道科学会の評議員も務めており、甲状腺をはじめとする頚部の手術も、以前より多く手掛けてきました(現在当院では甲状腺手術は耳鼻いんこう科で取り扱っています)。頚部は縦隔につながる領域で、一体となる場所です。鎖骨上の病変や、頚部気管周囲の病変も当科で手術しますので、ご相談ください。頚部気管の再建手術は、当科で取り扱います。 頸部気管の手術は、従来言われているより随分安全な手技になっています。

    気管気管支のレーザー治療など

    レーザー治療や気道ステント治療については、当院呼吸器内科にご相談ください。

    気管支異物の摘出について

    気管支鏡にて摘出可能なものは当院呼吸器内科で取り扱います。外科的に摘出が必要な場合は、当科で対応いたします。ご連絡ください。

    年齢や持病(合併疾患)による手術の適応(是非)について

    当科では、高齢ということだけで、手術をお断りすることはありません。70歳前後から上の年齢層では、暦年齢より体力年齢の方が重要です。体力と言っても、「昔、若いころに鍛えた」とか、「今、どれだけ運動できるか」とか言うことではありません。あくまで現在の、健康体としての体力のことで、精神的な闘病意欲も含みます。

    もちろん(持病も含めて)体力的に手術が困難と考えれる方、治療に対する協力を得られない方などは、高齢でなくても手術を適応外とすることがあります。

    60歳を過ぎると持病があるのが普通です。持病があれば、ない場合より、手術に対する危険性は当然上がりますが、絶対に手術が不可能だと言える持病は決して多いものではありません。ひどい持病があるのに、きちんと治療をされていないなど、持病が十分治療されていない場合は論外ですが、持病があるだけでは手術を避ける理由にはなりません。

    重要な判断材料になるのは、持病がどの程度か、きちんと治療されているか、持病が手術に影響を与える可能性は高いものか、そして隠れた持病がないか、という点です。医療機関によって、管理や治療可能な持病の種類や程度が異なります。当院では総合病院として、多くの疾患(持病)の管理治療が可能となっておりますが、精神科など一部診療領域では、対応できない場合もあります。
    持病の内容は一人ひとり違いますので、担当医とよく御相談下さい。

    透析中の方の手術について

    維持透析中であれば、ほぼ通常通りの手術が可能です。手術日に合わせた透析の日程調整に必要になります。

    肺機能が悪い方の手術について

    肺機能は、肺の機能であって、呼吸の機能ではありません。肺活量の検査の数値に振り回されてはいけません。従来の(教科書に書かれている)基準は、かなり古い時代に判定され推定された閾値で、現在でも通じる絶対的なものではありません。

    肺活量の数値だけで手術の可否を決めるのは、余りよい方法ではありません。そもそも、手術後の肺の機能を正確に予測評価できる検査はありません。肺活量をはじめとする肺機能検査と呼ばれている検査の多くは、あくまで、肺の能力の一断面を見るものです。

    逆に肺活量などに問題が無くても、レントゲンなどで間質性肺炎など特殊な肺炎像などがある場合は要注意で、手術をお勧めしない場合もあります。

    胸部の既手術者に対する手術について

    心臓や大血管の手術、あるいは肺に対する2回目以降の手術も、多くの場合実施可能で、胸腔鏡手術も実施できる場合があります。初回手術に比べて、癒着剥離に伴う危険性、手術時間、出血量などは、どうしても増える傾向にあります。初回手術の傷を使って、胸を開くことは大変難しく危険性も高い操作となることが多いため、通常は別にキズをつけて手術を行うことが多いです。

    胸部(心臓や血管)の手術を同時に行う必要がありそうなとき

    心臓や大血管の手術で胸を大きく開ける手術であれば、手術の内容によっては肺の手術と同時に出来ることがあり、その場合は同時に行います。同時に行う場合、一つのキズから心臓と肺の手術ができることもあります。

    それ以外の場合は、医学的に優先すべき手術を先に行って、2回に分けて行います。一般的には、肺の手術前に心臓や血管の治療を先にしておいた方が、肺の手術をより安全にできることが多いので、肺の手術は後から行います。2回に分けた場合、2つの手術の期間は、回復の状況や必要な安静期間などにより決まります。

    腹部の手術を同時に行う必要がありそうなとき

    腹部の手術と同時に行うことはできますが、手術時間がかかること、術後の管理が複雑になること、さらに近年は、それぞれの手術からの回復が早いことなどの理由から、優先させるべき手術を先に行います。

    例えば、2つのがんの手術を行わなければならないときは、多くの場合、進行しているがんの治療を優先します。どちらも急いでいる場合は、手術の大きさを勘案して、回復がより早いと見込まれるがんの治療を優先します。

    肺結核患者に対する手術について

    肺結核も疑われているものの、事前の検査で結核菌の証明がない場合、特に肺癌と鑑別ができない場合は、外科的に切除して診断に供することもあります。

    排菌(結核菌が痰の中から検出される場合)がある場合は結核専門病院での治療になりますので、当院では対応できません。

    事前に肺結核と確定診断ついている場合は、通常は内服療法が行われ、排菌がない場合は当院呼吸器内科での治療となります。術後に肺結核と診断がついた場合も、診断確定以降は排菌がないことを確認したうえで、呼吸器内科での治療となります。

    喫煙者の手術について

    術前、少なくとも手術までの期間を禁煙できない方については、手術をお断りしています。

  • 対象疾患 arrow_forward_ios

  • 私ども呼吸器外科は、胸部一般外科として甲状腺以下の頚部から横隔膜までの胸郭・胸腔内病変を扱って参ります。 外科治療を必要としない呼吸器疾患は呼吸器内科が担当いたします。呼吸器内科と呼吸器外科では緊密に連携を取りながら診療に取り組んでおり、一人の方の治療に呼吸器内科・外科が相互にあるいは重複して担当しながら治療を行うこともあります。

    当科でも、悪性腫瘍に対して、集学的治療(多くの治療手技を集結させて病気に立ち向かおうとする治療の考え方)の一環として、抗がん剤や放射線治療なども行っています。

    手術以外の治療や検査も行っていますが、具体的には当科までお問い合わせください。

    なお、胸部の外科疾患のうち、心臓と大血管に関わる疾患については心臓血管外科が、食道疾患は外科が、乳腺の疾患は乳腺外科が、胸郭疾患の一部は整形外科や形成外科が、当院では担当となります。

    治療対象となる疾患の具体例
    肺癌・肺腫瘍 原発性肺がん、転移性肺腫瘍、良性肺腫瘍、気管(気管支)腫瘍など
    縦隔腫瘍・縦隔疾患 胸腺腫、胸腺癌、重症筋無力症、胚細胞性腫瘍、神経原生腫瘍、その他の縦隔腫瘍、縦隔洞炎、異所性甲状腺・副甲状腺腫、気管支嚢胞、胸腺嚢胞、心膜嚢胞、心タンポナーゼなど
    嚢胞性疾患 自然気胸、嚢胞性肺疾患、巨大ブラ、肺気腫など
    胸壁・胸膜疾患 胸膜中皮腫、孤在性線維性腫瘍、胸壁腫瘍、肋骨腫瘍、漏斗胸、膿胸など
    炎症性肺疾患 肺結核、非定型抗酸菌症、肺真菌症、肺吸虫症、肺膿瘍、気管支拡張症など
    先天性肺疾患、他 肺分画症と類縁疾患、気管支閉鎖症、肺動静脈瘻、頸部腫瘤、気管狭窄、手掌多汗症など

    代表的な疾患を例示しましたが、この他にも多くの疾患が外科治療の対象になることがあります。呼吸器疾患以外につきましても頚胸部の外科手術に広く治療実績を有しておりますので、どうぞご遠慮なく、何でもお尋ね下さい。

    上にあげた疾患と診断されても、必ずしも全ての例で外科治療が行われるわけではありません。外科治療になじまないと判断される場合は、内科など他の診療科・医療機関での治療をお勧めします。

    当科で実施している主な治療や検査
    1. 1

      外科治療(手術)

    2. 当科の中心となる治療法です。対象は上記記載をご参照ください。 手術によって行う組織検査法(生検術と言います)も行います。

      生検の例:
      胸膜生検、表在リンパ節生検(頸部、鎖骨上窩、腋窩)、縦隔リンパ節生検(胸腔鏡、縦隔鏡)など。気管支鏡によるリンパ節生検は呼吸器内科で取り扱っています。

    3. 2

      胸腔ドレナージ治療

    4. 気胸や胸水貯留に対する治療や検査として、胸腔(胸の中)に排気・排水のためのチューブを入れます。

    5. 3

      気管支鏡検査・治療

    6. 呼吸器内科と共同で気管支鏡検査を行っています。
      通常の気管支鏡検査はもちろん、気道異物に対する気管支鏡下除去、難治性気胸に対する気管支塞栓術、気道閉塞に対する気道ステント治療など。

    7. 4

      特殊なCT検査

    8. 最新の320列MDCTを使った最新のCT検査を行っています。
      例: 肺血管の3D再構築画像、気胸の空気漏れ検出検査法、CTガイド下腫瘍マーキング、シネ3DCT検査。
      CTガイド下経皮生検やエコー下生検は、当院では放射線科並びに呼吸器内科が取り扱っています。

    9. 5

      化学療法

    10. 当院では、胸部悪性疾患の化学療法は原則として、呼吸器内科が取り扱いますが、適時当科でも実施いたします。

    11. 6

      放射線治療

    12. 当院では、胸部悪性疾患の放射線治療は、放射線科が実施しますが、入院治療が必要な場合は当科で担当することがあります。

    当科では実施できない治療
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      肺移植

    2. 当院では移植手術はできません。

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      既に痰から結核菌が検出されている方の肺結核の手術・治療

    4. 診察時に、痰や胃液から結核菌が検出されるいる場合は、結核治療施設として指定されている病院に受診をしてください。 当院の近隣では、日本大学医学部附属板橋病院(板橋区)、国立病院機構東京病院(東京都清瀬市)、財団法人結核予防会複十字病院(東京都清瀬市)、国立病院機構東埼玉病院(埼玉県蓮田市)、済生会川口総合病院(埼玉県川口市)、さいたま市立病院(さいたま市)などがあります。

      これらの肺移植や結核の治療には法や規制があり、それぞれ指定の病院で治療をお受けください。

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      ロボット支援手術

    6. 2023年12月31日現在、当院には呼吸器外科で利用できるロボット支援手術用装置はなく、ロボット支援手術は実施しておりません。

      そのほかご不明の点があれば、当科までお問い合わせください。

  • ご紹介いただくときは arrow_forward_ios

  • ご紹介いただく際の手続きやお願いです。

    外来受診予約は

    当院の予約方法につきまして、詳細は該当のページをご参照ください。

    【通常の診察予約の場合】
    C@RNA(カルナ)というシステムをご利用になっているご施設からは
    当院には、外来予約システムとして富士通が開発したC@RNA(カルナ)というシステムがあります。 こちらのシステムをご利用できるなら、当院外来予約システムC@RNA、カルナ)をご利用ください。 院内からの予約に優先してカルナ予約枠を確保しておりますが、予約枠には限りがあります。ご容赦ください。 カルナ枠以外でも直接、当院病診連携室担当者へご連絡いただければ、カルナ枠以外でもご予約できます。

    当院外来予約システムC@RNA(カルナ)がご利用になれない場合は
    直接、当院病診連携室担当者へご連絡いただき、予約お願い申し上げます。ご希望の日時に予約ができないこともございます。ご容赦ください。

    【予約が入らない、あるいはお急ぎの場合】
    どうしても予約が間に合わないような場合、急いで診察をした方が良い場合は、当科医師へ電話でご相談ください。
    病状をお尋ねしたうえで、必要があれば、状況が許す限り、緊急対応致します。
    予約にあたっては、呼吸器「内科」と呼吸器「外科」の違いにご注意ください。

    専門外来について

    【火曜日は肺癌専門外来です】
    火曜日は非常勤医師が行う肺癌専門外来の日です。肺癌が疑われる症例や、肺癌検診での精査依頼などは、この日にご紹介いただければ幸いです。
    専門医資格を持つ呼吸器外科医が担当しておりますので、気胸や縦隔疾患など一般の呼吸器外科診療も致します。
    専門外来の名称に拘らずご利用ください。

    外来受診にあたってのお願い

    【画像データをご提供いただければとても助かります】
    特に初診の場合、診察には受診予約だけでなく、できる限り【診療情報・レントゲン写真(あるいは画像データ)】をお貸出しください。特に画像情報は呼吸器外科の診療には必要不可欠です。所見のない画像も重要です。 その他に必要な検査データがあれば、それらも併せてお貸出しください。 もし他の病院で検査など行われているのであれば、それも診察の際にお持ちください。
    手術にあたっては内服薬の確認も必要となります。処方の内容、中止の是非なども併せてお知らせいただけると有難く存じます。
    お貸出しいただいた情報は、複写提供されたものを除き、全てお返しいたしておりますので、返却されないものがあればご連絡ください。

    【1行でも事前情報があれば大変ありがたいです】
    当院の外来予約システム(C@RNA、カルナ)から予約をいただく場合でも、事前に診療情報をご提供いただければ大変有難く存じます。
    『異常陰影』でも、『定期検査』でも何でも結構です。

    【高齢者一人での受診は】
    可能な限り、ご家族とともに受診していただきますよう、ご指示お願い申し上げます。特に近年は、ご高齢の方の受診機会が増えております。ご高齢の御夫婦やおひとりだけの受診では、限られた時間内の説明で、充分な理解を得、治療方針に対する合意をいただくことは大変難しい状況です。御子息・御令嬢などいらっしゃる場合は、可能な限りご一緒に受診いただき、説明を聞いていただければ有難く存じます。
    本来は原則として、ご本人の意志さえ確認できれば、手術を実施することは可能ですが、現実には、ご家族の了解なしには手術できません。また未成年者の場合は、必ず保護者との受診をお願い申し上げます。

    このような場合は

    お急ぎの時
    当院診療連携を通し、直接当科医師へお電話ください。外来日以外でも、可能な限り、外来診療に対応しております。緊急時などは、まず電話で当科医師までご連絡ください。
    もちろん診療時間内であっても、お電話に対応できないことや、代わりに看護スタッフや事務員が対応することもございます。ご迷惑をおかけすることも多いかと存じますが、何卒ご容赦ください。

    【外科診察でよいかどうか分からない時】
    呼吸器内科か呼吸器外科か受診先が分からない場合は、その旨、診療情報提供書に御記載いただいた上で、予約ご紹介下さい。当科あるいは呼吸器内科で一度拝見した上で、適切な診療科で診察できるよう手配させていただきます。もちろん、事前に当院呼吸器内科・呼吸器外科医師へ直接お尋ねいただくのが一番確実です。
    診察させるべきかどうかわからない時や、診察させる前に手術の適否など知りたいというような場合も、直接電話などで当科医師までお尋ねくださるか、診療情報提供書にその旨ご記載ください。

    【セカンドオピニオンの際は】
    セカンドオピニオンについては、病院の規定に沿って対応させていただきます。

    【休日時間外の診察は】
    当院では休日と時間外診療は、原則として当直医が診察を担当します。診療時間外であっても、当科医師が在院中であれば、可能な限り診療しておりますので、呼吸器外科疾患であれば、当科医師へ直接ご連絡下さい。
    念のため、当科医師が不在か否かご確認いただければ助かります。在院中でも対応できない場合があること、さらに専門外の外科系当直医が初期診療にあたる場合がありますことは、何卒ご容赦ください。
    呼吸器疾患でも内科疾患と思われる場合は、当科では時間外に診療できません。内科系当直あるいは呼吸器内科にお問い合わせください。

    【がん医療連携手帳(肺がん)を持参した場合の診療について】
    手帳はがん診療における地域連携を強化しようとするものです。手帳内に貴院での診療内容など簡単にご記入下されば、大変助かります。
    連携していただける場合は、がん治療連携指導料が算定できます。詳しくは当科のがん医療連携に関するページをご覧ください。

  • がん医療連携手帳 arrow_forward_ios

  • がん医療連携手帳とは~がん診療連携のための連絡帳です

    全国どこでも「質の高いがん医療」を受けられることを目標に、全国にがん診療連携拠点病院が指定されています。指定を受けた病院は、がん診療の質の向上、及び医療機関の連携協力体制の構築に関して、中心的な役割を担うこととされ、単に、がん診療の体制や設備を揃えるだけでなく、がん診療に関する地域への情報発信や、地域の医療機関との診療連携などについて積極的な役割を果たすよう求められております。がん診療における地域医療連携の手段として、治療を施行した専門病院と、かかりつけ医療機関が協力して、専門的な医療と総合的な診療をバランスよく提供していくために、導入が進められているのが、地域医療連携手帳(がん地域連携クリティカルパス)です。

    がん治療を得意とする大きな病院(「拠点病院」)では、大きな治療(手術)や大きな検査(CT検査など)などがん治療や方針決定などの部分を担い、長期的な投薬や日常の病状管理などは普段から通院診療を担当している「かかりつけ医」が担うことで、特定施設、特に大病院での患者集中と、それに伴う過剰な業務負担を避けようとすることが一つの目的です。結果として拠点病院は高度ながん診療に専念でき、かかりつけ医は拠点病院からもたらされるがん診療情報を日常の病状・健康管理に生かすことができるようになります。

    手帳の中身は

    地域医療連携手帳には、治療内容(術式)や詳しい診断名、進行度などが記載されているだけでなく、地域連携診療計画書として5年間(肺がんの場合)の定期検査の予定表が示されています。

    この予定表に基づいて診察や検査を指定された病医院で行うことになります。この予定表には、5年間(肺がんの場合)に、どの検査を、どの施設で、いつ頃受けるかが一覧となっていて、拠点病院とかかりつけ医の役割分担が明確に示されています。検査や診察の結果は、簡易なチェックリストやメモとして記録されていく仕組みで、長期にわたる診療経過が非常に見やすいよう工夫されています。転居などで、かかりつけ医や拠点病院そのものが変わっても、主治医や担当医が転勤などで変わっても、手帳をもとに、切れ目なく、継続的な診療が実施できることが大きな利点で、手帳自体は患者が所有していますので、いつでも自分の診療記録を見直すことができ、医師同士のやり取りや評価を確認できるようになります。

    もちろん、この手帳を持参しても、かかりつけ医でCTなどの検査を行うことや、手帳に記載されていない検査・医療行為を、禁止したり、規制・制限するものするものではありません。少なくとも肺がんについて言えば、検査の間隔や内容はあくまでも一つの基準や目安を示すもので、複数の専門医の経験に基づくコンセンサスとして作られたものです。厳格な医学的根拠を持って、検査の内容や間隔などを決めたものではありません。「術後1年」や「3年3か月」などの期日も、多少の幅をもって運用していただいて問題ありません。

    万一、再発などが見つかり、肺がんに対して、追加の検査・治療が行われる場合は、この手帳の役目は終了です。

    がん診療で手帳があるのは、今のところ「主要ながん」についてだけです

    埼玉県では埼玉県がん診療連携協議会などが中心になって作成した【埼玉県がん医療連携手帳】が、東京都では東京都福祉保健局などが中心になって作成した【東京都医療連携手帳】 があり、行政単位によって若干異なるものの、ほぼ同じ内容の手帳になっています。
    地域医療連携パスは、がん診療以外でも製作されている例もあるようですが、がん診療については肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がんのなどの主要ながんについてだけ作成されているだけです。(順次拡大されています)

    「肺がん」で、手帳があるのは条件に合う一部の方だけです

    埼玉県が作成した肺がん診療連携手帳は、肺がんの中でも、手術単独治療が最も有効であると認められ、クリティカルパスの導入が容易である肺癌進行度IA期の肺癌手術後の方を対象にしたものです。
    これ以外の肺がん診療に関するものは、現在のところ、企画や製作の予定もてありません。この条件以外の肺がんでは、手術後にどのような治療をすべきか画一的に決められにくいことが、主な障害となっています。他の条件でも医療機関が独自に手帳を作成している場合もありますが、当院では、上記の条件以外の方には現時点では手帳をお渡ししていません。
    手術後に抗癌剤治療や放射線治療が必要な方、追加の治療を行わないほうが望ましい方、など大きな治療方針だけでなく、検査の間隔や内容などは、その時の病状や体力などによりケースバイケースで随時変更されます。手帳がない場合は、病状に合わせて診療を進めていくこととなります。

    当院の肺がんの手帳は

    (行政)地域や施設(拠点病院)によっては、これ以外の肺がんの方に対しても、がん診療連携手帳が導入されている場合もありますが、現在のところ、当科で手帳がお渡しできるのは、『肺がんの手術を受けられ、病理診断の結果、腫瘍サイズが2㎝以下で、病期ⅠA期と診断されて術後に抗がん剤治療を行う必要はない』とされた方に対してだけです。この手帳をお持ちの方は、再発が見つからない限り、原則として定期的な(再発のチェックのための)検査と診察のみで良く、定期通院の期間は5年間になります。(5年を過ぎても、再発の危険は少ないながらもありますのでご注意ください)

    手術後6ヵ月以降は、かかりつけ医で定期的な診察を受けていただき、体調の変化や再発の有無をチェック、手帳に結果を記録していただきます。CT検査などは年1回、手術を受けた病院(当院)で行うことになっていて、その検査結果などは手帳に記載されます。特段の異常や再発などが見つからない限り、次の(手術した当院での)検査・診察までは、かかりつけ医で診療を続けていただき、当科へ受診されるときは、かかりつけ医から診療情報提供書をご持参頂くことになります。

    かかりつけの先生方へお願い

    当科では、該当する手術を受けた方の了解のもと、この手帳を積極的に利用させていただくこととしております。かかりつけ医にあたる地域の先生方には【がん医療連携手帳(肺がん)】を御活用いただき、がん診療へご協力ご支援を賜れば幸いです。

    【手続きが変わりました】
    平成22年診療報酬改定により、この手帳に基づいて診療を行った場合、診療所等(連携医療機関、かかりつけ医)では「がん治療連携指導料」が算定できるようになりましたが、診療報酬の算定に当たっては、計画策定病院(当院)だけでなく、かかりつけ医である連携医療機関(貴院)も、あらかじめ関東信越厚生局に施設基準の届出を行う必要がありました平成24年度の改正で、計画策定病院が一括届出できるようになり、かかりつけ医の手続きが簡素化されております。多くのがん種でこの算定が可能ですので、まだ届け出が行われていない場合は、是非この機会にお届けください。

    「がん治療連携指導料」については診療報酬点数 第2章 第1部 医学管理等 がん治療連携指導料の項を御参照ください。届け出の手続きなどご不明の点につきましては、当院医事課医療連携室までお尋ねください。

    【特別な診療は必要ありません】
    手帳を持参しても、かかりつけ医療機関では、肺がんに関わる診療は基本的に必要ありません。肺がん手術の前に、かかりつけ医療機関で行われてきた診療をご継続ください。かかりつけ医として診察の結果、何も問題なければ、手帳の該当欄に、『著変なし』『元気』でもご記入いただければ幸いです。抗がん剤の治療も当然不要です。

    最低でも1年に一度は当院への受診をご指示ください。普段の診療の中で、何か問題があったり、経過についてご心配や不安を感じるようなことがあれば、手帳の診療予定にかまわず、いつでも当科受診をお願いいたします。

  • 診察の予約・変更

    1. 初診   8:30〜12:30
      再診 13:30〜16:30
    2. 電話で初診予約・予約変更ができます。

      048-462-1201

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