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呼吸器外科

呼吸器外科診療 Q&A

はじめに

肺がんや自然気胸などの病気のことを調べようとすれば、今はいくらでもネットから情報が得られます。しかし、多くの情報は、肺がんとはこのような病気ですとか、統計ではこうなっていますとか、まるで医学部の講義の内容のようなものです。手術のことや手術の後はどうなるのか、どんな経過が正常なのか異常なのか、患者となって、あるいは患者の家族として、知りたいこと、知っておくべきことについては、(特に医師・医療機関側から)提供されている情報は少ないようです。

ここでは呼吸器外科の診療や手術に関して、日頃の診療でよく尋ねられる質問とその回答を無秩序に思いつくまま記述しました。思いつくままと言っても、我々の診療業務で必ずと言っていいほどお尋ねを受けるものばかりです。

ズバリ、典型的なケースのお話です

説明責任という言葉が強く叫ばれ、説明義務という責務で訴追を受ける時代なので、いまどき「オレに任せておけ」というような説明をする医師はほとんどいないはずです。私どもも、実際の業務ではとにかく時間をかけ、子細なことまでお話しするよう心がけております。

しかし、説明不足にならないように、あるいは「それは聞いていなかった」と言われないように、「こんな可能性もある」「あんな可能性もある」といった説明しようとすると、科学的には間違いはなくとも、結局何が重要だったのか、話の本筋や本当に伝えたいことを伝えきれないことも多く、本意とは逆に、何か責任逃れの印象を与え、相手を困惑させてしまっていることも少なくありません。あり得る可能性をあるだけ並べて説明されては、分かりにくいだけ、どれが重要で、実際どうなんだ、なんでもいいから典型的な経過はこうだと、はっきり教えて欲しいとお叱りを受けることもあります。

長年実務に携わる私どもは、経験的に、「説明はするが本当はこうだろうな」とか、「普通はこうなるだろうな」とか、直感的に心の中には思い浮かびますが、個人の見解であり、なかなか口には出せません。当科ホームページも広く呼吸器外科の診療実態を提供したいという思いで原稿を作成してきましたが、間違いがないようにと書けば書くほど、わかりにくくなってしまい、実像を見えにくくしてしまいます。そこで誤解を恐れず、当科ではこれがもっとも典型的な例だと、ある程度割り切って、現代の呼吸器外科臨床の最前線の状況を、Q&Aの形を借りて解説することにしました。

肺がんのステージはこうなっているとか、遺伝子がどうなっているとか、海外の最新論文の引用とか、一切ありません。そのような情報が必要なら、他の医療機関のホームページをご覧ください。病室や診察室で、患者―医師の間で雑談として交わされる会話のような内容を心掛けました。

できる限り医学用語を使わない説明にするため、あえて科学的にあいまいな表現を採用しているところもあります。データの一部は当科での実績に基づくもので、記述の多くは著者の個人的な見解や印象、感想に基づくものであることもご了解ください。本稿の内容が、必ずしも全ての医療機関に当てはまるものでもありません。

おことわり

本稿の記述は、典型的経過をたどった場合を想定しており、時に非定型的な経過をたどることがあります。本稿の記述は、あくまでも参考程度としてご利用ください。
本稿の記述に関わる事項で発生した問題等に関しましては、当方では責任は負いかねますのでご了承ください。
本稿の記述・内容に関して、メールや電話などでのご質問、お問い合わせやご意見などについては、お受け出来かねますのでご了承ください。
肺癌に関しましては、特に断りがない時は原発性非小細胞肺癌に関する記述です。
一部のページでは読みやすさを考慮して『癌』の字を、ひらがなやカタカナで表記しています。
内容は、原稿執筆時(平成27年初旬)のデータを基に記載されております。

  • 呼吸器外科診療Q&A~肺切除篇 arrow_forward_ios

  • ここでは呼吸器外科の診療や手術に関してよく尋ねられる質問とその回答を記述しておきました。

    1. Q

      年を取って高齢です。手術は無理でしょうか?

      A

      高齢という理由だけでは手術が不可能とは言えません。
      重要なのは年齢よりも持病のあるなし、あるいは持病の重症度や安定度で、手術できるかどうかを決める大きな要素になります。すでに肺がんの手術を受ける方の年齢層をみると、70歳代が最も多く、80歳代の方でも手術は普通に行われています。ただ60歳も越えてくると暦年齢と体力年齢が大きく食い違う方も多く、お元気そうでも持病の一つ二つあるのが普通です。
      医療技術の進歩で、持病(私たちは合併疾患と言います)を抱えていても大概は手術できるようになってきましたが、手術に伴う危険性が (他の人、持病のない人に比べれば)高くなることは、間違いありません。本当に大切なのは暦年令ではなく体力年齢です。高齢だからと言って簡単に手術を諦めず、まずは、手術を担当する外科医に直接診察を仰ぎ、よくご相談されるとよいと思います。

    2. Q

      肺を取ったあとの空間はどうなるのですか?

      A

      残った肺や胸水で埋め合わせされるか、空洞が残ります。
      肺を取り囲んでいるアバラ(胸壁)や心臓などは硬くて動かないため、肺を取った後は空洞になります。この空洞は、主に残った肺が過膨張することによって埋められます。肺が残っていない場合や、残された肺が空洞を埋めるほど過膨脹しきれない場合などでは、胸水と言われる体液によって埋められ(胸水貯留と言います)、空洞は完全になくなるか、少しだけ残るのが普通です。残った空洞内にある気体は体内の中へ吸収され大気に比べて気体の薄い状態(陰圧)になっています。
      肺が十分過膨脹しなかった時には、肺を取った側の横隔膜(胸とおなかの境界に左右に1つずつある薄い筋肉)が、空洞を埋めるように肺側に持ち上がります(横隔膜挙上と言います)。術後の経過として横隔膜が上がっても、肺の機能には障害はありません。

    3. Q

      肺を取った後に空洞が残ると肺の機能に影響は出ないのでしょうか?

      A

      難しい問題ですが、多くの場合、ほとんど影響がないと考えてよいでしょう。
      片側の肺を全部とる(肺全摘術と言います)と、大きな空洞ができる一方で埋め合わせをする肺が残っていないため、空洞内が強い陰圧になり心臓が吸い寄せられたり(縦隔偏位と言います)、反対側の肺まで吸い寄せられて空洞側に移動してしまうなどの状態になることがあります。換気力学的な見地だけでなく、心臓の偏位があることは循環器への悪い影響も考えられるため、望ましくない状態で、今日では肺全摘術は可能な限り回避する傾向があります。
      肺全摘術後ほど極端でなくても、残った肺が十分過膨脹しないケース(慢性的な病気で肺が硬くなっている)では、空洞が残りやすくなります。このようなケースでは、呼吸という仕事の大半の役割を担っている横隔膜の動きが、ダイレクトに肺に伝わらず、換気の仕事効率を下げている可能性はあります。
      肺を取って空洞ができると、残った肺は大きさだけでなく、空気の通り道である気管支や肺の動静脈などが折れ曲がったりすることがあり、流体力学的に影響が出ることもあります。

    4. Q

      肺を取ったら胸の形が変わりませんか?

      A

      標準的な手術であれば、胸の形が変わることはありません。
      肺を取っても肺を取り囲んでいるアバラがしっかり硬いために、胸の外観までは変わることがないからです。ただ片側の肺を全部とるような手術では、摘出側のアバラの隙間が少しずつ狭くなって、胸郭がやや縮むようなことがありますが、見た目でわかるような変化ではありません。

    5. Q

      あばら骨(肋骨)を取るのですか?

      A

      あばら骨を切り、取り除くことはありますが、一般的な手術では最近は取らないことが増えています。
      胸は12本のあばら骨(肋骨;ろっこつと言います)で囲まれて、そのあいだに筋肉(肋間筋;ろっかんきんと言います)があって、胸を開くためには、このどちらかを切り開く必要(肋間開胸法と肋骨床開胸法)があります。あばら骨の間は指の幅ほどしかなく、この隙間から、手首近くまで手を入れて、直接臓器を握れるようにするためには、あばら骨をどこか切断して、隙間を広げないと無理です。骨のどの部分を切断してもよいのですが、通常、背中寄りのところで切断します。切断部は、術後切断部の骨が融合して治るように、胸を閉じるときにさまざまな方法で寄せておきます。骨が融合するには通常3カ月程度かかります。
      あばら骨の切断だけでは十分な隙間が取れないような時はあばら骨を取り去ることもあります。こちらの方法の方がより広く胸を開くことができ、術後の痛みも少ないとも言われています。

    6. Q

      あばら骨(肋骨)を取ったあとは?

      A

      取り除いたあばら骨を戻すことは通常行いません。
      あばら骨はアバラの一部(アバラの1本や2本くらいなら)を切り取っても、残りのあばら骨が残っていれば、胸の形が変わったり呼吸がしにくくなることはありません。
      胸を開くためでなく、病巣があばら自体に及んでいるために、あばらを切り取るような手術では、切り取るアバラの場所や量、その周りの臓器をどの程度とるかなどによって胸の形がやや変わったり、呼吸に影響が出ることはありますので、手術を受ける前に外科医からよく説明をお聞きください。

    7. Q

      肺を取ると酸素吸入が必要になりますか?

      A

      当科では、多くの場合、手術翌日から酸素の投与は行っていません。
      もちろん、肺を切り取る量や、手術前の肺の機能あるいは術後の経過によって必要な場合がありますが、ほとんどの場合、術後の酸素吸入は不要です。通常は、肺を取っても酸素が必要とならない人に手術が勧められています。
      肺の障害がない方では、手術が終わり、麻酔から完全に覚めれば、通常酸素投与は不要となりますが、手術当日の夜は、麻酔からの覚醒が十分でない場合もあり、当科では、安全のため酸素投与を行っています。

    8. Q

      肺を取って肺の量が減るのに、なぜ酸素吸入が必要ではないのですか?

      A

      普通、肺にはかなり余力の部分があって、その部分が減るからだと考えるといいかもしれません。
      難しい話は省略しますが、例えば肺を切り取り、肺の容量(肺活量として測定されます)が1/4減ったとしても、酸素を取り込み二酸化炭素を吐き出すという肺の呼吸機能が、そのまま1/4減るということではありません。確かに 肺を切り取ると、切り取った分だけ確実に肺の容量は減ります。ただ肺の容量は通常の生活には使いきれないほど余分にあり、通常の呼吸では、肺のすべてを十分使いきっているのではないのです。例えれば、肺の多くは予備タンクのようなもので、激しく運動をした時などの非常時に備えて、余裕をもって存在しているとイメージするといいかも知れません。
      肺を切り取ると予備タンク分から肺の容量が減っていきますから、十分な予備がある人=肺に障害がない人では、手術前と変わらない運動ができると予想できます。逆に、もともと肺に余力が少ない=肺に障害がある人では、通常生活でも酸素が必要になるかもしれないと予想されます。

    9. Q

      肺の手術も小さな傷で簡単にできるようになったのですか?

      A

      簡単ではありませんが、肺の手術も他の外科領域と同じように、多くの手術で傷は小さくなってきました。
      内視鏡(胸腔鏡)手術だけでなく、従来型の開胸手術でも傷の長さは徐々に短くなってきています。ただ傷が小さいことが良い手術であるとは限りません。そもそも小さい傷では、あばら骨の間から大きな病巣は取り出せませんし、安全性が十分担保できない手術もあります。小さい傷で手術をすると、手術自体は煩雑で時間がかかります。簡単ではありませんが、呼吸器外科領域で行われる手術の8-9割の手術が内視鏡(胸腔鏡)手術で実施可能な時代になってきました。様々な意見はありますが、当科では、内視鏡(胸腔鏡)手術の方が、開胸手術よりも回復は早く、入院期間は短いです。胸腔鏡手術については下記に詳しく説明しました。

    10. Q

      たばこを止めないとダメですか?

      A

      ほとんどの病院では、禁煙できない人には、肺の手術を行いません。
      手術後の合併症の比率は喫煙によって高くなります。特に致命的となる肺炎や血栓症と呼ばれる合併症は、喫煙者に多く発生しています。1本でも2本でも本数にかかわらず、手術直前まで喫煙していると、肺炎一歩手前のような状態になる人がほとんどで、術後の経過は決して芳しいものにはなりません。当科では術前禁煙が守れない方には手術をお断りしております。たばこが原因で肺がんになったかどうかの問題ではありません。たばこを吸えば、術後苦しむのは手術を受けるあなた自身です。

    11. Q

      熱が出ると手術は延期ですか?

      A

      通常は安全性を考慮して、延期になることが多いです。(状況によっては延期せず手術が行われることがあります)
      発熱時に手術を行った場合、術後の合併症の発生率が高まると言われており、待機できる手術の場合は、一旦延期して、発熱の原因を明らかにして、その治療を優先することが多いです。ただ、発熱の原因が、例えば手術の対象となっている肺がんなどの病巣であるような場合は、むしろ手術を行うことが、発熱の原因を除去することになりますので、手術は延期せず、実施することが普通です。
      もし、もうすでに手術が予定されているなら、風邪などひいたりしないよう日常生活に注意して下さい。

    12. Q

      肺炎があると手術できないのですか?

      A

      肺炎があるときに手術を行うことは、大変危険です。
      もし健康な肺を取って、肺炎を起こした肺が残ったのでは、呼吸するための肺がなくなってしまいます。また、肺炎の原因になっている病原体は、健康と思われる肺にも多かれ少なかれ影響を及ぼしています。ただでさえ、肺手術の後は、肺炎を起こしやすくなっています。可能であれば、肺炎が改善したのちに、手術を実施すべきと思われます。ただ、肺炎の原因が、病巣を手術して取ることで改善するという見込みがある場合などでは、延期せずにそのまま手術が行われることがあります。個々の病状で変わりますので、担当医によくご相談ください。

    13. Q

      肺の機能が低いと手術は無理ですか?

      A

      肺の機能が低いと手術自体ができない場合がありますが、低さの下限は医療機関や手術を担当する医師によって違います。
      肺の手術では通常、全身麻酔のうちでも吸入麻酔で行われ、麻酔中の酸素の取り込みは、患者自身の肺を通して行われます。さらに、麻酔中は手術する反対側の肺だけで酸素を取り込む麻酔(分離肺換気麻酔と言います)が一般的です。つまり、両肺で呼吸をしている今よりも、肺の機能が下がった状態で、麻酔(手術)を受けないといけません。肺の機能が悪くて、片側(手術しない側)の肺だけで、分離肺換気麻酔がかけていられないほどならば、更に特殊な麻酔法を使うか、手術の内容を変えるか、手術はお断りするか、しかありません。
      麻酔技術が進歩して、かなり肺の機能が悪い状態でも、なんとか麻酔をかけられるようにはなっていますが、本当に大丈夫かどうか、事前に(確実に)知る方法はありません。単純な肺機能検査の数値以上に、痰が多いかどうかとか、特殊な肺の病気(間質性肺炎)がないかどうか等の点も考慮する必要があります。
      肺の機能が悪いと、術後の合併症の比率は高くなり、回復が遅れることが多くなります。どの程度の肺の機能(悪さ)まで、手術や麻酔が可能かは難しい問題で、これまでも、様々な研究でさまざまな基準が提示されてきましたが、確実なものはありません。医療機関によって個別に判断しているのが現状です。

    14. Q

      手術の時は尿はどうなるのですか?

      A

      麻酔がかかった後に尿道から膀胱に入れるチューブで、自動的に排泄されます。
      時間あたりに出る尿の量は、麻酔の管理上、大変重要な指標になります。手術中と麻酔が覚めてトイレに行けるようになるまでの間、膀胱にチューブを入れて尿を排泄します。膀胱に溜まった尿は、チューブを通じて接続された密封バッグに常時排泄されるため、尿意はあっても、膀胱内は空っぽの状態が保たれます。麻酔から覚めて、尿意を感じても安心して下さい。肺の手術の後は、ほとんどの場合、手術の翌朝にはこのチューブは取り除かれます。チューブが取り除かれたらご自身で用を足せます。

    15. Q

      手術予定日が月経(生理の日)にあたりそうですが、大丈夫ですか?

      A

      手術には影響ありません。
      ご心配でしょうが、問題ありません。早めに看護スタッフにご相談になるといいでしょう。

    16. Q

      肺の手術では毛を剃るのですか?

      A

      手術の際に邪魔になったり、手術中に紛れて、傷の中に入らないようにするため、毛を剃る場合がありますが、最近は剃らない傾向です。
      以前は、手術前日までに毛を剃ったりしていましたが、最近は、まったく行わないか、剃っても手術の執刀直前に行うようになっています。毛を剃ること自体は、手術操作に対して物理的障害を避けること以外には意義がないと考えられるようになっています。毛をカミソリで剃る際に、皮膚に(目に見えないような)小さな傷をつけることが、むしろ手術中のバイ菌の繁殖を促すとの意見が支持されています。

    17. Q

      肺の手術前でも浣腸するのですか?

      A

      肺の手術では必ずしも必要がありませんが、全身麻酔の前に、浣腸をして腸の中を空にしておくことがあります。
      全身麻酔の間、尿は膀胱にチューブを入れて自動的に排出されるようにするのですが、便の方は肛門の力任せで、コントロールできません。全身麻酔がかかると、全身の筋肉の力が抜け、高齢者では便を失禁してしまうことがあります。便の失禁があっても、手術に影響はありませんが、決して快いものとは言えないでしょう。不要論もありますが、当科では術前に浣腸をお勧めしています。

    18. Q

      肺の手術前日には特別な薬を飲みますか?

      A

      手術前夜に特別な薬を飲むことは少なくなりました。
      以前は、手術前夜に睡眠剤や、胃潰瘍の薬を飲んだりすることが普通でしたが、近年は手術の前の夜だけに飲む、という薬(前投薬と言います)はなくなりつつあります。普段飲んでいる薬については、薬の内容や目的によって手術当日に飲むものと飲まない物があり、間違いの無いよう、担当医や看護師、薬剤師などに確認してください。

    19. Q

      手術をすると体の中に糸や金属が残るのですか?

      A

      残りますが、残っても大丈夫です。
      血管や組織を縛る糸は、後から取り除くわけにはいきません。手術という技術が始まった昔から、組織を縛った糸の多くは体内に残し、体表に出ている糸だけは取り除いて(抜糸;ばっしと言います)きました。手術材料が改善改良されて、組織を縛る糸には、体への刺激が少ないものが使われています。体内で分解吸収される糸(吸収糸;きゅうしゅうしといいます)もあり、最近は吸収糸が多用される傾向にあります。
      金属も数十年前にはステンレスが使われていたこともありますが、今はチタン製の小さい金属が、肺の手術ではよく使われます。1個1個は小さく、普通のレントゲン写真では個々の金属は見つけられません(たくさん並んでいたり、CTを使えばわかることが多いです)。チタン製の金属パーツも30年以上の使用実績があり、安心して使える状態です。
      こうした材料とは別に、敢えて異物反応を利用して、組織欠損部の補充や強化に使ったりするものもあれば、人工血管のように他に代替品の無い物、ステントと呼ばれる金属コイルのようなものまで、体内に残して成立する材料もたくさんあります。
      こうした金属パーツや糸が使えないとなると、現代の外科手術は成り立たないと言っても過言ではありません。何センチもあるようなものでない限り、体内に異物が残ることに、過剰なご心配は不要です。

    20. Q

      手術のあと、胸に管が付くのですか?

      A

      肺を切除した後は、通常胸の中に1センチ前後の太さの管が、胸に入れられた状態で病室に戻ってきます。
      これは術後に胸の中で肺の外(胸腔;きょうくうという所です)に溜まる余剰の気体や液体を体外に排出させるための装置で、役目を果たすまでの一定期間、胸の中に留置しておきます。
      肺の切除の後は、血液や体液などの液体に加えて、空気が胸の中に溜まります。手術後に出る血液や体液(合わせて胸水と言います)は、正常の胸の中にも産出されているものですが、手術の影響で一時的に増加します。量は手術内容などによって大きく変わります。このような液体が大量に貯留すると、呼吸に障害が出るので、これを排除するために排水管が必要になります。肺切除の場合はこれに加えて、空気が残された肺から漏れてくることがあり、胸の中に空気が貯まっても、呼吸障害となるため、排水の管で排気も行います。ドレーン(【英】drain)と言います。

    21. Q

      手術の時に入れた排水排気管(ドレーン)は、いつ取れるのですか?

      A

      排水量が正常に近づき、排気がないと判断されたら、取り外されます。具体的な日数は一人一人違います。
      胸水は正常でもある一定量産生されますので、その量に近づくことが、一つの条件です。空気漏れは、正常ではない現象ですから、空気漏れが完全に停止することを確認できることが、もう一つの条件です。概ねこの二つの条件を満たすと抜去のタイミングです。
      当科では、肺がんの一般的な標準手術では術後2-3日目、原発性自然気胸では術後1-2日目あたりが一番多くなっています。何週間も留置が続くことは、感染などの合併症の危険がありますが、留置が数日程度伸びることは珍しくありません。手術の内容で留置期間が変わることはもちろんですが、一人一人の肺の状態によって、同じ手術のあとでも留置期間は大きく違うことがあります。

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  • ここでは呼吸器外科の診療や手術に関してよく尋ねられる質問とその回答を記述しておきました。

    1. Q

      手術翌日から歩けるのですか?

      A

      手術の内容にもよりますが、歩けます。
      早い時期に自力で歩行を再開することは、回復を早める効果があります。手術の後は安静第一と言う考え方は、すでに過去のものです。半日くらいは、歩くとまだフラフラすることがあり看護師の付き添いで歩くようお願いしています。何回か歩行してみると、フラフラ感もなくなり、一人で歩けるようになることがほとんどです。手術前と同じように歩けるまでは2~3日かかるでしょう。

    2. Q

      いつから食事ができるようになりますか?

      A

      普通は、手術の翌日からです。
      どれくらい食べられるかや、食欲の有無については、個人差も大きいですが、当科では、手術翌日の朝食から食べて頂いております。手術翌朝の食事から全量食べられる人もおられますが、平均すると半量程度を召し上がる方が多いです。朝食は摂れなくても、ほとんどの方は、手術翌日の昼食あるいは夕食からは、全量摂取されています。食欲がなくても、飲水はほとんどの方ができますので、水分補給の点滴も通常翌日には終了します。

    3. Q

      点滴は要らないのですか?

      A

      普通、水分補給の点滴は手術の翌日には不要になります。
      呼吸器外科の手術では点滴=水分補給で、点滴で栄養補給を行うことも、特殊な薬を投与することもありません。意識が明瞭で、自分で口から飲水できる状態であれば、食事や飲み物から栄養や水分を取ることが最も効率よいのです。化膿止め(抗菌剤とか抗生剤とか言います)の薬を、術後点滴で行うことはあります。

    4. Q

      術後に何か飲むべき薬はないのですか?

      A

      通常の手術では、不要です。
      手術前に飲んでいた薬を、術後も服用します。服用の開始時期は看護師や病棟の薬剤師にお尋ねください。呼吸器外科の手術では術後の化膿止め(抗菌剤や抗生剤と言います)や、必要時のみ使う痛み止めを除いては、新たに薬を投与することは(原則的に)ありません。

    5. Q

      いつから働けるようになりますか?

      A

      手術の内容ももちろん関係しますが、就業する業務内容によって様々です。一律には判断できませんので、担当医だけでなく事業所の産業医などともご相談ください。
      PCなどを使ったデスクワークなら退院前からもできる人がほとんどですが、鎮痛剤などの服用中は、眠気などの副作用があるため、クルマの運転や機械の操作を伴うような業務などに就業することは危険です。鎮痛剤などが必要なくなるまでの期間は自宅療養した方が良いと思います。本当に病状が安定するのは3か月程度ですが、就業自体はその前に可能な場合がほとんどです。
      手術の後、間をあけずに次の治療が始まる場合もあります。退院や就業までの期間は以前に比べ短くなっていますが、余裕をもって休みを取っておくことをお勧めしています。

    6. Q

      退院するとすぐ働いてしまいそうです。しばらく入院していた方が良くないでしょうか?

      A

      そのために入院する必要はありません。自宅で療養してください。
      退院直後は、まだ遠方への買い物は辛いかもしれませんが、自立生活可能な状態となったら退院となります。自宅に戻れば、すぐに出忙しそうに動き回るのではとご心配のご家族も多いようですが、防衛本能が働いて動いて息が切れるようなときは、自然と休みます。体の機能の中でも、呼吸は無理がきかず、休めば楽になることが自覚できる有難い場所です。呼吸ができなくなるまで、無理をする人はいませんので、過度なご心配は無用です。
      本人が動けるように思っても、実際には、手術前と同じようには動けるようになるには、まだ何か月かかかります。職場としても、術後の従業員を働かせて、倒れてしまっても困ります。自宅で療養するようにし、ご心配なら外来で、担当医とご相談ください。

    7. Q

      退院したあと自宅では元気なので、旅行に連れていきたいのですが?

      A

      術後に遠方へ旅行するのは控えた方が安心です。
      自宅で大丈夫そうだからと、遠方への旅行などは禁物です。自宅で元気に見えるのは、運動量が少ないからです。運動負荷がかかれば、すぐ息切れします。自宅内だけでなく、近隣や屋外での活動量を見て、遠方への旅行の是非を判断して下さい。判断の基準は、術後の経過日数ではなく、活動後の息切れの有無を重視して下さい。その上で、目安としてお示しすると、多くの肺切除術では、術後1か月くらい期間は、長時間の移動を控えた方が安心です。

    8. Q

      手術した側の胸に水が貯まっていると言われました。異常ではありませんか?

      A

      手術で空洞になったところには、水がたまるのが普通ですが、貯まっている量によっては通常の経過と言えない場合もあります。
      手術をした担当医に確認してみてください。多くは緊急の手当てを必要としないものですが、息切れの症状が進行しているようなら、手術を受けた医療機関を受診してください。

    9. Q

      傷口を濡らしてもいいのですか?お風呂に入ってもいいですか?

      A

      傷口が(縫合され)閉じていて、特に異常がなければ、濡れても、お風呂に入っても大丈夫です。
      慢性期の疼痛には、入浴(お湯に浸かる)して温まると良いという意見もありますが、私たちの施設では、抜糸が終わるくらいまでは、シャワー浴にとどめておくことをお勧めしています。風呂場は事故も多いところで、入浴行為は想像より体力を使います。術直後はまだ急性期であり、傷口の炎症反応が完全に終了した状態ではありません。お風呂に浸かる利点はあまりないでしょう。

    10. Q

      お風呂に入る時、傷口にカバーをした方が良いですか?

      A

      必要ありません。カバーせず、流水やお湯を傷口にかけて大丈夫です。
      昔は、傷口をビニールなどでカバーしてから、シャワーを浴びたりするよう指導されていましたが、今日では、傷口はむしろ、きれいに水道水(お湯でも可)で洗った方が良いと言われています。傷口を隠してお湯を浴びる必要はありません。シャワー浴で、傷口周辺も含めよく流水(お湯)で洗い、皮膚を清潔に保ちましょう。せっけん類が傷口にかかっても問題ありません。流水(湯)で落とし、乾いたら洗濯した下着を、傷の上に直接着用してください。
      手術の後であれば、入浴を急ぐ必要もないはずですが、特に湯船につかりたいのであれば、きれいなお湯に入ること、入った後シャワーなどで傷口をお湯(水)で流すことを個人的にはお勧めします。まだ抜糸が終わっていない状態で、公共のお風呂に入ることは避けてください。

    11. Q

      水道の水を傷口にかけて大丈夫ですか?

      A

      大丈夫です。
      水道水は塩素で消毒されており、想像以上にきれいなものです。流水をキズにかけて、キズの中に菌が入ることはほとんどないと考えてよいです。外科医が手術前に手洗いに使う水も、今は滅菌水ではなく、普通の水道水です。
      皮膚の中(汗や油が出るところ)には大量の菌(皮膚常在菌といいます)が付着しています。傷口の化膿はほとんどの場合、この皮膚の菌が、傷口に入ることで発生します。傷口が体内に交通していない限り、傷口を水道水(お湯)で洗うことは、傷口周囲を清潔に保つためにも有効と考えられています。

    12. Q

      お風呂に入る時は、傷口をどう洗えば良いですか?

      A

      お湯や水で流すようにしておけば十分です。
      傷口をゴシゴシ洗うことはありません。痛みがあるのでふつうはゴシゴシできないと思いますし、そこまで皮膚の清潔不潔に神経質になる必要もありません。傷口周囲をひどく擦ることは、傷口の回復にはよくありません。
      血が出ていたり、膿が出ていたりしていても、実際にはシャワー浴などできますが、その前に担当医で一度診察を受けて指示を受けた方がいいでしょう。

    13. Q

      傷口ではなく胸の前の方が痛みますが?

      A

      肋間にキズを入れる手術では傷口より前の方が痛みます。
      胸の痛みを感じる神経(肋間神経)の走行に関係があると言われています。肋間神経は、背骨の脊髄から出て、あばらの骨(肋骨)に沿って前下方へ進みます。この経路のどこかで神経が刺激を受けると、初めは傷口のあたりが痛み、のちに神経の先端、つまり胸の前の方に痛みを感じるようになります。肺の手術でよく使われるキズでは、おっぱいの下あたりに痛みが移りやすいようです。手術のキズがやや低い位置にあると、おなかのみぞおちのあたりに痛みを感じることもあります。
      痛みに関しては、手術に関連する痛みではなく、新たな(別の)病気の兆しであることもあります。自己判断は禁物ですので、必ず担当医にご相談ください。

    14. Q

      胸の奥の方が痛むように感じるのですが?

      A

      皮膚表面だけでなく、肋骨や胸膜などが痛みを感じる臓器として皮膚の下にあり、これらの痛みでは奥が痛むように感じるようです。
      肋間にキズを入れたときに痛むのは、主に肋間神経が関与していると考えられています。初めのころ(手術直後)は、傷の痛みはズキズキした感じですが、次第に痛みの場所が移るとともに、ぎゅーと締めこむような痛みに変わると言う人がほとんどです。痛みが継続せず、気づけば痛みを感じていないことが多く、日中や会話して他のことに集中していると痛みを感じないことが多いのも、術後の痛みの特徴です。痛みの継続時間はせいぜい数分で、きっかけは決まっていません。寝静まったりして、神経が傷口に集中する環境になると、痛みを感じることも多いようです。
      痛みに関しては、手術に関連する痛みではなく、新たな(別の)病気の兆しであることもあります。自己判断は禁物ですので、必ず担当医とご相談ください。

    15. Q

      傷口より前の方は、皮膚の感覚が鈍くなったように感じるのですが?

      A

      胸の傷の痛みは日々軽減しますが、皮膚の鈍麻は長期間残ります。
      奥が痛むだけでなく、皮膚の感覚が変わることもあります。皮をかぶったような鈍麻した感覚になることもあります。これらも肋間神経の関与が考えられるのですが、詳しい機序はよくわかっていません。しばらく継続することも多く、このような感覚異常を予防することは、現代の外科学では難しいです。

    16. Q

      雨や寒い日に痛みますが?

      A

      理由はよくわかっていませんが、術後の痛みは雨や寒い日に良く感じるようです。
      気圧・気温の変化が神経に作用するとする人もいますが、理由はよくわかっていません。いわゆる『古傷が痛む』感覚で、特有の痛みです。術後のキズの痛みは、時間と共に減っていくものですが、この痛みは不思議と何年も経って、感じることが多い印象です。

    17. Q

      術後は食べ物に制限がありますか?

      A

      内服する薬などには、併せて食べてはいけない物がありますが、肺の手術では、原則として食事の制限はありません。
      もちろん、肺にとっても食べ過ぎて、太るのはよくありません。肺を取った分だけ、肺の能力は下がっています。太ってしまうと、酸素の必要量は増えますので、息切れが早く出現するようになります。

    18. Q

      術後はお酒飲んではいけませんか?

      A

      手術直後ではなく、他の臓器に問題がないなら、飲酒しても大丈夫です。
      節度のある飲酒を心がけてください。

    19. Q

      術後はタバコを吸ってもいいですか?

      A

      ダメです。
      肺を切除しています。残った肺を大切にしてください。今は呼吸がきつくなくても、10年20年とたてば、差が明らかになってきます。危険で辛い手術を乗り越えて、長生きしようとしたのなら、タバコは2度と吸ってはいけません。

    20. Q

      タバコはやめましたが、家族がタバコを吸います。影響はないですか?

      A

      影響ないとは言いきれませんが、過剰に神経質になる必要はありません。
      喫煙者に正面から禁煙を要求すると、逆効果になることも少なくありません。あなたがそっとタバコを避けているようなら、おそらくご家族も気づいて、それなりの姿勢に変わってくれるはずです。折角の機会ですから、家族も禁煙できればいいのですが、禁煙を強要することが如何に難しいか、一番よくご存じなのは、かつて喫煙者だったあなたかもしれません。

    21. Q

      退院後に熱が出るようになりましたが?

      A

      熱のピークが上がってきているなら、心配です。診察を受けてください。
      術直後は誰でも熱が出ます。手術のキズを治そうとする体の反応であり、日に日に下がります。退院時に発熱がなく、あるいは一日のうちの熱のピークが一旦下がったにもかかわらず、退院後、自宅で熱が上がってきたような場合は、早めに原因を明らかにし、早く治療を開始すべきです。診察予定日の前でも、手術を行った担当医に連絡を取った方がいいでしょう。

    22. Q

      退院後に咳が出るようになりましたが?

      A

      発熱を伴う場合や、汚い色の痰・血液の混ざった痰など痰を伴う場合は心配です。診察を受けてください。
      術直後は誰でも多少の咳が出ます。手術で気管支を切ったり、気管支周囲の組織を取ったりした後、気管支に咳のきっかけとなる刺激が増えたり、刺激に敏感になっているからだと言われています。普通はカラぜきと言われる痰を伴わない咳ですが、体の反応であり、徐々に咳の頻度は下がります。退院時に比べ、退院後に咳が頻回になってきたような場合や、発熱を伴う場合、痰を伴うようになった場合は、肺炎などを併発したり、手術で切断閉鎖した気管支に問題が発生している可能性も考えられます。早めに原因を明らかにし、早く治療を開始すべきです。診察予定日の前でも、手術を行った担当医に連絡を取った方がいいでしょう。

    23. Q

      キズから汁が出るようになりましたが?

      A

      閉鎖したキズから汁が出る場合は、心配です。診察を受けてください。
      いくつかの可能性が考えられます。かさぶたができてかさぶたが取れてしまった、傷口が化膿している、胸に溜まっていた水が傷口の下から染み出ている、皮下の脂肪が溶けて染み出ている等々です。外科医が診ても簡単に見分けできない場合もあり、素人判断は禁物です。必ず手術を担当した医師の診察を受けて下さい。

    24. Q

      キズグチが赤くなって触るとひどく痛みますが?

      A

      心配です。明日にも診察を受けてください。
      傷口周囲が炎症を起こしている可能性がありますので、手術を担当した医師の診察を受けて下さい。

    25. Q

      抜糸はいつ行うのですか?

      A

      当科では、ほとんどのキズは抜糸が不要な縫合を使っています。
      チューブを留置していたところのキズの抜糸は術後2週間ごろを目安に行います。
      キズを縫った糸は早く抜いてしまうと、キズが開く可能性があります。長く置いておいた方がキズを固く接着させるためには良いのですが、糸が長い時間皮膚に残ると、糸自身が皮膚に傷を作ってしまいます。
      当科では、ほとんどキズを、糸が残らない特殊な縫合法(埋没縫合と言います)の上に、皮膚表面接着剤と皮膚接合テープという方法で閉鎖しています。この方法では抜糸は必要ありません。
      一部のキズ(通常は、チューブを留置していたキズの一か所です)は糸が残ることがありますので、これらは抜糸を行います。チューブが留置されていたところにキズは、手術の時の閉じたキズとは違う治癒過程(二次創傷治癒と言います)を経て、キズが融合していきますので、抜糸のタイミングにも、他のキズと違う配慮が必要です。

    26. Q

      抜糸したのでキズを触っても大丈夫ですか?

      A

      しばらくはあまり触らない方がいいでしょう。
      キズは糸でくっついているのではなく、組織液に含まれる線維などの働きで接着し、固まって瘢痕組織となると簡単には離れなくなります。木工工作に例えると、組織液は接着剤で、縫った糸は、接着剤が固まるまでの間、部品が動かないように固定するために使う輪ゴムのようなものに相当するでしょうか。組織液という接着剤は数日でキズを接着させることはできますが、まだ接着力は弱く、このころに強い力を加えると、容易に傷口を開くことができます。強い接着力となるまでには3か月程度かかるのが普通です。抜糸直後はまだ十分な接着力はありませんし、炎症反応も残っていますので、あまり傷口は強くこすったりしない方が良いでしょう。

    27. Q

      キズにはガーゼも当てないのですか?

      A

      液や汁が出ないようなキズには、ガーゼは当てません。
      近年、乾燥し閉鎖したキズにはガーゼは不要と考えられるようになっています。傷口の周りも含めて皮膚を清潔に保ち、普通通りに下着を直接着用してかまいません。

    28. Q

      下着や服がキズにあたって擦れて痛いのですが?

      A

      キズの上に絆創膏などを貼ると幾分か擦れなくなります。
      キズが赤くなっているようなら問題です。手術を担当した医師にご相談ください。

  • 呼吸器外科診療Q&A~肺がん検査と診断篇 arrow_forward_ios

  • ここでは肺がんの検査と診断に関して、よく尋ねられる質問とその回答を記述しておきました。
    肺がんの手術全般に関すること、内視鏡手術(胸腔鏡手術)についてはこちらのページをご覧ください。

    1. Q

      担当医が、がんかどうかハッキリ言わず、信用できないのですが?

      A

      がんを疑っていても、がん細胞が顕微鏡検査で確認できないうちは、『がん』という診断は下せないため、はっきり断言できないためです。
      医学の世界では「がん」と診断するためには、がん細胞をからだの外に取りだしてがんであることを証明(普通顕微鏡での検査になりますので病理組織検査あるいは細胞診検査と言う検査でがん細胞の存在を証明します)しなければならない、という不文律があります。
      vv万が一、がん以外の病気にガンの治療が行われないようにということが念頭にあります。レントゲンやCTなどの体の外から調べる検査(画像診断と言います)でいくら「肺がん」を疑っても、あくまで「肺がんの疑い」であって「肺がん」と診断することはできないのです。
      画像診断技術は近年飛躍的に発展進歩しましたが、病巣の細胞を体の外に取りだす技術については、今日でも困難なことが多く、画像で病巣が見つかっていても「がん」と証明できないケースが増えてきました。このような場合、患者さんとの会話では「がんですか?」→「ガンの可能性がある、おそらくガンでしょう」、「ガンではないのですね?」→「そうかもしれない」などと受け取りようによっては大変わかりづらいやり取りが行われることがあるようです。むしろ真面目に医学的に正確さを保とうと発言しようすると、このような誤解を生む会話になりがちです。
      医師は誤診を最も恐れています。その中で「がんの可能性がある」と発言するときは、プロとしてそれなりの考え・気持ちがある時です。結果としてがんでない場合もありますが、気持ちを感じていただくと有難いです。

    2. Q

      細胞を取る検査で、がん細胞は出なかったと言われました。これで安心でしょうか?

      A

      ガンでないとは言い切れず、まだ安心できません。
      がん細胞が出ない可能性としては(1)病巣にがん細胞が存在しない(2)がん細胞は存在するが、がん細胞を採取できなかった、の2つの可能性があり、後者の可能性を考えると安心とは言い切れないのです。直接病巣を見ることができない肺の病気では、検査で必ずしも病巣から細胞を取れていないことが多く、後者の可能性を捨てきれないのです。がん細胞が出てない代わりに、がん以外の特定の病気(例えば結核菌のような)が確実に認められる場合は、「がん」は否定されたと考えても概ね差し支えないと思われます。それ以外の場合、ガンでないとは言い切れず、まだ安心できません。
      細胞検査の結果、がん細胞が出なかった時、担当医が考えるのは、「ガンでなくて良かった」でなくて「うまく(がん細胞が)取れなかったかも」です。担当医がそう考えるのは、レントゲンなど画像診断で強く「がん」が疑っている場合です。
      細胞を取る検査をして、がん細胞が出ていないにもかかわらず、担当医から再検査や手術を勧められる場合は、「がん」の疑いをかなり強く持たれている、とお考えいただいた方がよいでしょう。

    3. Q

      細胞を取る検査で、がん細胞が取れないことがあるのですか?

      A

      あります。特に近年は小さい病巣が多く、採取が難しくなっています。
      細胞を取る方法にもいくつかありますが、多くは針を使って細胞を吸い取ってくる方法で、痰の中に混ざった細胞や気管支の中の粘液中に混ざった細胞などを調べる方法もあります。痰の検査では必ずしもがん細胞が混ざっているとは限らないことは感覚的にもわかりやすいかと思います。
      大がかりな検査(気管支鏡やCTガイド下生検という検査が多い)で、病巣から細胞を取ったはずですが、直接病巣を目で見て細胞を取れる事は少なく、内視鏡(気管支鏡)なのに、X線透視を使いながら細胞を取らなければなりません。気管支鏡検査での細胞採取は、病巣から確実に細胞を取れた保証がないということになります。このような検査で、がん細胞が出なかった時、がん細胞が本当に病巣に含まれないか、病巣以外の場所から細胞が取られたかの可能性が残ります。CTガイド下生検の命中率は比較的高いのですが、やはり似たような状況になることがあります。

    4. Q

      血液検査で肺がんかどうかわかりませんか?

      A

      腫瘍マーカーと言う血液検査で、数値が高いと「ガンがありそう」と疑うことができますが、「ガンがある」とは言い切れません。数値が低くても「ガンでない」とは言えません。
      肺がんについては、血液検査でガンを確定的に診断できる方法はありません。遺伝子検査も大きく取り上げられることがありますが、将来の肺がんの発症の可能性が確率的に数字で示されるだけで、今見つかっている病巣がガンであるかまでわかるのではありません。腫瘍マーカーと言われている検査項目も、高値の時には、ガンの存在を強く示唆するものではありますが、決してガンであるかどうかの検査として行われているのではありません。また、腫瘍マーカーは、肺がんだけでなく、ほかの臓器のガンでも上がることがあるので、高値と言っても必ずしも肺がんであるとは限りません。

    5. Q

      PET検査で肺がんかどうかわからないのですか?

      A

      ガンを強く疑う、あるいは否定できそうなどの、情報のひとつとしては有益ですが、肺がんかどうかの断定的な判断には使えません。
      PET検査は、原理上、がん病巣を調べているのではなく、体内の細胞に分布するブドウ糖という糖分を調べるものです。細胞の栄養分ともいえるブドウ糖が多く存在するところは、細胞の活動が盛ん→活発に分裂している細胞が多いところ、そしてそのような場所は、例えば、がん細胞が集まっている場所となって、がんの検査に使える、というのがかなり大雑把な原理です。炎症の起きている場所や、脳や心臓のような場所も、ブドウ糖をたくさん取り込んでおり、必ずしもがん病巣だけを検出できる検査ではありません。糖尿病のある方も検査が難しく、最近発見例が多い、数ミリ程度の肺病変やすりガラス病変などでは、検査結果の信頼性が低いことがわかっています。

    6. Q

      がん細胞も出てないし、血液検査もPET検査も当てにならないなら、何を根拠に肺がんを疑っているのですか?

      A

      ほとんどの場合、CTで認められる病巣の形と、発見以降の時間的変化を考慮した、担当医の(知識と経験に基づく)直感です。
      肺がんを疑う根拠は、多くの場合、CT画像所見です。所見を見てガンかどうか疑うのは結局、その画像を見た医師の読影力であり、あえて言えば、多くの経験で裏打ちされた主観的判断です。CTを見るとき、もちろん客観的な所見を並べますが、究極は直感です。ガンと紛らわしい似たような良性の病気はたくさんあり、経験を積めば積むほど、例外的なケースに出くわします。一律にガンと判断できる所見などないと考えるべきで、なかなかコンピュータによる自動診断が実用化されない領域になっています。形状に次いで、重要視するのが時間的変化です。どのくらいの時間をおいてどう形状が変化したかが重要です。この2点をみて、肺がんを疑うべきかどうか、判断しています。
      時間をかけて様子を見ると、その間に病巣が進行してしまう危険性が付きまといます。どのくらい時間間隔をあけるのが良いかはケースバイケースであり、後悔しないよう担当医とよく相談してください。

    7. Q

      迅速診断とは何ですか?

      A

      手術で摘出した組織を標本として、顕微鏡による病理診断を、手術中に行うことを言い、摘出した病変にガンがあるかどうかを、手術中に手早く調べるためによくおこなわれる検査の方法です。
      病理診断とは、顕微鏡所見で病気の診断を確定する方法で、最終診断とも言える検査方法です。通常は、組織をホルマリンに漬け、組織を固まらせると同時に腐りにくくします(永久標本と呼びます)。固まった組織をカッターで薄く切り取ってスライドグラスに乗せ、組織に色づけして顕微鏡検査します。この一連の過程には数日を要しますので、手術で取った組織を手術中に検査することができません。そこで代わりとして行われる手法が、ホルマリンの代わりに液体窒素で凍結させて固まらせ(凍結標本と言います)、簡易な染色をしたうえで顕微鏡検査する方法です。30分程度で診断まで行えるので、手術中に出来る病理検査方法として普及しています。
      肺がんに限らず、がんの手術には今や欠かせない検査方法です。外科医も目を凝らして組織を見ていますが、肉眼で見えるものには限りがあり、がんの取り残しがないか、取った病巣はがんで間違いないかなど、この検査方法で確認し、随時、切除範囲を加えたり、手術内容を変更したりします。
      迅速診断法は、手術中に行うことができる、現状、最上の検査方法ではありますが、やはり簡易検査であり、正診率は90%程度と言われています。ホルマリンを使った検査(永久標本)と診断が違っている場合は、永久標本による診断を最終診断とする決まりです。

  • 呼吸器外科診療Q&A~肺がん手術篇 arrow_forward_ios

  • ここでは肺がんの手術全般に関してよく尋ねられる質問とその回答を記述しておきました。
    肺がんの検査・診断に関することはこちらを、内視鏡手術(胸腔鏡手術)についてはこちらのページをご覧ください。

    1. Q

      肺がんの手術も小さな傷で簡単にできるようになったのですか?

      A

      肺の手術も他の外科領域と同じように、多くの手術で傷は小さくなってきました。
      内視鏡(胸腔鏡)手術だけでなく、従来型の開胸手術でも傷の長さは徐々に短くなってきています。ただ傷が小さいことが良い手術であるとは限りません。そもそも小さい傷では、あばら骨の間から大きな病巣は取り出せませんし、安全性が十分担保できない手術もあります。小さい傷で手術をすると手術自体は煩雑で時間もかかります。しかし、傷が小さい方が術後は楽だし、そういう要望も高まっています。ほとんどの呼吸器外科施設では、傷を小さくするような傾向になっています。
      その究極が内視鏡(胸腔鏡)手術です。簡単な技術ではありませんが、当科の場合、呼吸器外科領域で行われる手術の8-9割の手術が内視鏡(胸腔鏡)手術で実施可能な時代になってきました。

    2. Q

      がんかどうかハッキリしていないのに、手術が必要ですか?

      A

      状況によりけりですが、疑わしい「がん」が、結果として「がん」であった時の方が恐ろしいか、手術や術後の合併症が恐ろしいかの比較になるでしょう。
      ガンの中でも「肺がん」は特に治療が効きにくいガンの一つです。毎年のように新聞紙上には新しいガンの診断法や治療薬発見のような記事が掲載されますが、発見・開発されているのは一部の肺がんにだけ効果がある治療薬ばかりで、肺がんの死亡率を大きく下げるような治療法の発見には至っていません。
      現在でも20~30年前と同じように、肺がんでは多くの場合、手術による治療が最善と考えられており、手術治療に匹敵するような薬(抗がん剤)や放射線の治療方法はありません。一方で手術はすべての人に実施できません。体力的に手術が受けられない場合はもちろんですが、肝心の肺がん自体が進行してしまっては、手術の治療効果はなくなってしまいます。現在は肺に近い(縦隔)リンパ節に転移が進んだだけで、手術の治療効果はなくなったも同然と考えられるようになり、一段と早期発見・早期治療が叫ばれるようになってきています。
      「肺がん」と診断するためには「がん細胞」を証明する必要がありますが、技術的に困難なケースが増えており、「がん細胞」の証明にこだわっていると、いたずらに時間を浪費して、治療の機会を失ってしまうことにもなりかねません。医師の立場からは、画像診断上、どうしても肺がんが疑われるような場合は、たとえ「がん細胞」が証明できなくても、手術を勧めたくなります。もし肺がんだったら、肺がんなのに早く手術を受けなかったら(普通は2~3年で死ぬことになるかも)という気持ちです。

    3. Q

      肺がんの手術ではどこ(の組織)を取るのですか?

      A

      肺とリンパ組織(リンパ節)です。
      肺がんの手術では、がん病巣だけを切り取るのではありません。がん病巣が発生している肺で病巣を包み込むように取り出し、更にガンがよく転移するリンパ節も、周囲のリンパ組織に包んで取り出します。取り出す肺の量は、がん病巣の大きさや場所によって異なります。取り出すリンパ組織の場所や量も、がん病巣の大きさや場所などで変わります。

    4. Q

      肺がんの手術は肺がん以外の手術とどこが違うのですか?

      A

      病巣だけを取るのではなく、正常な組織で病巣を包むようにして取ること、そしてリンパ組織も併せて取る必要があるかどうかの違いが大きいでしょう。

    5. Q

      肺がんの標準手術とは何ですか?

      A

      我が国では通常、肺葉切除と縦隔郭清を行うことを標準手術として、取り扱うこととなっています。
      肺は左右に一つずつあるのではなく、右肺は3つの肺葉から、また左は2つの肺葉から構成されています。この5つの構成要素は、それぞれが袋状になっており、明瞭に境されて、左右の気管支にぶら下がった構造をしています。気管支と言う木の枝に、肺葉と言う袋状の5枚の葉っぱがついているような状態です。肺がんの標準手術では、枝から葉っぱを摘み取るように、ガンが発生している肺葉を、袋状のまま、気管支から切り取ることで、中に発生しているがん病巣を、正常肺に包んで取り出します。
      左右肺の間にあたる場所を、解剖用語で縦隔と呼びます。この場所には左右肺からのリンパの流れが集まるため、肺の周囲とこの縦隔のリンパ組織を取ることが、肺がんの治療効果を上げると考えられています。

    6. Q

      肺がんの拡大手術とは何ですか?

      A

      標準手術より、取り出す組織の範囲が広い手術です。
      例えば、がん病巣が、肺の袋構造を超えて、あばらなどの周辺臓器に広がっている場合、あばら骨などを標準手術の範囲に加えて合わせてとる場合があります。こうした手術を拡大手術と言います。悪いがん病巣なら、どんどん取る範囲を拡大すればよいように思いますが、これ以上広げても、治療効果が上らない境界は概ね明らかにされています。拡大切除の場合は、治療効果と問題点をよく理解の上、手術をお受けになるようお勧めします。

    7. Q

      肺がんの縮小手術とは何ですか?

      A

      標準手術より、取り出す組織の範囲が狭い手術です。
      長らく、肺葉切除と縦隔郭清が、肺がんの標準手術と考えられてきましたが、近年は、小型の初期型肺がんが多く見つかるようになり、切除範囲を狭めた縮小手術でも十分ではないかとの意見が見られるようになりました。これには賛否があり、海外では、縮小手術は再発の可能性が高いとの報告も出ています。手術すればほぼ治るとされたがん病巣が、縮小手術で再発したのでは、本末転倒です。この問題は、大規模な試験で決着をつけるほかなく、今、国内でこの縮小手術と標準手術を比較するための臨床試験が行われいます。この結果が出るまでにまだもう少し時間がかかります。縮小手術は、この問題点を十分ご理解の上で、お受けになるようお勧めします。

    8. Q

      手術以外の治療と手術はどっちが良いのですか?

      A

      手術が適切と言われ、手術が可能であれば、手術をお勧めします。
      手術や抗がん剤、放射線治療など、がんの治療法にはいくつかの方法があり、過去何十年にもわたる研究から、概ね手術を勧めるべき肺がんの状態(進行度)がわかっています。抗がん剤や放射線治療などはかなり効き目が上がったとはいえ、肺がんを治すところまでは至っていません。手術にとって代わるほどの効果は認められていないのです。手術を勧められている場合は、手術をお受けになることをお勧めします。

    9. Q

      手術の前後に手術以外の治療をするのですか?

      A

      状況によっては手術前後に、別の治療を追加する場合があります。
      手術だけでは再発の可能性が残る肺がんでは、手術に加えて何か別の治療をすべきかどうかについて、何十年にもわたって議論されてきました。補助療法とか、集学的治療とかの名称で、世界中で、ありとあらゆる、思いつく限りの治療が、様々な組み合わせで試されてきましたが、肺がんについては、これしかないというような劇的効果を上げているものは、残念ながらありません。かなり主観的評価で、お叱りを受けそうですが、あれと比べれば、これの方が少し良いかな、マシかなという程度だと言えます。複数治療の組み合わせについては、今後も試行錯誤が続くものと思います。現状ではがんや心身の状態を見ながら、ある程度個別に治療を考えて行うというのが、現実的な方法でしょう。

    10. Q

      再発しても手術は受けられますか?

      A

      手術をお勧めできるケースは限られています。
      再発時に手術による治療が選択できるのは限られた条件を満たす場合だけです。担当医とご相談ください。

    11. Q

      他の臓器のガンが肺に転移しています(転移性肺がん)が手術は受けられますか?

      A

      肺以外にがん病巣がない場合は、手術を受けられる場合が多いです。
      肺に転移してきた場合の治療は、原則として肺以外にがん病巣がないこと、手術に勝る治療法がないことなどが前提条件です。肺に病巣があっても、肺がんとして扱うのではなく、元の病気(原発巣と呼びます)の治療の一環として、肺の病巣を扱うことになります。初めに元の病気(原発巣)の治療を担当している医師とご相談ください。

    12. Q

      他の臓器の手術と同時に肺がんの手術は受けられますか?

      A

      受けられる場合もありますが、分けて行うことも少なくありません。
      緊急性を要する手術があるなら、それを先行して行います。例えば、狭心症のため手術が必要な肺がんの場合は、肺がんの手術を行う前に、狭心症を治しておかなければいけません。二つのがん病巣がある場合は、夫々のがんの進行度を考慮して優先順位を決めます。同じ胸部の疾患で、相互に影響しない場合は、同時に行うこともあります。手術が一回で済めば、と言うお気持ちもわかりますが、一人の方の複数の臓器を違う診療科が同時に手術すると、点滴や薬の投与など、管理方法が難しくなったり、手薄になったりすることがあるので、あまりお勧めできる方法ではありません。

    13. Q

      他の臓器の病気の治療を行ったばかりですが肺がんの手術を受けられますか?

      A

      他の臓器の手術を受けていても、肺がんの手術は可能です。
      可能なら十分体力が回復した後に行うことが理想ですが、肺がんも日々進行していますので、できれば早く手術をお受けください。
      手術可能かどうかの見極めは、手術を担当する医師にご相談ください。

    14. Q

      以前ほかの病気で肺の手術をしていますが肺がんの手術はできますか?

      A

      多くの場合できますが、手術は難しくなります。
      どちらの肺のどのような手術かで、手術出来る出来ないや、出来たとした場合の難しさが変わります。同じ側の肺を手術する場合は、手術時間も大幅に伸び、出血量も増えます。反対側の手術の場合は、手術の難易度には影響しませんが、麻酔が難しくなり、麻酔が維持できずに手術を断念することがあります。詳しくは手術を担当する医師にお尋ねください。

    15. Q

      両方(左右)の肺の手術を受けることはできますか?

      A

      多くの場合できますが、手術後の呼吸機能が下がることがほとんどです。
      左右の肺にどのような手術をするかで、手術出来る出来ないや、出来たとした場合の難しさが変わります。
      詳しくは手術を担当する医師にお尋ねください。

    16. Q

      悪い病巣(肺がん)を取れば呼吸も楽になりますか?

      A

      肺がんの手術をして呼吸が楽になることは(極めて例外的な場合以外)ありません。
      肺がんの手術では悪い病巣(肺がん病巣)だけでなく、ガンでない肺の組織 にガンを包んで取る、という手術が基本です。肺の機能を回復する手術ではありません。手術前に息が苦しい状態の方に、このような手術をすると呼吸の状態は、より悪くなります。

  • 呼吸器外科診療Q&A~自然気胸 病気の基本篇 arrow_forward_ios

  • ここでは自然気胸に関して、「そもそも気胸とは何か?」から始まる基本的な知識と、気胸にまつわる様々な問答を取り上げました。自然気胸になった後の注意事項や外科治療に関しては別項をご覧ください。
    手術の適応などについては、Q&A以外の、当科の対象疾患や治療方針を示したページなどをご参照ください。

    自然気胸を理解するための基本的な知識に関する質問
    1. Q

      気胸とは、何のことですか?

      A

      胸腔(きょうくう)内に気体が貯留した状態のことです。胸腔内に余剰な気体(ふつうは空気)が入り込むと、結果として肺は萎みます。肺が破れているかどうかは関係ありません。
      胸の中に左右一つずつある空間を胸腔と呼びます。心臓の両側にあります。胸腔については別項(下記Q&A)を参考にして下さい。

    2. Q

      気胸は、病名ではないのですか?

      A

      出血などと同じような、病態(病気のために生じている状態)を示す言葉と考えてよいでしょう。
      例えば「出血」と言えば、体のどこかが傷ついて、文字通り「血が出ている状態」をいいますが、単独で病名として使うものではありません。「病名は出血です!」と言われても困ります。原因となる疾患が不明の時はやむを得ないのですが、原因となる疾患がわかっているなら、単に「出血」としないように、気胸の場合も、単に「気胸」とせず、気胸の要因になっている治療の対象を表現し、病名とするのが望ましいのです。ほとんどの気胸が、肺から漏れ出た空気によるものですが、(ここが変わったところでもありますが)、「肺」が破れて気胸となっても「肺気胸」とは呼ばず、内臓自ら破裂して発生したことを意味する「自然気胸」と、肺に限定せず呼ぶことになっています。

    3. Q

      気胸と自然気胸は、違うものですか?

      A

      臓器(肺である場合がほとんど)から空気が漏れている場合を、自然気胸と呼び病名として扱います。外傷などのような、他から受けた臓器損傷でないことが条件です。
      胸のなか(胸腔)に空気が溜まる原因は、体内の臓器から空気が漏れる場合と、体の外から空気が入ってしまう場合がありますが、前者の気胸を自然気胸と呼びます。後者は気胸ですが、自然気胸とは呼びません。自然気胸を、単に「気胸」と言うこともありますが、厳密には「気胸」だけでは疾患名に当たらず、病態を示すだけになります。
      肺が破れておきた気胸であっても、ケガなどで肺が傷ついて破れた(=肺が自然と破れたのではない)場合は、外傷性気胸と呼び、「自然」気胸とは呼びません。この他にも、注射や針灸の針が刺さって起きた気胸を、医原性気胸と呼び、この場合も「自然」はつけません。
      気胸の原因が、肺の自発的破裂によることが分かっている場合(ほとんどの気胸)は、病名として、病態を示す「気胸」ではなく、「自然気胸」とするのが望ましく、もし、あなたの担当医がそのように区別して使用しているなら、その医師は「気胸」治療について、かなり造詣が深いと考えてよいかもしれません。

    4. Q

      自然気胸の自然って、どういうことですか?

      A

      他からの物理的な損傷などではなく、「自然と」「突然」内臓(ほとんどは肺)が破れて、という意味で「自然気胸」と呼びます。
      自然気胸の場合の自然は、英語のspontaneousの訳です。spontaneousは「自発的な、特発性の」の意味を持つ言葉で、野山や海川のような環境を指す自然(nature)という意味ではありません。

    5. Q

      特発性気胸と自然気胸は、違うものですか?

      A

      同じものと思いますが、日本気胸・嚢胞性肺疾患学会という学会では、「特発性気胸」という表現は使わないよう推奨しています。
      自然気胸は、英語でspontaneous pneumothoraxと言われますが、このspontaneousの訳をどうするかで、古くから議論はあります。spontaneousは多くの疾患では「特発性」と訳されていますが、特発性という言葉は、「発症原因が不明の」という意味です。現在では自然気胸の多くが、気腫性肺嚢胞(きしゅせい-はいのうほう)と言われる病変が破れて、気胸となることが分かっており、日本気胸・嚢胞性肺疾患学会(にほん-ききょう-のうほうせい-はいしっかん-がっかい)という学会では、「特発性」ではなく、「自然(に肺が破れて起きた)」気胸という名前で呼ぶようにしています。特発性気胸ではなく、「自然気胸」です。

    6. Q

      なぜ、特発性と呼ばれたのですか?

      A

      昔、気胸になる原因がよくわからなかったことによります。
      自然気胸の原因が、気腫性肺嚢胞だとわかったのは、20世紀前半ごろで、気胸の原因病変自体がわからなかった時代に、「特発性」と名付けられたようです。「特発性」の他にも、突発性や自発性、内因性などの語を冠して、気胸が呼ばれていたようで、今日でも、稀にそうした用語を見かけることがあります。
      自然気胸(spontaneous pneumothorax)の英語名に付くspontaneousが、病名として使われる場合は、ほとんどの病気で「特発性」と訳されています。気胸だけは特別で、「自然」と訳が付いています。国際的には今でもspontaneous pneumothoraxですから、普通に訳せば「特発性気胸」で良いはずですが、我が国の気胸研究者は、気胸の原因病変が、気腫性肺嚢胞と判っているのだから、病名に原因不明を意味する「特発性」を付けることは、不適切と考えたそうです。そこで「特発性」の代わりに、spontaneousを「自発的な」と捉えて、「(他からの影響ではなく)肺の自発的な破綻」という意味で、自然気胸と名付けたと言われています。

    7. Q

      新聞やテレビなどでは肺気胸となっていますが、自然気胸とは違う病気ですか?

      A

      おそらく自然気胸のうち、肺の破綻により起きたものを「肺気胸」と呼んでいるのだと思いますが、「肺気胸」という語は、医学用語としては使われません。
      厳密にいうと、肺から空気が漏れて気胸になる場合でも、外傷などで肺が破れた場合は、外傷性気胸と言い、治療や検査のために刺した針などで肺が破れた場合は医原性気胸と言います。こうした理由もなく、突然肺が破れたのが自然気胸です。
      肺気胸という表現に、違和感を持つ医師は少なくないと思います。国際的にも「肺」を示す言葉(lung, pulmonaryなど)を気胸の前につけるようなことはありません。日本気胸・嚢胞性肺疾患学会(にほん-ききょう-のうほうせい-はいしっかん-がっかい)という国内唯一の気胸を対象とする専門学会では、「自然気胸」を疾患名として使うよう推奨しています。

    8. Q

      肺がパンクしたのが気胸、ではないのですか?

      A

      一般的な理解であれば、概ね問題ありません。
      多くの気胸は肺が損傷して発生します。大変わかりやすい比喩で、よく使われています。ほとんどの医師が説明に使っているかもしれません。伸縮性があって、放置すれば自ら縮もうとする特性を持つ肺を、タイヤのようなゴムに例えるのは、概ね間違いではありません。
      ただ、これはあくまでも、気胸の裏返しである「肺の虚脱」と言う現象を例えたものです。肺は、常に開いている鼻や口につながっており、出入口を常時塞いでおくタイヤや風船とは違います。肺は、タイヤやゴム風船のように、空気を押し込むことで膨らんでいるのでもありません。肺をタイヤに置き換えて、気胸の病態や治療まで考えてはいけません。肺をタイヤや風船に置き換えると、出口が開いているのに萎まない理由だけでなく、呼吸ができる仕組み、気胸の治療原理なども正しく理解することができません。わかりやすく、便利ではありますが、あくまで説明用の比喩と割り切ってください。

    9. Q

      肺が破れない自然気胸が、あるのですか?

      A

      日本気胸・嚢胞性肺疾患学会という学会では、食道が破裂した場合(特発性食道破裂と言う病気)も、自然気胸に分類しています。
      食道が破裂した場合も、胸腔に空気が入りこむことがあり、気胸になり得ます。同学会の規定では、こうした気胸も広義に自然気胸と呼ばれることになります。ですが、一般に医学現場では、多くの臨床医は(食道破裂が判明しているなら)自然気胸と言う診断名は付けないと思います。ですので、今日、ほとんどの場合、自然気胸と言う診断名は、肺が破れた時に使われている(狭義の意味)と理解してよいと思います。ちなみに、上述の、激しい嘔吐で食道が破れる病気のことを、特発性食道破裂(spontaneous rupture of the esophagus、別名ブールハーヴェBoerhaave症候群)と言います。同じspontaneousでも、こちらは特発性です。

    10. Q

      自然気胸以外の気胸は、ありますか?

      A

      外傷性気胸と医原性気胸、人工気胸が自然気胸以外の気胸となります。
      ケガなどの際に、肺や気管、食道などが破れたり、外気が胸腔内に入り込んだりして気胸となるのが、外傷性気胸です。治療や診断のために行った作業で、肺に傷が入ったり、胸腔に空気が入ったりして起こる気胸が、医療行為で偶発的に起きた気胸という意味の医原性気胸になります。何かの治療や検査の際の合併症も含まれ、鍼灸(しんきゅう)の針治療で気胸を起こすことも有ります。人工呼吸や心肺蘇生中(心臓マッサージ)に起こすこともあります。医原性気胸とは別に、治療や診断のため、気胸を意図的に作り出すことがあり、その場合は人工気胸と呼びます。結核治療として、人工的に気胸を起こしていた時代もあります。

    11. Q

      胸腔(きょうくう)とは、どの臓器のことですか?

      A

      何かの臓器や組織のような「もの」を指すのではなく、実体のない空間を指す名称です。正常では容積がゼロです(つまり空間と言っても、正常状態では空洞ではありません)。
      胸腔というのは、胸膜(きょうまく)で囲まれた閉鎖腔(左右に一つずつある)のことを指します。これは「胸腔」の狭義の定義です。短い文章で定義できる「胸腔」ですが、説明となると、文字にしても、図にしても、とても難しいです。大雑把に、肺と、その肺を取り囲む臓器との間、隙間と考えておいてよいでしょう。
      肺を取り囲む臓器は、肋骨(ろっこつ、アバラ骨のこと)、胸骨(きょうこつ、心臓の前にある骨)、胸椎(きょうつい、胸にある背骨)から成る骨性胸郭(こつせいきょうかく)と、肋間筋(ろっかんきん、カルビの肉のところ)が大半で、ほかにも心臓や血管、横隔膜(おうかくまく)などが肺の周囲にあります。肺とその周辺臓器は、それぞれ隣り合ったまま成長し、配置されています。肺は、こうした周辺の臓器と、接着・接合したりしていませんし、組織としての繋がりもありません。
      通常の状態(生理的状態といいます)では、肺とその周辺の臓器は、離れてはいても、ピッタリ密着していますので、両者の間は、空間としては認識できない状態になっています。ただ、このままでは、肺が呼吸で伸び縮みする度に、臓器同士が擦れて傷ついてしまいます。そこで、両者が、直接触れ合わないように、各々の表面は、薄い膜のような皮に覆われています。2枚の皮越しに、肺とその周辺の臓器は接することになります。
      この皮の表面は、臓器の表面より、滑らかになっています。加えて、僅かな水気で、この皮の表面は湿らされていて、とても滑りやすくなっています。皮が覆っている臓器と皮の間も、完全に接着しているわけではなくて、少しズレるような構造になっています(ミカンの皮と房の間を想像すると良いかもしれません)。こうした構造のおかげで、肺や心臓は常に動いて擦れあっているにも拘らず、肺はもちろん周囲の臓器は傷つかないと考えられています。(この水気に当たる水分のことを、胸水と呼びます。)
      肺とその周辺臓器の表面にあって、各々を覆っている薄い皮状の組織が「胸膜」です。肺の表面側と周囲の臓器表面側に、2枚あるかのように想像しがちですが、実際には、一枚の膜が両側に広がっているだけです。両側だけでなく、床も天井も途切れなく、一枚でできていて、全体としては袋になっています。袋の内側は、閉鎖空間で、ここが狭義の胸腔に当たります。想像しにくいですが、皮の表面、つまり袋の表面は、袋の内側であることに注意して下さい。胸腔とは、胸膜がつくる袋状の構造物の内側の空間のことです。
      この袋は、普通はペシャンコです。袋の中の空気が抜かれている状態です。肺の周辺にある臓器は、変形しにくいものばかりなので、柔らかい肺が目一杯大きくなって、空間を占めていることになります。密閉された袋の中に空気を押し込めば、袋は大きくなり、その分だけ肺が小さくなります。これが気胸と言う状態です。
      何もない空間に名前がついているのは、密閉されていて、かつ空気(気体)がほとんどないという特性が、肺を肺として機能(呼吸)させるために、とても巧妙で重要な役割を果たしているからです。

    12. Q

      本やネットで調べると、心臓や食道も胸腔の中にあると書いてありますが、胸腔には、何もないのではないのですか?

      A

      「胸腔」には、広義と狭義の定義があり、広義では、全ての胸の臓器を入れている空間を「胸腔」とします。ネット情報だけでなく、医学書でも、これらがよく混同されていますので、注意してください。
      広義の定義では、「胸腔」は「胸郭の内側」を指します。胸郭、つまり肋骨(胸骨、脊椎)や肋間筋などで囲まれた胸(首より下で横隔膜より上の領域)の中の空間(左右の肺や心臓など胸部の臓器全てが入っている空間)を指します。胸部のすべての臓器を内部に含む空間を胸腔と呼ぶわけです。医学でも、呼吸器外科以外の研究領域では、広義で使用されることが多いです。多くの医学書が、断りもなく広義で記述しているため、十分注意していないと、呼吸を勉強する際に混乱や誤解が生じます。一般に呼吸器外科では、断りなしに狭義の意味、つまり胸膜で囲まれた空間の意味で「胸腔」を使います。呼吸を詳しく学ぶときは、狭義で「胸腔」を考えるほうが、断然便利です。当科のホームページでも狭義の意味で使用しています。本やネットで調べるときは、十分ご注意ください。

    13. Q

      胸膜(きょうまく)とは、何ですか?

      A

      肺と肺を取り囲む臓器全体に、壁紙のように隙間なく張り付いている薄い皮のことです。(胸腔とは何かの回答も参考にして下さい。)
      胸腔の中から胸膜を見ると、肺と周囲の臓器の表面は、透明~半透明の、やや白っぽい膜のような構造物で覆われて見えます。この構造物は途切れなく、一枚の皮でできた袋のようになっており、出口のない閉鎖腔を作って、胸腔を気密な空間にしています。想像しにくいですが、皮の表面は、袋(ここでは空間)の内側(胸腔側)になります。健康な胸膜は柔らかく、他動的に伸び縮みします。以前は肋骨側の胸膜を肋膜(ろくまく)と呼び、肺の表面側を胸膜と呼び分けていましたが、今は皮全体を一様に胸膜と呼びます。
      肉眼レベルでは、肺表面の胸膜は肺の一部ですが、顕微鏡レベル(組織)では肺とは別物とみなす(胸膜中皮、きょうまくちゅうひ)ことが多いです。
      教科書では、気胸を胸膜の疾患として分類していることが多いです。

    14. Q

      胸腔(きょうくう)の役割とは、何ですか?

      A

      横隔膜とあばらの動きを瞬時に肺に伝え、肺の動きを横隔膜やあばらに瞬時に伝えて、両者を連結させる機能を果たします。
      胸腔という何もない空間が、動きを伝える。なんとも不思議な装置です。胸郭が広がると、胸腔を介して瞬時に肺が広がります。肺が縮もうとすると、瞬時に横隔膜が追随して動きます。まるで磁石のような働きです。
      胸腔は気密で空気がないため、空気を抜いた真空パックのように容積をほとんど変えません。胸腔の壁の一方が動けば、他方の肺も追随して動くことになり、息を吸おうと横隔膜が下がると(同時に)肺が広がって、肺の中の気圧が下がり、鼻から肺に向かって空気が入ってきます。因みに、横隔膜の筋肉が弛緩(伸びる)と肺自身の縮む力で肺は収縮し、息が吐きだされます。この時、弛緩した(伸びた)横隔膜は、胸腔を介して縮む肺に追随して動くので、挙上することになります。どの時点でも胸腔自体は(肺が健康で柔らかければ)殆ど広がりません。
      気胸は、胸腔の気密性が破綻している状態と言えます。気胸になると、力を伝達するという胸腔の機能が落ち、肺は自らの力で縮もうとするばかりになり、呼吸の効率がどんどん落ちます。肺が縮小することも相まって、呼吸が苦しいという症状が出現することになります。

    15. Q

      テレビで、胸腔を「きょうこう」と読んでいましたが?

      A

      誤りです。辞書にそう書いてあるからと言って、そう読むとは限りません。医学用語にはよくあることです。
      肉づき(月)のへん(偏)に、空という旁(つくり)で腔(くう)です。「腔」は体内の空間を指すとき使われます。口腔(こうくう)、胸腔(きょうくう)、腹腔(ふっくう)など、医学用語では「くう」と読み、今日この字を「こう」と読むことはありません。昔のことは分かりません。「にくづき」は臓器の名称に使われる漢字のへん(偏)です。月偏(つきへん)ではありません。

    16. Q

      嚢胞とは、何ですか?

      A

      一般に、医学では嚢胞(のうほう)は内部に液体を含んだ袋状の病変を指します。この場合は英語でcystになります。病変全体は大きくても、構造物は袋の部分だけで薄い壁で出来た病変が多いです。肺にできる嚢胞もありますが、気胸の原因である気腫性嚢胞はcystではなく、bullaとなり、全く違うものになります。
      体内に出来る嚢胞は、ほとんどの場合、液体が内部に充満しています。嚢胞の壁から液体が分泌されている場合もあれば、管のような構造物が詰まって、管内に流れてくる液体が溜まり、管が袋状に膨れ上がっている場合もあります。袋に相当する壁があって内部に水分が充満しています。
      肺に液体が流れたり溜まったりする場所は、あまりありませんが、嚢胞ができることはあります。気管支が大きく拡張して内部に水分を充満させるような病気が一例です。肺の中では、空気の流れが主体です。従って、肺の中に嚢胞と同じような病変が出来る場合も、ただの空洞のことが多く、内部は水分ではなく、空気が溜まっています。
      肺の中の、嚢胞様の空洞病変に溜まる空気は、呼吸で移動してくる空気です。広い空洞に一旦、空気が入ると、狭い出口からは簡単に出て行けなくなることがあって、どんどん空洞に空気が溜まって、空洞が空気で膨れあがってくることがあります。ハレモノの意味をもつ「腫」という文字を使って、「気腫(きしゅ)」と呼び、さらに嚢胞の語と併せて、気腫性嚢胞と言います。
      気腫性嚢胞の壁は、肺内の気道(空気の通り道)そのものが拡張する場合と、気道の外側の組織に拡がっている場合で違ってきます。気道自体が拡張するのは、主として気道の炎症性の破壊によるもので、代表的な疾患が肺気腫(慢性閉塞性肺疾患、COPD)です。気道の外側に空気だまりができる場合、できた病変はブラとかブレブと呼ばれるものになります。ブラやブレブをつくる壁は、(時に肺胞同士の融合などもあると言われていますが)特別な構造を持つ臓器や器官ではありません。肺の表面にまで広がれば、壁の最外側は胸膜になります。

    17. Q

      ブラやブレブって、何ですか?

      A

      気胸に関連する場合のブラ(bulla)とブレブ(bleb)は、いずれも肺に出来る、内部に過剰に空気が溜まった空洞病変の一つです。
      もともと、ブラbulla(複数形はbullae)もブレブbleb(複数形はblebs)も、小さな水泡、泡を指す言葉です。バブルbubbleと同じと思ってよいでしょう。より小さいのがブラで、より大きいのがブレブと説明している英語の辞書もありますが、そのように使い分けるのが一般的なものかどうか、筆者はよく知りません。
      ブラもブレブも、医学用語になっています。脳外科では、脳動脈瘤の上に出来る、今にも破裂しそうな血管壁の薄いコブ状の場所をブレブと言い、眼科では緑内障手術後に結膜下に出来る水の溜まり場をブレブ(濾過胞)と呼びます。また、皮膚科領域では、表皮内に出来る水泡をブラbullaと呼びます(ちなみに、それより深層の真皮内に水がたまった病変は嚢腫cystと呼びます)。
      呼吸器の領域では、ブラ・ブレブいずれも肺に出来る病変のうち、空気が溜まった空洞状の病変を指します。呼吸器外科では、ブラは日本語で気腫性肺嚢胞(きしゅせいはいのうほう)と言います。ブレブは間質性気腫とも言われます。ブラとブレブに用語は分けられていますが、肉眼で見分けることは、まず、できません。空洞の壁は非常に薄く、外見は、風船ガムを膨らませてできる風船のようで、肺の表面から飛び出すように大きくなっていくものです。壁は白~うすい灰色であることが多いのですが、薄いためか透明~半透明です。形は球状や半球状が多く、かなり扁平なもの、親亀の上の子亀のように、多重に形成されているものなどもあり、多彩です。膨らんだ状態では、1~2センチくらいのものが多いのですが、こぶし大のような大きさのものから、顕微鏡で見ないとわからないようなものまで様々です。1個しかない場合もあれば、数えきれないほど沢山ある場合もあります。【ブラ、気胸】で、インターネットを検索して見てください。多くの参考画像が提示されています。くれぐれも「気胸」を検索ワードに加えることを忘れないで下さい。
      ブラとブレブの違いを理解するためには、肺の構造を少し知っておく必要があります。肺に入った空気は、肺の隅まで行きつくと、肺胞(はいほう)と呼ばれる行き止まりの空間に入ります。肺胞内に入った空気が、何らかの理由で肺胞の外側(=組織の間で間質(かんしつ)と呼ばれます)に流れ込み、一方的に溜まり始めると、肺胞以外の肺の組織の中に、気嚢(きのう)と呼ばれる空気だまりを形成します。気嚢のできた場所が、肺の表面側(胸膜の直下)にあればブレブ、肺の表面から見えても、胸膜を外した狭義の意味での肺の中にあればブラとする、と説明されています。ただ、この古典的な分類には異論もあって、分類自体に大きな意義もないことから、今日、気胸の専門家でも使い分けている人は、ほとんどいません。

    18. Q

      ブラとブレブの違いが、分かりにくいです!!

      A

      区別する必要はありません。違いを知っても、気胸の診療には全く役に立ちませんので、忘れてください。
      ブラとブレブの違い、わかりにくいです。肺の表面は、臓側胸膜と言う胸膜が覆っています。普通は(解剖学でも)、この胸膜を含めて肺と呼ぶことが多いのですが、組織学と言う立場では、胸膜は別の臓器で、肺は胸膜の内側までが本来の肺だと考えます。胸膜内側の肺組織の表面には、境界膜と言う構造物があるとされていて、これより内側が真の肺組織ということらしいです。ブレブはこの境界膜より胸膜側に発生するもので、ブラはこの境界膜より肺側に発生するというわけです。
      もう少し正確に言えば、胸膜下の結合織内に発生するのがブレブです。対して、肺胞壁を破壊して肺胞領域(境界膜より内側の肺内)に生じるのがブラということになっています。誤解を承知で、かなり大雑把に言えば、肺の表面である臓側胸膜にあるのがブレブで、肺内の肺胞が空洞化しているものがブラということですが、肉眼や画像検査ではもちろん、実際には顕微鏡検査でも、なかなか区別ができません。その後の研究でも、これらを区別することに、(少なくとも気胸に関しては)あまり意義はないとされてきました。そのため、現在は、気胸の専門家でも、ブラとブレブを区別して使わないことのほうが多いです。

    19. Q

      ブラとブレブの、どちらを使えばいいですか?

      A

      国内では好んで「ブラ」と呼ばれるようになっています。
      例えば気胸の手術では、ブレブ切除ではなくブラ切除と言う医師が大勢で、一般的です。
      「ブラ」と言うと、下着のブラジャーの方が一般的ですが、意味も語源も違います。念のため。

    20. Q

      ブラが破れるのですか?

      A

      原発性自然気胸ではそうです。
      ブラは壁が薄いために破れやすく、破れて胸腔へ空気が出ることで、気胸となります。破れて漏れた空気が、肺の中に戻れば、気胸は進行しないはずですが、つぶれた風船に空気が戻らないように、ブラから漏れる空気は、一方的に肺の中から胸腔側に出ていく一方なので、気胸が進行します。
      続発性自然気胸では、原因疾患により破れる病変は様々です。

    21. Q

      なぜ、ブラが破れるのですか?

      A

      わかっていません。
      ブラが破れる原因と機序はわかっていません。気胸研究の最大の課題です。

    22. Q

      ブラは、大きいほうが破れやすいのですか?

      A

      必ずしも、そうとは限りません。
      大小多数のブラができている人がいますが、いつも一番大きいブラが破れているとは限りません。どのブラが破れているのかを手術以外で知る方法はほとんどなく、気胸研究の課題です。(当科で行った研究により、一部の自然気胸では、どのブラが破れているか高性能CTで検出できるようになりました(CHEST誌2013、THORAX誌2018)。)

    23. Q

      なぜ、ブラができるのですか?

      A

      わかっていません。
      ブラがなぜ、どのようなときに、どこに出来るかなど、わかっていません。ブラ破裂の原因と同じく気胸研究に取り残されている大きな課題です。できやすい場所は、ある程度わかっています。

    24. Q

      ブラは、どこにできやすいですか?

      A

      肺の頭側の領域などです。
      肺のいくつかの領域のうち、吸い込んだ空気が頭側に流れ込むところ(上葉肺尖(じょうよう-はいせん)区域や下葉上(かよう-じょう)区域)に多く発生することが分かっています。これらの領域は、肺臓全体で見ると頭側にあたります。この他に、肺の縁(とがっているところ)や、肋間筋に対峙している領域などに帯状に発生しているのも、よく見受けられます。もちろん、これ以外のところに発生することもあります。

    25. Q

      ブラは、反対の肺にも出来るのですか?

      A

      できます。
      片側にブラがある人の多くで、両肺にブラを認めます。破裂するかどうかは別です。

    26. Q

      時間が経てば、そのうちにブラが無くなったりしないのですか?

      A

      何らかの2次的な病変ができない限り、自然には消失しないとされています。
      科学的には立証されていませんが、多くの方のCT画像などを観察する限り、少なくとも数年程度の経過ではブラが消失することはないようです。個々のブラが大きくなったり、ブラが増えたりすることはよくあります。手術後にブラが新たにできることもあり、それが術後の気胸再発の原因になることが指摘されています。

    27. Q

      自然気胸の原発性や続発性とは、何ですか?

      A

      自然気胸は、気胸の原因となる病変(ブラ・ブレブによるものか、それ以外か)により、原発性(ブラ・ブレブの場合)か続発性(それ以外の場合)かに分類されています。
      自然気胸では、気腫性肺嚢胞(きしゅせいはいのうほう、ブラ(bulla)・ブレブ(bleb)と呼ばれる)の破綻によって起こるものを特別に原発性自然気胸と呼び、種々の肺疾患が進行した末路として肺が破れて起こるものを続発性自然気胸と呼びます。自然気胸では原発性と続発性の間に関連はなく、まったく別の疾患として扱い、夫々で治療方針や経過などが変わります。
      ブラ・ブレブという肺の病変が破れて起きるのだから、原発性自然気胸も、進行した肺病変の末路として気胸を引き起こす続発性自然気胸と本質的に同じだ、とする意見はあり、原発性/続発性の分類についての議論は絶えません。両者を厳格に区別する方法がないのも事実です。ただ、自然気胸と言えば、普通は原発性自然気胸と思われているように、原発性自然気胸に分類される気胸の一群が、とても特徴的で、診断や治療上も、原発性自然気胸を別枠に規定しておく方が、実地臨床上も、大変便利です。そのため、区分けが難しいことがあるにもかかわらず、わざわざ別称し、取り扱いされています。国際的にも、この分類名は一般的で、英語では原発性自然気胸はPrimary Spontaneous Pneumothorax (PSP)、続発性自然気胸はSecondary Spontaneous Pneumothorax (SSP)となります。

    28. Q

      原発性自然気胸とは何ですか?

      A

      大雑把に、肺の表面近くに発生する気腫性肺のう胞(ブラとかブレブと呼ばれます)が破れて発症するものが、原発性自然気胸です。
      原発性自然気胸は、20歳代、やせ型、男性を中心に発生する、最も典型的なタイプの気胸です。原発性自然気胸を特別なカテゴリーとして分けているのは、こうした人たちに見られるブラ・ブレブが、病気や病変がない健康な肺に生じていて、ブラ・ブレブ以外の異常を示さないことにあります。ブラやブレブは、単なる空気だまりであって、肺に何かしらの病変や構造の異常がある結果として、生じているのではないと思われているからです。後に述べる、続発性自然気胸とは、この点で全く異なります。原発性に分類される自然気胸の患者集団は、体形や好発年齢(よく発症する年齢)、性別などに極めて特徴的な傾向を示すだけでなく、治療法や治療効果なども、続発性自然気胸の集団とは大きな違いを示します。
      ブラやブレブがあっても、必ずしも破裂して気胸になるとは限りません。生涯、気胸にならないブラ・ブレブ保有者は多く、気胸を起こさなければ、原発性自然気胸患者でもなく、ただのブラ保有者にすぎません。ブラ保有者は、健常ですが、気胸発症の危険性があることを忘れてはいけません。

    29. Q

      続発性自然気胸とは何ですか?

      A

      原発性でない自然気胸すべてを指します。
      肺に病的変化がない人に生じるのが、原発性自然気胸ですから、続発性自然気胸は、肺に病的変化があり、その病変がもとで気胸を起こす場合を指します。最も多いタイプは、肺の深部(肺の中心部になります)まで、気腫性嚢胞が広がってしまう肺気腫(慢性閉塞性肺疾患、COPD:chronic obstructive pulmonary diseaseの一つ)という病気から気胸になってしまう場合です。この他にも、続発性自然気胸を起こしうる病気は多数あり、原発性以外の自然気胸は、まとめて続発性と総称されています。

    30. Q

      同じブラができる原発性自然気胸と、続発性自然気胸に多い肺気腫とは、何が違うのですか?

      A

      気腫性嚢胞が形成される過程が違います。
      いずれも肺に気腫性嚢胞と呼ばれる病変ができますが、肺の病的変性で気腫性嚢胞が形成されるのが肺気腫です。肺気腫では、家族性のものもありますが、喫煙の影響が大きいとされています。原発性自然気胸の場合は、気腫性嚢胞の形成に病的変化を伴わない(形成される直接原因は分かっていません)ことが特徴です。
      原発性自然気胸の要因となるブラ・ブレブが、後年増えたり、変化したりして、最終的に肺気腫になるかどうかは、よくわかっていませんが、多くの専門家は別の病気であろうと推測しています。肺気腫については、ネットに多くの解説がありますので、そちらを検索して見てください。

  • 呼吸器外科診療Q&A~自然気胸 診断と治療篇 arrow_forward_ios

  • ここでは、自然気胸の診断や手術以外の治療に関して、よく尋ねられる質問とその回答を記述しました。自然気胸の基本知識や外科治療に関しては別項をご覧ください。

    自然気胸の症状や診断、手術以外の治療に関する質問
    1. Q

      気胸になると、ふつうはどんな症状が出るのですか?

      A

      痛み、咳、息苦しさの3つが典型的な症状で、他にも、様々な症状がありますが、それぞれは少数です。無症状の時や軽い不快感程度しかない場合もあります。
      発症時に胸部に痛みを感じる人が多く、痛みを感じる位置も気胸を起こした肺の位置に近いことが多いですが、臓器が破れた(傷ついた)ことによる痛みではなく、胸膜(肺)が縮む際に感じるものだと考えられています(穴が開くブラと言う病変には、痛みを感じる神経は分布していないことがほとんどです)。同様の痛みは、肺が伸びる時に感じる人もいます。特徴的な痛みで、一度経験すると「また気胸になった!」と、気胸発症に気づくことが多いようです。咳も同様に、肺が伸び縮みする際の反射として出るものです。通常の気胸では、咳は出ても、痰を伴うことはありません。息苦しさは、肺に上手く空気が入らなくなることで生じます。「空気が吸い込めない感じ」や「動くと息切れする」など、息苦しさの感じ方は様々です。会話もままならないようなら、かなり重症ですので、至急の処置が必要です。
      肺が縮んだまま時間が経つと、いずれの症状も、改善して自覚症状がなくなることがあります。気胸が改善したのではなく、伸び縮みが無くなったことや、肺が縮んだ状態(肺に十分な換気がされていない)に肺の血管が反応して、該当領域の肺の動脈が収縮することで、心臓からくる血流の配分を、上手く別の肺に振り分けたりする(換気が悪いところの肺では血流が減る)代償機能が働くからだと考えられます。
      症状がよくなったからと言って安心せず、必ず医療機関を受診して下さい。「そのうち楽になる」などと甘く見ると、気胸が進行して、心臓が停止してしまうような状態になることもあります。息苦しさが進行しているようなら、救急要請して下さい。

    2. Q

      症状がない気胸があるのですか?

      A

      ありますが、よく聞くと何らかの症状を感じている人は多いです。
      気胸になっても、虚脱(肺の潰れ具合)の程度が軽いと、無症状で経過する場合があります。痛みまではいかない不快感程度で発症し、そのまま治ってしまうと、気胸になったと気づかないことも、よくあるようです。気胸となって、肺が虚脱していても、それ以上進行せずに安定していると、症状が軽くなったり、何も感じなくなったりします。ただ、肺の虚脱が強いと、安静では息苦しくなくても、運動などして酸素需要が高まると、息苦しさを感じやすくなっているはずです。

    3. Q

      健康診断で見つかる気胸があるのですか?

      A

      少ないけれど、あります。
      健康診断で、偶然見つかる自然気胸はあります。健診機関で、自然気胸のレントゲンが見つかることは稀ではありません。片側の肺が完全に潰れているのに、全く普通に仕事をして、日常生活を送っている人もいます。見つけた読影医も、指摘された受診者も、ビックリということがあります。

    4. Q

      大至急、治療が必要となるのは、どんな時ですか?

      A

      大量出血を伴う場合、同時に両側の気胸が起きている場合、心臓を圧迫するほど空気が漏れ続けている場合の3つは、短時間で命の危険が迫ってくる気胸で、大至急治療が必要になります。
      ブラ自体には、血流はほとんどありませんが、ブラの周囲にはよく炎症が起きていて、癒着(ゆちゃく)を起こし、癒着の中に細い血管が増生していることがあります。気胸をおこして肺が縮むと、これらの血管が引きちぎれて、血管から出血することがあります。血管から直接出血しているためか、気胸のために大きな空間が広がっているためなのか、大量の出血となることがあります。気胸発生から何時間もせずに、1~2リットル以上の出血(全身の血液は4~5リットルくらいです)になり、ショック状態となることがあります(特発性血気胸といいます)。緊急の手術が求められます。
      左右両側に同時に気胸を起こすと、肺に上手く息を吸い込めない状態になります(同時性両側気胸と言う状態です)。すべての同時性両側気胸が、直ちに呼吸停止を起こすのではありませんが、危険な状態です。最低でもどちらか一方の気胸を、急いで改善して、呼吸できるようにする必要があります。もちろん、引き続いて反対側も、気胸を改善させる必要があります。
      空気漏れが続き、肺の外に漏れた空気の量が増え続けると、肺が縮むだけでは足りなくなり、頑丈な心臓でさえ、強く圧迫されるようになります。心臓が止まったり、不整脈を起こしたりする大変危険な状態で、緊張性気胸と呼び、レントゲンを撮ると心臓が反対側に移動、変形している状態がわかります。緊張性気胸は急速に進むことがあり、大変危険な気胸です。取り急ぎ空気を抜く治療が必要です。

    5. Q

      気胸で死んでしまうこともあるのですか?

      A

      前項で上げた状態では、特に至急の治療が必要ですが、どんな気胸でも、治療が手遅れになれば、あり得ます。難治性の気胸では、感染症や換気不全などを併発して死亡することがあります。
      前項に上げている状態では、治療が手遅れになると、短時間で死に至る可能性はあります。原発性自然気胸で死亡にまで至るケースは滅多にありませんが、続発性自然気胸では様々な治療を行っても、気胸が改善せず、合併症などにより死亡に至ることは少なからずあります。大量の空気漏れがあって、換気ができなくなるケースもあります。外傷性気胸では、外傷の程度によっては、換気ができずに死亡に至ることがあります。

    6. Q

      出血する気胸があるのですか?

      A

      あります。
      出血を伴う気胸を血気胸(けっききょう)と言います。ちなみに「血気胸」は病態を示し、病名として使う場合は「自然気胸」のままです。大量出血を伴う場合を、特別に「特発性血気胸(spontaneous hemopneumothorax)」と呼び分けることがあります。
      気胸の多くは、肺、胸膜と言う組織が裂けていますので、多少なりとも出血を伴うことはあります。ただし、破れた部位の肺の組織は、稀薄となった末に破れているので、周囲の組織には血流がほとんどありません。従って気胸自体は、大量の出血を引き起こす病態ではなく、出血はあっても少量のこと(50ml以下)が多いです。
      ところが、少ないとはいえ、気胸の発症が、数百mlを超える大量出血の引き金となることがあります。大量に出血するのは、肺が虚脱(縮む)した時に、一緒にちぎれてしまう血管があるからです。ちぎれるのは、肺の中の血管ではなくて、肺と胸壁の間に新しくできた血管で、ブラ(気腫性肺嚢胞)の周囲にできていることが多いです。このような血管が、ブラの周囲に出来る原因や機序は、よくわかっていませんが、過去の気胸が治る過程で出来た可能性や、肺炎などで肺と胸壁の間に生じた炎症がきっかけで、新たに出来た可能性などが考えられています。血管が破綻して出血する場合、2~3リットルを超えるような大量の出血となり、心臓が止まるような状態になることもあります。

    7. Q

      血痰が出ましたが、気胸ではないでしょうか?

      A

      原発性自然気胸では、血痰が出ることはほとんどありません。続発性自然気胸では、原因となる疾患により気胸発症時に血痰が出る可能性がありますが、頻度は低いです。
      口から出た痰に血液が混ざっている場合、血痰(けったん)と言います(ちなみに、痰に混ざっている程度を超えて、血液そのものが、咳とともに出ることは喀血(かっけつ)です)。胸腔(きょうくう)に出血している血胸とは違います。大雑把に、肺の中に出血している場合は血痰になり、肺の外に出血している場合は血胸になると捉えてよいかと思います。
      もともと原発性自然気胸の原因になるブラは、血流が少なく、破れても出血はほとんどありません。出血を伴う気胸(このような気胸を血気胸と言います)となっている場合でも、多くは、肺の表面側にできた血管が破れて、出血しています。血気胸でも、肺の内部に血液が入り込むことは、ほとんどなく、流れ込んだとしても、肺の隅から肺の根元まで来て、口を通って痰として出るまでには、少し時間がかかります。
      続発性自然気胸の病態はさまざまですので、血痰と気胸の関係は、ある場合も、ない場合もあります。
      いずれにせよ、血痰があること自体は、何らかの病気の存在を考えさせる事態です。医療機関を受診しましょう。

    8. Q

      どのようにして、気胸と診断するのですか?

      A

      症状や経過から気胸の発症を疑い、胸部レントゲン写真で気胸の存在(無血管野)を確認します。
      健康そうな若者が、特徴的な症状で来院したら、ほぼその時点で自然気胸を疑います。典型的な体型ならなおさらです。もちろん筋肉痛のことも少なくありません。そこで検査となりますが、基本は、胸部レントゲン写真です。打診(胸をトントンする診察方法)で、気胸の存在がわかる場合もありますが、不確実で、レントゲンなしに診断することは(超緊急時以外は)しません。肺があるべきところに肺が写っていないことを、レントゲンで確認します。無血管野と呼ばれる所見が、あばらの内側に広がって、さらにその隣(内側)に、血管が写っている領域(肺であることを示す)があることを確認します。「無血管野」はレントゲン検査の用語で、均一な空気濃度の領域を指します。肺の中の構造である「血管」が写らないことをもって、何もない空間があると判断するので、無血管野と呼びます。無血管野と血管陰影がある肺の領域の間には、境界線が写っていることが多く、よく見るとこの境界線上に凹凸、あるいは2重線になっている場合があり、ここにブラがあると言われています。この所見ははっきりと見えないことも多く、病変を推定する方法としては不確実で、現在では、CTが気胸の存在やブラを同定するのに便利です。ただし、こうしたブラの存在や位置に関する情報は、気胸の診断と初期治療には不要です。
      無血管野が、血管陰影がある肺と肋骨(あばら)の間にあれば、必ずしも肺の外(胸腔)に空気があるとは限らず、気胸(胸腔に気体が溜まっている状態)であると安易に診断できません。肺に生じたブラが巨大になってしまうと、同様の所見を示すことがあるためです。巨大化したブラの内側(つまり肺の中)の空気なのか、肺の外にたまった空気なのか、熟練の呼吸器専門医でも見分けられないことがあります。CT検査まで行えば、見分けがつくことが多いのですが、CT検査でもなお、見分けられないことはあります。
      また、気胸が軽度であった場合や、肺の前後に気胸腔があった場合、前後方向にエックス線をあてて撮影する平面的なレントゲン撮影では、無血管野が肺と重なるために、無血管野が認めれられない、つまり気胸を見逃してしまうこともあります。このよう気胸を潜在性気胸(occult pneumothorax)と呼ぶ場合があり、CT検査で初めて気胸の存在がわかります。

    9. Q

      CT検査は必要ですか?

      A

      気胸と診断するだけなら、ほとんどの場合不要です。
      CT検査は、気胸の検査としては精密検査の位置づけです。レントゲンの次の検査として行うことが原則ですが、胸部レントゲン写真の読影に自信がない場合に、初診段階でレントゲンと同時にCTが撮影されることはあり、近年はそうした事例が増えています。外傷性気胸では、肺の損傷の原因となった肋骨骨折や、その他の外傷や出血がないか調べるため、CT検査は初診段階でよく行われます。
      今日のCTでは、わずかな気胸の存在や、自然気胸の原因となる小さなブラも、かなり正確に描出できるようになっています。気胸の初期治療には、ブラの位置や大きさなどの情報は不要ですが、ブラ以外の病気が見つかれば、続発性自然気胸の可能性を考える必要があります。手術が必要な場合は、病変についての情報が有用になりますので、当科では自然気胸の方には、精密検査としてCT撮影を行っています。
      CT検査は、撮影のタイミングが重要です。気胸のままで、肺が虚脱した状態では、虚脱した肺の中に病変があった場合に何も情報を得られません。病変に関する情報は、肺が少し膨張してからの方が多く得られます。CTでしかわからないような潜在性気胸は、ほとんどの場合、緊急の処置を必要としませんので、(少なくとも当科では)レントゲン検査で気胸が認められない時は、X線被曝や検査費用のことも考え(過剰診療とならないよう)、念のためにCTを撮影するということはしておりません。

    10. Q

      気胸を起こしやすい、遺伝する病気があるのですか?

      A

      気胸が遺伝することはありませんが、遺伝する病気で気胸を起こしやすい病気は、少ないけれどもあります。
      よく知られている疾患としては、マルファン症候群(Marfan syndrome)や、エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos syndrome)、バート・ホッグ・デュベ症候群(Birt-Hogg-Dube syndrome)、嚢胞性線維症(cystic fibrosis)などがあります。いずれも難病として国から指定されている病気です。異常を認める遺伝子が特定されていますが、まだ未解明のものもあるとされています。その遺伝子異常があれば、必ず気胸を起こすということではなく、その遺伝子異常があると、全身に病変や異常が生じ、そのうちの肺に生じた異常が、気胸を起こしやすいものだということです。気胸は、それぞれの病気の一症候として発症するものです。それぞれの病気についての詳細は、厚生労働省の難病に関するホームページをご覧になるか、各診療領域の専門施設でお尋ねください。これらの病気で気胸を発症した際は、呼吸器外科で気胸の治療をしますが、より重要な根本的治療は該当診療科で行います。
      他に、結節性硬化症(tuberous sclerosis, TS)と言う遺伝性の病気(これも難病指定されています)の人では、気胸を起こしやすいリンパ脈管筋腫症(みゃっかんきんしゅしょう、lymphangioleiomyomatosis; LAM)と言う病気を合併することが知られています。

    11. Q

      気胸がきっかけで発見される、全身の病気があるのですか?

      A

      少ないけれど、あります。
      続発性自然気胸は、多くの場合、肺の病気(呼吸器疾患)が進行して、肺が破れてしまいます。肺に生じる異常は、肺以外には生じないことがほとんどです。多くはありませんが、全身の病気の一つの病状として、肺に異常が生じ、気胸を発症する病気があり、気胸が初発症候となることがあります。将来、肺以外の臓器に病変が出現する危険性に、十分注意してください。気胸は治っても、後から見つかるかもしれない肺以外の病変が、命に係わる病気となることがあるからです。
      上述のマルファン症候群(Marfan syndrome)やエーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos syndrome)では、大動脈瘤や大動脈解離などで突然死する可能性があり、バート・ホッグ・デュベ症候群(Birt-Hogg-Dube syndrome)では腎がんの発症が指摘されています。頭の皮膚に出来る血管肉腫(けっかんにくしゅ)と言う悪性の腫瘍はよく肺に転移して気胸を起こし、それがきっかけで、頭にあるニキビのような病変が、腫瘍(血管肉腫)とわかることがあります。白血球の一つであるランゲルハンス細胞と呼ばれる組織球が、腫瘍性に増えて、全身にこぶ状の病変を作るランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis)も、反復する気胸から診断されることがあります。子宮内膜症の一部でも、気胸がきっかけで見つかるものがあります。

    12. Q

      痩せていなくても、気胸になるのですか?

      A

      なります。
      痩せていなくても、原発性自然気胸となる人はいます。原発性自然気胸で、多いのは「やせ」型体形の方で、胸郭の前後径が左右径より小さい、胸が薄い体形が、典型的な「気胸」体形といわれているものです。背が高いこととは関係ないのですが、こうした胸郭の方は、単に痩せているだけでなく、背が高いことが多いです。太れば再発しにくくなるというのは、科学的な立証のない通説で、当科ではこの説を支持していません。胸郭(肋骨より)外の筋肉や脂肪が、肺のブラ形成に影響しているとは考えにくく、また、大人になって骨格が形成された後に、胸郭外の変化があったとして、それが気胸の再発予防効果を持つかどうか疑問です。続発性自然気胸では、気胸と体形には関係がありません。

    13. Q

      女性でも、気胸になるのですか?

      A

      なります。女性にしか起こらない特殊な気胸もあります。
      原発性自然気胸では、男性の比率が高いことは、今も変わりませんが、以前より女性の比率は高くなっている印象です。続発性自然気胸では、疾患ごとに性別の比率が変り、一定していません。女性にしかかからない病気の中に、気胸を合併しやすいものがあり、異所性子宮内膜症(いしょせいしきゅうないまくしょう)という病気では、月経に合わせて気胸を繰り返す(月経随伴性気胸、げっけいずいはんせいききょう)ことがあります。肺移植の対象ともなっているリンパ脈管筋腫症でも、頻回に気胸を起こすことが知られています。いずれも女性ホルモンの関与が考えられており、婦人科での治療が必要になる場合があります。

    14. Q

      生理のたびに、気胸になる病気があるのですか?

      A

      月経随伴性気胸と呼ばれる病気があります。
      月経随伴性気胸は、子宮内膜症が肺に起きている病気と考えられています。子宮内膜は、生理の際に子宮から剥離して月経血として体外に排出されます。子宮内膜が子宮の内側以外のところに生着してしまう病気が子宮内膜症です。子宮内膜症のほとんどが、骨盤近くのお腹の中に出来ますが、稀に、横隔膜を貫通して肺に到達することが知られており、肺に生着した子宮内膜が生理の度に脱落して、肺に穴が開き、気胸となります。脱落した跡には、必ずしも子宮内膜を認めるとは限らず、線維組織しか残っていない場合もあって、診断が確定できない人もいます。月経随伴性気胸では、横隔膜に穴が開いていることが多く、子宮内膜が横隔膜に生着していることが原因と考えられています。肺の病変が認め難いこともあって、昔は、肺が破れて気胸となるのではなく、体外の空気が、膣から入って、子宮から卵管、お腹の中を通って、横隔膜の穴から胸腔に空気が入ってくるという説が信じられていました。もちろん、この説を信じている気胸の専門家は、今ではいないと思います。現在は、異所性子宮内膜症のうちの、胸腔内子宮内膜症として扱われており、気胸の初期治療に続いて、婦人科での子宮内膜症治療が行われています。必ず婦人科での治療を受けてください。気胸自体は、手術や癒着療法をしても、再発を繰り返すので、大変治療は難しいです。

    15. Q

      気胸を起こすのは、ホルモンの異常ですか?

      A

      特殊な続発性自然気胸を除き、これまでに何かのホルモンが、ブラの発生や気胸の発症に関与したことを証明した報告はありません。
      現在のところ、体内のホルモンは、ブラの発生や成長、気胸の発症には関係していないと考えられています。

    16. Q

      小学生は、気胸にならないのですか?

      A

      ほとんど見られず、非常に珍しいです。もし気胸となったとすれば、先に原発性自然気胸以外の病気を調べたほうが良いかもしれません。
      原発性自然気胸は、若い人に多い病気ですが、中学生以下の児童生徒にはあまり見られません。特に小学生以下ではほとんど見られず、気胸があるとすれば、原発性自然気胸よりも先に、他の病気を調べる方が良いといわれるほどです。なぜ小児期に少ないかはよくわかっていません。男子の場合、高校生ごろに身長が伸び、身長の伸びが止まったあとの18歳ぐらいから、ブラの発生や気胸を見ることが多くなります。最も成長が著しい小児期には、ブラの発生は殆どありません。骨格の成長に比べ、内臓器の成長の時期は少し遅れますので、見た目の成長よりも、両者のバランスが関係していると考える人たちもいます。これも説であり、小児に気胸が少ない理由は全く分かっていません。

    17. Q

      大人になったら、気胸にはならないのですか?

      A

      原発性自然気胸の場合、30歳代以降になると発症の頻度は下がり、40歳以上になると新規の発生は、ほとんど見られなくなります。ただし、80歳を過ぎても、初発の原発性自然気胸と思われるケースはあります。続発性自然気胸は年齢ともに増えます。
      理由は分かりませんが、20歳代後半をピークに、原発性自然気胸の発症頻度は急速に減っていきます。40歳代以降で気胸を見たら、まず続発性自然気胸を疑うのが常道です。多くの続発性自然気胸は、年齢が増すに従って肺の病変が進行し、気胸の頻度も増していきます。気胸患者数は、年齢別のグラフにすると二峰性になることが知られています。しかし、非常に少ないとは言え、60歳、70歳をすぎても、小さなブラ1個しかない気胸で、原発性自然気胸と診断すべき例もあります。

    18. Q

      マルファン症候群の疑いは、ありませんか?

      A

      マルファン症候群の方が自然気胸になることはよくありますが、自然気胸の方がマルファン症候群である頻度は低いです。
      高身長や側弯などの体形が、気胸体形とよく合うため、原発性自然気胸自体が、マルファン症候群(Marfan syndrome)との関連を疑われていた時代もありましたが、今日では異なる疾患群と捉えられています。マルファン症候群は、若い年齢で大動脈の破裂などを起こして突然死を来すような病気で、結合組織が脆弱となる遺伝病です。単に自然気胸と診断されただけなら、マルファン症候群の可能性を考える必要はありませんが、目に症状(水晶体脱臼)がある、大動脈に拡大などがある、あるいは家族に同様の病気の人がいるような場合は、一度、担当医か専門家に尋ねてみると良いでしょう。マルファン症候群は遺伝子の検査でもわかります。

    19. Q

      漏斗胸では、気胸になりやすいのですか?

      A

      漏斗胸では、ブラの発生や気胸の合併が良く見られます。
      胸部の骨格異常の中で、前胸部が凹んだような変形を来す漏斗胸では、結果として胸板が薄い(胸郭の前後径が短い)体形になり、「痩せ」た体形と同じように、ブラの発生や気胸の発症が多いと言われています。胸郭の前後径が伸びるような体形(鳩胸(はとむね)や樽状胸(たるじょうむね))は、気胸と関係ありません。ただ樽状胸は、続発性自然気胸の原因疾患として最も多い慢性閉塞性肺疾患(COPD, chronic obstructive pulmonary disease)により形成されることがあり、COPDが進行すれば気胸を合併することはあります。
      背骨が左右方向にS字に曲がったまま成長する側弯症(そくわんしょう)では、漏斗胸を併発していることが多く、結果としてブラの形成に関与していることがあります。
      こうした骨格の異常があっても、直ちに気胸を起こすということではありませんので、気胸を一度も発症したことがなければ、特に予防的な治療は必要ありません。

    20. Q

      点滴や飲み薬で、気胸を治すことはできませんか?

      A

      できません。
      自然に治ることはあっても、飲み薬や点滴などの注射薬で気胸を治すことはできません。瘻孔(ろうこう、体内にできた洞窟状の穴のこと)の閉鎖促進を謳う薬品はありますが、特殊な病態(傷を治すための血液の因子が欠乏している病気の方)用であり、気胸の治療には使いません。

    21. Q

      気胸が、自然に治ることがあるのですか?

      A

      あります。
      かなりの頻度で、自然気胸は何もせず、自然に治っていると推測されます。

    22. Q

      空気が漏れている穴が、自然にふさがるのですか?

      A

      生体が持つ組織修復機能が働いて、塞がると思われます。
      皮膚を切って傷ができても、生体の修復機能が働いて、少し跡が残ったとしても治ってしまいます。決して絆創膏や付けた薬のせいではありません。肺の病変に空いた穴も、人体の組織修復機能が働いて、塞がるものと思われます。空気漏れは、徐々に収まって止まるだけでなく、ある日突然止まることもあります。いつ穴が塞がるか、言い換えると、いつまで空気漏れが続くか、いつ止まるかの予想は難しく、確実に予想する方法はありません。

    23. Q

      気胸になった時は、どのように治療をするのですか?

      A

      気胸の初期治療の基本は、肺を修復することではなく、第一に「胸腔の機能を取り戻す」ことです。その結果、萎んだ肺が膨張し、呼吸が楽になります。「空気漏れを止める」ことは二の次です。
      気胸による障害の多くは、胸腔と言う構造が機能破綻していて、肺が肺として機能していないことに起因します。胸腔の機能を取り戻すことは、すなわち肺を元の形に戻すという作業に他なりませんが、たとえ空気漏れが続いていても、肺が肺として機能すれば、ほとんどの自覚症状は消失します。
      胸腔内に貯留している空気を排除して、胸腔内の気体を減らすことで、胸腔内を減圧し、その状態を維持することが目標です。漏れてくる空気があるならば、漏れてくる量以上の空気を、どんどん排除すれば同じように減圧できます。継続して漏れてくるなら、継続して空気を排除します。胸腔内が減圧されれば、肺は胸郭の方へ吸いつけられるように伸び、同時に呼吸の運動(横隔膜の動き)が(胸腔を介して)肺の動きとして伝わるようになります。このように、胸腔内を陰圧に保ち続けることが気胸の初期治療の基本です。
      ちなみに胸腔内の空気を排除して減圧をする治療行為を、脱気(だっき)と言います。継続的に脱気することを、ドレナージ(drainage、排水)と言い、ドレナージは外科処置や手術でよく使う治療手技です。気胸では胸腔をドレナージするので胸腔ドレナージと言います。
      治療としては、もっと単純に、もっとダイレクトに、空気漏れを塞げば良いように思われますが、肺に生じている空気漏れを塞ぐことは、手術なしでは不可能です。幸い、肺に開いた穴は、自然に塞がることも多く、病院で気胸と診断された時点で、(肺は萎んでいたとしても)すでに空気漏れが止まっていることもよくあります。気胸治療で、空気漏れを塞ごうとすることは、どうしても空気漏れが止まらない時の、どちらかと言えば最終手段に近いものです。
      胸腔の余剰空気を排除している間に肺に開いた穴が塞がることを期待している、というなんとも牧歌的な治療が、21世紀の今日も行われ続けているのです。

    24. Q

      脱気(だっき)とは、何ですか?

      A

      圧勾配に逆らう方向へ、気体を移動させることを言います。気胸診療で脱気治療と呼ぶ場合、針を胸腔に刺して、中の空気を注射器で吸い出す方法を指すことが多く、穿刺(せんし、針を刺す行為)による脱気のことを言う場合が多いです。
      物理法則では、気体は、気圧の高いほうから低いほうへ、自然に移動します。圧勾配に沿って気体を排出することを「排気」といいます。物理法則に逆らって、気圧の低い場所から高い場所へ気体を移動させることは「脱気(だっき)」と呼び分けます。気胸の治療で「脱気」が使われるのは、相対的に気圧の低い胸腔内の気体(肺から漏れ出た空気)を、気圧の高い体外(ふつうは大気圧)へ吸い出す必要があるためです。
      吸い出す方法はいろいろあります。注射器と針を使って手動で吸い出してもよいですし、患者自身の「いきみ」を動力にして、押し出す方法もあります(この場合は、圧の関係が逆転するので、厳密には脱気とは言えないかもしれません)。特殊なポンプを使う方法もあります。

    25. Q

      チューブ(管)による治療とは、何ですか?

      A

      肺から胸腔へ漏れ出た空気を、体外へ排気(脱気)するための治療です。因みに、排気や排水のためのチューブを医療分野でも、ドレーン(【英】drain排水管)と呼び、チューブによる排気・排水のための治療法をドレナージと呼びます。
      針を刺す方法(穿刺)でも、空気を抜くことはできますが、空気が抜けると肺が伸びて、針先にあたるようになり、新たな肺の損傷を起こします。脱気に時間がかかるような時や、針から抜ける脱気量では間に合わないような時、穿刺治療は不向きです。また、空気漏れが止まっていなければ、針を抜いてしまえば、またすぐに空気が溜まりますので、脱気が継続してできることが必要ですし、空気を抜く効率を考えると、針より太いもので、空気を抜くことが望ましいでしょう。そこで、柔らかくて、針より太いチューブを胸腔内に入れておき、このチューブ(ドレーン)を介して、しばらく継続して脱気し続け、余剰空気や液体を排出するようにします。ほとんどのドレナージではシリコン製のチューブが使われ、外径は1センチ前後です。もちろんチューブだけでは空気は抜けませんので、継続的に空気を抜くための装置(ドレナージシステムと呼ぶ)が必要です。

    26. Q

      チューブ(管)だけで、気胸が良くなるのですか?

      A

      よくなることが多いですが、工夫が必要です。
      気胸をよくするためには、チューブ(ドレーンと呼びます)の大気側(体外側)の出口を、空気が一方向にしか流れない構造にしておくことが必要です。チューブの体外側の出口には、空気が体外に出て体内に戻ってこないような構造を持った一方向弁(フラッターバルブとか、開発した人の名前を付けてハイムリッヒ弁と言う人もいます)がついています。蓋のようなものでも、柔らかいゴム手袋に穴をあけたようなものでも、機能的には十分ですが、胸腔からは、空気以外にも、液体や少ないながらも固形物が排出されるため、一番よく使われるのは、水を入れた瓶を使う方法(水封式)です。瓶に溜まった水に、チューブの先を浅く浸けておくと、水が一方向弁の役割を果たします。詳細な説明は省きますが、瓶の数やつなぎ方を工夫すれば、体内から出てくる液体なども回収できます。何より簡便で、トラブルが少なく、優れた方法です。このような瓶を、一つのパッケージにして販売されているものがドレーンバッグで、箱型の容器になっています。こうした装置とチューブを含めた全体を胸腔ドレナージシステムと呼びます。胸腔ドレナージは気胸治療の主役です。

    27. Q

      短時間で、肺を膨張させることは良くないのですか?

      A

      長期間萎んでいた肺を、急速に膨張させると、再膨張性肺水腫と言う合併症が発生しやすいと指摘されています。
      気胸の治療で、萎んでいた肺が膨張する際に、肺の中に炎症が生じてしまう合併症があり、再膨張性肺水腫と呼ばれています。気胸を治療しているのに、逆に息苦しさや咳が出てしまうような状況になり、ひどい場合は萎んでいなかった肺にも炎症が拡がります。なぜ起きるかよくわかっていませんが、長期間萎んでいた肺を、急速に膨張させようとすると発生しやすいという指摘があります。萎んだ肺はゆっくり膨張させた方が良いという指摘は、おそらくこの合併症を懸念されているものと推測します。再膨張性肺水腫については、予見する方法や効果的な予防法がありません。治療は一般的な肺水腫の治療が行われますが、自然に改善することもあります。

    28. Q

      トロッカーとドレーンは、違うモノですか?

      A

      トロッカーは、チューブの形態(構造)から見た分類名称のことで、ドレーンは目的(機能)から見たチューブの呼称です。胸腔ドレーンとして、トロッカーチューブを使うことが多いので、胸腔ドレーンのことをトロッカーと呼ぶ医師がいます。
      体内に入れるチューブのうち、二重管構造の医療用具をトロッカー(trocar)と呼びます。ドレーンは、排液を目的とするチューブ全般を言う言葉です。トロッカーは、内側に先端をとがらせた金属製の芯(内筒、内套、ないとうと呼びます)があり、その周りはシリコン製チューブ(外套)となった構造をしているものを言います。内外套は密着しており、両者を持って体に刺し込み、目的の空間に入ったら、内筒だけを抜いて、外套のチューブは、そのまま目的の空間に留置します。点滴の際に刺される、留置針と同じ構造(針は残らず、細いチューブだけ残ります)です。胸腔ドレーンは、トロッカー式のチューブを使って留置することがほとんどなので、胸腔ドレーンのことをトロッカーと呼ぶ習慣がある医師がいますが、同義ではありません。

    29. Q

      チューブを入れただけで、肺に開いた穴が塞がるのですか?

      A

      チューブは、直接肺の穴を塞いだり、病変を消失させたりはしません。開いた穴は、自然に塞がるのを待つだけです。
      手術でもしない限り、肺に開いた穴は、生体の傷を直す力で塞ぐしかありません。そこで、より上手く生体の組織修復機能が働くように、環境を整えるような工夫が必要です。チューブやドレナージ自体が穴をふさぐことは考えられませんが、チューブを挿入することで、肺を十分膨張させることができれば、空いた穴に対する修復機転は働きやすくなる、という考え方はあります。肺が伸び、胸壁(あばら)に密着するほど膨張していれば、穴の場所の肺も、胸壁に接するようになり、穴は蓋をしたような状態になります。この状態が続けば、穴はふさがりやすくなると言うのです。肺を上手く膨張させることができれば、空気漏れを早く止めることができると考える人たちは、気胸を専門とする医師にも多数おられます。しかし、この過程を実際に見た人はいませんし、肺が膨張していなくても、穴が塞がっていることはよくあります。
      血液や胸水、特に生体のたんぱく成分を含んだ胸水が溜まっていると、穴が塞がりやすくなるともいわれています。そこで、これらの液状成分を胸の中に長くとどめておけるように、チューブの配置を工夫すると良いとする意見もあります。
      こうした工夫が、どの人に、どの程度有効かはわかりませんが、ただチューブを入れておくだけではなく、何か積極的に工夫をしていこうという姿勢は、無駄ではないだろうと思われますし、気胸治療に興味を持つ医師なら、多かれ少なかれ、こうした努力をしていると思います。

    30. Q

      痛くないように、胸にチューブを入れられないのですか?

      A

      日々努力しておりますが、無痛というまではできていません。
      チューブを入れる際は、局所麻酔(傷の周辺に麻酔薬を注射する方法)をしてから始めます。チューブ挿入の際の痛みは、様々な要素が関わりますが、確かに技量も大きな要素です。当科では手技の一つ一つを吟味して、より痛みを感じないように、また、より安全に治療を完遂できるよう、努力しており、他院で入れた時より楽だったなどの、お褒め言葉をいただくこともあるのですが、全ての方に、全く痛みを感じずにチューブを入れるところまでには至っておりません。今後の医療の発展に、ご期待いただくしかありません。

    31. Q

      もっと細いチューブでは、だめなのですか?

      A

      当科では、入院して行う気胸の治療では細いチューブでの治療はお勧めしていません。
      チューブの太さは、治療効果に関係ないとの報告もありますが、細いチューブの管理は非常に難しく、トラブルの原因になりやすいので、当科では入院治療として行う胸腔ドレナージには、あまり細いチューブは留置していません。細いチューブは本来、胸水(きょうすい、胸腔にたまった水分)を排除するためのもので、細いがゆえに折れやすく、詰まりやすいです。細いチューブは入れやすいことから、気胸治療を専門としない医師には好んで使われる傾向がありますが、細いチューブによるトラブルは、少なからず見受けられます。胸腔ドレーンの治療効率は、流体の力学から考えて、チューブの断面積が広いほうが断然優れています。気胸では、チューブを機能させることが治療の全てですから、少しでもトラブルが起こらないようなチューブ、つまり細すぎないチューブを入れることが重要と当科では考えています。当科では、細いチューブを入れる場合は、どうしても細くないと入れることができないような特殊なケースや、主として排水が目的のドレナージに限っています。

    32. Q

      気胸の程度に、分類があるのですか?

      A

      肺の縮み具合を分けた分類はいくつかありますが、重症度の分類ではありません。
      肺の縮み具合を正確に計算するためには、肺の容量を計算する必要がありますが、簡易的に、平面的な胸部レントゲン写真で、肺の縮み具合(虚脱率)を調べて、気胸の程度として記録することはあります。面積を計算して、比率で出すほうが、より正確と思われて、いくつかの方法が提唱されてはいますが、意外と肺の大きさを計算することは簡単ではなく、実践的ではありません。そこで、さらに簡易に、鎖骨の高さを基準として肺の虚脱を2つに分ける方法が、よく使われます。ただし、レントゲン上の鎖骨の位置は、撮影時の姿勢によって大きく変わるので、絶対的な指標にはなりません。
      間違えてはいけないことは、気胸では、診断時の虚脱率より、発症からの時間経過のほうがより重要で、虚脱の程度だけでは、気胸の重症度にはならないという点です。虚脱の程度が軽くても、軽症と判断してはいけません。発症からの時間が短ければ、どんな気胸もまだ虚脱は軽度のはずです。

    33. Q

      軽症の気胸とか、重症の気胸とかあるのですか?

      A

      気胸には重症度を示す分類はありません。気胸の重症度は、簡単に表すことは意外と難しく、何をもって重症とするかが課題です。
      肺の虚脱率を重症度とみなす人がいますが、このやり方は上手くありません。確かに肺の虚脱の程度は、症状に現れることが多いのですが、別項に回答したように、肺がほぼ完全に虚脱しているのに、ほとんど症状がない人もいます。肺が虚脱していても、すでに空気漏れが止まっていて、症状が軽い人にまで、重症と言うわけにいきません。虚脱の程度と症状の程度は必ずしも、相関せず、重症度分類と捉えることは異論が多いです。同じ理由から、症状をもとに、重症度を決めることも、行われていません。初診時の状態は、発症からの時間的経過も加味して見ることも重要です。
      次に、空気の漏れ具合を、重症度としてとらえる考え方です。気胸の進行速度は、空気漏れの程度で決まり、空気漏れがひどいものは、肺が縮むだけでは済まないこともあります。この考え方は、気胸を治療するうえでは、とても有益ですが、漏れている空気の量を簡易に測定する方法がありません。治療開始しないと、漏れている空気の量そのものはわからないのです。また、気胸がどこまで進行するかは、漏れている空気の多寡だけでなく、空気漏れがどのくらいの期間続いているかにも依ります。わずかな空気漏れでも長期間続くと、肺の虚脱は進行してしまいます。
      概ね、症状は治療の緊急性を、肺の虚脱率は空気漏れの総量を、空気漏れの程度は進行の速度を、それぞれ示す指標であり、どれかひとつで、重症度を示すことは難しいのです。

    34. Q

      空気漏れが続くかどうか、目安や基準はないのですか?

      A

      確実な方法はありません。
      呼吸器外科医ならば、独自に目安を持っているとは思いますが、科学的に立証された普遍的な基準はありません。空気漏れがひどい場合や、数日間空気漏れの程度がひどい場合は、しばらく止まらないと思うことが多いですし、実際そうですが、2か月続いた空気漏れが、手術予定日の朝に突然止まって、そのまま治ったような事例も経験したことがあります。逆に、わずかな空気漏れなのに、何週間も継続していることもあります。空気漏れがある場合、初診時や翌日の段階で、空気漏れが止まるかどうかを判断することは不可能で、安易にすべきでもありません。

    35. Q

      空気漏れが続くかどうか、いつまでに判断したらよいですか?

      A

      期限はありませんが、チューブ留置の期間が延びると感染のリスクが増しますので、何週間も様子を見るようなことは避けたほうがよいでしょう。
      何も障害が生じないなら、ずっと様子を見てもよいのですが、いつまでも様子を見ていると、感染(化膿)のために、気胸の治療だけでは済まなくなります。空気漏れがあるかどうかを見るため、チューブ(胸腔ドレーン)が留置されているはずです。このチューブの周囲には、胸の中と胸の外をつなぐトンネルが形成されます。このトンネルを伝って、体の表面(皮膚)に常在するバイ菌が、体内に入り込み、胸の中(胸腔)で増殖してしまうと、傷が化膿したり、胸の中(胸腔)が化膿したり(膿胸のうきょう、という病気です)します。特に膿胸は、非常に薬が効きにくい化膿性の病気で、重篤な場合は、菌が血液にまで入って(敗血症はいけっしょう、という状態です)、菌が全身の臓器まで回ってしまうと、死に至ることもあります。こうした現象を、逆行性感染(ぎゃっこうせいかんせん)と呼び、気胸治療では絶対に回避したい状況です。
      どのくらいで、逆行性感染が成立するかは、ケースバイケースで、数日以内に感染となることもあれば、半年近く感染を起こさなかったケースもありました。一般的には2週間程度が目安ですが、空気漏れが数日継続する場合は、しばらく空気漏れが止まらないことを覚悟しておいたほうが良いでしょう。
      突然、空気漏れが止まることもありますが、医学的に手術が困難という理由で、手術を回避しているのでない限り、2週間以上、空気漏れが続く場合は、手術などの治療を検討し、遅滞なく実施されることをお勧めします。

    36. Q

      空気漏れに程度があるのですか?

      A

      公式に定義された分類はありませんが、空気漏れの程度は治療をする上で、重要な情報になります。
      空気漏れは突然止まることもありますが、多くの場合は、徐々に漏れ方が少なくなっていき、ついに停止するという過程を経ます。そこで当科では、空気漏れの程度を5段階にして、毎日の経過を記録しています。0:空気漏れなし、1:咳や深呼吸時に空気漏れがある、2:会話時に空気漏れがある、3:息を吐くとき(実際には息を吸うときに漏れるが、息を吐くときでないと外から検出できない)に空気漏れがある、4:常に空気漏れがある、です。当科では、空気漏れの程度の推移を見ることは、空気漏れの停止を予想するうえで、非常に有益であると考えています。

    37. Q

      空気漏れはどのように調べるのですか?

      A

      胸腔内にチューブを挿入して、胸腔内の圧力の情報を得ることで調べます。
      現在の診断技術では、胸腔にチューブを入れずに、空気漏れの有無や程度を知る方法はありません。胸腔内圧が、呼吸や発語などの際に上がってくるようであれば、胸腔内に余剰の空気が漏れた証拠であり、空気漏れありと判断できます。胸腔につながるチューブ内の圧力を、直接調べるデジタル式の圧力計装置も開発されていますが、まだ使われているのは一部で、チューブの先端を水中に沈めて、大気圧との圧力差を見る水封式システムを使うのが一般的です。

    38. Q

      ドレーンバッグの水が入っているところに泡が出たら、空気漏れがあるということですか?

      A

      厳格に言えば、水封槽の胸腔側の水位が(呼吸で)下がれば、空気漏れがあります。泡の出る出ないだけを見て、空気漏れを判断することは、間違いのもとです。
      水封ビンの体内側の水位をよく見てください。水位は呼吸の度ごと、あるいは時間の経過に従って下がっていませんか?どの時間幅であれ、水位が下がっていれば空気漏れはあります。空気が漏れていれば、水位が下がる>下がる>下がる>下がる…>下がる>(敷居を超えて)泡が出る>(泡となった空気の量の分だけ)水位が一時的に上がる>下がる>下がる…の繰り返しのはずです。「>」と「>」の間の数が異なるということは、一呼吸当たりに漏れる空気の量が違うだけで、空気漏れがあることは同じです。水位が下がっていても、泡が出るまでに、何分もかかることもあれば、呼吸の度ごとに泡が出ることもある、その違いにすぎません。空気漏れがあっても、ちょっと見では、泡が出ていない時間帯はあるので、観察時間が不十分であれば、「泡が出ていない」=「空気漏れがない」と、誤って判定する可能性があることが、お分かりになったでしょうか。十分な観察時間を、具体的な数字で決めることは難しいですが、短い時間で判断するなら、先に述べたように、水位が下がるかどうかを見ることです。「泡が出る」=「空気漏れがある」は、完全にイコールではありません。下の問答も参考にして下さい。

    39. Q

      ドレーンバッグの水が入っているところに泡が出ても、空気漏れがないことがあるのですか?

      A

      空気漏れとは無関係に、ドレーンバッグの水封ビンを通して、体内外に空気が出入りして、泡が出ていることがあります。泡の出る出ないだけを見て、空気漏れを判断することは、間違いのもとです。
      泡が出ているということは、胸腔側に余剰な空気があることを意味しますが、肺から漏れた空気とは限りません。水封槽は水を入れたただの瓶ですから、空気が大気中から胸腔内に逆行することがあり、胸腔内の余剰空気となっていることがあります。大気中の空気を胸腔内に吸い込むのは、水封式のドレーンシステムの欠点です。多くは胸腔内の圧力が、システムの想定値より下がりすぎている場合(過陰圧になっている時)に起こりますが、水封が機能不全状態となるような状況、例えばドレーンバッグを倒したり、水封槽の水量が減っていたりしたときにも、大気が胸腔内へ逆流することがあります。大気が水封槽を逆行する以外にも、胸腔ドレーン周囲の傷の隙間から、空気が胸腔内に吸い込まれたり、チューブとドレーンバッグの接続部分が緩んでいて、大気が胸腔に吸い込まれたりすることもあります。

    40. Q

      癒着療法とは、何ですか?

      A

      癒着療法は、肺とあばらの壁の間に、何らかの手法を用いて炎症反応を誘発し、組織修復機能を活性化させることで、肺の穴が塞がりやすい状況を作るとともに、胸腔の隙間をつぶして、肺が虚脱するのを防ごうとする治療を指します。
      肺とあばらの壁の間に炎症が起きると、組織を修復するための重要な素材である線維や、組織修復役の細胞を含んだ浸出液が、肺とあばらの間に大量に出てきます。修復材料が十分ある環境となり、肺の穴が塞がることを助けます。また浸出液が、肺やあばらの表面から吸収される過程で、線維素材によって肺とあばらの間に癒着が起きます。癒着は線維組織による肺とあばらの接着を言います。癒着により、肺は線維組織を介してあばらの壁に引っ付き、離れなくなります。線維の中には細い血管ができることもあります。ブラは肺の表面にできて、肺とあばらとの隙間で大きくなり破綻しますので、ブラが成長する空間を線維で埋めることで、ブラの発生や成長を防ぐとともに、たとえ癒着とは違う場所で、ブラが発生し破綻したとしても、肺の完全な虚脱を防ぐことができます。
      炎症を引き起こす手法は、さまざまです。化学物質を注入する方法が一般的で、欧米ではタルクという粉をまくことも多いようです。欧米では、手術のときも、気胸の再発防止を目的に、癒着療法をブラ切除と同時に行うことが通例と言われています。その際の癒着の方法は、胸膜を意図的に切ったり、強く擦って炎症を起こしたり、タルクなど薬をまいたり、といろいろです。国内では気胸の治療として使える癒着剤が、保険で認められていないこともあり、積極的には行われていません。タルクについては下の回答も参考にしてください。今、国内では、生体内で分解吸収されてなくなる手術用の縫合糸を、網状に編んだネットを肺の表面に固定する方法が手術中に行う癒着療法の代わりとして行われ、大変良い効果を上げています。

    41. Q

      癒着療法に使われるタルクとは、何ですか?

      A

      鉱物の一種で、悪性胸水の胸膜癒着療法に使われることがあります。
      タルク(滑石)は本来、鉱石(珪酸マグネシウム)の粉で、ベビーパウダーやファンデーション、チョークなどに含まれている工業用品です。胸の中(胸腔)に撒くと、強い炎症が起きて、肺とあばらの間(壁側胸膜と臓側胸膜の間)に強固な癒着を生じさせます。
      低品質のものは、発がん性のあるアスベストが含まれていることがあると言われ、急性の呼吸不全(ARDS)などの危険性を指摘する意見があって、日本では長く医療用としての製品はありませんでしたが、最近、医療用としての使用が許可されました。外国では、気胸の治療用としても使われているようですが、日本の保険医療では、胸膜癒着療法自体は悪性胸水に対する治療に対してだけ認められており、気胸治療には使えません。

    42. Q

      癒着療法はよくないと聞きましたが?

      A

      おそらく、癒着がうまくいかなかったときの次の治療(多くは手術)が、より困難になることを嫌うことによるものですが、急性の呼吸不全で死亡するような合併症が知られており、ほかにもいくつか欠点を指摘されています。
      癒着療法は、諸外国では気胸治療として一般的ですが、国内では他の治療が有効でないときなどに限って行われることが多いです。国内では気胸治療用として、保険で認められた薬物はありません。
      短期的にみると、癒着療法は発熱を伴うことが欠点です。注入する化学物質によっては、強い痛みがあることもあります。発熱と痛みは、程度の差はあれ、ほとんど必発といえる副作用です。物質を注入する方法は、注入する物質が移動して、癒着を必要としない場所にも溜まり、肺の柔軟性が落ちて、将来的に呼吸に障害を与えることも指摘されています。特に外科医が嫌う理由は、癒着によって次に胸の手術が必要になったとき、手術が難しくなるからです。外科医の立場からすれば、再発防止に癒着療法するよりも、気胸が再発したらまた手術をすればよいという主張です。

    43. Q

      気管支を詰める気胸の治療があるのですか?

      A

      あります。
      肺の末端で空気が漏れるのが気胸ですが、空気漏れしている肺の領域に通じる根元側の気管支を詰める治療があり、気管支充填術と呼ばれています。病変への空気の流れを止めることで、肺からの空気漏れを止め、止まっている間に肺に、あいた穴が塞がるのを待ちます。気管支を詰める栓(開発者の名前を取ってワタナベSpigot(栓)と言います)は、気管支鏡と言う『のどから入れる内視鏡』を使って、目的の気管支まで運びます。詰め物は1か所だけでなく、複数の場所に置かれることが多いです。
      詰めている間、空気が通らない肺ができるので、肺炎などの合併症が心配されますし、気管支を詰めても、なかなか空気漏れが止まらないこともあり、あくまでも手術を回避する必要がある場合に選ぶ治療法です。最近、保険が使える治療として認可され、当院でも実施しております。気管支充填術については『気管支充填、気胸』などで検索してみて下さい。

    44. Q

      気胸に関するガイドラインは、ないのですか?

      A

      これといえるガイドラインはありません。
      海外には、気胸のガイドラインとして公表されているものがあるのですが、国内の自然気胸の現状と合わない個所があり、参考程度に使われているにすぎません。自然気胸の治療は、がん治療と違って、最適治療の基準が定めにくいうえ、国内には保険診療という枠があるため、海外との比較も簡単にはできません。理由はよくわかりませんが、国内の自然気胸データと海外データを比較すると、国内のほうが自然気胸の再発率は高いと言われています。治療では、例えば海外では癒着療法が一般的ですが、国内での癒着療法は、普通は最終手段としての位置づけです。気胸の再発率は、胸腔鏡の方が開胸術よりも高いけれども、胸腔鏡の方が国内では圧倒的に需要は高いです。そもそも、未だに気胸の原因もわからず治療をし、空気漏れが止まるのは運任せというのが現状です。科学的根拠やデータ通りに、治療が進まないということが、ガイドライン作成に至らない理由かと思います。

  • 呼吸器外科診療Q&A~自然気胸 手術篇 arrow_forward_ios

  • ここでは自然気胸に対する手術の内容や手術前後の経過などに関して、よく尋ねられる質問とその回答を記述しました。
    自然気胸の原因や分類などに関しては【自然気胸Q&A~病気の基本篇】ほかも、併せてご覧ください。

    自然気胸の手術に関する質問
    1. Q

      手術では、どこをどうするのですか?

      A

      気胸の元凶となっている病変を、健常と思われる肺の部位で切除する(切り取る)ことで、肺からの空気漏れを止める方法(術式)を第一に考えます。それが難しい場合は、空気漏れしている穴を塞ぐだけの方法を選択します。
      原発性自然気胸では、「ブラ」や「ブレブ」と呼ばれている空気のたまった袋状の病変(「気腫性嚢胞(のうほう)」と呼ばれます)が、気胸の原因となっていますので、これを切って取り出す「ブラ切除術(bullectomy[単]またはbullaectomy[複]、ブレブ切除という表現は国内ではあまり使われません)」が、原発性自然気胸治療の代表的手術方法になります。病変を完全に取り出すために、肺の健常部分に切り取り線が当たるようにします。切り取り線は、縫って閉鎖することになりますが、胸腔鏡手術が普及する少し前から、「切り取り」と「縫合」が同時に出来る手術用の器械(自動縫合器じどうほうごうき、ステープラーstaplerと呼ばれます)を使用することが多くなり、現在では、針と糸で縫うことは、少なくなっています。
      原発性自然気胸では、病変(ブラ・ブレブ)が発生する要因がわかっていないため、ブラ切除術によって、現存するブラ・ブレブを取り出すことはできても、ブラ・ブレブが発生する要因まで取り出すことはできません。
      ブラ・ブレブ以外の肺の病変が破れて起きる気胸を、続発性自然気胸と言いますが、続発性自然気胸の場合は、気胸の原因となった病変によって、どこをどう手術するか変わります。例えば、頻度は少ないものの、肺にできた腫瘍が自壊して穴が開いて気胸になったような場合では、腫瘍そのものを切除します。
      続発性自然気胸では、多くの場合、原因となる肺の病変は手術で治すことができません。気胸の元凶となる肺の病変も多数あることが多く、肺に健常部分が見つからないような場合もあります。手術の目的は「空気漏れを止めること」が優先され、肺にできた穴だけをふさぐ手術になることも少なくありません。

    2. Q

      内視鏡(胸腔鏡)を使う手術があるのですか?

      A

      今は自然気胸の治療の大半が、胸腔鏡手術で行われています。
      胸部の内視鏡手術は、ブラ切除のために生まれたといっても過言ではないと思います。ブラは薄い空気のたまった袋状の病変ですが、破れれば非常に小さなものです。現代の内視鏡手術は、当初、胆石症の胆嚢摘出術を行うために、普及した技術ですが、これに前後して胸部では、自然気胸に対する胸腔鏡下ブラ切除(きょうくうきょうか-ぶら-せつじょ)が始められ、今日では標準術式としての地位を固めています。この(胸腔鏡)手術は、内視鏡を入れるための創と手術の器械を入れるための創2-3個が、それぞれ1-2センチ前後ですみ、あばら(肋骨のこと)をこじ開けて行っていた頃の手術(開胸手術と呼んで区別しています)に比べ、美容的にも、また術後の疼痛の面からも優れていると考えられています。(疼痛に関しては個人差があります)
      胸腔鏡手術のあれこれについては、別項の内視鏡手術Q&Aをご参照ください。

    3. Q

      続発性自然気胸は、胸腔鏡で手術できないのですか?

      A

      当科では、続発性自然気胸であっても、ほとんどのケースで胸腔鏡手術が実施できていますが、続発性自然気胸には開胸手術で行うことを原則としている病院もあるようです。
      もちろん、胸腔鏡手術が実施できない場合もありますが、手術する前から胸腔鏡手術ができないと判断できる場合は多くなく、時間をかければ胸腔鏡での手術が可能なことが多いです。時間はかかりますし、出血量も(原発性自然気胸に比べ)多くなることは確かですが、開胸手術へは途中で変更することも可能ですから、デメリットを承知できるなら、胸腔鏡でトライする価値はあると当科では考えています。

    4. Q

      手術で肺の穴を塞ぐのではないのですか?

      A

      穴の周りは脆い病変になっていることが多く、病変を残すと早期に再発する可能性もあるので、可能であれば病変を取るようにします。
      自然と破れてしまうくらいですから、穴が開いているところは(例外的に2次的な変性で硬くなっていることもありますが)、脆くて薄っぺらな病変上にあります。塞ぐこと自体が困難という理由もありますが、将来またその病変が破れて発生するかもしれない気胸を防ぐため、破綻した病変を取り除くことがほとんどです。気胸を起こしそうな、薄く脆い病変が、他にもあれば、気胸再発予防という視点から、破綻していない病変も取り去るようにします。ただし、数が多い場合や、安易に取れない場合などでは、病変を取らないこともあります。

    5. Q

      病変を取らない方法もありますか?

      A

      ありますが、二の手、三の手として行われることが多いです。
      病変を取る以外に、直接病変に対する手術法として、熱で変性させて固めてしまう方法(焼灼、しょうしゃく)、根元を縛りこんで病変に空気が行かないようにしてしまう方法(縫縮、ほうしゅく)、穴を通して病変内に詰め物をしてしまう方法などがあります。多くの方法と工夫が発表されていますが、やはり病変を健常な肺の部分で切り取る方法が、より確実で再発が少ないとされており、切除以外の方法はいわゆる「姑息的(こそくてき)」手法と捉えるべきでしょう。
      このほか、病変には直接タッチしないで行う方法として、癒着療法がありますが、こうした手法も、病変切除できない場合などに代替法として行われるか、切除に加えてより再発を減らそうとするときのやり方です。

    6. Q

      手術で取る病変は、1個ですか?

      A

      1個(1カ所)のこともありますが、複数個所を切除することも多いです。
      自然気胸では、特殊なケースを除き、空気漏れしている穴は1カ所です。当然、その穴が開いている病変が1個あるはずですが、それ以外にも、穴が開いてもおかしくないと思われる病変が、肺の表面に認められることがあり、可能な範囲で、それらの病変を切除することが多いです。大きく胸を開けておこなう、いわゆる開胸手術では、何十という病変を1回の手術で処理したということもありましたが、今日主流の胸腔鏡手術では、手術器械の構造上、多数の病変を分けて切除することが困難で、多くても数カ所処理する(1カ所に何個も病変が含まれていることはあります)のが現実的な限界です。

    7. Q

      肺に開いている穴は、1個ですか?

      A

      ほとんどの場合、1個です。
      肺から空気が漏れ始めると、肺が虚脱してしまうため、次々と穴が開くようなことはまずありません。2か所以上穴が開いているとすると、かなり特殊な状況や機序を考える必要があります。開いた穴を塞いだあと、別のところに穴が開くようなことはあります。

    8. Q

      どこに穴があるか、手術でどのようにして調べるのですか?

      A

      自転車のパンクを調べる時のように、水に肺を浸して調べます。 手術では、胸腔内に水(生理的食塩水)を適量注入したのち、麻酔医が肺に空気を送り込んで肺を膨らませると、肺に開いている穴から気泡が漏れてくるのが見えます。パンク修理の時と同じやり方です。日本の呼吸器外科医は、この手技を「リークテスト」と言います。この検査方法は、肺を膨らませて行うため、肺を虚脱させて行わなければならない胸腔鏡などの術式では、非常にやりにくく、穴の場所を特定することが難しいことがあります。

    9. Q

      手術以外の治療と手術は、どっちが良いのですか?

      A

      どうしても手術で治さないといけない場合もありますが、その人の立場や考え方によっていろいろです。
      絶対に手術がお勧めは(1)大量の出血を伴っている気胸か、(2)肺にあいている穴がほかの治療ではどうしてもふさがらない気胸です。この2つの場合は、ぐずぐずしていると、命に係わる状態になってしまいます。こうした状況を除けば、気胸の治療に、誰にとっても最善といえる方法があるわけではなく、何を重視して治療に当たるかということにつきます。
      考慮すべき項目の一つは、治療(入院)期間です。手術が可能な状況であれば、手術をしたほうが、治療期間は短くなることがほとんどです。一方で、「気胸」という状態を治すことは、手術以外の方法でも、ある程度時間をかけてよければ大抵可能ですが、どの程度の期間が必要かは予測できません。「気胸」を治している間に、バイ菌が傷や胸の中に増殖する(化膿、かのう、と言います)と、気胸の治療は二の次となって、化膿症の治療が最優先されるようになります。化膿症の治療は、気胸以上に治療が困難で、時間がかかることが多く、死亡率も高い危険な合併症です。
      次の考慮事項は、一度気胸が治った後の再発率です。どの調査を見ても、自然気胸では、手術が一番再発の少ない治療です。手術を回避すると、「気胸」自体が一旦改善したとしても、気胸の原因となった病変は残ります。手術以外の方法で、初回の気胸を治療した場合、半数近い方が再発すると考えられています。(逆に、半数の人は手術せずに治る可能性があるということでもあります。)職種によっては、手術を受けておかないと就職できないこともあります。
      若年者が多い自然気胸では、学校生活やスポーツ活動、受験や就職、あるいは入社間もない時期に、初めて気胸となることが多いと思います。気胸は、突然おこり、いきなり入院ということも多いです。ストレスが、気胸の発症に関与していると考えている医師も多く、通説ではありますが、忙しい時や試験前に限って、気胸を起こすとよく言われます。気胸患者となると、生活(飛行機での移動や就職)に一部制限が加わることになります。自分の置かれた状況をよく見直し、今後の自分の生活に合うと思われる治療は何か考え、治療手段を選択してください。
      もちろん、手術を受ける場合は、費用と危険性、キズが残ることや痛みについての覚悟が必要です。治療の選択では、今の治療期間と、その後の再発の可能性に加え、治療の重み(体への負担の大きさや危険性)をはかりにかけて検討してください。

    10. Q

      輸血が必要ですか?

      A

      特殊な状況の時を除けば、輸血が必要になることはほとんどありません。
      特に原発性自然気胸では、輸血が必要になることは、事前に貧血があるとか、気胸だけでなく血胸を伴っているとかでない限り、滅多にありません。とは言え当科では、どんな手術でも予期せぬ出血に備えて準備はしています。当院では、自然気胸を含め全身麻酔で手術を受ける全員の方に、手術前に、輸血に関する説明を行い、同意書類を頂くことを原則としています。若い男性が多いので、貧血もなく健康な方が多いのも事実ですが、自然気胸の手術をした際に、初めて出血が止まりにくい病気(血友病)がみつかったというケースも報告されています。予想外の出血や輸血というのはどんな手術でもあり得ると考えておくことが必要でしょう。絶対に輸血はしなくて済むということではありません。
      続発性自然気胸でも輸血が必要となることはほとんどありませんが、肺の状況によっては出血が多くなる場合もあり、輸血を必要とする可能性は、原発性自然気胸に比べて高くなります。

    11. Q

      胸腔鏡手術は、再発が多いのですか?

      A

      多くの報告で、気胸に対する胸腔鏡手術は、開胸手術に比べて再発が多いとされています。
      気胸に対する手術は、胸腔鏡手術の登場で随分体の負担が減ったように思われたのですが、肝心の気胸の治療成績は下がって(再発率としては上がって)しまいました。理由は正確にはわかっていません。今日、気胸手術を開胸で行うことを了とする方はほとんどありませんので、今となっては、正確な比較試験を行うこともできず、疑問は残されたままです。
      こうした背景のなか、国内の専門学会では、手術の内容を、気胸の原因病巣を切除するだけでなく、再発予防処置となる手技を加えることで再発を下げること可能であることが、多くの報告で確認され、諸外国でも追試され始めているようです。今後はこうした手技が標準になるものと思われます。

    12. Q

      手術は簡単ですか、難しいですか?

      A

      お答えしにくいご質問ですが、原発性自然気胸に限れば、一般的には難易度は高くないです。1時間程度で終わることが大半で、呼吸器外科で実施している各種の手術の中では、最短に近い時間です。一方、続発性自然気胸では1日かけて手術しても、上手くいかないこともあり、難しい手術となることがあります。
      手術の難易度は病変の位置や数、周辺の状況や体格なども関係します。安易に簡単とか難しいとか言うことは控えていますが、ただ、原発性自然気胸では、状況がよければ、病変を取る作業はあっという間で、手順も複雑ではありません。どちらかと言えば、肺の処置より皮膚の傷の縫合のほうに、時間がかかることがあります。当科では、手術自体は1時間程度で終わることが最も多く、麻酔をかけたり麻酔から覚ましたりの時間を入れて、3時間程度の手術室占有時間を目安に、予定を立てています。
      一方の続発性自然気胸は、状況はケースバイケースで、穴を塞ぐだけの実質、数分で終わるような手術もあれば、切除する肺が増えたり、出血が増えたり、あるいはもともとの肺の病気が悪くなったりと、大変厳しい手術になることも稀ではありません。

    13. Q

      手術で死んでしまうことはありませんか?

      A

      ないとは言えません。
      どのような手術や処置、薬も全く危険のないものはありません。手術用手袋で、体に触れただけで、ゴムアレルギーにより死亡したという事例もあります。原発性自然気胸では、対象が若いこともあって、手術による死亡率(手術後30日以内に死亡した人の割合)は0.1%以下ですが、続発性自然気胸では1%強となっており、同じ自然気胸でも原発性自然気胸の10倍近くあります(日本胸部外科学会調査)。続発性自然気胸では術後30日を過ぎてからの死亡者も少なくないです。

    14. Q

      手術を受ける人は、多いですか?

      A

      全国では1年間に1万5千人近くの方が気胸のために手術を受けているようです。多いか少ないかは分かりません。
      日本胸部外科学会が毎年集計しているデータによれば、近年は気胸に対して1万5千件ほどの手術が行われているようです。胸部外科の学会ですので、一般外科や消化器外科で手術された気胸の数字は含まれていないと思いますが、公開されているデータとしてはかなり実数に近いと思います。

    15. Q

      手術の前後に、手術以外の治療をするのですか?

      A

      手術までに気胸の状態を放置できないと判断される場合は、気胸を改善させる目的で、排気(厳密には脱気)の治療をする場合があります。
      気胸の手術は、今あいている穴をふさぐことと、次に気胸にならないようすることの二つの目的があります。手術前の時点で穴がふさがっている可能性が高いなら、事前に別の治療を行う必要はありません。穴がふさがっていないか、あるいはその可能性が高い場合は、事前に胸の中から、肺をつぶしている余分な空気を抜くために、胸の中にチューブを入れます。自然気胸の外科治療では、手術のあとに、新たな治療をすることはありません。「気胸」再発予防のために、内服薬を飲んだり、点滴をしたりすることはありません。手術のときに胸に入れたチューブが抜ければ、そこで治療は終わったと考えてよろしいかと思います。

    16. Q

      自然気胸の手術の前に、何か特別なことをしておく必要がありますか?

      A

      一般的な手術と同じです。
      両側同時に気胸になっているような場合や、片側の気胸でも重症の状態などの場合は、そのまま麻酔をかけることは、非常に危険ですので、事前に空気抜きのためのチューブを、気胸をおこしている胸の中に入れてから麻酔(手術)を行います。それ以外には、一般的な手術と同じと考えておいてよいでしょう。ご質問やご心配の点があれば、どうか遠慮なく、早めに担当医や病棟のスタッフにお尋ねになるとよいでしょう。

    17. Q

      自然気胸の手術では、麻酔科医が重要なのですか?

      A

      重要です。
      呼吸器外科の手術は、心臓と並んで生命維持に大変重要な肺という器官を扱うもので、その麻酔には、十分な修練を積んだ医師でなければ対応できません。心臓手術と違い、人工心肺装置のような複雑で派手(?)な機器を使わないだけに、手術中の管理や異常に対応できるだけの経験や技量が、手術の安全や術後の回復には欠かせません。極言すれば、外科医は、専用の自動器械で、病変を切るだけですが、麻酔科医はそうはいきません。麻酔器を動かすだけでできるような手術ではないのです。誰が手術するか以上に、誰が麻酔するかの方が重要とも言えます。麻酔医が充実している病院を選ぶことは重要です。

    18. Q

      自然気胸の手術で、人工心肺を使うことがあるのですか?

      A

      通常使いませんが、きわめて特殊な病状の気胸手術では、あり得ます。
      自然気胸手術での麻酔は、通常手術しない側の肺(対側肺あるいは健側肺と呼びます)を使って、酸素や麻酔ガスを送り込んで行う分離肺換気麻酔法です。対側肺が、十分な酸素を取り込めないと、この麻酔方法が使えません。対側肺を切除したあとで十分量の肺が対側に無いような時や、対側の肺の広範囲に何か肺病変があるようなときは、人工(心)肺を使うことがあります。

    19. Q

      手術のあと、何日くらいで退院できますか?

      A

      当科では、術後3日目が最も多いです。
      当科では、ほとんどの自然気胸手術は胸腔鏡手術で実施されています。入院期間を事前に設定して、入院前から退院後の計画を立てることはお勧めしませんが、当科で作成している治療計画では、通常、手術の翌々翌日に退院するようになっており、多くの方がこの計画に沿って退院されています。手術当日や翌日の退院は、安全管理上、お断りしています。もちろん、術前の状態や術後の経過によって、入院期間が異なる場合があるのは、言うまでもありません。

    20. Q

      手術が終わってもチューブ(ドレーン)が入っているのですか?

      A

      当科では、手術翌日までは必ず入っています。翌日以降、大きな異常がないと判断された時点で、チューブが外されます。チューブが取れれば、退院間近です。
      手術中、手術側の胸腔には一旦空気(外気)が入ります。手術では、手術側の肺を虚脱させた状態で、病変の処理をします。肺の処理が終わったら、胸腔に入った空気を抜いて、その後に傷を閉じればよいように思われますが、手術で肺を切ったところから、新たに空気が漏れたり出血したりすることがあり、こうした空気や血液、体液を胸に溜め込まないよう手術終了直前に、チューブ(胸腔ドレーン)を入れてから、傷を閉じます。チューブを入れておくことで、見えない胸の中で、どのようなことが起こっているかを知り、同時に手術の際に入った空気を体外に出して、肺を再膨張させます。大きな異常が起きていないと判断されれば、このチューブは取り外されますが、当科では、その判定を翌日以降に行います。手術の前にチューブが入れられていた場合は、新しいチューブに入れ替えられます。

    21. Q

      術後は痛くないですか?

      A

      痛いです。
      胸腔鏡で時間も短い手術ですが、やはり痛みはあります。無痛の手術などありません。手術の痛みは、ドレーンチューブが抜けるとかなり楽になり、あとは時間とともに減じていきます。手術直後の痛み軽減のため、当院では、背中の脊髄近くに、痛み止めの薬を術後も入れられるような鎮痛方法(硬膜外麻酔こうまくがいますい)を併用して麻酔が行われますので、手術直後は、想像ほどは痛くないことが多いです。

    22. Q

      一度手術を受けた後に再発した場合、もう一度手術は受けられますか?

      A

      再発していても、手術は受けられます。
      肺が完全につぶれてしまっているような場合は、初発再発関係なく、同じような手術で実施することが可能ですが、前治療で癒着療法などが行われている場合、一度その癒着を剥がす必要があり、手術は少し面倒で、時間がかかったり、手術中の出血量も増えたり、肺が(手術操作で)傷ついたりしやすくなります。3回、4回と手術を受けなければならないケースもありますが、徐々に難しくなります。2回目くらいであれば、大丈夫なことが多いですが、経験的に、同じ側の4回目以降の手術はかなり困難な手術で、できれば他の方法を検討して見ることも良いかもしれません。

    23. Q

      2回目の手術も胸腔鏡でできますか?

      A

      多くの場合、可能です。
      初回手術で、多くの場合は、胸の中に癒着が起き、癒着は胸腔鏡手術の障害になることが予想されますが、慎重に行えば、胸腔鏡でも癒着は剥離可能です。時間はかかるかもしれませんし、初回に比べれば出血も多少は増えることになります。

    24. Q

      気胸の手術で肺を取ると、肺はどれくらい減るのですか?

      A

      病変の量によって違いますが、原発性自然気胸に対する標準的なブラ切除では、肺全体の容積から見ると、多く見積もっても数%で、ほとんどの例では1%以下(容積にして数~十数㏄程度)ではないかと思われます。

    25. Q

      手術した後、体内に金属が残るのですか?

      A

      チタン製の金属が残る場合がほとんどです。
      現在の呼吸器の手術では、ほとんどの手術で、自動縫合器という器械を使います。自動縫合器は、組織を切ると同時に、切断面近くを自動で閉鎖できるもので、手術に革命的変化をもたらしました。糸による縫合ではなく、金属をB字型に変形させることで組織を閉鎖するものです。開発当初はステンレス製であったとのことですが、現在はチタン製です。1個はせいぜい3-5ミリ程度ですが、数十個単位で器械に装着されており、一気に組織を閉鎖します。すでに四半世紀以上の使用実績があり、遺残による生体への危険性はありません。術後にMRI検査を受けても問題ありません。

    26. Q

      手術のあと、糸が体内に残るのですか?

      A

      残る糸と、体内で分解吸収されてしまう糸があります。
      手術用の糸として代表的な、絹糸(けんし、シルクの糸です)やナイロン製の糸は、体内に残り続けます。体内に残っても障害はありません。現在は、体内で分解される糸を使うことが多くなっていますが、高価(1本数百円から数千円、患者負担にはなりません)です。分解吸収される糸も分解するまでは、数週間から数か月かかります。すぐ溶けたら、糸で縛る意味ないですから。
      当科の手術では、原則分解される糸(吸収糸と言います)を使っています。体内に残る糸(非吸収糸と言います)は、吸収糸より感染が多いということが指摘されていますが、気胸の手術では、問題になることはなく心配要りません。
      体表に出ていて、あとから抜糸(ばっし、糸を切って抜くこと)するような糸は、通常、分解しない糸です。安価で、皮膚の外を糸が通るので、抜糸除去できることが理由です。

    27. Q

      手術は全身麻酔ですか?

      A

      全身麻酔です。
      肺の手術では、手術しない側の肺だけに空気や麻酔ガスを送って麻酔をかける「分離肺換気麻酔法」が、基本的手法です。手術する側の肺には空気が送り込まれないので、肺は萎んで、その空間を利用して外科医が操作を行います。分離肺換気麻酔は全身麻酔となります。

    28. Q

      局所麻酔で、手術を受けられますか?

      A

      当院では局所麻酔下での気胸手術は実施していません。実施している病院は少ないようです。
      局所麻酔より全身麻酔のほうが、麻酔の危険性は高いと考えられていますが、意識があるまま手術が行われる局所麻酔下での手術の苦痛のほうが、デメリットになると私どもは考えております。全身麻酔がかけられないほど状態の悪い方では、やむを得ず、局所麻酔で手術せざるを得ない場合はあります。局所麻酔では、ゆっくり時間をかけて手術を行いにくいという欠点もあります。当科では、しっかり時間をかけて(といっても1時間ほどの手術ですが)、できる限り再発しないような手術を、丁寧に行いたいと考えております。
      積極的に局所麻酔下での手術を行っている病院もあります。局所麻酔下での手術を行う、もう一つの目的は、入院期間を短縮することにあります。特に日帰り手術がご希望なら、局所麻酔下での手術を検討されてもよいかも知れませんが、よく利点と欠点を御理解なさったうえで御選択ください。

    29. Q

      左右両方の手術を、受けることはできますか?

      A

      両側の手術は、両側同時でも、片方ずつでも可能です。
      普通、両側同時気胸の場合は、まずチューブによる治療が直ちに開始され、肺のつぶれ方がひどいほうから手術を行い、次いで反対側の手術を行うという手順になります。めったにありませんが、両側同時に気胸になって、チューブによる治療が間に合わないぐらい、大量に空気が漏れてくるような場合は、緊急手術が必要になる場合があります。一度の手術で両方の手術をすることは可能です。過去に一側の気胸をおこしていて、今度新たに反対側の気胸をおこした場合(異時性両側気胸)は、初発の手術と同じように手術を行うことが可能です。

    30. Q

      一度退院して、改めて長期休暇中に手術を受けることはできますか?

      A

      気胸が改善した場合は、可能です。
      当院では、原発性自然気胸の場合、空気漏れが停止して気胸が改善した後でも、ご希望の日に合わせて手術を実施することが可能です。夏休みや冬休み、有給休暇などを利用して手術を受ける方も多いです。空気漏れがない場合は、今後破れそうな病変を可能な範囲で切除する術式が行われます。
      続発性自然気胸の場合は、空気漏れが止まっていると、手術で処置すべき対象の病変がわからないことが多く、当院ではそのような状況下での手術はお勧めしていません。

    31. Q

      ロボット手術は、ありますか?

      A

      自然気胸に対するロボット手術は、認可されていません。
      保険診療では認められていないので、自費診療か臨床試験として実施している機関での手術となります。ただ、現時点で、自然気胸の手術に、ロボット手術と言われている装置を使うメリットはないです。

    32. Q

      癒着療法を受けたことがありますが、手術できますか?

      A

      可能ですが、時間はかかります。
      外科医の本音で言えば「やりにくい」手術になります。癒着があると、通常はその癒着を一度解除してからでないと、気胸自体の手術は大変やりにくく、不完全なものになりがちです。癒着を剥がすと、出血もしますし、剥がす操作自体で、肺に穴を開けることにもなります。時間と根気が必要になる手術です。

    33. Q

      手術による癒着療法とは、どんな方法ですか?

      A

      肋骨側の胸膜を意図的に切り取る方法、肋骨側の胸膜を強く擦って炎症を起こす方法、胸膜表面に炎症を起こす素材を張る方法や、タルクなどの薬物をまく方法などがあります。
      癒着療法とは、肺とあばらの壁の間に何らかの手法を用いて炎症反応を誘発し、反応による組織修復過程を促進させて、肺の穴をふさぐ助けにすると同時に、肺とあばらの間の隙間をつぶしてしまおうとする治療方法を言います。組織修復過程で、本来は離れている肺と胸壁の間に、組織が造成され、両者は組織で繋がれてしまいます。いわゆる「癒着」です。肺の表面に炎症が及ぶような手技がいろいろ考えられていますが、代表的な方法は、壁側胸膜(あばら側の胸膜)切除法と言って、壁側胸膜をはぎ取ってキズにしたり、胸膜擦過法と言って、金属のブラシで壁側胸膜を擦ってキズをつけたりする方法です。直接、胸腔内に薬を散布する方法もあります。今、国内では、生体内で分解吸収されてなくなる手術用の縫合糸を、網状に編んだネットを肺の表面に固定する方法が、手術中に行う癒着療法の代わりとして行われており、大変良い効果を上げています。

    34. Q

      癒着療法が手術後の再発予防になるのですか?

      A

      なります。
      気胸の基本手技は病変切除(ブラ切除)ですが、古くから癒着療法を併用すると、術後の再発率を下げることが知られています。ただ、胸膜を切除したり擦ったりする方法は効果が不確実で、薬物による癒着療法は逆に痛みや発熱などの副作用が激しく、実施することが躊躇われるようなものでした。20年ほど前に、吸収性メッシュ(生体内で分解吸収される特殊な外科用素材を網状に編んだもので、手術用の組織補強材として使われます)を、ブラを切除した後の肺の表面に固定する方法が、手術で肺を切ったところからの空気漏れを防ぐ方法として使われるようになりました。当科では、このメッシュをやや大きめに貼るようにすると、術後の空気漏れのみならず、術後の気胸再発を大きく抑制できることを見出しました(Surgical Endoscopy誌2009)。従来の癒着療法に代わる方法として、当科では、現在この方法をお勧めしております。この方法は、時に発熱を見ることがあるものの、全身状態に影響せず、癒着療法の欠点である疼痛を伴いません。実施に要する時間も1~2分です。最もブラの発生しやすい肺の部分だけに癒着を誘導できます。この方法を採用して以降、術後の再発率は、ブラ切除だけの胸腔鏡手術に比べ1/4近くまで減り、開胸手術時代の再発率に近づきました。

    35. Q

      肺からの空気漏れが止まりましたが、やはり手術をした方がいいのでしょうか?

      A

      今後の再発の可能性を、どう考えるかで判断して下さい。
      気胸の手術は、(1)今あいている穴をふさぐことと、(2)次に気胸にならないようすることの二つの目的があります。空気漏れになっていた穴はふさがったことになりますが、穴があく原因となった病変(多くは『ブラ』と呼ばれる病変です)は、おそらくそのままの状態です。手術でその原因病変を取り去ることができれば、再度気胸を起こさずにすむかもしれません。気胸の手術の目的の2番目にあたり、厳密に言えば気胸治療の手術ではなくて、『ブラ』を処理しておく気胸予防の手術になります。
      原発性自然気胸では、このような考え方、つまり、将来の気胸発生の可能性を減らす目的での手術がよく行われ、9割近い方が再発せずに暮らすことが可能になっています。特に若い方では、一旦、空気漏れが止まって退院した後、夏休みなどの長期休暇を利用して、『ブラ』処理の手術を受ける方も多いです。
      続発性自然気胸の場合は、気胸の原因病変が手術ですべて処理できないため、気胸再発予防の効果は随分下がってしまいます。手術の目的と治療効果の予測をよく確認されたうえで、検討されるのがよろしいでしょう。

    36. Q

      巨大肺嚢胞(ジャイアントブラ)と言われましたが、気胸の手術を受けた方がよいですか?

      A

      気胸を起こしたことがない場合は、必ずしも気胸予防のための手術は受ける必要はありません。巨大肺嚢胞が呼吸困難をきたすほど大きい場合は、嚢胞切除(縫縮)術を受けた方が良いです。
      ブラが大きくなって、健常な肺を押しつぶしてまで大きくなってしまっているものが「ジャイアントブラ」と外科医が呼んでいるものです。普通、ブラは、肺の表面にポリープのようにできて、肺の外側で大きくなるのですが、ジャイアントブラでは肺の内向きへの広がりが著明で、大きくなる割に破れにくい(気胸になりにくい)とも考えられています。ジャイアントブラを手術で取り去るのは、押しつぶされた健常部分の肺を、元の姿に戻してやることが主な目的で、気胸の予防という目的ではありません。ジャイアントブラが原因で、呼吸困難(ひどい場合は血管や心臓まで押しつぶされて上半身がうっ血して顔が腫れ上がるようなこともあります)があった場合、嚢胞切除や縫縮などの手術の効果は大きいとされていますが、10年20年と経過すると、残った肺の中からまた大きなブラができることがある、という欠点があります。

    37. Q

      手術のあとは、運動しても大丈夫ですか?

      A

      当院では、気胸の術後に運動制限はしておりません。気胸の術後である事を理由に、運動を回避する必要はありません。どちらかと言えば、術後のキズの痛みで、すぐにはそう激しい運動をされる方は多くありません。
      運動することで気胸の再発が増えることはないと考えられています。手術直後は傷の痛みもあり、退院後すぐに、スポーツ活動といえるような運動をされる方は、実際にはほとんどないようです。プロスポーツ選手でも気胸の経験者はいます。手術後2-3週間過ぎれば、プロスポーツに復帰できたという報告はあり、報告はされていないまでも、術後早々に現場に戻る人はあると思います。復帰直後に治療前と同様のパフォーマンスを発揮できたかどうかはわかりませんが、自然気胸の場合、多くの人は、おそらく時間がたてば、手術前と変わらない状態になると思われます。具体的に、どの程度の運動が、どれくらいの期間できないのかできるのか、詳しく調べられた科学的データはありません。術後1~2か月経過すると、ほとんどの方は、ほぼ術前と同じ活動量に戻るようですが、痛みはまだ少しあると思います。

    38. Q

      手術のあとは、何を食べても大丈夫ですか?

      A

      気胸と食べ物にはまったく因果関係はありません。特別な配慮は必要ありません。

    39. Q

      手術のあとは、タバコをすっても大丈夫ですか?

      A

      絶対にいけません。
      もう説明は不要でしょう。

    40. Q

      手術のあとは、旅行しても大丈夫ですか?

      A

      気胸が手術で完全に治っていれば、旅行しても大丈夫です。旅行自体が気胸の再発を増やすことはありません。
      術後2年とくに術後半年以内は、術後の再発が多い期間です。気胸を疑わせるような症状がある場合は、必ず医療機関で気胸になっていないか確認して、旅行に出ましょう。特に旅行で飛行機に乗ったり、水中を潜ったりするときは注意が必要です。気胸の状態の人(=気胸を発症している状態の人)が、航空機やスキューバダイビングなど気圧の変動が激しい環境に入れば、(理論的に)気胸は悪化します。下の質問と回答や自然気胸と生活Q&Aの項もご覧いただき、判断の参考にして下さい。具合が悪い時に、いつでも医療機関を受診できるような旅行(陸上を移動するだけの旅行)であれば、多くの場合、問題はないと思われます。

    41. Q

      手術のあとは、飛行機に乗れますか?

      A

      搭乗時に肺が縮まない状態で安定していると判断できるなら、飛行機に乗ることは問題ないと思われますが、手術直後に判定することは難しく、しばらくは控えるほうがよいでしょう。(気胸と飛行との関係については別頁の自然気胸と生活Q&A篇もご覧ください)
      米国の航空医学の学会や英国胸部疾患学会のガイドラインでは、手術を受けたのちに飛行機に乗ることは可能としていますが、術後どの程度の時期から良いかについての目安については、よくわかっていません。
      気胸に限らず、肺疾患がある方は、利用する航空会社に、搭乗の数日前までに一度お問い合わせされた方がいいと思います。会社ごとに規定があり、搭乗可能かどうか、搭乗するならどのような手続きが必要かなど対応してもらえます。

    42. Q

      手術あとに、ダイビングはできないのですか?

      A

      安全を期すため、スクーバダイビングは許可されないことがほとんどです。(別頁の自然気胸と生活Q&A篇もご覧ください)
      論上、潜水中に気胸を起こすと浮上が困難になります。日本高気圧環境・潜水医学会や日本気胸嚢胞性肺疾患学会などでは、ダイビング中の気胸発症報告が時々あります。スクーバーダイバーのためのメディカルチェック・ガイドライン(日本語版RSTC(Recreational Scuba Training Council))では、自然気胸は危険性が高い生命の危険を起こしうる疾患として記述されています。

    43. Q

      気胸の手術をうけると、就職や仕事に影響がありますか?

      A

      手術を受け病状が安定していれば、過去に気胸があっても問題ないことが多いですが、手術を受ければ絶対大丈夫ということではありません。
      パイロットや自衛官の身体検査では気胸の場合、手術後で病状が安定していれば、身体検査合格の要件を満たせる可能性があります。高圧作業の規定(高気圧作業安全衛生規則)では、(具体的に気胸術後を指定していませんが)同様の対応になると思われます。(別頁の自然気胸と生活Q&A篇もご覧ください)
      気胸の可能性は、手術をしていない側にも相応の可能性で残っています。手術しても、気胸が再発してしまうこともあります。手術すれば気胸と無縁になるのではありません。術後であっても、特殊な気圧環境での勤務中に気胸になる可能性はゼロではありません。自分ばかりか周囲の人にも、リスクを負わせることになりかねません。特殊な気圧環境での就業は避けておくのが無難です。

    44. Q

      気胸の手術のあと、いつから仕事できますか?

      A

      業務内容によって違いますが、PCなどでのデスクワークで済むなら翌日から可能です。
      ほとんどの気胸手術では、翌日にはほぼ手術直前の状態に戻ります。もちろん痛みはありますので、まったく同じようには行動できません。ベッド上でPC操作だけで仕事ができるなら、翌日から可能な場合はあるでしょう。手術の後は、チューブがまだ付いた状態ですので、これが取れれば、ほぼ行動制限もなくなり、痛みさえ問題なければ、ほとんどの仕事に復帰可能です。傷の小さい胸腔鏡手術でも、実際には相応の痛みがあり、直ちに活動量の多い仕事や、体力を要する業務に復することは難しく、術後1~2週間程度は、自宅で療養されてからのほうがよいでしょう。
      鎮痛剤を服用した場合、車の運転や機械の操作をすることは禁じられています。当科では、就業開始は鎮痛剤が不要になったら、とお話ししています。

    45. Q

      手術すれば、もう再発はしませんか?

      A

      再発の可能性は低くなりますが、再発することはあります。
      少しでも再発が減るように、手術手技には工夫が加えられてきましたが、今の医療技術では、術後再発を完全になくすことはできません。自然気胸の手術は、そもそも病変の発生を防止するものではなく、すでに発生した病変を処理するだけなので、根本の治療にはなりえないのです。近年の調査を見る限り、特に胸腔鏡の手術では、手術後も、ある一定量の再発があることを前提にしておく必要があります。
      術後は、反対側の気胸にも注意してください。多くの気胸では、両側に病変があることわかっており、手術とは反対側にも気胸が発生します。

    46. Q

      若いほうが、術後も再発しやすいのですか?

      A

      どの調査でも、10代や20代前半で気胸になった人のほうが、再発が多い結果が出ています。
      術後の再発を起こし易い要因は、まだよくわかっていませんが、統計上、気胸になった時の年齢が若い人の方が、再発の割合が高いことが指摘されています。

    47. Q

      続発性自然気胸といわれました。手術した方が良いですか?

      A

      当科では、続発性自然気胸では、手術以外の治療で治るのであれば、可能な限り手術以外の方法で治療するようお勧めしています。
      続発性自然気胸は一つの病気ではありません。いろいろな病気によって引き起こされます。気胸の原因になっている病気の種類によって、手術の方法は変わります。中には、女性特有の子宮内膜症という病気が原因で、おきることもあります。共通部分としては(空気が漏れ続けている場合は)、空気漏れをとめる手術がおこなわれますが、「原発性自然気胸」と呼ばれているものと違って、気胸の原因となり得る病変が多発していることが多く、手術に気胸再発予防効果はあまり期待できません。一度、原因病変を調べた上で、手術の適否をお決めになった方がよろしいでしょう。

    48. Q

      術後、再発しないように気を付けることはありますか?

      A

      努力して再発を減らすことはできません。
      何かを鍛えたり、何かを食べたりすることで、気胸の発生を予防することはできません。ただ、喫煙はしないでください。普段は再発のことを意識せず、いつも通りの生活をしてください。

    49. Q

      再発したかも?

      A

      慌てず、近くの医療機関を受診して下さい。余裕があれば、手術をした病院へ連絡して見てください。
      気胸の治療を受けたことがあり、気胸の再発を心配していることを、担当医に伝えてください。急速に呼吸が苦しくなって行く場合は、救急要請してかまいません。遠隔地で症状があるなら、飛行機などでの移動は避けます。まず、近隣で医療機関を探し、レントゲン検査を受けましょう。国内の医療機関で、少なくとも内科か外科のクリニック・病院なら、大概レントゲン撮影できます。とりあえず、診断ができれば、その医療機関が初期治療してくれるか、治療できる近隣の病院へ紹介してくれるはずです。初期治療ができれば、居住地に戻ってその後の治療を受けることが可能です。手術をした病院が近ければ、まずその病院へ連絡することが良いかもしれません。

    50. Q

      管(チューブ、ドレーン)を入れるだけの治療も、手術になるのですか?

      A

      医学的には手術に分類しませんが、医療保険などでは手術として扱われる場合があります。
      保険会社と契約する医療保険では、「皮膚に切開を入れる行為」は、すべて手術として扱うことがあるようです。一般に、医学では、チューブやカテーテルなどを体内に留置するため、皮膚に短い切開を入れることは、手術と呼びません。知る限り手術の医学的定義はないと思いますが、概ね全身麻酔や脊髄麻酔などの麻酔を要する切開行為(観血的治療かんけつてきちりょう)を伴う手技を、手術と呼んでいると思います。

    51. Q

      手術はいくら(金額)かかりますか?

      A

      胸腔鏡で自然気胸の手術をした場合、手術料は40万円程度です。ただし、この金額は支払う金額ではありません。
      この金額は、手術にかかわる麻酔料などは別で、手術料と呼ぶ「手術の料金」に相当するものです。自然気胸に対する胸腔鏡手術は、国民皆保険の保険診療として認められていて(いわゆる「保険がきく」治療です)、その手術料は一律に規定されています。手術時間、外科医の人数、手術の上手下手、使用した材料費とは関係なく、全国同一金額です。(一部の最新器械材料については、追加料金がかかることがあります。)
      手術をした場合、入院全体として医療費がかかります。手術料や麻酔料、さらに入院やその他の費用を足した総額になり、数十万円程度になることもあります。ただ、保険診療ですから、自己負担額はその3割あるいは1割です。実際に病院の会計窓口で払う金額としては10~20万くらいではないでしょうか。多くの場合、高額療養費制度が適用されますので、さらに実費負担は減ります。限度額適用認定証を事前に用意し病院に提出しておけば、退院時の実費負担はかなり減額されると思います。医療保険に加入していれば、さらに補填があるかもしれません。
      医療費は、手術の方法や入院期間、手術前後の診療内容、入院期間が月をまたぐかどうか、保険改正など多くの要因によって変わります。勤務先や加入している保険組合、契約している保険会社などにも問い合わせてみるのがよいと思います。当院には医療費に関する相談窓口がありますので、ご利用ください。

  • 呼吸器外科診療Q&A~自然気胸 病気と生活篇 arrow_forward_ios

  • ここでは自然気胸に関して、過去に自然気胸にかかったことがある方や、今かかってしまっている方からよく尋ねられる、特に生活上の注意点に関する質問と回答を集めました。自然気胸の基本知識や外科治療に関しては別項をご覧ください。特に「気胸の基本知識」の項を、事前にご一読いただければ、より分かりやすいかと思います。

    自然気胸後の生活に関する質問
    1. Q

      何を食べても、大丈夫ですか?

      A

      気胸と食べ物にはまったく因果関係はありません。特別な配慮は必要ありません。

    2. Q

      タバコをすっても、大丈夫ですか?

      A

      絶対にいけません。例え、気胸再発に影響しないとしても、外科治療や気胸以外の疾患へ及ぼす悪影響は計り知れません。
      若年者では、喫煙総量そのものが多くなくても、肺に大きな影響を及ぼすと考えられており、喫煙と原発性自然気胸に間には何らかの関係があると言う指摘も、古くからありますが、この問題について、統計的、科学的な裏づけは、現時点ではありません。原発性自然気胸の場合、10歳代後半から20歳代のうちに発症することが多く、喫煙とは全く関係ない人は多いです。喫煙が気胸を起こしやすくなるかどうかは現状不明で、仮に影響があるにしても薄いと思われます。
      自然気胸とは関係なく、喫煙者では、様々な術後合併症を高率に発症します。当科では喫煙中の人、禁煙できていない人には手術は行っていません。自然気胸が治ったとしても、今後は自然気胸以外の病気で、いつか病院で治療を受けることになるでしょう。その時のためにも、禁煙を続けましょう。喫煙姿がカッコいいなど、前世紀の遺物、くだらない言い分です。
      喫煙を続けていると、肺には回復不能な障害が生じ、ほぼ間違いなく、肺がスカスカになってしまう別の肺の病気(肺気腫といいます)になります。肺気腫は、難治性の続発性自然気胸を起こす代表的疾患です。喫煙は、続発性自然気胸の遠因になると言ってよいでしょう。肺気腫になると、必ず気胸になるということではありませんが、徐々に進行して、最後は酸素が取り込めなくなって、常時、酸素投与を必要とする呼吸不全になってしまう恐ろしい病気です。肺気腫があると、肺以外の病気の治療の際にも、悪い影響が出る場合があります。残った肺を大切にして下さい。
      喫煙はこの機会に止めることです。タバコを吸っている人がいたら、(ケンカにならない程度に)注意してあげてください。

    3. Q

      気胸は、遺伝しますか?

      A

      一部の特殊な病気を除き、遺伝しないと考えられています。
      特定の遺伝子が、気胸の発症に関与しているとのデータはありません。ただ、親兄弟が気胸で、子も気胸と言うように、特定の家族の中に、何人も気胸を経験した人がいることはあり、「家族性気胸」と言います。気胸の発症に、体格の関与が強く示唆されていることから、体格の遺伝が、気胸が多い家族が存在する要因になっていると考えられていますが、確かではありません。

    4. Q

      再発しないように、気を付けることはありますか?

      A

      特別なことをする必要はありません。努力して再発を減らすことはできません。
      何かを鍛えたり、何かを飲んだり食べたりすることで、気胸の発生を予防することはできません。ただ、喫煙はしないでください。普段は再発のことを意識せず、いつも通りの生活をしてください。

    5. Q

      再発したかも?

      A

      慌てず、近くの医療機関を受診して下さい。急速に呼吸が苦しくなって行く場合や、脈に異常があるような場合は、救急要請してかまいません。
      過去に、気胸の治療を受けたことがあり、気胸の再発を心配していることを、担当医や救急隊員に伝えてください。遠方に出かけた先で症状があるなら、飛行機での移動は避け、まず近隣で医療機関を探し、レントゲン検査を受けましょう。国内の医療機関で、少なくとも内科か外科のクリニックや病院なら、大概レントゲン撮影できます。とりあえず、診断ができれば、その医療機関が初期治療してくれるか、治療できる近隣の病院へ紹介してくれるはずです。初期治療ができれば、多くの場合、居住地に戻ってその後の治療を受けることが可能です。

    6. Q

      学校に行っても大丈夫ですか?

      A

      今、気胸になっているなら、自己判断ではなく、まず気胸に詳しい医師に相談して下さい。登校できる場合もありますが、無理せず治療を優先させましょう。今、気胸になっていなければ、問題ありません。
      症状がないから、あるいは少ないからと言っても、気胸の状態で通学することは、誰にとっても好ましい行動ではありません。無理して登校し、校内で病状が悪化してしまえば、運よく下校までこぎつけたとしても、多くの人たちに迷惑をかけてしまうことになるでしょう。運にかけるような行動を、医師としてお勧めできるはずがありません。どうしても登校が必要なら、診察を受けている医師に相談し、登校や通学の条件を確認したうえで、さらに学校の先生(教員)にも、必ず病状を告げ、了承を得ましょう。外来通院用の治療装置もありますが、装置を自己管理しなければならず、当科としては、そうした装置をつけてまで通学することはお勧めしません。

    7. Q

      気胸になったまま、学校の試験は受けられますか?

      A

      受験が許可されることもあるようですが、再試験や追試験なども検討してください。
      胸にチューブが入った状態であれば、試験会場に行くためには、小型の気胸治療装置を装着する必要がありますが、この装置で空気漏れがコントロールできる範囲であれば、試験場へ行くことは可能です。このような装置を付けた状態でも、受験を許可されることはありますので、諦めずに受験可能かどうか、受験のために必要な条件は何か、事前に試験を主催する学校や団体に確認してください。大学入試センター試験では、手続きを踏めば受験できます。音を出さない治療装置であることなどの条件が付くことがあります。
      多くの試験では、病気にかかって急に受験できなくなった受験生や生徒に対し、再試験などの救済処置をとっています。できれば無理をせず、再試験などを検討した方がいいかもしれません。代えがたい入学試験をしばらく先に控え、入試直前に気胸が再発することを心配しているなら、受験準備として、早めに手術を検討してみるのも一策でしょう。

    8. Q

      体育や運動をしても、大丈夫ですか?

      A

      現在、肺の虚脱が改善していれば大丈夫です。ただ、直近に気胸を発症していたのなら、しばらく再発の確率が高いので、症状が出たら、直ちに運動は中止し、医療機関を受診しましょう。肺の虚脱が改善していない時は、体育や運動は控えるべきでしょう。
      肺の虚脱が改善していない時は、空気漏れが止まっていない可能性があり、運動が病状を悪くする可能性は高いので、運動などは勧められません。早く運動を再開したい気持ちもよくわかりますが、早く治したほうが、結局は早く復帰できます。無理は禁物です。運動することで、気胸が再発しやすくなることはないと、考えられていますので、肺の虚脱が改善していれば、運動しても良いと思われます。ただ、肺の虚脱が改善したあと、どの程度の運動が、どれくらいの期間はできないのか、詳しく調べられた検証データはなく、多くは担当医の(ある意味適当な)判断にゆだねられているのが現状です。残念ながら再発となったら、次はしっかり治してから、復学しましょう。

    9. Q

      今後、運動部は辞めた方がいいですか?

      A

      過去に気胸であった事を理由に、運動を回避する必要はありません。気胸を経験しても、その後プロとして活躍しているスポーツ選手もいます。
      気胸に罹ったからと言って、部活まで辞める必要はないでしょう。大きく声や息を吐き出すような、例えば武道の気合や、吹奏楽の演奏で気胸を起こす人も、もちろんいますが、どちらかと言えば、気胸を起こすのは、軽作業中の時が多く、寝ている間に発症する人もいます。運動する・しないに関わらず気胸は発症すると考えられており、今日では、運動することでは、気胸の再発(肺が破れること)は増えないと考えられています。気胸になることを恐れて運動を回避し、安静を続けて暮らすくらいなら、次に再発したら、運動しても大丈夫なように、今後再発しにくくなるような(例えば手術のような)治療を受けておくことの方が、活動量が多くなりがちな若い人には、望ましいかもしれません。部活は良いと思いますが、特殊な環境で働く、一部の仕事には就職できない可能性はありますので、そのことも忘れないでください。

    10. Q

      気胸になったら、会社は休んだ方が良いですか?

      A

      通院治療が可能であっても、気胸のまま就業することは望ましくありません。原則として、休むことをお勧めします。
      急に仕事が休めないことはよくわかりますが、動くと息切れするような人が職場にいても、会社は困りますし、何かあっても会社は責任取れません。学校の先生が見守ってくれている学生とは違います。早く治療して、早く職場復帰することの方が、誰にとっても良い方策のはずです。

    11. Q

      就職や仕事に、影響はありますか?

      A

      特殊環境で働く業種・業務には、就業できないことがあります。
      高気圧作業安全衛生規則という省令で、肺気腫その他の呼吸器系の疾病者が高気圧業務への就業することは禁じられています。そのため、自然気胸罹患者には、気圧変動を伴う特殊環境下での業務には就業させていない職場(職種)があります。事前によく調べておく方が良いでしょう。潜水や飛行と言った高度上空や深水での業種だけでなく、土木建設業でも、地下やトンネル工事などでは、高圧環境下での作業(ケーソン、潜函作業と呼ばれる)を行うこともあるようです。潜水士試験は学科のみで受験可能らしいですが、合格しても実際の潜水作業には従事できないことが考えられます。パイロットや自衛隊などの職種では、自然気胸罹患者には、身体検査の段階で採用制限が設けられています。ただ、航空法の身体検査基準では、気胸の手術をして、その後治癒しているとの医師の判定があれば、身体検査で合格を得ることができるとされていますし、自衛官の身体検査基準では、肺の手術を受けた人は、通常不合格ですが、自然気胸に限っては、手術後治癒していると判断されるなら、大丈夫のようです。具体的なことは医療機関ではなく、希望する就職先に、直接確認を取る方が良いでしょう。

    12. Q

      台風や低気圧が来たら、危険ですか?

      A

      心配には及びません。日々の気圧変化と気胸の発症の関係についてはよくわかっていません。
      日々変わる気圧変化は、強い台風(台風の強さは風速で決まるものらしいですが、ここでは気圧に注目して下さい)と言われるものでも950hPa(ヘクトパスカル)、換算すれば、およそ0.9気圧。大気圧1気圧として10%程度の変化になります。この気圧変動が、気胸の発症に影響するかどうかは、研究者の間でも議論がありますが、関連を証明できていません。気胸診療担当者の間では、特定の時期(1~2週間くらいの期間)に気胸患者が増えるという通説があり、筆者もそう感じることがありますが、科学的な証明はなく、年間を通すと、季節による患者数の変動もありません。

    13. Q

      過去に気胸になったことがありますが、旅行しても大丈夫ですか?

      A

      旅行自体が気胸の再発を増やすことはありませんが、ダイビングや飛行機に乗る場合は注意が必要です。
      気胸が手術で完全に治っていれば、旅行しても大丈夫です。しかし、気胸を疑わせるような症状がある場合は、必ず医療機関で気胸になっていないか確認して、旅行に出かけましょう。特に旅行で飛行機に乗ったり、水中を潜ったりするときは、注意が必要です。気胸となっている時に、航空機やスキューバダイビングなど気圧の変動が激しい環境に入った場合、(理論的には)気胸は悪化します。下の質問と回答も参考にして下さい。具合が悪い時に、いつでも医療機関を受診できるような旅行(陸上を移動するだけの旅行)であれば、多くの場合、問題はないと思われます。

    14. Q

      気胸の二次治療のため、他院に移ることは可能ですか?

      A

      気胸が改善していれば、陸上移動できる範囲ならば可能です。理論上、高地への短時間での移動は、陸上移動でも気胸を悪くする可能性がありますが、実際に問題となるようなことは(国内なら)少ないです。航空機を利用しなければならない場合は、現実問題としてできません(搭乗に関する質問と回答も参考にして下さい)。すでに胸腔ドレナージが行われているような場合は、理論的にはどこへでも移動可能ですが、現実には救急車で移動できる程度の範囲になると思います。
      生活圏外の出先で気胸となり、取り急ぎ近隣の医療機関で初期治療を受けることは、気胸治療ではよくあることです。二次治療を他院で受けたいという希望も多いご希望の一つですし、ほとんどの医療機関が対応してくれるはずです。治療を希望する地域や医療機関が具体的にあれば、現在治療中の医療機関の担当医に相談されるとよいでしょう。医療機関同士で連絡を取り合ってくれます。必要な情報を用意してもらえますので、持参して下さい。
      気胸腔と外気が連絡できるような治療(継続的なドレナージ)が、すでに実施されている状態なら、どこへ移動しても、移動自体で気胸が悪化する可能性はなく、問題ないのですが、移動のあいだ治療装置が正常に作動しているかどうかを管理することができませんので、遠方への移動は避けたほうがよいかもしれません。担当の医師とよくご相談ください。

    15. Q

      他院に移るときの移動手段は、何がよいですか?

      A

      気胸の状態によって異なりますので、担当医と相談してください。(上の問答も参考にしてください)
      気胸が改善しているか、肺の虚脱が軽度で安定していれば、乗用車でも構いません。自分で運転してはいけません。公共交通機関なら、途中で何かあった時に備え、バスよりも、タクシーのほうがよいでしょう。気胸の治療装置がついているような場合は、治療中の病院が用意してくれる救急車などでの移動になることも多いです。気胸の状態が不安定の場合は、医師か看護師の同行が望ましいです。

    16. Q

      気胸が改善せず、帰郷して二次治療を受けたいのですが可能ですか?

      A

      空気漏れに対する小型の治療装置(ドレナージ)を装着できる状態なら、多くの場合移動可能です。ただし、移動行程中の事故やトラブルに対する保証はできかねます。
      出張先や下宿先、旅行先などで、気胸となる人は少なくないです。治療は、気心知れた地元の病院という希望も多いです。気胸発症時に実施された排気の治療装置が外れず、移動が制限されていても、多くの場合、通院用に開発されている小型の治療装置に取り換えることで帰省はできます。非常に空気漏れが多く、コントロールができていないような場合は、遠方への移動ができないこともあります。
      移動するにしても、その間に、治療装置が機能不全になった場合は危険です。誰かの責任問題になることは、だれも望んでいないはずです。可能なら、気胸が一旦治ったあとに移動して、地元に戻ってから手術の相談などをすることが望ましいでしょう。

    17. Q

      気胸にかかったら、飛行機に乗れないのですか?

      A

      搭乗時点で、気胸の可能性がある、あるいは気胸の状態である人は飛行機に乗ることはできません。気胸治療直後で、まだ安定していないと思われる(まだ再発の可能性が充分高い期間中である)場合は、搭乗は控えたほうがよいでしょう。過去に気胸にかかったことがあるにしても、搭乗時に気胸が完治し安定しているなら、飛行機に乗ることは問題ないと思われます。
      心配なのは、空港を飛び立ったあと、機内で気胸になってしまったときと、気胸になっていることに気づかずに、飛行機に搭乗してしまった場合です。難しい理屈はともかく、気胸となった状態で、飛行機が上昇すれば、機内の圧力が下がるにつれ、肺は萎んでいき、気胸は悪くなります。殆どの気胸は、発生して直ちに生命を危機に陥れるようなことは、少ないと思いますが、それでも、中には急速に気胸が進行・悪化してしまうことも、考えられないわけではありません。国内線ならまだしも、国際線でそのような状況になった場合、短時間のうちに緊急着陸できるとも限りません。機内には、緊急用の酸素ぐらいはあっても、気胸に対応できる緊急医療機器や要員はいないと考えるべきです。例え酸素ボンベがあったにせよ、悪化する気胸に対して、酸素投与は一時しのぎにしかならず、肺の虚脱進行を防ぐ治療が必要です。
      気胸に限らず、肺に疾患がある方は、利用する航空会社に、搭乗の数日前までに一度お問い合わせされた方がいいです。会社ごとに規定があり、搭乗可能かどうか、搭乗するならどのような手続きが必要かなど教えてもらえます。いきなり酸素ボンベや車椅子で空港に行っても、飛行機には乗せてもらえません。

    18. Q

      気胸のあと、どのくらいの期間、飛行機に乗れないのですか?

      A

      明確な基準はありません。航空各社ごとに独自で期間を設定していることがほとんどです。
      米国の航空医学の学会や英国胸部疾患学会のガイドラインでは、気胸が治癒(ちゆ、治ること)して3週間は飛行機に乗らないよう勧告しています。またこれらのガイドラインでは、気胸を発症する恐れのある人は、手術など再発の少ない治療を受けたのち、飛行機に乗るべきだとしています。ただし、この推奨については、決して科学的根拠に基づくものではないとも併記しており、現状ではどのようにするのが一番良いか、よくわかっていません。航空各社は、気胸後の搭乗について、独自に基準を決めています。搭乗可能かどうか、搭乗するならどのような手続きが必要かなど教えてもらえます。利用する航空会社に、搭乗の数日前までに一度お問い合わせ下さい。

    19. Q

      飛行機に乗ると、気胸を起こしやすいのですか?

      A

      航空機への搭乗は、気胸発症の誘因にはならないか、なるとしても可能性としては低いと思われます。可能性は低いとしても、機上で一旦気胸が発症した場合の危険性については、十分承知しておいて下さい。
      実際に機内で気胸になった人の報告はありますが、飛行による影響かどうかは分かりません。ヨーロッパにおける調査では、旅客機運行中に起こった救急患者のうち、気胸の事例は、実際には多くないようです。また、軍隊のパイロットに気胸の発生が特別多いことはない、ということは、過去の研究で分かっています。旅客機内の気圧変動(20%程度の変動があります)自体では、新たに気胸を発生させる(肺に穴が開く)ことはないと考えられています。

    20. Q

      重病者だって渡航できるのに、飛行機って誰でも乗れるのではないのですか?

      A

      安全運航のための厳しい規定があり、切符があれば誰でもいつでも搭乗できるのではありません。
      通常の旅客機で重傷者や重病人を運ぶためには、機内の設備変更だけでなく、その他の必要器材や要員を、事前に空港などにも配置しておく必要があり、どこにでも常備常設されているのではありません。重病者を航空機で搬送するのは、部外者が思うほど容易には、できないようです。
      近年、機内持ち込みの荷物や足元の荷物の位置や固定など、乗務員から厳しく注意された経験をお持ちの方も多くなっているのではないでしょうか。手荷物が確実に固定され、乗客は既定のシートにベルトをして座っていなければ、離陸すら許されません。旅客機のシートは、重量やバランスも考慮されたうえで構造計算され、相当の衝撃に耐えられるよう機体にしっかり備え付けられたものです。航空機の運行には、国内・国際の大変厳格な規則があり、個人用の患者搬送用ベッドや車椅子などを、客室内に持ち込むことはできません。車いすなどを機内に固定する方法は、機種や客席のクラスによって異なります。マニュアルに沿って、特定の客席をいくつか取り外し、そこへ専用の接続器具を使って専用の簡易ベッドや車いすを固定し、使用します。
      酸素ボンベが必要な場合は、航空機ごとに設置できるボンベが既定されています。気体が揺れるたびに、酸素ボンベがゴロゴロ動いていては、とても安心して旅行などできません。ボンベに詰めておく酸素の使用量(流量と飛行時間に関係する)なども、事前に届け出て、必要量を充填しておかなければ、途中で足りないということもあり得ます。旅客用航空機に常設されている緊急用酸素投与装置(上から落ちてくる酸素マスク)は、航空機事故に備えて装備されているもので、客席ごとに酸素が投与できる構造ではありません。乗客全員が使用すると1時間も持たないらしいです(緊急時はその間に低空まで降下するとか)。
      気圧が低い上空を飛ぶ航空機内では、機内の気圧は加圧されていますが、それでも地上よりは2割ほど低く、酸素濃度も地上より薄く(地上の80%くらい)なっています。健常者でも、機内では薄い酸素を吸っていることになり、実際に測定すると、体内の酸素濃度も下がっているそうです。地上にいても、酸素を余分に必要とするような人は注意が必要です。

    21. Q

      飛行機内で気胸になった場合、気胸治療用の救急器具はあるのですか?

      A

      知る限りでは、気胸治療用の機器・器具はないようです。機内には、救急セットが必ず装備され、定期的に点検や訓練が実施されていますが、あくまで救急セットです。
      機内には、備え付けと取り扱い訓練が義務付けられている緊急用医療品が常備されています。中には、医師が使用することを前提にした薬品や診療道具もあるようです。しかし、医師として、これらでできることは限られています。特に気胸に関してはそうです。たとえ機内に医療関係者が乗り合わせ、対応してくれたとしても、必要にも満たない救急セットで、的確に対応してもらえる可能性は低いと覚悟しておくべきでしょう。針一本で、あるいは点滴チューブや滅菌の水があれば、簡易の胸腔ドレナージシステムを作ることはできますが、居合わせた医療関係者に、機内での気胸の緊急治療を求めるのは無理でしょう。

    22. Q

      飛行機内で気胸になったと思ったら、どうすればよいですか?

      A

      機内で気胸と思わせる症状で息苦しくなったら、「(左右も含めて)気胸を起こしたかも」と客室乗務員に早めに伝えましょう。あとは運次第です。
      苦しいのをガマンして意識を失ってしまったら、機上で気胸と診断してもらえる確率は、ほぼゼロになるかもしれません。意識を失う前に、必要な情報を誰かに伝えましょう。とても勇気のある医師が居合わせて、一か八かの処置をしてくれ、上手くいけばよいのですが、失敗したら、逆に病状を悪化させてしまうことにもなりかねません。海外では、医師が善意で行った機内での医療行為に対してさえ、医師の責任を追及した裁判例がでており、いまどき「機内にドクターは?」などと言われても、なかなか手を上げにくい状況になっていることも知っておいてください。機内での治療は難しいと覚悟しておいてください。一番良いのは、早く地上に降りて医療機関に搬送してもらうことです。機内から連絡があれば、空港には救急車が来てくれます。診療所がある空港もありますが、あったとしても診療所は救急病院ではありません。多くを期待しない方がいいです。すぐ着陸できないまでも、飛行高度を下げてもらえるなら、ひょっとしたら少し楽になる可能性はあります。酸素投与は無駄ではありませんが、根本的な解決にはなりません。多弁や、不要に呼吸を促迫してしまうと、却って気胸が悪化する可能性があります。気胸の危険性が高いうちは、飛行機に乗らずに済むなら、乗らないことです。

    23. Q

      気胸にかかったら、登山はできませんか?

      A

      一般的な歩くだけのハイキング程度の登山なら、登山時点で気胸になっていなければ、問題ありません。途中で気胸になったかもと感じた場合は、直ちに引き返せるようにしておくことが肝要です。
      気圧が低いという点で、登山は飛行機での移動と同じですが、登山の場合、外気圧の変化が数時間単位と比較的緩やかで、急激な変化は少ない点で異なります。そもそも気胸があれば、登山中に息苦しさが出てくるはずなので、登山自体を途中で断念することになるでしょう。我慢できなくなるまで登ってはいけません。少しでも兆候を感じたら、下山することです。途中で下山できないような登山は、当分の間、止めておきましょう。頂上付近で気胸になったら、症状が許せるようなら、ゆっくり下山するのが良いと思われます。それすら困難であれば、救急要請した方が良いでしょう。救急車が到着できないところでも、ヘリコプターがお迎えに来てくれるかもしれません。もちろん費用はかかるかもしれませんし、天候によっては救急隊が到着不能となるかもしれません。気胸にかかって間もない時期は、まだ再発の可能性があります。無理は禁物です。高山病になるような標高の高い山は特に避けるべきです。
      ここで想定しているのは、休日などに登山道を歩いて上るような登山で、すぐに下山が可能であるような場合です。それ以上の本格的登山、ヘリコプターやロープウエーで一気に高地に移動するような登山を行うような方は、各医療機関で個別にお尋ねください。

    24. Q

      気胸になると、ダイビングはできないのですか?

      A

      スクーバダイビングは、許可されないことがほとんどです。容易に、しかも短時間に、加圧・減圧環境となる潜水は、気胸になったことがある方には、大変危険だと覚えておいてください。
      水中で高圧空気を吸うスクーバダイビングで、潜水中に気胸を起こすと浮上が困難になります。無理をして浮上すれば、大変危険な状態になりかねません。胸腔に漏れた空気と、肺に入ってくる空気の圧力差で、潜行時には問題がなくても、浮上時には気胸は悪化します。
      また、浮上中に息を止めてしまうと、肺が地上での容積より膨らんだ状態になってしまい、気胸を発生しやすい状態になります。浮上中に発生した気胸を、減圧気胸と呼ぶ人もいます。膨張する肺の中の空気は、気胸を起こすだけでなく、時に血液中に(溶けるのではなく気泡のまま)入って、血管を詰まらせてしまう空気塞栓(エアーエンボリズムair embolism)という病態を引き起こすことさえあります。空気で血管が詰まった臓器によって、さまざまな症状があり、死に至ることもあり得ます。血液中の溶解窒素が気化する減圧症とは違います。
      ダイビング中に気胸となって、浮上途中で呼吸困難となったり、意識を失ったりするような事態になれば、命にかかわる状況です。急速な浮上は、特に危険で、運よく浮上できても、まだ船上です。陸上までの移動だけでなく、ビーチに救急車やヘリコプターが到着し、気胸治療を開始できる医療機関まで、どれほど時間がかかるかわかりません。リスクを冒してまでダイビングをすることは、誰からも賛同されません。一緒に潜る人(バディやガイド、インストラクター)にも、リスクを負わせることになります。残念ながら近年になっても、ダイビング中の気胸発症事例の報告はあります。それまで気胸とは無縁であった人ならまだしも、気胸を経験した人が、気胸のことを隠してダイビングをし、このような事態を起こすようなことがあっては、絶対にいけません。誘われても「ドクターストップだから」と断るようにしましょう。ちなみに、気胸とは関係のない胸部の手術後や、気管支喘息も同様に危険とされていますので、十分ご注意ください。
      スクーバーダイバーのためのメディカルチェック・ガイドライン(日本語版RSTC(Recreational Scuba Training Council))には、自然気胸は危険性が高い生命の危険を起こしうる疾患としている一方で、大きなケガや事故で起こす外傷性気胸ならば、完治によりダイビングの危険はなくなるとも記述されています。ダイビングに関しては、自然気胸の方はもちろん、過去に気胸がなかったとしても、肺にブラがあるような方では、注意が必要です。
      法律上の規定はありませんが、国内外を問わず、スクーバダイビングを行う場合はCカードと言う認定証の提示と、ダイビングサービスを提供する業者に、気胸などの疾患の有無の申告を含む同意書を提出する必要があります。Cカードの認定基準は様々ですが、ほとんどの機関が安全を考慮して気胸の診断がある人には認定を行わないようですし、同様の理由で気胸を患ったことのある方には、ダイビングを拒否することが多いようです。
      潜水による水圧は、わずか10メートルで大気圧の2倍。大気圧の7~8割程度で過ごせる旅客機内や登山に比べても、想像以上に潜水時の環境は厳しいです。大変残念ですが、他のレジャーでお楽しみになるのが身のためかと思います。

    25. Q

      気胸になると、素潜りもしてはいけないのですか?

      A

      海面付近の大気を吸って潜るだけなら、問題ないと思われます。競技としての素潜りについては、個別に専門の医療機関でご相談ください。
      素潜り(スキンダイビングとも言う)では、潜水中の肺内の空気は、海面で吸い込んだ空気のみで、気胸になって浮上しても、肺内外(この場合は胸腔内圧と肺内圧)の気圧差はありません。地上と条件は同じです。もし少しでも気胸の兆候を感じたら、慌てず、少ない酸素消費の動きで海面に上がり、助けを求めましょう。できれば、溺れないように浮き輪につかまり、仲間にボートか海岸まで運んでもらうのが良いですが、なかなか難しいかもしれません。潜水中に、息がきつくなったからと、仲間のスクーバダイバーが携行するタンク(ボンベ)や予備空気源の空気をもらうことは、危険です。ボンベから吸い込んだ高圧空気が、浮上中に気胸を増悪します。
      スクーバダイビング(scuba diving)は環境圧潜水とも呼ばれ、圧縮空気を詰めたボンベ(ダイバーは英語読みでタンクと言うらしいです)を携行して行う潜水方法です。潜水深度に合わせた圧(これを環境圧と呼びます)になるよう空気圧を調整する装置(レギュレーター)を口に加え、潜水中はこのレギュレーターを介して、地上(水面)よりも高圧な空気を吸うことで、40m程度までの深度の潜水を可能にする方法です。クストーと言う人が開発、命名したとされるアクアラングと呼ぶ方が、わかりやすい方もあるかと思います。

    26. Q

      気胸になると、水泳も危険ですか?

      A

      気胸に限らず、どのような病気でも、遊泳中の発症には、(特に海上の場合)溺水の危険が付きまといます。気胸の再発率が高い時期は、海で泳ぎたいなら、海岸から離れず泳ぎを楽しむようにするか、海は諦めて、足が届き、監視の目がある安全なプールに留めておくかにして下さい。
      気胸発症と同時に、意識を失うような重症な気胸になることはあまりありませんが、気胸となっているのにかかわらず、運動し続ければ、気胸はどんどん悪化します。海上で気胸が発症した場合を想定すると、すぐに船上、あるいは海岸にたどり着ける場合ならまだしも、ライフジャケットもなく、自力で相当距離を泳がなければならない状況のもとでは、できれば遊泳は避けた方が良いように思います。泳いでいる間に、呼吸が苦しくなってしまったら、溺水の危険があります。学校のプールのように、発症に気づけば、足で立って歩ける、あるいは数メートル泳げばプールサイドに移動できるような状況なら、まず問題ないでしょう。

    27. Q

      気胸治療の専門医はいますか?

      A

      気胸に限定した専門医の制度はありません。
      認められた制度以外では、専門医を名乗ることは禁じられていますので、気胸専門医という医師は国内にはおりません。ただ、制度上、気胸専門医とは呼べないまでも、気胸の診療に熱心な医師は、少なからず全国にいます。残念ながら、どの医師が気胸の診療に詳しいかを知る方法はありません。たくさん手術している病院だからと言って、診察している医師が全員気胸の治療に詳しい、熱心かどうかは別です。実際に説明をうけ、その内容から信頼するに足るかどうか推測するほかないでしょう。
      わが国には、世界でも珍しい気胸の専門学会があり、毎年多くの医師が参加し、最新の研究成果を討議しています。診療の能力はともかく、専門医制度も、参加の特典もない、こうした学会に参加する医師は、かなり気胸に興味を持っているといえるかもしれません。

    28. Q

      気胸の専門施設で、治療を受けたほうがいいですか?

      A

      手術や気管支塞栓術などの治療は、気胸治療を得意としている医療機関で受けることをお勧めします。
      気胸の初期診療(発症して最初に診療にあたること)は、一般内科や外科、救急担当医などが当たることの方が多いと推測されます。適切な初期診療ののち、呼吸器内科、呼吸器外科などでの診療をお受けになれれば、実際には概ね問題はないはずです。気胸治療では、どんなに上手く初期治療が行われたとしても、必ず気胸が治るとは限りませんので、あれこれ医療機関を探し回る前に、まず近隣で初期診療を受けましょう。
      初期治療が開始されれば、医療機関を探す余裕もできます。初期治療を受けた医療機関が、もともと気胸治療を得意としていなかった場合や、手術などの専門性が高い治療を受ける必要がある(受けようと思う)ような時には、気胸治療に慣れた施設で治療を受けられることもよいと思います。初期治療を受けている担当の医師に、ご相談されるとよいでしょう。

    29. Q

      転院を相談して、大丈夫ですか?

      A

      医療機関では、よくあることです。
      転院を申し出られた医師の立場で言えば、正直、信用・信頼されてないのかなと、少し残念に思う気持ちはありますが、この業界ではよくあることで、その後に何か影響することはないです。むしろ、信用されていないことが分かっているのに、診療を続けなければならないことの方が、担当医の立場としては辛いです。自分の専門外なので、できればどこか別の専門施設で治療をお願いしたいと担当医師の方が、強く思っているかも知れません。診療を受けたい医療機関が他にあるなら、正直に伝え、手続きを取って早く転院してしまった方が、誰にとっても幸せかと思います。

    30. Q

      医師によって、話が違うのですが?

      A

      別の医療機関で、セカンドオピニオンをお受けになるとよいと思います。
      気胸では、医療施設間で治療方法に大きな違いがあることは少ないと思いますが、施設の体制や備品・設備、あるいは担当医師の経験などで、治療方針や治療機器は、多少の違いは、どうしてもあります。それ自体は、全く問題ないことがほとんどです。ただ、呼吸器専門の医師の中でも、気胸を専門にしている人は、決して多くなく、古いデータや誤解、通説に基づいて説明が行われていることが、ないとは言い切れません。ご覧のこのホームページについても、当科の考えや方針に基づいて、記述しており、違う見解をお持ちの専門医もきっといらっしゃることと思います。納得がいかないまま治療を受け続けるくらいなら、まずはセカンドオピニオンをお聞きになるのが良いと思います。医療は信頼関係なしには成り立ちません。信頼できると思えた医師や医療機関で治療をお受けになるのが、患者だけでなく、担当する医師にとっても幸せです。

    31. Q

      気胸のセカンドオピニオンは、どこで聞けばよいですか?

      A

      気胸の治療を担当しているのは、一般外科(腹部外科の医師が多い)や呼吸器を専門としない一般内科医、あるいは救急部の医師であるかもしれません。少なくともセカンドオピニオンは、呼吸器内科か呼吸器外科の専門医にお尋ねになるべきでしょう。しかし、残念ながら、呼吸器内科や呼吸器外科医の中でさえ、常に最先端の気胸診療に注目している医師は多くありません。日本呼吸器外科学会や日本呼吸器学会という呼吸器領域最上位の学会にあっても、気胸が大々的にテーマに取り上げられ、議論されることはほとんどなく、マイナーな扱いです。
      もちろん、呼吸器内科や呼吸器外科であれば、ほかの診療科の医師よりは詳しいと思いますが、呼吸器というだけでは、気胸について必ずしも詳しいとは限らないのも事実です。可能ならば、日本気胸嚢胞性肺疾患学会の会員をお尋ねになるとよいでしょう。全国に数百名の会員がおります。日本気胸嚢胞性肺疾患学会は、世界的にも珍しい気胸専門の学会で、かなりオタクな専門家が会員として集まっています。おそらく、この学会以上に、気胸に精通した人たちの集団は、国内・国外共にないと思います。

    32. Q

      気胸になると、公的補償があるのですか?

      A

      じん肺の場合、気胸を発症すると労災補償の対象となります。
      じん肺(じんぱい、塵肺とも書きます)は、粉じん(職場や生活環境から吸い込む粉のような小さな物質)を吸い込むことで、肺に病変をおこす病気を指します。古くから、職業病とも言われる病気の一つでした。じん肺法では、じん肺になっている方が気胸を起こした場合、じん肺に起因する合併症と判定され、労災補償の対象となり、医療費が補償されます。当局から、じん肺そのものの認定を受けなければいけませんので、診療をしている医療機関か、関係の行政機関で、よくご相談になると良いでしょう。
      じん肺とは別に、気胸がきっかけで、国が定めた指定難病が分かることあります。この場合、気胸とは関係なく、難病の重症度によっては医療費の助成があります。気胸を起こしやすい難病については、自然気胸Q&A診断と治療篇の<気胸を起こしやすい遺伝病>や<気胸がきっかけになる全身の病気>などの項をご参照ください。

  • 呼吸器外科診療Q&A~内視鏡(胸腔鏡)篇 arrow_forward_ios

  • ここでは呼吸器診療で使われる内視鏡(=胸腔鏡、『きょうくうきょう』と読みます)に関して、よく尋ねられる質問とその回答を記述しておきました。

    1. Q

      胸腔鏡手術は口や鼻からカメラを入れて行われる手術ですか?

      A

      違います。皮膚にキズ(1-2センチ程度)を入れたところから、カメラと手術道具を入れて行う手術です。
      一般に『内視鏡』と言えば、胃カメラに代表される検査用装置や検査行為を指しますが、外科で『内視鏡手術』と言えば、通常は皮膚を少し切った傷口から、カメラを入れて行う手術を言います。胃カメラや大腸のカメラでも、体の組織の一部を取ったり、病巣を切除することがあり、こちらを『内視鏡切除』と呼び分ける人もいますが、厳密な使い分けや分類はありません。体にキズを入れて、そこからカメラを入れる外科治療のことを『内視鏡手術』と考えれば、概ね間違いはないと思います。

    2. Q

      内視鏡とカメラは違うものですか?

      A

      今は同じと考えてよいです。
      厳密には、カメラを使わない内視鏡装置もありますが、現在は内視鏡装置にはCCDカメラ(デジタルカメラと同じ仕組み)を使うことがほとんどで、国内では同義に捉えられていると考えてよいと思います。

    3. Q

      カメラを体の中に入れるのですか?

      A

      最初に開発された内視鏡装置は、フィルムを装填したカメラを胃の中に入れ、手元でシャッターを押して撮影し、カメラを体外に引き出してフィルムを現像して初めて胃の中の様子を見ることができる、というような装置だったそうです。文字通り『胃カメラ』です。
      その後、カメラ装置は光ファイバーの開発により、カメラを体外に置いて撮影できるようになりましたが、撮影されたところしか観察できない大変不便なものでした。その後カメラではなく、体外にいて内臓の内腔を肉眼で観察できるような装置になり(ファイバースコープと呼ばれる)、カメラは観察途中の所見を撮影するために使われるだけになりました。カメラは補助的な装置となり、『胃カメラ』という言葉は徐々に使われなくなっていましたが、最近になって、再びカメラ自体(厳密にはCCDというものですが)を体内に入れるタイプの内視鏡も復活しつつあり、今後はわかりません。カプセル型内視鏡と呼ばれる最新の内視鏡装置は、口から飲み込んで便とともに排出される間に、内視鏡装置自体が自動で撮影を繰り返し、これまで観察困難であった小腸を全長にわたり撮影できる装置です。

    4. Q

      内視鏡はファイバースコープとは違うものですか?

      A

      ファイバースコープは厳密には、カメラを使わない内視鏡装置を指し、通常はレンズを覗き込んで肉眼で観察する内視鏡装置です。少し古い内視鏡はこう呼ばれるタイプのものでした。
      CCDと呼ばれるデジタルカメラ用の素子が開発されモニタ画面で観察する「電子スコープ」と呼ばれるタイプの内視鏡が普及するまでは、肉眼で見るファイバ―スコープが、内視鏡の代名詞的存在でした。「ファイバー」は光ファイバーのことで、光を内視鏡の先端から反対端まで通すための素材です。柔らかくて曲げることのできる光学ガラスに例えられます。ファイバーが開発されたことで内視鏡は初めて曲げられるようになり、この機能をもった、曲げられる内視鏡を『軟性鏡』と言う場合があります。ファイバー自体は現在の軟性内視鏡に広く使われており、ファイバースコープと言う名称は使われなくなりつつあります。

    5. Q

      硬性鏡って何ですか?

      A

      曲がらない内視鏡を硬性鏡と呼びます。
      ファイバースコープに代表される軟性鏡に対し、光を体外に届ける部分が曲がらない内視鏡を硬性鏡と呼びます。光を通す部分は光学レンズで作られており、光を通す量が格段に増えます。軟性鏡は、くねくねと長い消化管や気管支内部を観察することが得意ですが、逆に広い空間を観察するには軟性鏡で観察するのは難しく、硬性鏡の出番となります。広い空間とは、胸腔や腹腔などのことで、つまり、内視鏡手術では硬性鏡が好んで使われています。硬性鏡でも体外部分にCCDカメラが装着されています。

    6. Q

      電子スコープが最新の内視鏡ですか?

      A

      電子スコープタイプの内視鏡が最新のものと考えてよいでしょう。
      ただし、内視鏡径が細いものや軽量化を目指したものは、カメラ部分がないファイバースコープが依然現役内視鏡装置として使われています。

    7. Q

      最新の内視鏡装置にはどんなものがありますか?

      A

      現在は4Kハイビジョン映像の内視鏡装置が普及しています。市販されている内視鏡装置では、目に見えない近赤外線領域まで観察できる装置や、立体視が可能なものもあります。
      特に高画質化の恩恵は、外科の領域では大きいです。内視鏡は肉眼よりも臓器に近接して見ることができるため、ハイビジョン映像では、肉眼で見るよりも細かい所見を観察できるようになりました。まるで虫眼鏡で組織を見ているような感覚です。内部を照らす光量も安定し、ズームや見る方向を変えられるものなども出ています。
      様々な機能が開発されていますが、まだ実用的・一般的でないものもあります。立体視で見る内視鏡には、3Dテレビと同じように、自然な立体感というには、(個人的には)まだ少し違和感はあります。可視外の光をとらえる装置は、今その利用法が探られている状況であり、まだ必須といえる装置ではありません。4Kや8Kといったさらに高解像度のカメラの開発も進んでいるようですが、まだ市販・普及という段階ではありません。

    8. Q

      3D内視鏡(立体内視鏡)はないのですか?

      A

      ありますが普及していません。
      内視鏡手術開発当初から、3D内視鏡は開発が続けられ、性能も改善していますが、少なくとも胸腔鏡手術の領域では普及していません。3D映画や3Dテレビが予想ほど普及しなかった理由と同じです。個人的感想ではありますが、僅かながら違和感があり、長時間利用すると疲れます。カメラを複眼とし、映像の表示方法を工夫すれば、立体感は生まれますが、手術のような繊細な操作を伴う場合には、もう少し改良が必要と思います。

    9. Q

      内視鏡は細いほうが良いのですか?

      A

      検査・治療を受ける人にとっては、内視鏡の径が細いほうが楽ですが、細い内視鏡は画質が悪く、詳しく観察しながら手術をするためには、ある程度の太さの内視鏡の方が良いです。
      内視鏡手術に使う硬性鏡には、3ミリ、5ミリ、10ミリの3種類の径のものがあります。3ミリで手術ができれば傷も小さく済み、良いとは思いますが、太い径のものに比べ圧倒的に画面は暗く、画質も悪いため、繊細な手術ではとても使うことはできません。10ミリでは4Kハイビジョン映像で観察でき、5ミリではハイビジョンくらいの画質です。
      当科では、原則10ミリの硬性鏡で内視鏡手術を行っています。5ミリ以下の細径のものも補助的に使用することがあります。

    10. Q

      『鏡』はカメラのことですか?

      A

      医学機器のうち、視認による観察に使用する機器には『鏡』の文字がつけられることが多いです。日本独自の表現であり、外国では同様の意味の語は使われません。
      『鏡』が使われるのは、内視鏡のほか、検眼鏡や耳鏡、鼻鏡、喉頭鏡、肛門鏡などの医療器具があり、いずれも、本来カメラが付属するものではありません。このことから『鏡』=カメラ装置ではないことが推察できます。『○○鏡』機器に共通しているのは、狭いところを覗き込むための装置という点です。いずれも古くからある医療機器で、室内に置いたランプの光を鏡に反射させて、明り取りにしたことに起源があるのでしょう。耳鼻科の医師が良く使う『額帯鏡』という診察用具をご存じではないでしょうか。銀の円盤の真ん中にのぞき窓がある反射鏡です。

    11. Q

      肺の内視鏡とは何ですか?

      A

      大きく分けると気管支鏡、縦隔鏡、胸腔鏡の3つがあります。
      肺という臓器は左右にあって、肺がある空間を胸腔(きょうくう)と言います。両側の肺は気管支を通じて中央で繋がり、気管という一本の臓器になります。この気管がある領域が縦隔(じゅうかく)という場所で、気管は、首を通って口と鼻に繋がり、口と鼻を通して体の外と繋がっています。
      口や鼻から内視鏡を入れて、気管と気管支の内側(内腔)を見るのが気管支鏡。これは内臓といっても気管と気管支の中を見る内視鏡です。
      首の付け根にキズを入れ、首から胸の中に向かって縦隔にある気管の外側(と周辺の臓器)を見るのは縦隔鏡。
      あばらの間にキズを入れ、肺が広がっている胸の中(あばらの内側の空間=胸腔と言います)で肺の表面やあばら内側を見るのが胸腔鏡です。今日、肺に対する内視鏡手術と言えば、通常はこの胸腔鏡を使った手術を指します。

  • 呼吸器外科診療Q&A~いろいろな胸腔鏡手術篇 arrow_forward_ios

  • ここでは呼吸器外科で行われる内視鏡手術(=胸腔鏡手術)に関して、よく尋ねられる質問とその回答を記述しておきました。

    1. Q

      胸腔鏡手術というのは、病院によって違うのですか?

      A

      かなり違います。
      そもそも何をもって胸腔鏡手術と言うか、まだ定義づけや規定がないため、本当に色々な胸腔鏡手術と称する手術があります。
      中には、いかがわしい胸腔鏡手術があるのも事実です。最近は胸腔鏡手術の診療費が、開胸手術より高く設定されるようになったため、胸腔鏡は胸の中のほんの少し観察だけで、モニタはついているだけ、ほとんど開胸操作で行ったような手術まで、胸腔鏡手術としてカウントする病院もあると言われています。実態と統計が必ずしも一致していないように感じることがあります。
      名実ともに胸腔鏡手術と言える手術の中にも、『流派』とも言える手法の違いはあります。手術というものは、例えば盲腸(虫垂炎)の手術ではココ、肺がんならこのあたり、と大概決まったキズで行うものでした。胸腔鏡手術では、この常識は通じなくなっています。病院によって、キズの大きさや数、位置などが大きく違います。どれかが優れたということではありません。
      本質的な部分で、最も重要な違いは、目的である『組織切除』の内容が違わないのかの点です。学会などで発表されるものを見る限りは、この点についても千差万別と感じます。外科医が見ないとわからない手術の質的違いとも言え、この部分はなかなか表面からはわかりません。

    2. Q

      バッツとは胸腔鏡手術のことですか?

      A

      概ね同じと考えてよいでしょう。胸腔鏡手術の英訳の略語(頭字語)がVATSで、バッツと読み、厳格に訳すと、ビデオ補助下胸腔鏡手術です。
      VATSが何の略かについては、実は様々な意見があります。例えば、ハーバード大学のホームページにはVideo-Assisted Thoracic Surgery、米国で最も有名な病院の一つメイヨークリニックのホームページにはVideo-Assisted Thoracoscopic Surgeryと記述されており、微妙に違います。前者はビデオを補助にした胸部の手術、後者はビデオを補助にした胸腔鏡の手術という意味の違いになります。医学雑誌でも、編集者や、レビュアー(審査委員)によって違うこともあるようです。VATSの直訳では、ビデオ補助下胸腔鏡手術としていることが多いようですが、国内では胸腔鏡補助下手術と呼ぶが多いです。

    3. Q

      『ビデオ補助』ですか『胸腔鏡補助』ですか?

      A

      英訳に忠実ならビデオ補助ですが、この訳語は我が国の呼吸器外科医はあまり使いません。同じ意味で『胸腔鏡補助』と言うことの方が多いと思います。
      胸腔鏡手術には開発当初から様々な呼び名があり、未だに統一されていません。VATSが言う『ビデオ補助』という言葉が何を意図して付けられたか、正確な経緯はよくわかりません。もともと胸腔鏡自体は、肉眼で胸腔(胸の中)を観察する装置でしたので、ビデオ映像を見ながら手術するということを強調したのかもしれませんが、先に開発された腹腔鏡下胆嚢摘出手術をLASC(ラスク、laparoscopic cholecystectomy )とかLAP-C(ラップシー、laparoscopic cholecystectomy )とか読んだため、語呂を合わせた略語を作ったのかもしれません。我が国にはビデオ映像装置のつかない胸腔鏡自体があまりなかったことから、『ビデオ補助』と言う用語には若干違和感があり、国内では胸腔鏡を併用すれば、開胸は小さくても手術ができる点が強調され、『胸腔鏡補助』と呼ぶようになっていきました。米国ではやや否定的だった胸腔鏡手術を、我が国の呼吸器外科医が独自に発達させてきたこともあり、日本語を該当する英語に合わせた意訳というのが実情と言えます。小開胸を併用しない胸腔鏡だけで行う手術にはthoracoscopic surgery(胸腔鏡の手術)と呼んで区別することもあります。

    4. Q

      モニタの映像を見ない胸腔鏡手術があるのですか?

      A

      ありますが、それを胸腔鏡手術と呼ぶか議論はあります。
      手術中に気腹という操作がいる腹部の内視鏡手術では、モニタ映像を見ながら行われることが普通です。(気腹と言うのは、炭酸ガスをおなかの中に送り込んで、おなかをガスで膨らませる操作を言います)気腹には、体の内腔を気密にする必要があるため、体外と体内の経路は遮断しなければならず、体の中を直接覗き込むことはできません。胸部の手術では、気腹が必要ないため、創部から直接胸腔内を観察することが比較的容易にでき、カメラのビデオ映像を見なくても手術が可能となります。胸腔鏡手術の開発当初は、必要な時だけカメラ(モニタ)映像を見て行うことも多かったため、胸腔鏡補助下手術と呼ばれるようになりました。現在でも、この呼び分けを厳格に行うことがあります。
      胸腔鏡補助下手術は厳密には内視鏡手術ではないとの批判もあります。事実、内視鏡は暗い胸の中のランプ代わり使われるだけで、肝心の術者が、ビデオ映像を全く見ないまま手術が進められるのであれば、ただキズが小さくなっただけで、これまでの開胸手術と何の変りもないとの主張です。このような手術まで胸腔鏡手術と呼んでよいかどうか問題視する専門家は少なくありません。

    5. Q

      完全鏡視下胸腔鏡手術とは何ですか?

      A

      モニタに映るビデオ映像だけを見て手術を行う胸腔鏡手術を言います。
      完全鏡視下胸腔鏡手術は、和製英語のようですがComplete VATSやpure VATSと呼ぶようになっています。完全鏡視下手術はモニタに映る2次元画像だけで手術を遂行し、臓器を取り出す時に必要な大きさだけキズを拡げる方法です。厳格な意味で、内視鏡手術と言える方法ですが、技術的には最も難しいと言えるでしょう。

    6. Q

      ハイブリッド手術とは何ですか?

      A

      クレジットカード大の開胸に加え、胸腔鏡を併用する手術を言います。
      クレジットカード大のキズがあれば、胸の中のほとんどの場所を直接肉眼で覗き込めるだけでなく、手先で直接臓器に触れることも可能になります。開胸で使われる通常の手術器械も利用できます。最近は、このような手術を『ハイブリッド手術』と呼ぶようになっています。いわゆる胸腔鏡補助下手術で、開胸手術と完全鏡視下手術の中間的な手法として位置づけられます。

    7. Q

      キズの数は少ない方がいいのではないですか?

      A

      必ずしもキズの数と手術の良し悪しとは関係ないと思います。
      少しでも痛みは少なくしたいとの思いで行われている手術ですが、無理をして減らしても、術後の経過はあまり大きな差になりません。数は少なくても、個々のキズの長さは長くなっているということもあります。キズの位置も手術の優劣に直接関係するものではありません。肺を切り取る手順によっては、キズの位置や数を変えた方が良い場合もあり、同じ病院であっても違うキズで行われることがあります。

    8. Q

      内視鏡を使わない手術と内視鏡手術の違いは何ですか?

      A

      技術的な難易度を除くと、突き詰めて言えば、臓器にどうやって到達するのかの手法の違いです。
      手術の難易度や体に対する負担といったことを除くと、結局は外科治療としては同じ切除範囲を違う方法で取っているだけです。同じように切除できるかという議論はありましたが、胸腔鏡を多く手掛けている外科医の間では、ほぼ解決されていると言ってもいいでしょう。

    9. Q

      開胸手術とは何ですか?

      A

      旧来の胸を開いて行う手術です。
      厳密な規定はありませんが、直接肉眼で臓器を見て、臓器に触れながら行う手術と考えてよいでしょう。

    10. Q

      胸腔鏡手術という術式はないといわれましたが?

      A

      その通りです。「胸腔鏡手術」だけでは何の手術のことか全く分かりません。
      胸腔鏡手術という手術があるのではなく、胸の中の臓器を手術する手段として、胸腔鏡を利用する手術を総称した言葉です。具体的な手術の術式は、「胸腔鏡下肺葉切除」とか「胸腔鏡下ブラ切除」とかのように表現します。「胸腔鏡」はあくまでも手術を遂行するための手段の一つであり、目的としている手術の内容は「胸腔鏡手術」の用語の中には含まれません。

    11. Q

      胸腔鏡手術でも開胸になる、といわれました?

      A

      この説明には、いくつかの解釈が考えられます。
      厳密に言えば、『開胸』と言う言葉は、胸の中の体腔(胸腔と言います)と外気が、針の孔ほどでも交通することを言い、通じる傷の大きさとは無関係です。
      『開胸』しなければ、どのような肺の手術もできませんので、胸腔鏡手術でも、この厳格な意味では『開胸』していることになります。これが、第一の解釈です。この意味で『開胸』を捉えることとすると、胸腔鏡手術は『小さく開胸する』手術であり、対して開胸手術は『開胸』する手術と言う意味ではなく、『大きく開胸する』手術の意味とご理解ください。
      胸腔鏡手術で、胸の中で組織や臓器を切り離すことができても、取り出すためにはそれなりの大きさが必要です。取り出す組織の大きさに合わせた少し大きな『開胸』創が作られることになります。これが第二の可能性です。ただし、この場合の少し大きいキズというのは、肺がんの手術で、大体5センチ程度です。
      最後に、胸腔鏡手術で対応できない状況になった場合、途中で開胸手術に切り替える可能性があるとの意味でも使われた可能性はあるかもしれません。
      他にも可能性はあるかも知れません。説明の中でわからなかったことや、改めて質問がある場合は、遠慮せず担当医にお尋ねになるようお勧めします。

    12. Q

      ロボットによる手術があるのですか?

      A

      ロボット手術と言われている手術はありますが、ロボットが手術をするのではありません。
      ロボットアームのような装置を外科医が操作をして行う手術をロボット手術と称しています。プログラムされたロボットが、手術を行うわけではありませんので誤解のないようお願いします。ロボット工学を利用した手術器械があり、あたかもロボットが手術しているようだということでそのような名称になっています。操作しているのはあくまで外科医です。

    13. Q

      ロボット手術の利点は何ですか?

      A

      関節機能を持った手術器械が使え、縫合操作に向いていることだと思います。
      通常の内視鏡手術で使われる道具類は、直線的なモノで横向きに曲げることが自由にできません。道具に関節装置を付け、これを手元で操作できるようにした大がかりな手術器械が開発され、遠隔操作で手術ができることを特徴として販売されていました。何時の頃からか、この装置を使った手術をロボット手術と呼ぶようになりました。自由度だけでなく、操作感や複眼視による立体感などもあり、特に細かい縫合などに向いています。手術器械から離れて操作できるため当初は遠隔医療で手術が受けられるとの宣伝が行われましたが、結局この装置が動かすアームに取り付ける手術器械は、別の外科医が体に入れる必要があり、手術中も手術器械をアームに付け替えたり、不測の事態に備えて傍に待機している(手術着を着て立って見守る)必要があり、操作している術者以外には全く退屈な手術です。大きな医療機関にしかありません。

    14. Q

      ロボットによる肺癌の手術はないのですか?

      A

      ありますが、普及していません。
      ロボット手術のメリットが最大に生かせる点は、縫合(組織を縫う)操作です。肺癌の手術では、この縫合操作がほとんど不要になっており、メリットが生かせません。肺癌の手術では、手術器械の入れ替えも頻繁で、ロボット手術では却って煩雑になるなどのデメリットの方がむしろ多いです。ロボット手術に使われる医療器械が、極めて高額で、維持費もかかり、これまで保険が使えなかったこともあります。通常の胸腔鏡手術技術が、ロボット手術装置より先に広く普及発展したために、多くの専門医がこのような高額な装置を必要とせず、手術できるようになっていることもあると思われます。

  • 呼吸器外科診療Q&A~胸腔鏡による肺がん手術篇 arrow_forward_ios

  • ここでは肺がんの内視鏡手術(=胸腔鏡手術)に関して、よく尋ねられる質問とその回答を記述しておきました。
    肺がんの手術全般に関すること、検査・診断については下記のページをご覧ください。

    1. Q

      肺がんの治療として胸腔鏡(内視鏡)手術はできますか?

      A

      全てではありませんが、できます。
      もちろん、できない手術もありますが、今日、手術適応とされる肺がん手術では、よほど条件が悪くない限り、ほとんどできるようになっています。胸腔鏡手術が肺がんに応用されるようになって、およそ20年ほどです。開発当初は肺がんに、内視鏡手術を応用することに強く反対する意見もありましたが、肺がんに対する内視鏡手術の件数は国内の統計では、年々増え続けており、肯定的に捉える医師は増えています。また当初は、比較的容易な術式しか行われないことも多かったようですが、現在では、複雑な手術もできるようになり、開胸手術に劣るとも勝らない手術や、胸腔鏡ならではの手術が行われるようになっています。ただ、胸腔鏡で実施できる手術の範囲や難度の高さやは施設によって大きく異なるようです。
      内視鏡手術を肺がんの治療として行うことの是非については、よく担当の医師とご相談されるようお勧めします。納得がいかない場合はセカンドオピニオンなどもご利用になるといいでしょう。

    2. Q

      胸腔鏡(内視鏡)手術は肺がん手術では良くないと聞いたのですか?

      A

      肺がんの手術に内視鏡手術は不適当だという意見は、少なくなりましたが、根強くあります。
      理由として、内視鏡手術が開胸手術より優れていると示すデータがないこと、内視鏡手術ではできない手技も開胸ではできる可能性があること、内視鏡手術は習練が必要で一部の外科医にしかできないが、開胸手術は遍く外科医に普及した技術であること、臓器を触れることで初めてわかる所見があること、手術の時間がかかること、麻酔の負担が大きいこと、手が入ることで対処できる緊急事態があること、若手の教育のために開胸手術が必要なこと、等々です。多くの先駆的外科医の努力と医療機器の進展によって、これらの問題はほぼ解決されつつありますが、挙げられた理由それぞれは間違いではありません。一部の外科医の中には、このような科学的な反証を盾にせず、ただ個人的信条として内視鏡手術に反対しているケースもあるようです。
      是非はともかく、肺がんに対する内視鏡手術は年々実施件数が増え続けているのは事実です。ここでは良い悪いの判断は示しません。担当医によくご尋ねになり、最後はご自身で肺がんに内視鏡手術をするのが適当がどうか判断してください。

    3. Q

      胸腔鏡(内視鏡)手術が肺がん手術で増えているのですか?

      A

      増えています。
      増えている最大の理由は、やはり患者側の需要が高いからだと思います。また、外科医側にも効能を認める人が増えてきたことが、次の要因でしょう。長年、胸腔鏡手術を実施してきた私どもの印象として、やはり手術のキズの大きさや、肋骨(あばらの骨)や切断する筋肉の量などを減らすにしたがって、術後の回復は早いように思われます。古典的な開胸手術の大きなキズでも、回復は早くなっていることも事実ですが、平均すると、やはり胸腔鏡手術に軍配が上がるように感じます。これを数値で証明することはまだできていませんので、科学的には両者に差はないということではありますが、実際に術後の患者さんを何人か見れば、ほとんどの人はそう感じるようです。当科の関係者で、敢えて自分は開胸手術を受けたいと思う者は、有難いことにほとんどいないようです。
      それに加えて、胸腔鏡手術の技術が保険診療でも高く評価されるようになって、苦労してでもやろうという外科医が増えてきていることは否定できません。外科医のモチベーションが上がると、その手術は急速に普及しますが、同時に技術格差も大きく広がっているようです。中には、これで胸腔鏡と言えるか首をかしげるような手術も行われているようであり、残念な限りです。

    4. Q

      気管支鏡で肺がんの治療はできないのですか?

      A

      一部の肺がんでは行われています。
      気管支の内腔側にできた薄く小さい肺がんでは、気管支鏡による治療が実施できます。条件が厳しく、なかなか該当する肺がんは多くないです。治すことを目的としない治療(姑息的治療といいます)として、がんで詰った気管や気管支にレーザーで穴をあけたり、詰りかかった気管や気管支を無理やり拡げるステント治療などがありますが、気管支鏡だけで外科治療を行うことは通常ありません。

    5. Q

      縦隔鏡で肺がんの治療はできないのですか?

      A

      基本的に、縦隔鏡は検査用の装置です。
      縦隔鏡は首の付け根を切開して、気管の前を胸の方向に入れていく内視鏡です。この検査は全身麻酔で行います。
      気管の周りにはリンパ節と呼ばれる組織がいくつかあり、肺がんが進行すると、気管の周りのリンパ節に転移することがあります。以前は縦隔鏡を使って気管の周りのリンパ節を取り、転移の有無を調べる検査法が盛んにおこなわれていたこともありますが、我が国では、精度の高いCT検査が普及していることと、局所麻酔でできる気管支鏡で、気管や気管支周囲のリンパ節も一部取って調べられるようになったことなどの理由で、行われることは少なくなりました。
      一部の縦隔腫瘍で、縦隔鏡を使った切除が報告されることもありますが、一般に普及した手技ではありません。

    6. Q

      肺がん以外でも胸腔鏡手術はできますか?

      A

      多くの疾患で可能となっています。
      保険改正のたびに、徐々に保険がきく手術が増えています。保険がきかない病気でも技術的には可能なものもありますが、自費診療となり、医療機関によっては、そのような手術は行わないこともあります。かかっている医療機関の担当医とご相談ください。

    7. Q

      胸腔鏡では病巣がわからないことがあるのですか?

      A

      あります。
      胸腔鏡は肺という臓器の表面を観察するものであり、肺の内部に病巣がある場合、病巣は直接見えません。肺の表面に出来た間接的な所見を頼りに病巣を推測できることもありますが、見るだけでは限界があります。肺は柔らかいので、触って見ると硬い病巣なら、わかります。近年はCTでしかわからないような、小さく柔らかい肺がんが増えており、外科医泣かせです。小さな傷を通して、指を伸ばして病巣を触って探そうとする姿は、とても最新の外科技術とは思えないものですが、触診なしではわからない病巣が増えつつあります。

    8. Q

      胸腔鏡手術は料金が高いのですか?

      A

      開胸手術より手術料は高いです。
      例えば標準的肺がん手術の場合、開胸手術では、凡そ70万円、胸腔鏡手術では凡そ90万円くらいです(手術料だけです。平成26年度の診療報酬を元にしています)。これは、胸腔鏡手術の難易度が高いという意味での、技術的評価という意味と、手術に用いる器材の材料費が開胸手術よりかかるということから、高めに設定されているのだと思います。
      胸腔鏡手術にもさまざまな種類の手術があり、手術の種類によって30-90万円程度の幅で手術料も異なります。
      医療費の実際は、手術料以外にもかかりますし、治療(入院)期間などでも変わります。あくまで参考にとどめてください。

    9. Q

      胸腔鏡で手術した場合、入院費はどのくらいかかりますか?

      A

      あくまで目安ですが、凡そ100~150万円くらいの診療費がかかります。(当科で肺がんの標準的手術(肺葉切除と縦隔郭清)を胸腔鏡で行い、総入院期間が1週間であった場合の目安)
      実際にお支払いになるのはこの3割(~1割)であり、さらに条件が合えば高額療養費負担制度が適用されて、実質負担額は数万円以下になるものと思われます。医療費の実際は、手術料以外にもかかりますし、入院した医療機関、治療(入院)期間などでも変わります。あくまで参考にとどめてください。

    10. Q

      ロボットによる肺がんの手術をおこなっていますか?

      A

      現在、当科ではロボット手術は行っておりません。
      肺がんのロボット手術をご希望であるなら、まずロボット手術の装置がその医療機関にあるかどうかだけでなく、その病院の呼吸器外科で、その装置を使った肺がん手術を行っているかどうかをよくご確認のうえ、当該医療機関をご利用ください。

  • 呼吸器外科診療Q&A~胸腔鏡手術の術後経過やその他篇 arrow_forward_ios

  • ここでは呼吸器外科で行われる胸腔鏡手術の術後経過や、関連する事柄に関して、よく尋ねられる質問とその回答を記述しておきました。

    1. Q

      内視鏡(胸腔鏡)手術は手術の後、痛くないのですか?

      A

      無痛ではありません。小さくてもキズがある限り、相応の痛みはあります。
      体表にキズを入れて行う以上、痛くない手術などありません。キズを入れる時に麻酔がかかっていても、癒えるまではやはり痛いです。外見上、傷が治っているように見えても、時に痛んだり、違和感が取れないということは、内視鏡手術に限らず、手術の後には必ず付きまとうものです。内視鏡手術が痛くないということはありません。
      従来の開胸手術では背中から脇を通って、乳房の下近くまでキズを入れる方法が、広く行われていましたが、このキズに比べると、胸腔鏡手術の手術当初の痛みの範囲は限定されていて、辛さは少ないようです。実際、手術直後から2-3週間の間の比較では、胸腔鏡手術のほうが、開胸手術より痛みの強さは弱いと言われています。開胸手術も近年は傷の大きさが小さくなっていますが、手術直後はやはり平均して、胸腔鏡手術の方が楽な印象はあります。

    2. Q

      内視鏡(胸腔鏡)手術ができないのはどのような場合ですか?

      A

      技術的に実施不可能な場合と、麻酔管理上実施困難な場合があります。
      技術的には(1)安全が担保できないとき、(2)カメラで見るだけでは病巣がわからないとき、(3)肺とあばらの間に空間ができない病態の場合、(4)あばらの間からカメラが入れられないとき(あばらの間が狭い、あるいは骨格が大きく変形している、皮下脂肪が厚すぎる)、などです。体外へ摘出すべき病巣が大きすぎて、あばらの間から容易に出せそうにない時も、胸腔鏡手術のメリットは少ないと思われます。
      胸腔鏡手術は手術しない側の肺だけで麻酔を行う分離肺換気麻酔という手法で、麻酔を行います。麻酔中は、片方の肺だけで、酸素を取り込み二酸化炭素を吐き出さなければいけません。肺の機能が悪いと、片方の肺で麻酔ができないことになり、手術の実施自体が極めて困難になります。この問題は、更に特殊な人工肺装置や高頻度ジェット換気というような装置があれば回避できることがありますが、そこまでしても胸腔鏡手術を行う必要があるかはケースバイケースで判断されるべきでしょう。

    3. Q

      胸腔鏡では病巣がわからないことがあるのですか?

      A

      あります。
      胸腔鏡は肺という臓器の表面を観察するものであり、肺の内部に病巣がある場合、病巣は直接見えません。肺の表面に出来た間接的な所見を頼りに病巣を推測できることもありますが、見るだけでは限界があります。肺は柔らかいので、触って見ると硬い病巣なら、わかります。近年はCTでしかわからないような、小さく柔らかい肺癌が増えており、外科医泣かせです。小さな傷を通して、指を伸ばして病巣を触って探そうとする姿は、とても最新の外科技術とは思えないものですが、触診なしではわからない病巣が増えつつあります。

    4. Q

      胸腔鏡手術は料金が高いのですか?

      A

      開胸手術より手術料は高いです。
      例えば標準的肺がん手術の場合、開胸手術では、凡そ70万円、胸腔鏡手術では凡そ90万円くらいです(手術料だけです。平成26年度の診療報酬を元にしています)。これは、胸腔鏡手術の難易度が高いという意味での、技術的評価という意味と、手術に用いる器材の材料費が開胸手術よりかかるということから、高めに設定されているのだと思います。
      胸腔鏡手術にもさまざまな種類の手術があり、手術の種類によって30-90万円程度の幅で手術料も異なります。
      医療費の実際は、手術料以外にもかかりますし、治療(入院)期間などでも変わります。あくまで参考にとどめてください。

    5. Q

      胸腔鏡で手術した場合、入院費はどのくらいかかりますか?

      A

      あくまで目安ですが、凡そ100~150万円くらいの診療費がかかります。(当科で肺がんの標準的手術(肺葉切除と縦隔郭清)を胸腔鏡で行い、総入院期間が1週間であった場合の目安)
      実際にお支払いになるのはこの3割(~1割)であり、さらに条件が合えば高額療養費負担制度が適用されて、実質負担額は数万円以下になるものと思われます。医療費の実際は、手術料以外にもかかりますし、入院した医療機関、治療(入院)期間などでも変わります。あくまで参考にとどめてください。

    6. Q

      胸腔鏡手術では、手術翌日から歩けるのですか?

      A

      歩けます。
      特別な理由がなければ、歩くよう心掛けた方が回復はよいです。最初の何回かはふらつくことがありますので、看護師などの介助の下に歩行するようにしましょう。半日もすればほぼ一人で歩行できるようになります。

    7. Q

      胸腔鏡手術では、術後いつから食事ができるようになりますか?

      A

      手術の翌朝から可能です。
      翌日はまだ食欲はないのが普通ですが、食事はできるようになります。2-3日目にはほとんどの方が普通に食事をされています。

    8. Q

      胸腔鏡手術なら、日帰り手術はできますか?

      A

      当科では行っていません。
      肺癌手術では翌日以降になって起きる合併症も少なくなく、(治療を目的とした)肺癌の手術では日帰り手術を推奨している医療機関はないと思います。自然気胸などの疾患で、日帰り手術を行っている施設がありますが、当院では全身麻酔を行う胸腔鏡手術では、日帰り手術はお勧めしておりませんし、実施する予定もありません。

    9. Q

      胸腔鏡手術の後、いつごろ退院できますか?

      A

      当科では、肺癌手術の後、4-5日目(手術当日は0日目として数えます)、自然気胸では3日目で退院するケースが最も多いです。
      入院期間は、持病や手術内容、合併症など様々な要素で変わってきます。合併症さえなければ、長くても術後6-7日目くらいまでに退院されます。

    10. Q

      術後数日で退院して、生活できますか?

      A

      自力で生活できないと思われる場合は、退院許可していません。
      術後数日たつと、入院前と全く同じ活動力ではないかもしれませんが、入院していても退屈と感じるほどには回復しています。自分でトイレを往復して用が足せ、食事が普通に摂れるなら、ご自宅での療養期間に入ります。すぐに重労働はできませんし、遠くへ外出することは無理ですが、食べて寝るだけでも、ご自宅で生活されること自体が、回復に向かう十分なリハビリになります。

    11. Q

      胸腔鏡手術の場合、何日くらいの入院期間が必要ですか?

      A

      当科では、肺癌では1週間、自然気胸では4-5日が目安です。
      これはあくまでも、目安です。もちろん開胸手術でも入院期間はどんどん短縮されています。

    12. Q

      いつから働けるようになりますか?

      A

      業務内容により様々です。
      経過にもよりますが、頑張れば、翌日には座業、パソコンで処理する程度の業務は可能です。もちろん病院内です。胸腔鏡手術であっても、やはり術後の体力の回復には数週かかります。座っている姿だけなら、術後数日で、ほとんど術後かどうかもわからないほどになりますが、術後 2-3週目くらいでは、まだスタスタ早足で散歩することはできないかもしれません。退院直後は作業が加わると、やはりキツク感じます。術後3日目に復職した医療従事者もいましたが、一般には術後1か月程度は在宅で療養された方が、安心かと思います。就労再開については、手術担当の医師だけでなく、職場の産業医・人事担当者などともご相談になりながら、お決めください。

    13. Q

      胸腔鏡手術専門医という制度はないのですか?

      A

      ありません。
      日本内視鏡外科学会は、専門医制度ではなく、内視鏡外科のスペシャリストを認定する技能認定制度を作っていますが、消化器外科や産婦人科などの領域に限られており、呼吸器外科領域で行う胸腔鏡手術に関しては認定制度自体がありません。
      呼吸器外科全体の専門医制度(呼吸器外科専門医)では、手術実績として胸腔鏡手術の実績が評価されますが、胸腔鏡手術の専門医という位置づけではなく、基本的な経験があるという程度で取得可能と考えてよいと思われます。専門医制度は2018年以降に大きく変更されました。現在は胸腔鏡手術に特化した専門医制度はありませんが、今後、整備される可能性はあります。

    14. Q

      胸腔鏡手術の専門家を、探すことはできますか?

      A

      一般には難しいです。
      ホームページなどで公表されている胸腔鏡手術件数も、件数だけでは実態・内容まではわからず、胸腔鏡手術の技術力評価にはなりません。実際に、どの医師が胸腔鏡手術を担当しているかもわかりません。胸腔鏡手術にはピンからキリまであるのが実情で、呼吸器外科医同士でも、だれがどのような胸腔鏡手術を行っているかわかるのは、ほんの一部の施設や医師に関してだけです。今もし手術を検討しているなら、担当の呼吸器外科医師に直接、胸腔鏡手術について実績などをお尋ねになるのが良いと思います。直接、呼吸器外科医に聞きにくければ、呼吸器外科を紹介して下さる呼吸器内科医やかかりつけ医に評判をお聞きになるとよいでしょう。

    15. Q

      最先端の胸腔鏡手術なので、都会の病院で受けたいのですか?

      A

      胸腔鏡手術に限っては、必ずしも都心の大学病院や有名病院が得意としているとは限らず、都会に行けば大丈夫ということはありません。
      大学教授や大病院・がん専門病院などの診療科長が、必ずしも胸腔鏡手術に長じているとは言えません。同じように都会の病院の方が、地方の病院より胸腔鏡手術に長じているとも言えません。部長や教授が胸腔鏡手術をしないで、地方の病院で1~2年研修させた若手医師に胸腔鏡手術を担当させているという病院は、都会にはよくあります。大病院に多くの医師が所属していても、多くは若手の研鑽が目的で、本当に手術に長じている医師は少数です。若手が多いということは、彼らの研鑽のための手術が少なからず行われていることになります。日本では皆保険制度の下、日本のどこでも同じ手術が実施可能です。最先端の医療を実践するためには、実施しようとする外科医自身の実行力とそれを支援できる医療施設があればよく、病院の所在地ではありません。『都会の病院が最先端で、地方の病院は遅れている』ということはありません。

    16. Q

      小さい傷から、どうやって肺や病巣を取り出すのですか?

      A

      取り出す組織の大きさに合わせて、少し傷を大きくして取り出します。
      あばらの骨の間に傷を入れて行う胸腔鏡手術では通常複数の傷を必要とし、一つの傷は2センチ前後です。あばら骨の隙間は、1.5センチ前後しかなく、この幅の狭さが組織を取り出すときの障害になります。組織は通常やわらかいので、肺を取り出し袋に入れて強引に引き出せば、あばらとあばらの隙間で組織が若干変形し、すり抜けて、体外に出すことができるわけですが、2センチの傷では、せいぜい短径が3-4センチの塊の組織を取り出すことが限界です。それ以上大きいものを取り出すときは、傷を広げる必要があります。肺はやわらかく、変形しやすいのですが、がんなどの病巣は固く変形しないので、あばら骨の間の筋肉を切るだけでは、どうしても取り出せない時があります。その場合は、傷を広げるだけでなく、あばら骨を切らないと取り出せないこともあります。通常の肺がん標準手術(肺葉切除)であれば、ほとんどの場合4-6センチ程度の皮膚の傷があれば、あばら骨も切らずに取り出せます。

    17. Q

      術後にリハビリテーションが必要と聞いたのですが?

      A

      特別なリハビリテーションは不要で、通常の生活活動で十分です。
      「術後にリハビリ」と言う言葉はよく聞きますが、特別な運動訓練や機能回復訓練は不要です。朝に起床し、起きて食事を摂り、用はトイレで足す。あとは普段の休日と同じように、のんびり過ごすことで十分です。通常の生活活動が、退院直後のからだにはちょうど良い回復への運動量になります。疲れたら休みましょう。疲れたら横になっても構いません。3度の食事や、トイレに立つことすら、きつく感じられたら、病院を受診してください。
      手術前に、していなかったようなウオーキングやジョギング、スポーツ活動などを、退院後に慌てて始めてはいけません。却って障害になります。退屈で体を持て余しているなら、軽く運動することまでは止めませんが、運動が回復を大いに早めるということはありません。スポーツ活動やランニングなどの活動量の多いものは、術後の影響を感じにくくなってから、高齢者では術後3カ月以降くらいから徐々に始めてください。

    18. Q

      術後の呼吸リハビリテーションが有効と聞いたのですが?

      A

      特別な病気(持病)や合併症がなければ不要です。
      呼吸リハビリテーションは、慢性の呼吸器病がある場合などで、呼吸の仕事効率を高め、少しでも楽に呼吸ができるよう訓練することです。入院期間の短縮が叫ばれた頃は、術後、呼吸リハビリの導入が促進されたことがありますが、呼吸器外科領域では術後回復を極端に早めることは、(少なくとも私どもの調査では)ありませんでした。現在のところ当科では、呼吸リハビリをしなくても、術後退院まで4~5日です。呼吸リハビリを実施することで、痰を出しやすくする、腹式呼吸で痛みが少ないとかの利点を強調されることがありますが、今日の胸腔鏡手術ではその利点は殆ど生かせません。
      術後は、普通に起きて生活するようにしていれば、ほとんどの場合、呼吸リハビリは必要ありません。

    19. Q

      手術前の呼吸の訓練として、笛を吹くような、あるいはボールを吹き上げるような、吹き返しのような器具を使ったことがありますが、そのような練習はないのですか?

      A

      当科では、呼吸機能訓練器具と呼ばれるものは使用していません。
      教科書には、これらの器具が、無気肺の予防などに効果があるとしていますが、数日で退院可能な手術が実施できるようになった今日、特殊な病態や病状になっていない限り、ほぼ必要ないと思います。実際、当科では、手術前にこのような器具を使った呼吸訓練は行っていませんが、とくに後悔するようなケースはありませんでした。開胸手術の時代は、わざわざ売店で購入してもらい、練習してもらっていましたが、手術へのモチベーションを高めることはあっても、実質的な効果は薄かったと思います。肺炎の予防には、なり得ないと思います。
      無気肺の予防や改善のために、最も大切なことは起床して活動することです。痛みで咳をするのが苦痛になり、思うように痰を出すことができないなら、鎮痛の方法を工夫して咳をすることです。

    20. Q

      気管支を拡げるためのネブライザー吸入は、しなくてもよいのですか?

      A

      通常は不要です。
      術後は必ずと言っていいほど、ネブライザーと呼ばれる吸入器(薬液を霧状にする装置)で、気管支拡張剤などを吸入していた時代もありましたが、術後の合併症予防効果は示されませんでした。気管支拡張剤の吸入は、危険な副作用もあります。術後呼吸器合併症の本質的な要因は、気管支拡張剤などで改善できるものではなく、唯一効果があると認められるのは、喫煙者における術前の禁煙です。早期離床も効果的です。

    21. Q

      では、術後呼吸器合併症の予防には、何が有効なのですか?

      A

      禁煙と早期離床(そうき・りしょう)です。
      禁煙の重要性は、改めて述べることはないかと思います。喫煙者と非喫煙者で、喫煙者でも重喫煙者で、呼吸器合併症の頻度は明らかに増えます。いつの時代も、誰が調べても、この点だけは同じで、術後管理・ケアを経験したことがある医療従事者で、異論のある者はいないと思います。早期離床については下のQ&Aをご参照ください。

    22. Q

      早期離床とは、何のことですか?

      A

      「早期離床」は、術後早い時期から床(とこ、ベッド)から出て活動することを意味する医療(看護)用語です。
      早期離床は、古くは床ずれ(とこずれ)と言われる褥瘡(じょくそう)対策として、重視されていました。現在でもその点は変わりません。近年は、床ずれ対策に止まらず、深部静脈血栓症予防や、呼吸器合併症予防、生活リズムの回復、譫妄の予防など、非常に幅広い効能が認められるようになっており、術後合併症予防対策として、第一に上げられるべき方策になっています。

    23. Q

      なぜ、早期離床が呼吸器合併症予防として効果があるのですか?

      A

      早期に身体を起こすことは、術後に肺に溜まりがちな痰の排出を促す効果があり、その結果として、痰の貯留に起因することが多い呼吸器関連の合併症を予防できると考えられているからです。
      呼吸器外科の手術に限らず、全身麻酔後の術後、問題となる呼吸器合併症の多くは、痰の貯留に始まることが多く、肺の中に溜まる痰を、随時排出(喀出(かくしゅつ)とも言います)できれば、かなりの呼吸器合併症を予防できます。痰を出すためには、(1)痰を出すための力をだせる、(2)特定の場所に過剰に痰が溜まっていない、(3)痰を出す意志がある、ことが必要です。(1)に関して言えば、特殊な病態以外では問題になることは少なく、(2)と(3)が重要です。
      (2)の対策としては、体の向きを適時変えて、重力に沿って溜まる痰を1か所に留めない(体位ドレナージと言います)ことが有効で、健常であれば、起きて生活すること自体が、この体位ドレナージとして機能してくれます。ゴロゴロ寝ていないで、起きて生活することが、肺の中を奇麗にしておくためには重要です。無気肺や肺炎になると、酸素の取り込み量が減り、酸素投与が必要となると、更に離床が進まなくなり(ベッド上で寝て過ごすことが増え)、さらに痰が溜まるようになって悪循環に陥ります。
      どうしても起き上がれない病態の人では、体の向きを一定時間ごとに変更すること(体位変換と言います)で補います。

    24. Q

      痰を出す意識がないとは、どのような意味ですか?

      A

      通常の術後であれば、咳をすると痛いから、咳で痰を出そうとしない人が多いです。
      本来は、生体の反射として、痰が溜まってくれば、咳をして痰を排出しようとする機能が働きます。ところが、痰が溜まっていることを自覚しているにも拘らず、痛みのために、痰を出そうとしない(咳を抑制する)方があり、こうなると、痰が溜まる→気管支(空気の通り道)が詰まる(無気肺、むきはいと言います)となります。痰の中には肺内に常在する菌が混ざっていますので、痰が溜まる→菌が増殖する→肺炎と進んでいくきっかけを作ることになります。
      このような場合は、鎮痛の方法を工夫することだけでなく、「ある程度の痛みはあっても、咳をして痰を出すことが必要」ということを、患者自身が手術前からよく理解し、自制心をもって実践することが必要で、術後早期回復のためには必須です。痛みが原因で、咳を自制、躊躇することのないようにと、外科医は少しでも痛みの少ない手術をと工夫してきました。その結果、生まれてきたのが、胸腔鏡手術をはじめとする低侵襲手術です。

    25. Q

      痰を出す力がないとは、どんな状態ですか?

      A

      たとえば瀕死の状態で痰を出す力そのものがないような場合、筋肉の活動を押さえて人工呼吸器が使われているような状態、病気やその治療のために咳を出すための横隔膜と言う筋肉を活動させられない状態、肋骨骨折がひどく咳を出そうにも上手く必要な筋肉が使えないと言った状況などが考えられます。

    26. Q

      肺炎にならないように、術後に抗生剤を使っているのではないですか?

      A

      術後の抗生剤は、主としてキズの化膿を防ぐために使われるもので、肺炎予防用ではありません。
      呼吸器外科の手術でも、術後の抗菌剤(抗生剤と化学合成した抗生剤を合わせて、抗菌剤と表現することがあります)が標的としているのは、皮膚常在菌による体表面近くの感染(化膿)です。20~30年くらい前までは、肺炎を起こす菌も対象にした、広帯域で強い抗菌力を持った薬が使われていましたが、薬が効きにくい耐性菌を作りやすいことが分かり、例え肺炎予防として多少の効果があるとしても、現在ではこのような使用方法は取りません。投与期間も、非常に短くなっており、手術当日のみか、せいぜい術後2~3日程度となっています。

    27. Q

      今時、肺炎で死んだりするのですか?

      A

      今日でも、肺炎は、呼吸器外科手術に限らず多くの領域で、手術(後)死亡の原因の第一位か、それに近い重篤な合併症です。
      呼吸器外科の手術では、多かれ少なかれ、肺に触れて操作します。それだけでも、肺の内部に炎症が起きる可能性があります。肺を切り取ってしまえば、その分量だけ肺の余力は減ってしまいます。多くの手術で、手術する側の肺(全体)は、虚脱(空気を送り込まず、萎ませること)した状態で行われます。肺が虚脱した状態は無気肺と言う状態と同じです。肺の虚脱と膨張を繰り返すと、肺の内部に炎症を起こしやすいとも考えられており、肺の手術は、術後肺炎を起こしやすい手術です。肺の切除量が多い肺がんの手術では、今なお呼吸器合併症、なかでも肺炎は、死亡に直結する重篤な合併症であり、十分注意を払っていても、皆無になっていません。予防が、第一の対策であり、禁煙と早期離床(別項をご参照ください)に勝るものなしです。

    28. Q

      手術が下手だから肺炎になる、のではないですか?

      A

      個人的な意見ですが、手術の技量で、肺炎の発症率が大きく変わることはないと思います。
      肺炎と技量には、直接的な関係はないと思います。手術時間が長い、出血量が多いなどの場合に、合併症が増えることは事実です。しかし、そうした手術のほとんどは、もともとの病気が進行していたり、切除や再建(臓器の通り道を作り直す手術手技のこと)など、複雑な操作が必要な手術であったりしますので、手術時間を手術の技量と直結して考えることにはなりません。長い手術=高い合併症比率ということはあっても、長い手術=下手な手術とは簡単には決めつけられないのです。平均的な外科医と比べて、同じ手術に数倍も時間がかかってしまうレベルなら、何かしら影響があるかもしれませんが、予定の2~3倍の時間がかかることは、外科医の技量に関わらず、普通にあります。
      肺炎の発症に最も影響するのは、何と言っても元々の肺の状態であり、その意味で普段より肺を大切にしていただきたいというのが、外科医の願いです。

  • 呼吸器外科診療Q&A~肺がん検診篇 arrow_forward_ios

  • がん検診、とくに肺がん検診に関する質問

    毎年毎年、健診のお知らせが届きます。よく見もせず、そのままゴミ箱行きにしていないでしょうか。物は試し、検診を受けてみませんか。大変な額の予算と人員を割り当てて実施し、ほぼ無料に近い金額で受けられるサービスです。有難迷惑?日々の生活でお忙しいこととは思いますし、今日も、そしておそらく明日も、お元気でお過ごしのことでしょう。健診/検診については、様々なご意見があることも、もちろんよく承知しております。

    健診/検診に関して受ける様々なご意見に、幅広く、できるだけ多くお答えしたく、本項をまとめました。重複や冗長については、お許しください。多少なりとも、個人の見解を含んでおりますが、長年、肺がんの診断や治療だけでなく、一般健診や肺がん検診業務に携わってきた医者の素直な意見でもあります。ご承知の上、ご一読くだされば幸いです。

    1. Q

      肺がん「健診」ですか、肺がん「検診」ですか?

      A

      肺がん検診です。
      「けんしん」と打つと、健診と検診の2つの候補が出ます。医師でも、正確に使い分けできる人は、少ないですが、特定のガンの検査として行う場合は、「検診」になります。
      全身を網羅的に検査して、異常がないと判定する行為を、健康診断と言います。健康診断のために行われているサービス(制度)のことを、健康診査(けんこうしんさ)と言います。健康診断であれ、健康診査であれ、「健診」と略されます。健診は、病気の予兆を見つけ、早期に改善を促すことで健康状態を維持しようとするものです。今罹っている病気を逐一調べ上げようとするものではありません。「全身を網羅的」という点が重要で、「くまなく、隅々まで」ということではありません。
      一方、健常(と思われている)者に対して、特定の病気に焦点を絞って、すでにその病気に罹っていないかを検査する制度を「検診」と呼んでいます。肺がんの有無を一斉検査する制度が、肺がん「けんしん」ですので、「検診」の字になります。「検診」は何かを略したものではありません。

    2. Q

      「健診」でも、肺がんはチェックされていますか?

      A

      胸部レントゲン検査があれば、必ずチェックされます。ただし、健診で必ず胸部レントゲン検査を受けられるとは限りません。
      学生や就労者に行われている学校健診や会社健診では、胸部レントゲン検査は必須検査です(一部の年齢では省略可能)。これらの健診で行われる胸部レントゲン検査は、実は結核の有無を調べることが主な目的で施行されているものです。しかし、実際には、肺がんのチェックも、当然行われていますし、肺がんの疑いがある所見を、(結核を調べるのが目的だからと言って)異常なしとは、絶対にしません。学校健診や職場健診以外の、国が施策として行う健診は、特定健診と言い、胸部レントゲン検査は必須検査に含まれていません。胸部レントゲン検査が含まれているかどうか、健診を受ける前によく調べておきましょう。

    3. Q

      「健診」と「検診」の違いは、何ですか?

      A

      特定の病気の予兆を調べるための検査が健診で、特定の病気の有無を調べるのが検診です。
      かなり大胆に例えると、「日本人なら、こうでなければいけない」と言うための検査が「健診」で、「まさか、こんな病気は持ってないよね」という検査が「検診」です。健康であり続けるためには、こうでなければ、と言える状態かどうか調べるのが健康診断で、病気を見つけるためと言うより、今後病気になりそうな人を見つけ、対策を促すためのものです。予防医学です。現在の日本人では、成人病と呼ばれていた生活習慣病が、「健康であるために最も警戒、予防すべき病気」となるので、施策として行われている健康診査は、生活習慣病かその予備軍かどうかを調べるのが基本になっています。それで別名「メタボ健診」と言うわけです。ですので、異常がある人には、「こんな生活を続けてはいけない」「生活習慣を変えなければいけない」と指導します。職場の定期健診も、今日ほぼ同様に生活習慣病予防が中心です(一般健康診断と呼ばれます)が、もちろん、職場健診と言う以上、業務に従事することに起因する、いわゆる職業病の早期発見を目的とした健診(特殊健康診断と呼ばれます)や、海外赴任者、給食業務従事者への感染症検査など、一般健診では行われない検査も行われています。
      対して検診は、一見、健康そうな、自覚症状が何もない人に隠れている病気を見つけ出すものです。病気を何もかも見つけようとしているわけではなく、検診の段階で、検査の対象とする病気は決まっています。検診で「異常あり」なら、当然疑われる病気に絞って、精密検査が行われますが、検診で「異常なし」は、検査の対象となる病気の所見はないということにすぎず、それ以外の病気の存在まで、否定されたのではないことにご注意ください。
      自覚症状がある人は、健診や検診の対象者ではありません。普通に医療機関にかかり、保険診療で検査を受けることになります。自覚症状の原因を、集団健診で調べようとするのは全くの筋違いで、ほとんどの場合、無意味です。

    4. Q

      健康診査と健康診断は、違うものですか?

      A

      厳密には違いますが、一般には区別する必要はありません。
      診断は医師が下す医療行為なので、行政が施策として実施する行為は、「診査」と呼び分けています。健康診断のために行う健康者集団へ行う検査のサービスを健康診査と理解してよいと思います。ただし、健診機関や会社が実施している定期健診などは、健康診査とは呼ばず、健康診断です。紛らわしいです。
      健康と判定するためには、何も症状がない(健康と思われる)人に、様々な検査を行う必要があります。ところが、我が国の国民皆保険制度は、病人を治療するための制度で、何も症状がない人に、何も病気がないことを検査して調べることは、原則として禁止しています。無症状者を検査で異常なしとするためには、別枠の制度が必要で、これが健康診査という制度です。
      国の健診制度は、この健康診査を基本に構成されています。健康診断とは言え、何にもかも調べるわけにもいきません。現在は、生活習慣病の予備状態に当たるメタボ(メタボリック・シンドローム、内臓脂肪症候群)を検査・診断の対象に特定していますので、「特定」健康診査と呼びます。この制度は国が定めているものですから、実施すべき検査項目と異常の判定基準、指導基準は全国同一です。国の施策ですが、実際に実施しているのは、健康保険組合などの保険者と呼ばれる組織です。実施する保険者によっては、これに独自のオプション検査を加えて、保険加入者にサービスを提供している場合があり、実際に受ける健診の内容は、全国皆同じとはなっていません。

    5. Q

      健診=住民健診のことではないのですか?

      A

      現在は、住民健診という正式な健診制度はありません。自治体が行っているのは、検診と一部の人への特定健診だけです。
      健診と言うと、住民健診と言う言葉を思い浮かべる方も多いかもしれません。住民健診は、健診事業を実施主体別に分けたときに用いられる言葉の一つです。自治体が実施主体となって、地域の住民に対して健診/検診を行うときに使います。他にも、例えば事業所健診と言えば、会社健診のことになります。今でも、住民健診という言葉が使われることはありますが、かつてのような、自治体が実施主体となって、地域住民を対象として健診を実施する制度(基本健康診査と呼ばれていました)は、平成20年に終了しています。その後、国民全員に対する健診は、一人一人が加入している保険組合が、加入者・被扶養者に対して実施することとなり、特定健診と呼ばれるようになっています。現在、自治体が地域住民に対して実施しているのは、がん、肝炎ウイルス、骨粗しょう症、歯周病に対する検診と、保険者が行う特定健診から外れる人(生活保護受給者、後期高齢者、若年者など)や国民健康保険加入者に対する特定健診です。後期高齢者では、今日なお健診(後期高齢者健康診査)の実施主体は自治体となっていますから、健診=住民健診と考えて良いかもしれません。

    6. Q

      人間ドックと住民健診や会社健診では、肺がん検診の内容が違うのですか?

      A

      違うこともあります。
      行政が行う肺がん検診では、国が指針として定めた検査対象者と検査方法があり、基本は胸部単純レントゲン写真撮影(レントゲン装置の前で立って撮影する検査)です。これに50歳以上の重喫煙者に限って、痰の検査(喀痰細胞診検査、かくたん・さいぼうしん・けんさ)が追加されます。
      会社健診でも、胸部レントゲン検査が行われます。本来これは、結核対策として行われて来たものではありますが、実際には肺がんのチェックが行われています。痰の検査(喀痰細胞診検査)は、胸部レントゲン検査で必要があると判定された人にだけ行われます。
      人間ドックは、検査項目や内容に決まりはありません。人間ドックを実施する医療機関や健診機関が独自に検査項目を組み、事前にメニューを提示しています。受診者は、提示された中から検査内容を選びます。検査項目によって、費用は大きく異なり、自費ですので、かなり高額になることも多いです。行政が行う(対策型)健診に対して、人間ドックは任意型健診と呼ばれます。人間ドックでは、胸部レントゲン撮影に加えて、胸部CT撮影を肺がん検査として行うことも多いです。また、人間ドックの中には、全身を一度に検査できるPET(ペット、Positron Emission Tomography (陽電子放出断層撮影))検査を、がん検診として行っている場合もあります。

    7. Q

      毎年会社で受けている健康診断と、肺がん検診は違うのですか?

      A

      目的は違いますが、どちらも胸部単純レントゲン検査が基本で、ほぼ同じと考えてよいでしょう。
      会社で行われている毎年の健康診断は、労働安全衛生法と言う法律によって企業(会社)や事業所に義務付けられている定期健康診断です。胸部レントゲンに限って言えば、元は、結核が蔓延しないよう敷かれた制度で、現代でも、基本的には職場での結核感染を予防するためのものです。しかし、検査としては同じものですし、実際には、肺がんも必ずチェックされています。結核が減少した今日では、異常があれば、むしろ肺がんを第一に疑うことが多いです。就業者が対象ですから、肺がんとしては受診者の年齢層が低くなることが多く、決して肺がんの発見率は高くはありませんが、甘く見ず、必ず受診して下さい。ちなみに従業員の健診受診率が低いと、会社が当局(労働基準監督署)から指導を受けます。

    8. Q

      肺がん検診は、何年ごとに受けるのがよいのですか?

      A

      国の指針は1年ですが、適正な検診の受診間隔については、厳密にはわかっていません。
      出現して2~3カ月で、急速に増大するような肺がんもありますが、多くの場合、細胞レベルのガンが、レントゲンで見えるような大きさに成長するまで、1~2年程度の時間がかかるといわれています。すべての肺がんを見つけようと思えば、受診間隔を短くすれば良いのですが、効率やエックス線の被曝という点で問題があります。かと言って、受診間隔を延ばせば、早期発見できる可能性は下がってしまいます。最適な間隔を決めることは容易ではなく、十分な比較検討はできていません。科学的ではないかもしれませんが、忘れないように1年おきに受けるのが現実的でよいかと思います。何も問題がなくても、それはそれで大切な情報です。診療現場では、いつも過去のレントゲンはどうだったか気にしており、異常があった時には、過去のレントゲン写真が大変役に立ちます(比較読影と言います)。

    9. Q

      肺がん検診で異常(要精密検査)とされましたが、怖くて病院(二次検診)に行けないのですが?

      A

      過剰に心配しないで、落ち着いて医療機関を受診して下さい。実際に肺がんである確率はまだ低く、例え肺がんであったとしても、治る可能性がある肺がんである可能性は高いです。
      肺がん検診での、がん発見率は、およそ2000人に1人、0.05%で、昔も今も、あまり変わっていません。しかし実際には、レントゲン1枚の検査で、いきなり0.05%の肺がんが見つかるわけではありません。肺がん検診は、2段階で肺がんを見つける仕組みになっており、疑わしい人は、とりあえず精密検査してもらうのが基本です。ちなみに、肺がん検診で「要精密検査」と判定される人の割合は2%で、受診者50人に1人です。結構多くないですか?
      そのため、肺がん検診で「要精密検査」とされた人を、実際に精密検査してみても、結局肺がんではない人のほうが、実は多いのです。「要精密検査」と判定された人のうち、実際に肺がんが見つかる人の割合も、同じく2%で、要精査50人に1人です。この数字は逆に少なくないですか?
      肺がん検診受診者1万人で肺がん4~5人と言いますが、実際には、このように1/50 x 1/50 = 1/2500 =4/10000、という2段階の仕組みで見つけ出されているのです。この数字、割合は厚生労働省が公表している平成27年度の肺がん検診の実績そのものです。肺がん検診で「要精密検査」となっても、まだまだ49/50 = 98%の確率で肺がんではないのです。
      異常なし、でなかったことは残念ですが、まだ「がん」と決まったわけではありません。要精査でも、まだ98%の確率で「がんではない」のです。とは言え、残り2%の「肺がん」であった場合は、命にかかわります。その肺がんを調べるために検診をしているのです。恐れず、侮らず、覚悟を決めて医療機関を受診して下さい。

    10. Q

      レントゲン検査で、毎年エックス線を浴びても大丈夫ですか?

      A

      大丈夫です。
      もちろん、必要がないのに、エックス線を浴びてはいけません。浴びないで済むなら浴びないほうがいいのは間違いありません。しかし、エックス線なしに肺がんの検診はできません。
      胸部単純レントゲン撮影で受けるエックス線の量は、胃のバリウム検査の1/50、おなかの単純レントゲンの1/20程度です。毎年何百万人という人が検査を受けています。肺がん検診を意味があるものと思うならば、個人としての被曝量は、全く問題になりません。
      可能性を云々言うなら、胸部レントゲン撮影が一人の人に与える影響の大きさと、知らないうちに(?)肺がんに罹っている可能性の大きさを比較して見てください。日本人男性の十数人に1人(女性はおよそ50人に1人)が、肺がんで死亡する時代で、長生きすれば長生きするほど、肺がんに罹る可能性は高まります。一方、エックス線被曝によるガン化の可能性は、およそ70万人に1人と言われています。1年に1枚のレントゲン撮影が、あなた個人の人生に及ぼすデメリットより、肺がんを早期に見つけた時のメリットの方が圧倒的に大きいのではないでしょうか。どちらを重視するかで決めてください。

    11. Q

      血液検査で行う肺がん検診は、ないのですか?

      A

      ありません。
      腫瘍マーカーと言う血液検査の異常が、肺がん発見のきっかけになることはありますが、腫瘍マーカーの異常と、新規の肺がん発生は、連動しないことが多く、また腫瘍マーカーは、肺がん以外のガンでも上昇することが多いため、肺がんの早期発見を目指す方法としては適していません。
      腫瘍マーカーは、肺がんの発見には向いていませんが、不思議なことに、肺がんの再発時には、非常に早い時期から上昇することがあります。肺がんの術後検査として有用なので、手術後は定期的に腫瘍マーカーを検査することが多いです。再発の時だけ鋭敏に上昇する理由は、わかっていません。

    12. Q

      肺がん検診を受ければ、必ず肺がんを発見できますか?

      A

      肺がんの発見を100%保証するものではありません。
      検診自体が、全てのガンを発見しようと実施されている制度ではありません。少しでも多く、少しでも早く、ガンを見つけようとしていますが、限界があり、結果として、(集団に対して)最も効率が良くなるような方法や制度が取られています。残念ですが、肺がんに限らず、がん検診は、ある一定の割合で、発見できないガンがあるということは認めて、成り立たせている制度なのです。

    13. Q

      肺がん検診でわからないのは、どんな肺がんですか?

      A

      レントゲンに薄くしか写らないもの、そもそも小さいもの、骨や心臓などの陰にあるもの、形が非典型的なものなどです。
      胸部単純レントゲン写真では識別できないような薄い影を示す肺がんや、とても小さい肺がんは当然分かりにくいです。骨や心臓、肝臓など濃い陰影を示す臓器の影に重なっていると、小さくなくても分からないことがあります。近年、肺がんが増えて分かってきたのは、肺がんは円形だけでなく、色々な形状を示すことがある点です。これまでは異常とは指摘していなかったような形の影でも、肺がんであったりします。気管支の壁にできる肺がんも、単純レントゲンでは見つけることが難しいもののひとつです。気管支に出来る肺がんを、何とか早期に見つけようとするための検査が、喀痰細胞診検査ですが、それでも100%わかるものではありません。胸部レントゲン検査と痰の検査だけの検診では、発見できる肺がんには限界があります。

    14. Q

      検診では、見落としや見間違いはないのですか?

      A

      ゼロにはなりません。
      画像を見て判定する肺がん検診では、判定医の主観的判断が頼りです。見落としや見間違いがゼロになることが理想ですが、どんなに修練を積んでも、ゼロになることはありません。紛らわしい形状の影や、レントゲンでは見えない薄い影、正面のレントゲンでは他の臓器の陰になる影など、見落としや、見間違いになってしまうような、紛らわしい影はたくさんあります。そもそも見えない影もあるのに、何を見落とし見間違いとするかも難しいところで、間違いがゼロでなければ絶対ダメとなったら、検診事業を担える人はいなくなります。
      対策の一つは、同じレントゲン写真を複数名で判定することです。肺がん検診では、2人以上の医師がチェックしあうことを推奨しており、当院がお手伝いしている朝霞医師会の肺がん検診でも、毎月数回当院に集まって、画像を読影し合い、検討会を開いています。難しいケースがあると、レントゲンの前にみんなが集まって、意見を出し合い判定しています。難しいケースは、誰が見ても難しいのが普通です。
      他の対策としては、多少の見間違いには目をつむり、少しでも怪しければ異常に判定する方法があります。あまり感心したやり方ではありませんが、見落としを減らすためには、ある程度やむを得ないとも言えます。レントゲンの検診は一次検診と呼ばれますが、まだ次の検診段階が残っています、まだ病気と決めたわけではありません、という意味でもあります。一次検診では判定に自信が持てないので「要精密検査」の判定をつけることは、時々あります。「おそらく大丈夫と思いますが、念のため二次検診で確認して下さい」との思いを込めた判定です。

    15. Q

      検診で見つかったのに、すでに手遅れと言われました。これまで見落とされていたのではないですか?

      A

      肺がん検診で発見されたからと言って、必ずしも早期の状態とは限りません。
      肺がん検診では、手術できるような初期の肺がんを見つけることを目指していますが、肺がん検診で発見されたからと言って、必ずしも手術ができる段階とは限りません。大変残念ですが、それが現実です。(検診以外の場合も含み)肺がんと診断された方のおよそ半数は、いわゆる手遅れの状態で見つかっているというのが、肺がん診療の現状です。

    16. Q

      検診で異常があって、精密検査までしたのに、ガンかどうかわからないと言われました。おかしくないですか?

      A

      肺がんでは、検査を尽くしても、ガンと確定できないことはよくあります。肺がんを確実に診断できる特別な検査など、世界中どこにもありません。
      原則として、ガンの診断は、病巣を体外に取り出し、取り出したものを顕微鏡レベルで観察し、顕微鏡検査でガンと診断(病理診断と言います)できて、はじめてガンとします。顕微鏡での診断がなければ、ガンと確定しない、つまりガンの診断名は付けないことになっています。肺がんの場合、検診の判定の段階では、まだガンの疑いであり、病巣のおおよその形と位置を見つけただけです。肺の中にあるがん細胞を、体外に取り出す方法としては、気管支鏡と言う検査手技が主に使われます。しかし、気管支鏡検査は、胃や大腸の内視鏡検査と違い、がん病巣を直接見て病巣を取ることが、ほとんどできません。特に小さなガンや薄いガン、あるいはガンの場所によって、がん細胞が取り出せないことは多く、検査医泣かせです。気管支鏡を繰り返すことで、ガンを検出できる可能性は高まることがわかっていますが、合併症や体の負担を考えると、なかなか繰り返して実施できる検査ではありません。CT検査では強く肺がんを疑う所見があるのに、がん細胞が取り出せないという状況は、今日よく遭遇する状況で、決して診療水準が低いからではありません。どうしても納得がいかないなら、他院でのセカンドオピニオンや、検査のやり直しを申し出るのが良いと思います。

    17. Q

      精密検査でも肺がんかどうかわからないから、手術を勧めると言われました。納得できません。

      A

      精密検査で強く肺がんが疑われる時は、このまま経過を見ず、手術で肺がんの診断を確定した方が良いと思われます。
      精密検査しても、ガンと確定できないことがよくあることは、前項で述べました。気管支鏡などの検査で、がん細胞を体外に出すことができない場合は、手術で取り出すほかありません。手術をしてでも診断を急ぐべきかどうかは、精密検査の所見によります。検診の本来の目的である「早期発見・早期治療」を旨とするなら、精密検査で肺がんが疑われる場合は、手術もやむを得ないと思われますし、実際、そのような事例は多いです。

    18. Q

      手術をして肺を取ったのに、結局がんではありませんでした。誤診ではないですか?

      A

      誤診とは言えません。顕微鏡検査の診断がなければ、検査段階では、ガンは可能性の段階で、あくまで疑いに止まります。最終的に手術をしたけれども、結局ガンでなかったということも、少ないですがあります。
      別項で述べたように、肺の病巣は、例え一部でも、手術でしか体外に取り出せない場合があります。手術以外に確実に病巣を取り出す方法がないということは、手術せずにガンを確定することが難しいということでもあります。
      困ったことに、肺は無造作に切り刻むと、修復できなくなるため、肺内の病巣だけを抜き取ることは通常行いません。肺を切り取る場合、5つに分かれている肺の構造上の基本的単位(肺葉、はいよう)ごと取らないといけない場合も少なくなく、小さな病巣を取り出すために、わざわざ肺全体の1/4近くとらなければならないこともあります。ここが、乳がんや胃がんなどの他のガンと大きく違う点です。乳がんや胃がんを診断するだけのために、乳房や胃などの臓器を2割も3割も取ることは、ほとんどないでしょう。
      結局、肺の1/4近くを取り出したけれども、中の病巣はガンでなかったという場合もあり得ます。手術そのものが無駄になったとも言えますが、現代の医療水準では、このような事例を完全にゼロにすることはできません。無駄な手術とならないよう、様々な検査や経過などの情報から、ガンか否か検討されたと思いますが、顕微鏡での証拠がない限り、推定の診断しかできません。肺がんの診断に完璧ということはなく、手術までしたのに結果としてガンではなかったということは、十分有り得ることです。それだけでは誤診とは言えません。

    19. Q

      検診では肺がん以外のガンや腫瘍も見つかるのですか?

      A

      肺がん以外では、とくに縦隔(じゅうかく)の腫瘍性病変が見つかることがあります。
      肺がん検診では、縦隔(両方の肺の間)と言う場所に出来た腫瘍が、特にCT検診で見つかるケースが増えています。縦隔腫瘍については別頁をご参照ください。

    20. Q

      肺がん検診でレントゲン検査を受ければ、肺がん以外の肺の病気もわかりますか?

      A

      わかることもありますが、あまり期待しない方がいいです。検診で異常なしとされていても、ガン以外の病気もないとは思わない方が良いです。
      何枚もの検診のレントゲン写真を見ていますと、「あ、これはひどい肺気腫だな」とか「これは間質性肺炎の陰影かな」など、肺がん以外の肺の病気がわかることは少なくありません。住民検診では、受診者の年齢層が高くなっており、高齢者では、まったく所見のないレントゲンに出会う方が少ないくらいです。肺がんや肺結核、ひどい心不全や動脈瘤などなければ、年齢相応かなとか、良性病変で今症状がなければよいか、とか判定に情状酌量が入ることの方が多く、「要精査」判定にしないことが多いです。肺がん検診の制度上も、そのように判定することになっています(別項を参照ください)。細かい所見まで知りたい方は、かかりつけ医でレントゲンを撮って、かかりつけ医から直接指導や助言を受けたほうがよいでしょう。

    21. Q

      病気の所見があっても、要精密検査と判定しないのですか?

      A

      肺がん検診では、肺がんの疑いがある場合、結核などの感染症の疑いがある場合、心不全や動脈瘤など切迫した循環器疾患がある場合など、至急精密検査や治療が必要な病気以外は、重度でなければコメントに留めることが多く、精密検査は不要と判定します。
      胸部レントゲン検査には、そのまま放置して問題ない異常所見もあります。例えば、肺の手術を受けた人の胸部レントゲンには、(正常では見られない)所見があるのが普通ですが、異常所見です。肺がん検診にはAからEまでの判定区分が規定されていて、例として挙げた手術後の変化などは、C判定(正常にはない所見があるが、問題ないと判定される時)になります。ところが、Cの次のD判定は、肺がん以外の病気で、かつ至急の治療が必要な異常を認める時です。活動性の結核や肺炎、重症の心不全・大動脈瘤などがDの判定です。至急でないが、できれば治療や精密検査をしたほうが良いと思われるような、慢性的ではあるが、進行性の病気を見つけた時の判定項目がないのです。検診画像を読影し、このCとDの判定の間にあたると思える人に、「急がないけど、これからのために、できれば病院で詳しい検査を受けた方が良い」という読影医の思いを、現状の判定基準では、受診者に通告することができません。
      受診者は、健康診断の一環として、胸部レントゲン検査も受けたはずで、症状がなければよいとの判定基準には、受診者の期待と多少齟齬があるのは否めません。一方で、国民医療費高騰の中、肺がんの検診をうたっている以上、特に生存の危機が逼迫することが予想されないような、慢性の異常所見まで、すべて精密検査に回ってもらうわけにはいかない事情も、理解できなくもありません。健診・検診と言っても、必要最小限の検査しか行われていないことを、よく知っておく必要があるでしょう。ともかく、肺がん検診では、一般に、何か病気は疑われる所見があっても、至急の治療を必要としていない場合はC判定(異常所見を認めるが精査を必要としない、定期検診の継続を指導)になります。

    22. Q

      肺がん検診には、判定基準があるのですか?

      A

      肺がん検診として行われている場合は、「判定区分」と呼ばれるものがあります。健康診断や人間ドックなどでは、肺がんの検出だけが胸部レントゲン検査の目的でないことも有り、独自の判定基準が使われていることが有ります。
      まず、検査結果に対する正常・異常の判定基準は、全国一律ではなく、実施する施設ごとにバラバラであることを知っておいてください。特に人間ドックなどでは、その傾向がよく見られます。肺がん検診は、国の施策として行われており、全国均一で、かつ相応の水準を保つ意味から、判定の基準が定められています。具体的には、A:読影不能、B:異常所見を認めない、C:異常所見を認めるが精査不要、D:異常所見を認め肺がん以外の疾患で治療が必要、E:肺がん疑い、の5つの「判定区分」があります。「異常なし」はAではなく、Bです。Aの時は、(病気の検査ということではなく、検査のやり直しという意味で)もう一度レントゲンを撮り直す必要があります。要精密検査はDとEです。Dは肺がんが疑われているわけではありませんが、至急、検査か治療が必要な病気があるということですので、DとEの判定が付いたら、急いで病院で検査を受けましょう。それ以外の病気や病状には、要精密検査とはついていないことにも、ご注意ください。
      ちなみに、Dの場合は、疑われる病気の種類別に、数字をつけます。結核ならD1、それ以外の肺の病気ならD2、心臓や血管の病気ならD3で、縦隔腫瘍などその他の病気はD4です。Eに数字が付いている場合は、がんの可能性の程度を示し、E1は疑いを否定できない(少し嫌疑が弱いという意味)、E2は強く疑うで、多分がんと思うという意味になります。

    23. Q

      肺がん検診は、CT検査のほうがよいですか?

      A

      小さい肺がんや薄い肺がんも、できるだけ見逃したくないのであれば、CTでの肺がん検診をお勧めします。
      CT検診では、数ミリ以下の小さな病変や、単純レントゲン写真には写らないような初期型の薄い肺がんでも、見つけることができます。単純レントゲンと違い、3次元方向の情報(形状)を見ることができ、読影の易しさは、胸部単純レントゲンの比ではありません。単純レントゲン写真だけの肺がん検診に比べて、CTでは、およそ10倍の肺がんを発見でき、発見できた肺がんの8割は、初期の肺がん(レントゲンに写らないタイプの肺がん)であるとも言われています。
      CT検診には欠点も指摘されています。CT検診での欠点については、別項をご覧ください。

    24. Q

      なぜ、全員にCTでの肺がん検診をしないのですか?

      A

      問題をいくつか指摘されているからです。
      放射線被ばく量が多いこと、CT装置の数が検診用としては不足していること、一人当たりの検診時間が長くて対応できないこと、がん以外の細かい病変まで見つかりすぎて、かえって肺がんの検出率を下げてしまうことなどの問題があるからです。
      大きな問題は、放射線被ばくの問題です。胸部単純レントゲンに比べ検診用の撮影方法(低線量撮影といいます)でも20倍くらいの被ばく量になります。これまでの研究で小さい肺がんを見つける確率は、十分高くなることはわかっていますが、肺がん以外の病変を肺がん疑いとして検出してしまう欠点もあり、なかなか解決策がない状態です。
      装置も高価で、検査費用も掛かります。検診間隔を2年にするという案もあるようですが、まだまだ国民全員が受けるべきという段階には至っていません。

    25. Q

      肺がん検診用のCTは、病院のCT検査とは違うのですか?

      A

      検診用はエックス線の被ばく量を下げるため、画質をわざと落としています。
      肺がん検診でCT撮影する場合は、放射線線量を可能な限り下げた撮影方法をとります。画質は悪くなり、焦点がずれたボケたような映像が出来上がります。病院などで診療用に使うCTでは、病変を可能な限り繊細に描写できるように装置の撮影条件を設定しています。CT装置自体も、検診用に比べ、診療用のものは非常に高性能なものが多いです。近年のCT装置は改良され、10年、20年前の撮影装置とは比べ物にならないほど、低い線量で、短い時間に検査でき、出来上がる画像も鮮明です。検診でCT検査したからと言って病院でのCT再検査に難色を示す方もおられますが、正確に病気の診断治療をするためには、病院でのCT再検査が必要な場合がほとんどです。

    26. Q

      なぜ、痰の検査まで必要なのですか?

      A

      肺がん細胞が痰に混ざって排出されることがあり、痰の中にがん細胞がないかチェックするためです。
      肺は気管支の最先端に空気の行き止まり空間があり、そこでガス交換(酸素を取り込み、二酸化炭素を出す)します。この空間の壁にあたるところを肺胞(はいほう)と呼びますが、肺胞に通じる空気の通り道を気管支と呼びます。肺がんにはこの気管支にできるものがあり、ここにできたガンは、比較的小さいうちから、脱落して痰と一緒に排出されることがあります。痰を集めて、痰に混ざったがん細胞の有無を調べることで、肺がんの有無を検査します。痰の検査だけではどこにがん病巣があるかまではわかりません。気管支にできた肺がんだけでなく、肺胞にできた肺がんや、肺以外の咽喉頭がんでも痰のなかにがん細胞が出ていることがあります。

    27. Q

      なぜ、痰の検査は全員にしないのですか?

      A

      肺がんの検出効率を考慮しているためです。
      痰にがん細胞が出やすい肺がんは、中枢型肺がんといわれる比較的太い肺の根元近くにできた肺がんです。しかも高齢の重喫煙者のほうが検出されやすいことが分かっています。レントゲン検査で肺の隅のほうに影となって出る肺がん(末梢型とか肺野型肺がんといいます)では、がん細胞が痰中に出ることが少ないため、喀痰検査ではなく、レントゲン検査で肺がんを検査することになっています。

    28. Q

      どんな施設で、検診を受けるのがよいですか?

      A

      毎年、同じ施設で検診を受けることをお勧めします。
      きれいな施設だから、新しくできたからという理由で、毎年のように違う施設で検診を受ける方がおられます。お気持ちもわかりますが、検診では過去のデータとの比較が重要です。検診の判定・診断などの経験から、過去の検診データが残っている施設で、繰り返し検診を受けることを、(肺がん検診に限らず)お勧めします。
      肺がん検診ではレントゲンやCT所見の読影力が重要ですが、どのような能力を持った医師が読影を担当しているか、通常わかりません。都市部の施設ではアルバイトの医師が多いことも事実で、健診は研修医の仕事と思っている施設もあります。個人で開業しているような町の小さなクリニックでも、大変優れた読影をする医師は沢山いらっしゃいます。高級感のある内装や設備を売りにしている検診機関もありますが、診断能力とは関係ありません。
      肺がんの画像を見慣れているのは、肺がんの診療経験が多いそれなりの医療機関とは思いますが、大きな施設では、肺がんの診療部門と健診の担当部門が別となっていて、肺がんの専門医が検診の読影を担当していることはむしろ稀です。単に施設の見かけや設備の豪華さなどから決めることは避けたほうがよいでしょう。

    29. Q

      貴院でも、肺がん検診は受けられますか?

      A

      当院では、低線量肺がんCT検診が当院放射線科で受診できます。通常の胸部単純レントゲンによる健診は、人間ドックの基本検査項目になっており、肺がん検診として当院健診センターで受診できます。住民健診(特定健診)などは、地域の医師会や行政機関などにお問い合わせください。
      当院では、低線量肺がんCT検診が受けられます。計算上は、診療用CT検査に比べ、十数分の一程度まで放射線の被曝量を抑えることができるようになっています。厳密な被曝線量の比較は難しいのですが、概ね胸部単純レントゲン検査2回弱分程度と考えてよいようです。当科医師も、肺がんCT検診認定機構「肺がんCT検診認定医師」を取得しており、放射線科とともに低線量の肺がんCT検診を推進しています。検診の実施やお申し込みは当院放射線科となっております。詳細は当院放射線科ホームページをご覧ください。
      当院では人間ドック担当の部署として健診センターがありますが、人間ドックでは、国が実施する肺がん検診として行われている胸部単純レントゲン検査が、基本検査項目として受けられます。人間ドックのお申し込みは当院健診センターへお願いいたします。

    30. Q

      健診の制度が分かりにくく、どれを受けたらいいのか、わからないのですが?

      A

      健診の制度が分かりにくいとのご指摘、その通りだと思います。胸部のレントゲン検査は、特定健診の必須検査項目ではないため、健診では受けられないことがあります。CT検査は、通常の健診では行われません。受診前に職場や行政の担当部署、ドックの実施施設に確認してください。
      日本では、すべての成人が、年齢に見合った適切な健診を受けられるように、法律上の制度を、いろいろ組み合わせて全体を構成してきました。行政が整えてきた健診制度(対策型健診と言います)に加えて、個人が随時受けることができる健康診断(任意型健診と言います)も併存します。ただでさえ、わかりにくいのに、対策型健診は、基盤となる法律によって、健診を実施する主体(事業所や役所など)が違うだけでなく、目的や検査項目も異なります。実施主体が独自に検査項目を加えている場合もあり、さらに複雑になっています。負担額も制度により様々です。結果、人によって、職場によって、地域によって、年によって、同じ健診と言っても、内容が変わってしまうことがあります。ここでは、少し長くなりますが、肺がんの検診と言う視点で、各種の健診について説明します。近年、胸部レントゲン検査は、健診項目から徐々に外される傾向が強まっており、健診の内容には充分ご注意下さい。
      就労者は、原則として職場での健診(職域健診)です。労働安全衛生法で毎年健診を受けることと定められており、就労者には受診が義務付けられています。古くは職業病の予防という視点から行われるものでしたが、今日では、生活習慣病予防健診ということになっています。胸部レントゲン検査も、本来、肺結核の蔓延を防ぐためのもので、今も主たる目的は変わっていませんが、当然、肺がんもチェックされています。効率の問題から、平成22年からは、職域健診での胸部レントゲン検査は、40歳以上の毎年か、20~35歳までの5歳毎に行われるように変更になっています。社内で一括して行われる場合や、個々で特定の医療・検診機関で一般健診として受けることもできますが、健診の結果は、職場へ提出する必要があります。
      就業していない人(専業主婦や退職後の人たちなど)は、胸部レントゲン検査について、注意が必要です。健康増進法に基づく「特定健康診査(特定健診)」と言う制度で、生活習慣病予防健診を受けることになります。これは加入している保険証を発行している保険組合(保険者と呼びますが、人ではありません。保険に入っている人は被保険者です)が実施しており、お知らせが届きます。この特定健診は、以前の住民健診が、市町村から保険組合(保険者)に移管されたものと考えてよいのですが、国民健康保険加入者については、依然として保険者たる区市町村が実施しています。国保の加入者には、区市町村からお知らせがあり、非常に紛らわしいことになっています。いずれにせよ、40歳から74歳までのすべての人(保険加入者)が対象で、就労者も、当然受診できます。しかし、特定検診自体はメタボ健診であり、胸部レントゲン検査は含まれていません。同じ生活習慣病予防を謳っている、特定健診と職場健診ですが、必須検査項目は違うのです。実際には、特定健診を実施している健康保険組合や自治体が、独自に胸部レントゲン検査を検査項目に加えていたり、肺がん検診として併せて受診できるよう設定したり、助成や補助と言う形で人間ドックを併せて行ったりして、肺がんの検査も受けられるようにしている事が多いようですが、特定健診という健康診断には、胸部レントゲン検査が入っていないことを知らないと、せっかく健診を受けても、レントゲン検査を受け損ねてしまう可能性もあると思います。特定健診では、地域によって、公民館などで会場や日程を定めて行われる場合もあれば、医療機関を受診して行う場合などがあり、地域によって違うようです。職場健診と違って、特定健診の受診は任意ですが、対策型健診と見なされています。
      75歳を過ぎると、高齢者医療確保法に基づく「後期高齢者健康診査」と言う制度になり、後期高齢者の保険証を発行している後期高齢者医療広域連合と言う組織が実施することになっています。多くの場合、業務委託されている自治体(県や市町村)からお知らせが来ます。生活習慣よりも、すでに成立している疾病の悪化や、生活自体の質の低下を起こさないことを主眼にした健診が行われます。この制度でも、胸部レントゲン検査は、検査項目から外されていますので、肺がん検診を併せて受けるか、人間ドックを受ける必要があります。
      学生・児童に対しては学校保健安全衛生法によって、結核検診として胸部レントゲン検査が行われます。小・中学生では、胸部レントゲン検査での結核発見率は低いため、原則的に胸部レントゲン検査は、高校と大学の第一学年時だけ行われることになっています。学校が必要とした場合は、これ以外にも実施も可能とされているので、毎年胸部レントゲン検査を行う学校もあるようです。
      がん検診は、これらとは別個の制度として、国が施策として行うもので、対策型健診に位置付けられていますが、受けるかどうかは任意です。がん検診を実施するのは自治体(区市町村)です。がん検診ごとに、受診できる年齢や条件が決められています。すべてのガンが対象になるわけではなく、(がん検診の有効性が確認されているという)肺がん、胃がん、大腸がん、子宮頸がん、乳がんの5つだけです。
      こうした健診事業とは別に、医療機関や健診機関が、独自に実施している人間ドックがあります。人間ドックは任意型健診に位置付けられます。検査項目を自由に設定でき、料金の設定も自由です。豪華なソファーや検査後の食事などを提供しているところもあるようです。会社や行政が行う健診やサービスに不満や不安があるなら、こちらを受けるのが良いでしょう。肺がん検診の場合は、CT検診があるかどうかを確認しておきましょう。
      健診や人間ドックは、相互に情報提供するよう厚生労働省が通達を出しており、どこかでどれかの健診を受ければよいことになっています。例えば、ある病院で「人間ドック」をうければ、検査項目に不足がない限り、労働安全衛生法で定める職場健診を受けたことにしてよいということです。この件については、職場の担当者にお尋ねになると良いでしょう。このような事情もあって、同じ職場の仲間でも、受けた健診内容が異なってしまうことは、よくあります(法で規定される項目は最低限同じになります)。
      法律で定めるものでない健診や人間ドックの場合、料金は自費です。法律に従って実施されている健診や検診は、国や地方自治体、保険者などが費用を一定額負担しています。いずれも、保険外診療ですので、治療行為は行えません。メニューにない検査も、通常受けられません。何か症状がある時は、保険診療で通常の診察を受け、それに見合った適切な検査を受けて下さい。安くつくことがほとんどです。

    31. Q

      検診車で受けるレントゲン検査は、病院での検査と違うものなのですか?

      A

      従来、検診車で行うレントゲン撮影は、間接撮影法という方法で行われることが多かったです。医療機関では、直接撮影法で行われ、少し異なる撮影方法です。現在は、検診車でもデジタル式の直接撮影が普及しつつあります。
      「フィルム」自体が死語になりつつありますが、レントゲン検査はフィルムに焼き付けて行うのが一般的でした。フィルムを体に押し当てて、エックス線を放射します。体を通過してくるエックス線がフィルムを焼き付け、焼き付いたフィルムは現像されて、レントゲンフィルムとして観察できるものになります。これが直接撮影法です(実際には、フィルム上にある蛍光増感紙というものが、エックス線に反応して光をだし、それをフィルムに焼き付けます)。フィルムは体の大きさに合わせてあり、ほぼ等大です。1日に何百人と検診しなければならない状況では、このような「大きな」レントゲンフィルムへの撮影は、手間も暇もお金もかかりすぎます。そこで開発されたのが、間接撮影法です。エックス線に反応して光るものがあるわけですから、これを等大の、大きなレントゲンフィルムに直接焼き付けるのではなく、光る蛍光板自体を、少し離れたところから、写真機で撮るのです。少し離れたところから取ることが味噌で、体より小さいフィルム(10センチ四方)に、全体像を収めることができます。昔よく見た、写真フィルムと同じで、ロール式のものが使え、一つのロールで、何千人もの写真が収まります。結核対策に追われた戦前の日本の軍隊でも採用され、戦後の検診などで頻用されました。現在は、デジタル化された撮影機器を備えた検診車が多くなり、医療機関でのデジタル式のレントゲン検査とほぼ同じになっています。

    32. Q

      検診車のレントゲン検査は、受けない方がいいと言われましたが?

      A

      根拠が不明ですが、従来、検診車でのレントゲン検査の主流であった間接撮影法では、エックス線の照射線量が直接撮影より多い欠点がありました。一方で、間接撮影は、検診に限って言えば、直接撮影より、病巣を発見しやすいという意見もあります。
      小さなフィルムに写った胸の間接レントゲン写真を、劣った検査のように言う医師もいますが、おそらく、間接撮影での検診フィルムを読影した経験が、あまりないのではないかと思います。何百人分も、何千人も実際に読影してみると、意外にも、間接撮影の方が、異常を発見しやすいと感じられるようになります。間接撮影では、小さい2~3ミリの病変は見えないと言いますが、2~3ミリの肺がんは直接撮影フィルムでも写りません。大きなフィルムでは、淡い変化は、かえって、ぼけて見えて、見逃しがちで、局所は良く見えても、全体が見渡しにくく、短時間での判定が必要な検診業務には向いていません。大きなスクリーンに映る映画を、一番前の席で見ているのと同じです。間接撮影は、小さなフィルムにコンパクトに収まっていて、全体を見渡すにも丁度良くできています。検診用として、よくできていると思います。もちろん、既に病気が疑われている人、病気と分かっている人では、より細かく所見が見える直接撮影の方が適しています。
      撮影の原理上、エックス線の線量は直接撮影の2~3倍程度に増えます。それでも、自然界から1年間に受けるエックス線量には及ばない量で、過剰に恐れる必要はないのですが、線量を減らす努力はされています。その一つが、デジタル化による直接撮影の導入です。デジタル撮影は、フィルムの代わりに、エックス線センサーを並べたものを配置し、デジタル画像として撮影、保存できます。エックス線量も直接撮影に近く設定され、低線量化が図られています。

    33. Q

      デジタル式の方が、良いのですか?

      A

      懐古的ではなく、レントゲンフィルムのアナログ画像も、決して劣ったものではありません。改善されていますが、デジタルにも欠点はあります。それぞれ一長一短あります。
      いまさらアナログ・デジタル論争をはじめても仕方ありませんが、レントゲン画像も、デジタル化すると、細かい情報は失われます。そのため、デジタル画像データの解像度や階調が十分でないと、観察に堪えない画像となって、読影力以前の問題になります。アナログでもデジタルでも、レントゲン画像はモノクロ(白黒)画像です。単色であるモノクロ画像では、画素数(どれほど小さい点に分けてデジタル化するか)に加えて、あるいは画素数以上に、白から黒までの階調(色の変化具合をどれほど細かく分けるか)が、画質の決め手になり、この点で、なかなかアナログに追いついていません。また、デジタルでは、撮影の機材だけでなく、観察に使うモニタ画面にも、十分な性能が要求されます。TVやパソコン用の安いモニタでは、全く用をなしません。フィルム画像を侮ってはいけません。
      ただ、デジタル式の撮影装置は、撮影の設定も楽で、保存管理など、便利な点が多いのも事実です。行政の後押しもあって急速に普及しています。デジタル式の問題点には、技術開発で解決できるものが多いため、今後もデジタル化は進むと思います。

    34. Q

      がん検診の結果は、紙切れ一枚の通知だけですか?

      A

      原則、そうです。
      そっけない感じですが、複数の医師がチェックした結果です。「異常」の判定は辛いですが、判定を付ける医師も十分考慮したうえで、チェックを付けています。判定の通知書をもって、然るべき医療機関を訪ね、二次検査(精密検査)を受けましょう。

    35. Q

      定期的に病院にかかっていれば、検診は必要ないでしょうか?

      A

      通院と検診は関係ありません。
      通院の要因となっている病気が、目的とすべき検診の項目をすべて網羅し、定期的に検査を受けているなら、あえて検診を受診する必要はないでしょう。通院している(肺がん以外の)病気の検査のために、定期的に胸部レントゲンやCTを撮影している場合はあると思います。しかし、多くの場合、そうではないと思います。糖尿病で通院していても、胸部レントゲン撮影が定期的に行われることは、普通、ないでしょう。過剰診療・過剰検査などと批判されないよう、近年、医療機関は検査項目を必要最小限に絞る傾向にあります。病院にかかっていれば安心と考えている方が多いですが、思い違いです。

    36. Q

      毎年肺がん検診に引っかかる(異常と言われる)のですが、肺がん以外ではどういう影が引っ掛かりやすいのですか?

      A

      肺の場合は良性の腫瘤や炎症の後が、大動脈や心臓では拡張・拡大が、骨や軟骨と言った骨格の変性や異常などが、がんと紛らわしい影に見えることがあるためです。
      過去の肺の病気がいつまでも残っていて、毎年のようにレントゲン検診で異常とされる方は少なくないと思います。以前は、古い結核の影が多かったのですが、最近は減っていて、原因(正体)不明の肺の良性病変や、病変とまでは呼べない組織の変性の影が多くなっています。
      肺や胸膜の炎症や、炎症が消える過程で残った変化、例えば線維化(せんい、医学では繊維とは書きません)という変性では、組織が固くなったり厚くなったりするため、肺がんと見分けられないことがよくあって、読影医泣かせです。肉芽(にくげ、ニクガとは読みません)と言う、線維の周りに白血球などが集まってできた塊は、小さいガンのように見える事があります。乳頭(にゅうとう、乳首のこと)が写って、肺の病変に見えることもあります。他にも慢性に進行する肺の病気(肺気腫や肺線維症など)でも、時に肺がんの存在を疑わせるような影に見えることがあります。動脈が大きく湾曲して塊状に写ることや、骨や軟骨の一部が濃く写って塊状に見えて、レントゲン一枚では、「がんではない」と断定できないこともあります。本当に色々あります。

    37. Q

      同じ影が、異常と言われたり言われなかったりするのは、どうしてですか?

      A

      判定医の判断基準が違うからです。
      精密検査をすべきかどうかの判断を、1枚のレントゲン写真から行うことは非常に難しく、実際には、その時の判定医師の印象で、主観的に決まると考えてよいでしょう。検診の判定医が、毎年同じとは限りませんし、同じ医師でも判定が変わることはありうることです。
      統一的な判定基準は、一応示されているのですが、この判定基準は、レントゲン所見から、良性か悪性か、あるいはそれが病巣か正常な構造か、判ることが前提になっています。しかし、実際には、レントゲン写真一枚では、良性か悪性か見分けがつかない紛らわしい所見を、どう判定するか迷っているのであり、判定基準以前の問題です。この問題は、検査の本質上、いくら読影力がついても、完全には解消できません。年によって判定が変わる大きな要因になっています。
      通常の診療で、レントゲン写真に正常では認められない影があれば、すべて異常と判定します。肺がん検診のレントゲン検査でも、これからの生活習慣への注意喚起として、肺がん以外の異常所見を、積極的に記載する判定医はいます。しかし、レントゲン検査が肺がん検診として行われている以上、異常所見が肺がんの所見でなければ、判定としては「要精密検査」とせず、「経過観察」や「異常なし」となるので、判定としては、受診した年によって変わることになるかもしれません。

    38. Q

      毎年肺がん検診に引っかかる(異常と言われる)のですが、やはり検診を受けた方がいいですか?

      A

      毎年同じ医師に、対面で対応してもらえる検診機関や医療施設を探すか、普段のかかりつけ医で検診を受けるのが良いでしょう。できれば、(2~3年ごとでもよいので)CTでの検診をお受けになることをお勧めします。
      毎年、影に変化がなければ安心できますが、厄介なのは、こうした影のなかに肺がんができている場合です。陰に隠れて、少しずつ変化するガンに気づかれず、手遅れの状態になって、ようやく精密検査になるようなケースもあります。単純レントゲンでは、なにかの裏に隠れる病変も、CTなら隠されることなく見つけることができますので、こうしたケースではCT検査もお勧めです。もちろん、CTで見ても、良性か悪性かわからないケースはあります。
      大きな施設では、検診のレントゲンは、毎年同じ医師が読影を担当しているとは限りません。また判定している医師が、過去のレントゲンまで比較したうえで判定しているかもわかりません。普通は誰が判定しても問題ないと思いますが、すでに何か検診の判定上、異常所見を抱えているなら、毎年同じ医師に、対面で質問でき、回答してもらえるような医療施設や検診機関で検診を受けてみると良いかもしれません。もっとも良いと思うのは、かかりつけの医療機関で継続的に検診を受け、データを残しておくことです。

    39. Q

      がん検診は、肺がんや乳がんのように、限られたガンでしか行われていないのですか?

      A

      国内での死亡率が高く、有効な検診方法がある程度わかっているガンが対象です。
      特定のガンがあるか無いかを調べる方法は、多くのガンで定型的な方法があります。その検査方法を、ほとんどが健康の(そのガンがないと思われる)人たちの集団に対して、検診として行うべきかどうかには、いろいろ議論があります。がん検診も健康診断も、健康であることを証明するものではなく、特定の病気に罹っていないか、特定の病気になる予兆がないかなど、目的を絞った検査しか行われていません。がん検診だけでなく、人間ドックや健診も、受けたからと言って、すべての病気がチェックされたことにはなりません。誤解のないよう、ご注意ください。また、すべてのガンを一度にチェックできる方法などありません。

    40. Q

      検診の画像は、もらえますか?

      A

      一部の検診施設や人間ドックなどでは、サービスとしてコピーをもらえることがありますが、通常は、受診者には画像を渡していないと思います。その後の診療のために、医療機関から要請があれば、当該医療機関に対して、過去のものを含めて画像を提供(貸し出しなど)してもらえることがほとんどです。
      健診での画像データ(レントゲン写真など)を受診者に渡すことは、普通は行っていないと思います。サービスとして、行っているという例はありますが、費用や本人証明などの手続きが必要になることが多いのではないでしょうか。本来、撮影された画像は撮影者のもので、モデルのものではありません。嫌なら、被写体となる前に、撮影を拒否するべきです。撮影されたものは、撮影者が責任を持って保存保管しなければなりません。個人情報だからと、所有権を主張される方があるようですが、自分の住所や名前が書かれているからといって、それが全て本人のものになるわけでは無いように、医療機関に保管されている個人に関する記録物全てに、本人の所有権があるのではありません。本人の同意なしに、情報を出したり、所有権を他者に移したりしないというだけです。病気の有無を調べるために行われたものですから、それ以外の目的では、撮影者でも使用することはできません。ただ、例外的に、他の医療機関から使用目的を示した正式な情報提供の要請があれば、過去にさかのぼって(原則として、肺がん検診では5年間保存)貸し出しをしてくれる場合が多いです。もちろん、正しい目的(受診者本人の診療のため)の時だけです。

    41. Q

      去年の検診では、大丈夫だったのですか?

      A

      去年の結果は、もうすでに過去のものです。
      健診・検診に限らず、すべての検査結果は検査を行った時点での状態を示したものです。次の瞬間から、その結果は過去のものです。毎日毎日、何が起こるかわかりません。毎日毎日、検査をしていたら良かったのかもしれませんが、現実的ではありません。去年は大丈夫だったとしても、今年は分からない、だから、今年も検診を受けるということです。どんなに考えても、いつから始まったかは、誰にもわかりません。今すべきことは、過去を振り返って反省したり、後悔したりすることではなく、これからできることを知り、実践することです。

    42. Q

      1年中、検診は行われていないのですか?

      A

      健診の繁忙期を避けたり、集計や告知・報告などの事務手続きの時間を確保したりするため、受診期間を限定していることが多いです。
      毎年、年度当初は入学者、就職者などの健診需要が高い時期になり、一般健診やがん検診を受け入れる余裕が、健診施設にありません。受診者側にしても、年度初めや終わりごろは、受診に行く余裕がない人が増えます。健診・検診を実施する主体である各行政機関や職場は、毎年の結果を集計し、監督機関へ報告する義務があり、年度一杯まで健診を実施しにくい事情もあります。一般の医療機関は、冬場に多く発生する病気が多いことから、検診を受ける余裕がありません。それぞれの立場から、検診の多くは、6月ごろから初冬までの期間に実施されることが多いです。

    43. Q

      コンピュータの自動判定や人工知能AI (artificial intelligence)による肺がん検診は、ないのですか?

      A

      まだ研究段階です。
      心電図の判定には、コンピュータによる自動解析が1980年代から導入されていて、すでにかなり高い精度で診断できることが知られています。胸部レントゲン写真を自動解析する研究も、ほぼ同時期から行われてきましたが、残念ながら現在に至るまで、実用化には至っていません。平面画像から異常所見を抽出するだけなのですが、レントゲン写真は、情報量が多い上に、基準となる正常画像を設定できません。同じ人でも、撮影の条件や状態などでも微妙に陰影が変化し、ましてや初めてレントゲン撮影したというような人の異常を、正しく抽出することは、なかなか難しいようです。少なくとも現状では医師による判定に委ねるほかありません。

    44. Q

      肺がん検診の有効性は、証明されていないのですか?

      A

      有るとも無いとも、様々な結果が示されており、有効性があるにしたとしても、自明といえるほどの大きな差ではないのではないかと(個人的には)思います。
      検診の効果に関する研究は、何十年も前から大規模な研究が繰り返し行われ、手法を変えながら、今日でも続いています。効果があるとするものと、ないとするものがあり、研究結果の解釈もいろいろされています。我が国では、肺がん検診は有効として、肺がん検診が推進されていますが、懐疑的に見ている人(専門家)は少なくありません。研究の歴史的経緯や結果の再現性などを見ると、差(有効性)があるとしても、自明といえるほどの差ではないのではないかと(個人的には)思います。
      肺がん検診の有効性については、今後も新しい研究成果が出る度に議論が沸き起こるに違いありません。しかし、こうした議論に一般の方が付き合う必要はありません。現行の方法が変わらない限り、議論に終止符を打つような、誰もが納得できる明快な結論は、おそらく、当分、望めないと思います。ご注意いただきたいのは、こうした検診の有効性に関する研究は、特定の個人が、検査を受けたら損か得かを調べているのではなく、「集団」に及ぼす「費用対効果」を、「統計学的」に解析するものです。行政が、検診事業を政策として、つまり公共の予算を使ってまで行うべきかどうかの判断にするためのモノです。(この場合の費用対効果とは、単に投資予算の金額云々ということよりも、有害事象(検査による合併症)と死亡率減少効果の比較というような、利益vs不利益という比較で考えられています。)
      集団に対する有益性など問われても、特定の個人にとって、どれほどの意味があるのでしょう。肺がんが心配なら、「集団検診の意義」など気にせず、検査を受ければいいのです。肺がん検診を受け続け、肺がんにならずに死んだら、無駄になった検査が損。検診で肺がんが見つかって治ったなら、拾えた命が得。検診で見つかっても、肺がんで死んだら、無駄になった検査や治療は全部損、のどれかです。肺がん検診が、無駄になるかどうかは、その人が死ぬまでは誰にも分かりません。個人個人で、損得の大きさを考えて、あるいはどれにあたりそうか予想して、どうするか決めればよいのです。

    45. Q

      肺がん検診での肺がん発見率は、向上していないのですか?

      A

      長年、肺がん検診は、胸部レントゲン検査主体のまま、大きく変わっていないので、発見率にも大きな変化はありません。
      胸部レントゲン写真を基本とする肺がん検診では、これ以上、精度を上げることは、実際難しいでしょう。胸部レントゲン検査が検診に導入されたのは、結核対策のためで、戦前の徴兵検査や学校検診からです。現在の職域健診に引き継がれ、さらに1987年からは肺がん検診としても、行われるようになりました。胸部レントゲン検査は、今でも大変意義深い検査とは言え、やはり古い検査法であり、肺がん発見のための検査としては、限界はすでに見えています。肺には、ガンによく似た形の病変が沢山でき、レントゲン1枚では、見分けがつきません。胸部のレントゲン写真では、心臓やあばらなどの影に隠れている肺の面積が全体の半分以上あり、見えないところの方が多いのです。最新のCT検査が期待されましたが、余計な病気を見つけると言って、検診には不向きとされてしまいました。肺がん検診は、当分胸部レントゲン検査を主体とした現在の方法を実施し続けざるを得ないでしょう。肺がん発見率の向上の見込みは、当面薄いと思われます。

    46. Q

      それでも、肺がん検診を勧めますか?

      A

      少なくとも高齢者にはお勧めします。
      肺がんに罹らず死ぬことができたら、肺がん検診は意味なかったと言えるかもしれません。確かに肺がんが非常に珍しい時代には、無駄に終わる人が圧倒的に多く、検診のありがたみを感じる人は多くなかったかもしれませんが、今は違います。男性では十数名に1人、女性では50人に1人が肺がんで死んでいく時代です。肺がんで死にたくなければ、少なくとも、肺がんのリスク(肺がんに罹る可能性)が高い年齢になったら、肺がん検診を受けておいた方が良いでしょう。
      症状が何もない小さながんで見つけ、早く治療開始できれば、治すことができる肺がんは間違いなく存在します。肺がんで死なずに済む人の多くは、検診で発見されたか、他の病気の治療や検査で偶然発見されている人たちです。「症状が出てからでは遅い」は臨床医の実感です。早く見つければ、死なずに済む、とは限りませんが、死なずに済むのは、早く見つかった人です。これは間違いありません。

    47. Q

      肺がんにかかるのは嫌です。肺がん検診の見落としも怖いです。肺がん検診に頼らず、肺がんを早期発見できませんか?

      A

      CT検査の不利益を承知できるなら、時々CT検査を受けるのが現状では一番良いでしょう。
      検診の枠を外して考えれば、CT検査は肺がん発見方法として現状これ以上の検査装置はないと思います。「CTで、見つからないような肺がんがあるとは、ちょっと考えられない」と感じてしまうほど、今日の最新の診療用CTなら、肺の微細な病変も発見できます。ただ、CTで分かるのは、形と場所だけです。それが、悪性のガンなのか、良性のものなのか、正体がわからないというジレンマが、精度が良くなったCT検査では新たに生まれています。
      小さな病変も見つかるようになって、なんとも喜ばしい限りでしたが、集団検診としては、逆にこの、良性病変まで拾いすぎるという事実が、大きな不利益として判断され、CT検診の有効性が否定されてしまっているのです(もちろん費用や被曝の問題もあります)。大腸がん検診としての大腸内視鏡検査のように、検査による死亡事故というような不利益ではないのです。肺がんCT検診は、何かわからないものまで、「何でも見つけてしまうからダメ」とされているのです。
      良性の肺病変のために手術となることは、確かに不利益ですが、こうした点を了解できるなら、やはりCT検査を適当な期間をあけながら受ける方法が、一番良いと(個人的には)思います。

  • 呼吸器外科診療Q&A~手術と言う選択肢篇 arrow_forward_ios

  • 手術をすべきかどうかの質問

    毎日の診療のなかで、最も多いご相談が『薬で治らないか』『薬で様子を見ることはできないか』など、手術をせずに病気を治せないかとのご希望です。ここでは呼吸器外科の診療中によく受ける、手術を受けた方が良いかどうかに関する問答を掲載しました。主として肺がんの治療を想定していますが、多くの回答は、それ以外の疾患にも適用できる内容と思います。

    呼吸器外科に限って言えば、手術を検討あるいは考慮しているということは、既に、何かしらの疾患か、正常では見られない検査上の所見を抱えている状態のはずです。以下の問答はそのような想定の下に記述されています。

    1. Q

      薬で治りませんか?

      A

      呼吸器外科では薬で治る病気に対し、手術をお勧めすることはありません。
      病気の治療は、手術や薬以外にもたくさんあります。その中から、もっとも治療効果が高い治療法を選ぶことが、合理的であり、正しいはずです。特に命がかかる病気ならば、多少の負担はあっても、最も生存の可能性が高い治療を行うべきでしょう。もし、手術でも薬でも、治療の効果に大きな差がなければ、副作用や合併症、体力的な負担や治療費などを考慮して、治療を選ぶことが、合理的となりますが、手術と薬の治療がほぼ同じ効果を出せるなら、薬の治療が選択されることが原則です。このような視点から、これまでの研究で、多くの呼吸器疾患では、どの病気は薬で治り、どの病気には薬が効かないか、ほぼ判明しており、薬で治る病気は内科で治療し、手術に回ることはありません。呼吸器領域で、手術をお勧めしている場合は、手術が他の治療に比べて圧倒的に優位にあるためです。

    2. Q

      今は忙しくて休めません、手術を先延ばししてもいいですか?

      A

      病気も休んでくれません。
      この言葉もよくお聞きします。手術にはリスク(危険)はつきものですし、術後には痛みがあります。一定期間、仕事を休まなければいけませんし、医療費も必要になります。そもそも経験したこともない入院や手術と言うこと自体に、漠然とした不安を覚え、手術を躊躇させていることも、十分理解しています。それでも手術が勧められているのは、それらの不都合を補っても、手術することに十分価値があると思われる場合だけです。私どもの経験上、肺の手術直後に、無理な就労を要求してくる職場は、ほとんどありません。もしあなたが、職場に必要な方と思われているなら、余計です。『私がいないと…』と思っているのは、意外とあなただけかもしれません。

    3. Q

      手術のリスク(危険性)が怖いです

      A

      肺がんで手術が実施されない場合のリスクが示すものは、100%の死です。肺がん手術が実施された場合のリスクは、死亡の確率1%程度、再発の確率40%程度です。恐れるべきものは何か、冷静に考えてみてください。
      当たらないかもしれない合併症のリスクと、必ずこうなるという現実の死との比較の問題です。手術の危険性(リスク)は、統計的数値から算出された『確率』で、よく表されます。示されているのは、確率であり、どんなに数字が大きくても、小さくても、100%と0%以外は、実際にその危険に当たるかどうかは、誰にも分かりません。わからないことが、逆に怖さを増幅させている一面は否定できませんが、一方で、肺がんの治療を放棄すれば、リスクは100%、つまり確実な死を意味します。確率で推測するとかのレベルではありません。死んだら終わりです。手術のリスクを無視することはできませんが、本当に怖いものは何か、もう一度よく考えて治療法を選んでください。

    4. Q

      抗がん剤治療と手術と、どちらがよいですか?

      A

      手術ができる状態の(手遅れになっていない)肺がんでは、比較するまでもなく手術です。
      肺がん治療では、抗がん剤治療と手術は治療の対象となる患者を奪い合うようなものではなく、比較する対象ではありません。治るためには手術以外ありません。最初に手術ではなく、抗がん剤治療を勧められたら、治る見込みは極めて厳しい状況です。
      少なくとも今日、肺がんの研究で、抗がん剤治療と外科治療を比較して、どちらが良いという試験など成り立ちません。なぜなら、そもそも抗がん剤だけで治る肺がんは、ないと言っても過言ではないからです。もし、手術の対象となる状態(医学的に『手術の適応がある』と言います)の肺がんで、がんが治ると言うふれこみの抗がん剤の宣伝があるとしたら、詐欺と言ってもいいくらいです。手術が受けられるような状態にあるのに、抗がん剤を選ぶとなると、これはもう、死を覚悟する選択をしたことに他なりません。

    5. Q

      放射線治療と手術と、どちらがよいですか?

      A

      手術ができる状態の(手遅れになっていない)肺がんでは、比較するまでもなく手術です。
      放射線治療も、近年大変な進歩を遂げています。ただし、肺がんの治療においては、手術を大きく上回る効果は上げられていないと言えます。重粒子線治療など先進医療も魅力的ではありますが、手術が行える肺がんの方に、第一に行うような治療ではありません。やはり手術の治療効果が、一番高いのです。いきなり手術ができない肺がんの治療では、放射線治療が先に行われたのち、手術を行うような手法もありますが、放射線治療が手術に代わる治療にはなっていません。

    6. Q

      免疫治療と手術と、どちらがよいですか?

      A

      手術ができる状態の(手遅れになっていない)肺がんでは、比較するまでもなく手術です。
      まず、免疫療法と謳って治療しているもののうち、保険診療が効かない治療については、肺がんに有効なものはないと考えてください。現在、肺がんの治療で使われている免疫療法は、厳格には免疫チェックポイント阻害剤と言われるもので、一部の肺がんの人に、良く効くことが分かっていますが、効果は永遠ではなく、ガンを完全に駆逐するほどの効果ではありません。自分の免疫担当細胞を取り出して増やすと言った治療法は、何十年も研究されてきましたが、今のところ成功したものはありません。耳触りの良い治療を喧伝しているサイトを見かけますが、十分ご注意ください。

    7. Q

      手術より効果がある治療は、本当にないのですか?

      A

      手術ができる状態の(手遅れになっていない)肺がんでは、ありません。
      ガンが縮小したとか、何もしないよりは、しばらく長生きできるかもという治療はあります。ただ、手術のように「完全に治った」と言える効果を示すことができる治療はありません。手術以外の治療だけで治ったと思われる人も、治ったように見えても、結局ダメということが多いのです。手術で治る人は、毎年何万人もいます。手術しなければ遅かれ早かれガンで死ぬ、これはほぼ間違いありません。
      手術を忌避して、他の治療をうけ、いよいよ困って手術の依頼がある、そんなケースを(今も昔も)何度となく見てきました。治る可能性があるうちに治る治療を受ける、これが生きるためのベストな方策です。

    8. Q

      ガンかどうかわからないと、手術に踏み切れない

      A

      ガンでないかも知れない、手術したら死ぬかもしれない、何もかも推測です。このまま放っておいても、ガンでなければ万歳です。でもガンだったら、死です。治るタイミングはどんどん失われていきます。
      肺がんでは、多くの人が、がんかどうかわからない段階で手術をしている状況です。手を尽くしてもガンと確定できないなら、ガンである可能性と、治療が遅れて、手遅れになることの危険性を秤にかけてみてください。

    9. Q

      様子を見るのは、ダメですか?

      A

      状況にもよりますが、医師が(様子を見るように)勧めていない時は、様子を見て状況が良くなることは殆どありません。
      ガンが確定しない場合で、どちらかと言えば、ガンとはやや違う、ガンとしては非典型的と言うような場合では、少し様子を見ることも良いと思います。ガンの証拠がない(がん細胞が検出できない)場合、医師は確定的な表現は避けがちですが、ガンとして典型的かどうかくらいは、教えてくれるはずです。医師が盛んに再考を勧めるようなら、状況は切迫していることが多いです。ガンの可能性があるようであれば、しばらく様子を見て、今より状況が良くなっていることは、ほとんどないです。体力も落ちているかもしれませんし、病気も進行しているかもしれません。
      どうしても様子を見るという場合は、「いつまで」、「どうなるまで」、様子を見るか、事前によく決めてからにしましょう。漠然と様子を見るのは、よい方法ではありません。いつまで様子を見てよいかなど、医師に尋ねても無駄です。誰にもわかりません。ガンが疑われる病変であれば、2~3年くらい様子を見て何の変化がなくても、安心できません。逆に、数か月後には転移が見つかることだってあります。そこに病巣が見える限り、完全に病巣が消えるまで、ダラダラと検査を受け続けることになりかねません。

    10. Q

      症状がないので、手術をしたくありません

      A

      肺がんに限れば、ほとんど症状のないときにしか、手術で治りません。
      よく聞く言葉です。症状がないからと言う理由も、治療を回避する理由にはなりません。症状がない時期に手術をしなければ、治る可能性はほとんどなくなります。

    11. Q

      もう高齢だから、手術ではなく薬(抗がん剤)の治療にしたい

      A

      高齢と言うだけで、抗がん剤が使えないことはあっても、手術は高齢でも元気な方ならできる時代です。
      副作用が強い抗がん剤治療だからこそ、薬の承認には厳しい検査(治験)が行われ、有効性や副作用の頻度などが調べられています。多くの抗がん剤は、80歳以上の方の有効性についてほとんど調べられていません。治験段階で、80歳のような高齢者は試験の対象から外されていることが多いのです。実際に、80歳以上の方には、抗がん剤治療はかなりの負担になることがあります。そもそも抗がん剤では治らない肺がんだから、わざわざ高齢者で試験することもないのかもしれません。
      一方で、肺がん手術の対象者は高齢化する一方です。高齢者に対する外科治療と術前術後管理、そして麻酔の管理技術は、高齢化に合わせて、大変進歩しました。たとえ、80歳を越えていても、まだ自立して生活できるほどの心身の状態が維持できているならば、手術を検討・実施できることがほとんどです。80歳を越えたら手術をしないという呼吸器外科医は、日本ではほとんどいないと思います。有難いことに、多くの方は大きな合併症なく退院されます。

    12. Q

      ガンは、手術すると進行するのですか?

      A

      手術の有無にかかわらず進行します。根拠のない言いがかりです。
      進行の遅い肺ガンはあります。進行のスピードは人(ガン)により様々です。手術で取り出せたように見えても、既にかなりの割合でガンは他の臓器に転移して潜伏しており、このような人が、術後に再発・転移をしてしまうのだと考えられています。術後直ぐ再発したからと言って、手術がそれを速めたわけではありません。

    13. Q

      手術をすると、免疫力が落ちてガンが進行するのでは?

      A

      既に手術せずともガンがあるなら、その免疫力に期待するのはおかしな話です。根拠のない言いがかりです。
      手術を受けると免疫力が落ちるという意見については、ある程度というレベルなら間違いではないと思います。免疫力が、ある程度の発癌を押さえているという説も正しいかもしれません。ただ、今ある免疫力では打ち勝てなかった、抑えきれなかったからこそ、手術が必要なほどの量のガンができているのではないですか。もしこの質問のような説を信じているなら、余計早くガンを体外に出してしまった方が良いのではないですか。ガンの量が減れば、免疫の力も効いてくるかもしれません。

    14. Q

      手術はできないと言われました、もうダメですか?

      A

      出来ない理由によっては、手術ができる場合はあります。
      肺がんの手術をするためには、2つの要件が満たされていなければなりません。がんの進行度と、手術可能な心身の状態です。がんの進行度については、国際的に概ね合意されている基準があり、ほとんどの施設はこの基準に沿って手術をしていると思います。後者の心身状態については、病院によって、あるいは担当医によって、基準が違います。手術できない理由が、後者であれば、違う病院を探す価値はまだ残っています。どのような理由で手術が適さないのか、確認してください。

    15. Q

      進行していて手術してもムダと言われました、無駄とはどういう意味ですか?

      A

      手術をすると、しないより不利益が多くなるという意味です。
      病気は無情で、進行してしまうと、手術しても直ぐ再発してしまったり、その後の生活に必要な臓器まで取らなければならなくなったりします。たくさん臓器を取っても、治るのなら、手術も無駄にならないのですが、そうまでしても、直ぐ再発することになりがちで、その後の治療の選択の幅まで、狭くなってしまうことになりかねません。手術で被る身体的・経済的損失が、その後の利益に繋がらないことから、手術に費やす身体的・経済的損失が無駄になると表現されたものと思います。

    16. Q

      このまま死ぬ覚悟はできてきますので、手術は受けたくありません

      A

      死んだら楽かもしれませんが、肺がんで死ぬまでの間は、とても辛い思いをします。死ぬ覚悟があるなら、どんな治療も受けられるのではないでしょうか。
      ガンになっても、楽に死ねると言う者もいますが、肺がんでは多くのケースで幻想に近いです。人はみな、最後は死んでしまいますが、できればもう少し生きたいと、どこかで願っているはずです。死ぬ気で手術を受けてみてはどうでしょうか。それでダメなら、覚悟を決めるでもよいと思いますが。

    17. Q

      薬(抗がん剤)の治療の方が、安全ではないですか?

      A

      薬の治療が安全というのは誤解です。
      多くの方にとって、薬による治療といえば、生じた苦痛を和らげるために、ちょっと、とりあえず、飲む。症状が治まったら終わり。そんなイメージでしょう。確かに、一般に販売されている薬は、何万人、あるいは何億人と言う人が服用して、大きな問題が発生しないように、たいへん安全に作られています。でも、もし、このような感覚で、抗がん剤の治療を見ているのであれば、少し考えを改めておいた方がいいかもしれません。
      抗がん剤は、強い副作用で有名です。副作用対策も進歩して、以前に比べ、楽になってはいますが、並大抵では治らない癌と言う致死の病気に対しては、時に命がけで薬を使う必要があります。薬の治療で、死ぬこともあるということです。
      抗がん剤での肺がん治療後、30日以内に亡くなる人の割合は凡そ1%程度と言われています。対して、肺がんの手術後に30日以内でなくなる人の割合は、0.5%前後です。簡単に2つの数字を比較できませんが、抗がん剤治療はイメージと違って、決して安全な治療ではありません。今は、抗がん剤治療より手術の方が、治療に関わる死亡の危険性が低いことを、ご理解いただけるとありがたいです。

    18. Q

      手術はキツイけど、薬はラクでしょう?

      A

      これも誤解です。
      もちろん、手術はそれなりにキツイです。しかし、それとは別に、抗がん剤治療がラクなわけではありません。
      抗がん剤治療については、様々な種類の薬と投与方法があって、一律には言えませんが、肺がんの治療では通常3-4回、多いものでは、数回繰り返して行うことが普通です。(外科医の意見かもしれませんが)手術は、その直後はそれなりにキツイかも知れませんが、徐々に改善するのが自覚でき、前向きな気持ちや見通しを保ちやすい一方、抗がん剤治療は少し回復したころに、次の治療が待ち構えているため、精神的に、強い気持ちが、長期間維持できないと辛いです。
      抗がん剤治療では、程度の差はあれ、副作用(今は有害事象と表現します)は必発です。一番聞かれることが多い、髪の毛が抜けるなどという副作用は、同情すべき事象ですが、治療全体から見れば、がん治療のためには容認すべき副作用であると考えられています。もちろん脱毛が気になって、体調や時に精神的に不調となる方もありますが、脱毛よりも恐るべき副作用は他にたくさんあり、嘔吐や食欲不振などで目に見えて体力を消耗する副作用だけでなく、見えないところで体に障害が蓄積される副作用もあるため、繰り返す薬の治療に、結局耐えられなくなる方は少なくありません。

    19. Q

      ガンかどうかわからないなら、とりあえず(試しに)抗がん剤を使ってみたい

      A

      ガンかどうかはっきりしないと、抗がん剤は使えません。
      抗がん剤はご承知のように、強い副作用(有害事象と言うことがあります)を起こすことがあり、ひどい場合は死亡に至ることもあります。肺がんの場合、抗がん剤による治療死は、全体で1%近いとされており、がんでもない方に、試しに抗がん剤を使ってみるといった使用方法は許されません。責任をもってがん治療にあたる医師であれば、がんと診断されていない方に、抗がん剤を使うことはないのです。

  • 呼吸器外科診療Q&A~がん治療に迷ったら篇 arrow_forward_ios

  • 治療の選択に悩んでいる方への回答

    がんの告知が、当たり前の時代になりました。多くの方は、突然の通告に戸惑い、「なぜ自分が?」「何が原因で?」など考えがちですが、今、犯人探しをしても、何も解決しません。考えを巡らせる時間も限られています。次にすべきことは、遅滞なく、最適な治療を選択することです。冷静な判断が難しい状況と思いますが、がん治療の選択を誤ると、時として生存の可能性を放棄することになりかねません。

    がん治療を選択するにあたって、賢明とは思えない治療を選択する方や、再考を促したくなるような決断を下す方が、今も少なからずおられます。残念なことです。治療法を迷っていると言っても、おそらく、最適な治療は、すでに提示されているはずで、ただ、それを選択・実行する覚悟ができていないだけなのかもしれません。一時の感情や根拠のない先入観で、現実逃避のような決断をしては、命を無駄にしてしまいます。

    困ったことに、わらをもつかむ心内を巧みに掴んで、病人を誤った方向へ導き、あるいは高額な金銭を要求しようと企む人たちが、ごく一部であれ、存在することも事実です。治療の選択に当たっては、誤った情報をもとに、判断なさらないよう切望してやみません。

    多少の誤解を生むかもしれないけれど、それを承知で、あえてこの項を作りました。がん治療の選択に悩んでいる方に、一度目を通して考えていただければ幸いです。

    ここでは、質問なしに回答だけです。「どんな治療を選べばいいのでしょうか?」の回答と言ってもいいかもしれません。

    肺がん治療に焦点を絞っての話としていますが、きっと他の多くの病気にも共通して言える内容だと確信しています。

    1. 1

      一番有効な治療は、保険がきく治療の中にあります

    2. 我が国の国民皆保険制度は、知れば知るほど有難い制度です。近年は、外国で有効とされた治療でも、ほとんど遅滞なく、次々保険がきく(保険収載されると表現します)ように運用されており、負担すべき医療費は、これ以上、文句を言えないほど低く抑えられています。各種のがん治療のうち、最も有効とされている治療は、必ずこの保険がきく治療の中にあります。自費で支払わなければならないような医療行為に、がんに最も有効な治療があることはありません。

    3. 2

      一番最新の治療が、一番効くのではありません

    4. 固形がん(血液のガン以外のガン)の治療の原型は、胃がんも乳がんも肺がんも、19世紀の終わりから20世紀の初めにできたものです。それは、がん病巣の完全摘除を基本とする手術治療であり、100年以上経っても、これを超える治療はありません。どんなに良い薬や治療法が開発されても、肺がんには、外科治療を超える最新治療はないのです。よく効く薬ができたと言っても、よく治るとまで言える薬は(少なくとも肺がんでは)今もないのです。どんな最新治療も、病巣を取り出すという単純明快で古典的な手法を超えていないのです。

    5. 3

      一番高い治療が、一番効くのではありません

    6. よく効く薬は次々開発されています。しかし、手術を超える治療効果が出たものはありません。手術が一番費用がかかると思っているなら大間違いです。1日で終わる手術は高くても数十万円(手術代金)ですが、薬の場合、一回の薬代だけで数百万円かかるものまであり、しかも薬の治療は、普通は一回で終わらず、何度も繰り返し治療します。なぜ、薬のほうが高いのか?薬の値段は、開発費から逆算されて決まっているからです。効果があるから高いのでも、有意義だから高いのでもないのです。しかも、がんの治療薬は、どんなに効いても、がんを治すことまでは期待されていません。あとから発売される新薬の方が、より効くとも限りません。それまでの薬と同じ効果だが、副作用が少し減ったか違うかするだけで、有効と判定され、保険適応されるのです。今一番肺がんの治療に有効とされている薬は、白金(プラチナ)製剤と言うものですが、これは170年以上も前、あのレントゲンが生まれた年に合成され、40年前から抗がん剤として使われるようになったものです。この白金(プラチナ)製剤を超える薬は、まだないのです。ちなみに手術料は、手術にかかる時間(難易度に相当する)や人件費・光熱費などの実コストから計算されていることになっています。医療において、高いものがよいと思うのは、大間違いです。

    7. 4

      あなたが他人に勧める治療を、あなたが受けるべきです

    8. いま選択しようとしている治療を、人にも勧めますか?子供や親にも、そうするように提案しますか?怖いから、不安だからという理由で、本当は良いかもしれないと思っている選択肢を放棄していないでしょうか。同じ理由で、家族や知人が治療を選択しようとしていたら止めませんか?病気は無情です。感情的に対応しても、勝ち目はありません。冷静に、論理的に、客観的に、良いとされている選択をすべきです。

    9. 5

      誰の話を信用するかは、あなたの印象で決めるほかありません

    10. 医者の説明が信用できませんか?数人の情報を知っているに過ぎない友人・知人の話のほうが、もっともらしく、信用できそうですか?どの人が、この治療について最もよく知っているのか、もう一度思い出してください。その選択肢を選ぶと、誰がどう得をするというのですか?多分、担当医は仕事が増えるだけで、給料は変わりません。病院よりもっと良い治療がある?信用できますか?タダ話も信用できませんが、高額な金額を要求する話はもっと信用できません。信用できる人はだれか、得する人は誰か、もっと冷静に考えてください。長い年月と、多くの患者の治療結果から、淘汰され生き残った治療法と、わずかな人しか知らない・教えられない秘密の治療法と、どちらが信頼できるのか、冷静なら迷う余地もないはずです。お金を失うだけならまだしも、財産も命も失っては、惨めすぎます。

    11. 6

      病気は、あなたを特別扱いしません

    12. あなた自身は、社会的にも経済的にも成果を上げられ、立派な人生を送られてきたに違いありません。そんなあなたに相応しい【特別な】治療を探し求めていませんか?どんなに立派なあなたも、どんなにまじめに生きてきたあなたも、病気には関係ありません。病気から見ればただの物体です。ほかの誰とも、何も違いません。あなたが特別だからこの病気にかかったのではありません。ただの順番です。あなたの前も、あなたの後も、どこかの誰かが病気になっています。みんな同じです。あなたに、特別な治療などありません。多くの人に試され、より多くの人に効いたはずの治療を、選ばなくてはいけません。「自分は違う」と見栄や特別感をもって医療を受けるのは、医者から見ればもっとも恥ずべき姿勢です。金をかけたり、場所や名前で医療機関を選んだりしても、決して良い治療が受けられるわけではありません。医者なら皆知っています。

    13. 7

      必勝の方法はありません、何人も病気には抗えないのです

    14. 病気には誰もあらがえません。病気を止める必勝法があれば、この世は人で溢れます。できることは限られていて、それが医療の限界です。もっと良い医者はいないか、もっといい病院は無いか、もっといい薬はないか、誰も知らないもっといいものを探していませんか?より良い治療を求めることは研究者に任せて、今、提示されている一番良い治療から『選ぶ』ほかないのです。夢のようなことを願うことは自由ですが、高望みは禁物です。中国の皇帝も見つけられなかったようなものを、今あなたが『探す』暇はありません。必勝を目指す姿勢は大事ですが、勝ったり負けたりが世の常。負け越さなければ良いのだという気持ちに切り替え、今置かれている現実を見つめ直しましょう。進行する病気がある以上、これから状況は刻々変化します。その時々で、現状ベストを選択し続けることしかないのです。

    15. 8

      報道される研究成果は、将来の、子供たちのためのものです

    16. 新聞やテレビでは、毎日のように、がん治療や診断に関する新しい研究成果が、報道されています。残念ですが、ほとんどの研究成果は、研究成果のまま終わります。これまでに、どれほどの大発見の発表があったことでしょう。全部その通りだったら、今頃はもう、病気に悩まされなくてよい時代になっていても、おかしくないはず。凄い内容(ネタ)だから、大々的に取り上げられているのではないのです。研究者は、自分の成果をより大きく見せようとしがちですし、記者は、定期的に大小の医療ネタを取り上げ、紙面や時間を埋めがちです。もし、商品になりそうな、お金になりそうな、本当に凄い研究成果をみつけたら、研究段階のものを、わざわざ大々的に、新聞やテレビに公表しますか?実現しそうな研究成果は、もちろんあるにしても、その成果が実際に使えるものになるまでに、更に何年もの開発・試験期間が必要で、保険承認が得られるまでには、さらにまた時間がかかります。「実用化まで…」と呑気な表現使っていませんか。今、治療を必要としている人には、間に合わないのです。あなたは、今ある武器で戦うしかないのです。

    17. 9

      楽に死ねる病気かどうか、考えてみてください

    18. これまでの人生は、楽なものでしたか?多分、多くの山や谷を越えて、ここまで来たに違いありません。くじけそうになったけれども、それを超えて今があるのではないですか?なぜ病気の時だけ、このあとも楽ができると思うのでしょう。今は楽だから?病気の末路まで楽できるなんて、あまりに暢気すぎます。医師は、いま勧めている治療の成果や苦痛も知っていますが、治療しない場合の厳しい結果もよく知っています。がんで死ぬことは、死ぬまでの過程がとても辛いです。しかも簡単には死ねません。衰弱して、衰弱して、衰弱して、もう耐えがたくなって死ぬのです。そんな過程を、沢山見てきたから、医者は見ず知らずのあなたにも治療を勧めているのです。できれば、死ぬのが辛くない病気で死ねるように、です。病気になった以上、もう楽という選択肢はないんです。

    19. 10

      いつ死んでもいいと思う人は、病院には行きません

    20. 人生も折り返しを過ぎていれば、すでに見送った知人や友人もたくさんいることでしょう。常日頃から死ぬことについて考え、すでに何某かの思いがあるに違いありません。「いつ死んでもいい。」「死ぬ覚悟はできているから。」よく聞くフレーズです。だから治療しない?検査だけは受けます??いつ死んでもよいように、と言う覚悟は大切ですが、本当に死にたいと思っているわけではないでしょう。死にたい人が、病院に通ったり、検査を受けたり、毎日薬を飲んだりしますか?早く死にたいということではないはずです。本当に死ぬ覚悟があるなら、どんな治療にも耐えられるはずではありませんか?もう病気はできているのです。とりあえずでも、医者が勧める治療を受けてみてはどうですか。

  • 呼吸器外科診療Q&A~単孔式胸腔鏡手術篇 arrow_forward_ios

  • 単孔式胸腔鏡手術とは、一つの穴から、すべての手術操作を行う胸腔鏡手術を指します。キズを一つにすることに、メリットはないとする外科医も多くいます。診療領域によっては、キズ一つの単孔式内視鏡手術を、実施の利点なしとしている診療科もあるようです。このような意見は、呼吸器外科の中にもあり、すべての呼吸器外科医が実施している手術ではありません。キズを一つにすることが、科学的にどの程度意味を持つのか、はっきりしたことはまだよくわかっていませんし、外科医の労力に比べて、目に見えて、あるいは感心するほどメリットは多くないと言われれば、強く反論しませんし、反論するためのエビデンスもありません。ただ、キズを小さく少なくというのは、手術の一つの進化の方向性であり、問題なく実施できるのであれば、患者側のデメリットはあまりないように思われます。ここでは、単孔式胸腔鏡手術に慎重な意見を中心に、質問形式でまとめ、当科の考えを回答として記述しました。

    1. Q

      単孔式になると、切除できる範囲が狭くなるのではないか?

      A

      私どもの施設では、多孔式より少し時間はかかりますが、ほとんどの手術で同じ内容の手術が実施可能です。
      最も懸念されることは、単孔になることで、手術の内容が悪くなる、具体的には、切除範囲が減ったり雑になったりすることです。特に我が国では、癌手術におけるリンパ節郭清の質低下、具体的にはリンパ節を取る範囲が狭くなることを、危惧する外科医が多いです。手法の変更で、このようなことがあってはならないというのは、私どもも同感です。
      このような懸念は、開胸から胸腔鏡へ移る際にも、外科医の間でよく問題提起されていましたが、今では胸腔鏡手術での質低下を懸念する声は、ほとんどありません。胸腔鏡に適した器具の利用や、手順や手技の工夫で解決されることが分かったからです。
      単孔式へ移行しようとする今日でもまた、同じ問題に直面しています。確かに、これまでと全く同じやり方では、できない操作はあります。しかし、解決法は同じです。単孔式に適した器具を使い、少し工夫を加えて、丁寧に手術をすれば、ほとんどの操作は実行可能です。その代わり、少し余分に時間はかかるかも知れません。
      長年、リンパ節郭清を中心とした肺癌の手術手技に拘ってきた私どもですが、現状、単孔式胸腔鏡手術でも、多孔式胸腔鏡手術や開胸手術と同じ質の手術が、実施できるよう、様々な工夫と新しい器具を導入しており、私ども自身は、従来と同等の手術ができていると判断しています。 切除範囲や質が十分であるかという判断は、手術の内容を第三者となる専門家に見てもらい、評価してもらう必要があるでしょう。当科は、手術の内容を、学会などで随時発表し、専門家の評価を得るようにして参ります。

    2. Q

      手術時間が長くなるなら、低侵襲とは言えないのではないか?

      A

      単孔式だからと言って、術後の経過(侵襲)に影響するほど、手術時間が長くなることはありません。
      制限が増える手技で、同じ質を確保するためには、少し時間を余分に必要とすることは否定しません。道具を持ち替えるにも時間が余計かかりますし、小さな器械が増えるため、切離などの操作はより細かくなり、結果として手術時間が従来の方法よりかかります。この問題(手術時間)も、胸腔鏡手術が導入されたころに議論したものです。時間がかかると言っても、単孔式の手術時間が多孔式手術の何倍にもなるわけではなく、術後の経過に影響が出るほど、延びるわけではありません。単孔式で時間がかかる手術は、多孔式でも時間がかかることが、ほとんどです。
      一生に一度の手術ですから、影響が出ない程度で、手術時間を多少余分にかける価値はあると、私どもは考えます。手術時間が延びて損をするのは、労働時間が増える手術室勤務者と、ほかの手術に回す時間が減ると言う病院経営者です。一度付けたキズは一生残ります。キズの大きさよりも、手術時間の短縮をメリットと感じる人は、そのような手術方式を選択すればよいのです。

    3. Q

      制限のある手術は、危険なのではないか?

      A

      そのために時間をかけて、慎重に手術をしています。私どもは、操作による危険性の高まりは、手術方法の違いよりも、術者の技量や素養、対処能力の方が大きく影響するものと考えています。
      手術操作による危険性は、粗雑・不用意な操作が、原因となることが多く、いわゆる“荒っぽい”手術や、手術時間を気にしたり操作を急いだりする“せっかちな”手術は、確かに危険です。これは開胸であれ、多孔式胸腔鏡であれ、同じです。上手くいかないことがあると、“イライラ”したり、モノやヒトにあたったりする外科医も、ドラマの中だけでなく、実際にもいます。このような人たちは、単孔式や内視鏡手術は、向いてないでしょう。長い臨床経験から、手術操作の丁寧さは、個人の素養によるところが大きいように思います。制限はあるが、克服できる方法があるからこそ、言葉を換えると、丁寧に、慎重に、行えば、無事完遂できるようになったからこそ、単孔式手術が世界中で普及し始めているのです。

    4. Q

      単孔式で処理できない状況になったときは、どうするのか?

      A

      こうしたときは、キズを追加して、多孔式に変更したり、キズを大きくして開胸手術へ変更したりして、対応することになります。
      多孔式への移行は、決断さえすれば、1分もかけずに可能です。単孔式とはいえ、キズは4センチ程度あり、キズの近くであれば、覗き込んで直接目で見ることも可能です。多孔式として違う角度から見たり処置したり、それでも難しいようなら、開胸するという手法も使えます。
      どのような手法を用いても、呼吸器外科の手術では、手術操作が困難な状況に陥ることはあります。その時、一番必要なものは、手法よりも判断力であり、いざ突発的事象に遭遇した際の、外科医個人の対処能力です。

    5. Q

      成熟した多孔式胸腔鏡手術があるのに、わざわざ面倒な単孔式で手術する必要があるのか?

      A

      統計を取ったわけではありませんが、「できればキズは小さく、少なく」が、多くの患者の願いと思っています。“わざわざ”と思うのは、医者の意見であり、「やりたくない」という気持ちの表れではないでしょうか。単孔式という技術の否定には、つながらない意見と考えます。
      切除する対象や範囲が同じであれば、外科治療の効果は変わりません。本来、キズの大きさと治療効果には、因果関係はないはずです。治療効果が同じなら、キズが小さいことにメリットを感じる人は多いはずで、これは手術を受ける患者側の気持ちです。一方で、デメリットとされるものは、主に、手術をする外科医側の、技術的難易度に起因するもので、手術時間がややかかることや、術者のストレス、操作ミスによる組織損傷などです。こうした問題は、技術が成熟すると改善されるものが多く、キズの大きさによらず、技量によって発生し得るものです。

    6. Q

      キズが一つだから、痛みが減ったといえるエビデンス(科学的根拠)はあるのか?

      A

      ありません。痛みを1個分2個分と、定量的な表現してよいかどうかわかりませんが、キズが一つだから、痛みも1個分であると表現はできると思います。ただ、4つに比べて1/4になるとか、2つに比べて半分かどうかは、わかりません。術後続く痛みが、短くなるかどうか、従来の多孔式手術に比べて、痛みが軽減できているのかどうかなど、わかっていません。
      直観的には、キズは「より小さい、少ないほうが痛くない」と思われるのですが、実は、キズの大小と術後の痛みの強弱の関係については、厳密な科学的立証は、まだ十分なされていません。同じ内容の手術をしても、人により、あるいは同じ人でも、痛みの度合いや楽・苦痛という感覚は、大きく違い、主観的で、変動しやすい感覚の評価は、科学的には難しいです。旧来の開胸手術から胸腔鏡手術になって、苦痛が少なくなったかどうかさえ、実は科学的にはまだ完全に解決しておらず、エビデンス(科学的根拠)が乏しい状態のまま、今日、内視鏡手術は全盛を迎えているのです。術後が楽そうに見えるという施術者側の感覚的評価や、患者側の需要が高いという現実が先行しているのが、内視鏡手術の実態です。
      キズ一つとなって、どの程度痛みが減るのかは、今後の課題ですが、科学的に立証することは、簡単ではなさそうです。

    7. Q

      肺を取り出すときにキズを大きくするなら、初めから大きいキズでやれば?

      A

      単孔式手術に慣れると、キズが中途半端に大きいと、かえって操作が安定しなくなることが分かります。経験的に、指の幅2本分、だいたい4センチあたりが良いようです。
      大きいキズの方が、操作が安定するのは、直視下で操作する時だけです。宙を浮かした状態の器具を、直接見ないで、横のモニタ画像を頼りに動かそうとすると、かえって難しくなることは、なんとなく想像できるのではないでしょうか。
      また、小さいキズで始めないと、取り出すときのキズを必要最小限にできません。胸腔鏡手術の長い経験の中で、肺を取り出す方法も、随分要領を得て、かなりのケースで、キズを延ばさなくても取り出せるようになりました。皮膚を切り足さなくても、皮下の組織をうまく剥がすだけで、取り出せることも多いです。小さなキズから、肺を取り出せるかどうかは、病巣の大きさや柔らかさ、肋間の幅などに左右され、キズを延ばさないといけないというケースは時々あります。取り出す時、つまり手術の最終段階になって、キズを延ばすことになり、術者としても大変残念ではありますが、取り出せる最少のキズに少しずつ延ばして、取り出しています。

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    1. 初診   8:30〜12:30
      再診 13:30〜16:30
    2. 電話で初診予約・予約変更ができます。

      048-462-1201

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