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呼吸器外科(呼吸器外科診療Q&A(自然気胸 診断と治療篇))

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呼吸器外科

呼吸器外科診療Q&A~自然気胸 診断と治療篇

ここでは、自然気胸の診断や手術以外の治療に関して、よく尋ねられる質問とその回答を記述しました。自然気胸の基本知識や外科治療に関しては別項をご覧ください。

自然気胸の症状や診断、手術以外の治療に関する質問

Q)気胸になると、ふつうはどんな症状が出るのですか?

A)痛み、咳、息苦しさの3つが典型的な症状で、他にも、様々な症状がありますが、それぞれは少数です。無症状の時や軽い不快感程度しかない場合もあります。

発症時に胸部に痛みを感じる人が多く、痛みを感じる位置も気胸を起こした肺の位置に近いことが多いですが、臓器が破れた(傷ついた)ことによる痛みではなく、胸膜(肺)が縮む際に感じるものだと考えられています(穴が開くブラと言う病変には、痛みを感じる神経は分布していないことがほとんどです)。同様の痛みは、肺が伸びる時に感じる人もいます。特徴的な痛みで、一度経験すると「また気胸になった!」と、気胸発症に気づくことが多いようです。咳も同様に、肺が伸び縮みする際の反射として出るものです。通常の気胸では、咳は出ても、痰を伴うことはありません。息苦しさは、肺に上手く空気が入らなくなることで生じます。「空気が吸い込めない感じ」や「動くと息切れする」など、息苦しさの感じ方は様々です。会話もままならないようなら、かなり重症ですので、至急の処置が必要です。

肺が縮んだまま時間が経つと、いずれの症状も、改善して自覚症状がなくなることがあります。気胸が改善したのではなく、伸び縮みが無くなったことや、肺が縮んだ状態(肺に十分な換気がされていない)に肺の血管が反応して、該当領域の肺の動脈が収縮することで、心臓からくる血流の配分を、上手く別の肺に振り分けたりする(換気が悪いところの肺では血流が減る)代償機能が働くからだと考えられます。

症状がよくなったからと言って安心せず、必ず医療機関を受診して下さい。「そのうち楽になる」などと甘く見ると、気胸が進行して、心臓が停止してしまうような状態になることもあります。息苦しさが進行しているようなら、救急要請して下さい。

Q)症状がない気胸があるのですか?

A)ありますが、よく聞くと何らかの症状を感じている人は多いです。

気胸になっても、虚脱(肺の潰れ具合)の程度が軽いと、無症状で経過する場合があります。痛みまではいかない不快感程度で発症し、そのまま治ってしまうと、気胸になったと気づかないことも、よくあるようです。気胸となって、肺が虚脱していても、それ以上進行せずに安定していると、症状が軽くなったり、何も感じなくなったりします。ただ、肺の虚脱が強いと、安静では息苦しくなくても、運動などして酸素需要が高まると、息苦しさを感じやすくなっているはずです。

Q)健康診断で見つかる気胸があるのですか?

A)少ないけれど、あります。

健康診断で、偶然見つかる自然気胸はあります。健診機関で、自然気胸のレントゲンが見つかることは稀ではありません。片側の肺が完全に潰れているのに、全く普通に仕事をして、日常生活を送っている人もいます。見つけた読影医も、指摘された受診者も、ビックリということがあります。

Q)大至急、治療が必要となるのは、どんな時ですか?

A)大量出血を伴う場合、同時に両側の気胸が起きている場合、心臓を圧迫するほど空気が漏れ続けている場合の3つは、短時間で命の危険が迫ってくる気胸で、大至急治療が必要になります。

ブラ自体には、血流はほとんどありませんが、ブラの周囲にはよく炎症が起きていて、癒着(ゆちゃく)を起こし、癒着の中に細い血管が増生していることがあります。気胸をおこして肺が縮むと、これらの血管が引きちぎれて、血管から出血することがあります。血管から直接出血しているためか、気胸のために大きな空間が広がっているためなのか、大量の出血となることがあります。気胸発生から何時間もせずに、1~2リットル以上の出血(全身の血液は4~5リットルくらいです)になり、ショック状態となることがあります(特発性血気胸といいます)。緊急の手術が求められます。

左右両側に同時に気胸を起こすと、肺に上手く息を吸い込めない状態になります(同時性両側気胸と言う状態です)。すべての同時性両側気胸が、直ちに呼吸停止を起こすのではありませんが、危険な状態です。最低でもどちらか一方の気胸を、急いで改善して、呼吸できるようにする必要があります。もちろん、引き続いて反対側も、気胸を改善させる必要があります。

空気漏れが続き、肺の外に漏れた空気の量が増え続けると、肺が縮むだけでは足りなくなり、頑丈な心臓でさえ、強く圧迫されるようになります。心臓が止まったり、不整脈を起こしたりする大変危険な状態で、緊張性気胸と呼び、レントゲンを撮ると心臓が反対側に移動、変形している状態がわかります。緊張性気胸は急速に進むことがあり、大変危険な気胸です。取り急ぎ空気を抜く治療が必要です。

Q)気胸で死んでしまうこともあるのですか?

A)前項で上げた状態では、特に至急の治療が必要ですが、どんな気胸でも、治療が手遅れになれば、あり得ます。難治性の気胸では、感染症や換気不全などを併発して死亡することがあります。

前項に上げている状態では、治療が手遅れになると、短時間で死に至る可能性はあります。原発性自然気胸で死亡にまで至るケースは滅多にありませんが、続発性自然気胸では様々な治療を行っても、気胸が改善せず、合併症などにより死亡に至ることは少なからずあります。大量の空気漏れがあって、換気ができなくなるケースもあります。外傷性気胸では、外傷の程度によっては、換気ができずに死亡に至ることがあります。

Q)出血する気胸があるのですか?

A)あります。

出血を伴う気胸を血気胸(けっききょう)と言います。ちなみに「血気胸」は病態を示し、病名として使う場合は「自然気胸」のままです。大量出血を伴う場合を、特別に「特発性血気胸(spontaneous hemopneumothorax)」と呼び分けることがあります。

気胸の多くは、肺、胸膜と言う組織が裂けていますので、多少なりとも出血を伴うことはあります。ただし、破れた部位の肺の組織は、稀薄となった末に破れているので、周囲の組織には血流がほとんどありません。従って気胸自体は、大量の出血を引き起こす病態ではなく、出血はあっても少量のこと(50ml以下)が多いです。

ところが、少ないとはいえ、気胸の発症が、数百mlを超える大量出血の引き金となることがあります。大量に出血するのは、肺が虚脱(縮む)した時に、一緒にちぎれてしまう血管があるからです。ちぎれるのは、肺の中の血管ではなくて、肺と胸壁の間に新しくできた血管で、ブラ(気腫性肺嚢胞)の周囲にできていることが多いです。このような血管が、ブラの周囲に出来る原因や機序は、よくわかっていませんが、過去の気胸が治る過程で出来た可能性や、肺炎などで肺と胸壁の間に生じた炎症がきっかけで、新たに出来た可能性などが考えられています。血管が破綻して出血する場合、2~3リットルを超えるような大量の出血となり、心臓が止まるような状態になることもあります。

Q)血痰が出ましたが、気胸ではないでしょうか?

A)原発性自然気胸では、血痰が出ることはほとんどありません。続発性自然気胸では、原因となる疾患により気胸発症時に血痰が出る可能性がありますが、頻度は低いです。

口から出た痰に血液が混ざっている場合、血痰(けったん)と言います(ちなみに、痰に混ざっている程度を超えて、血液そのものが、咳とともに出ることは喀血(かっけつ)です)。胸腔(きょうくう)に出血している血胸とは違います。大雑把に、肺の中に出血している場合は血痰になり、肺の外に出血している場合は血胸になると捉えてよいかと思います。

もともと原発性自然気胸の原因になるブラは、血流が少なく、破れても出血はほとんどありません。出血を伴う気胸(このような気胸を血気胸と言います)となっている場合でも、多くは、肺の表面側にできた血管が破れて、出血しています。血気胸でも、肺の内部に血液が入り込むことは、ほとんどなく、流れ込んだとしても、肺の隅から肺の根元まで来て、口を通って痰として出るまでには、少し時間がかかります。

続発性自然気胸の病態はさまざまですので、血痰と気胸の関係は、ある場合も、ない場合もあります。

いずれにせよ、血痰があること自体は、何らかの病気の存在を考えさせる事態です。医療機関を受診しましょう。

Q)どのようにして、気胸と診断するのですか?

A)症状や経過から気胸の発症を疑い、胸部レントゲン写真で気胸の存在(無血管野)を確認します。

健康そうな若者が、特徴的な症状で来院したら、ほぼその時点で自然気胸を疑います。典型的な体型ならなおさらです。もちろん筋肉痛のことも少なくありません。そこで検査となりますが、基本は、胸部レントゲン写真です。打診(胸をトントンする診察方法)で、気胸の存在がわかる場合もありますが、不確実で、レントゲンなしに診断することは(超緊急時以外は)しません。肺があるべきところに肺が写っていないことを、レントゲンで確認します。無血管野と呼ばれる所見が、あばらの内側に広がって、さらにその隣(内側)に、血管が写っている領域(肺であることを示す)があることを確認します。「無血管野」はレントゲン検査の用語で、均一な空気濃度の領域を指します。肺の中の構造である「血管」が写らないことをもって、何もない空間があると判断するので、無血管野と呼びます。無血管野と血管陰影がある肺の領域の間には、境界線が写っていることが多く、よく見るとこの境界線上に凹凸、あるいは2重線になっている場合があり、ここにブラがあると言われています。この所見ははっきりと見えないことも多く、病変を推定する方法としては不確実で、現在では、CTが気胸の存在やブラを同定するのに便利です。ただし、こうしたブラの存在や位置に関する情報は、気胸の診断と初期治療には不要です。

無血管野が、血管陰影がある肺と肋骨(あばら)の間にあれば、必ずしも肺の外(胸腔)に空気があるとは限らず、気胸(胸腔に気体が溜まっている状態)であると安易に診断できません。肺に生じたブラが巨大になってしまうと、同様の所見を示すことがあるためです。巨大化したブラの内側(つまり肺の中)の空気なのか、肺の外にたまった空気なのか、熟練の呼吸器専門医でも見分けられないことがあります。CT検査まで行えば、見分けがつくことが多いのですが、CT検査でもなお、見分けられないことはあります。

また、気胸が軽度であった場合や、肺の前後に気胸腔があった場合、前後方向にエックス線をあてて撮影する平面的なレントゲン撮影では、無血管野が肺と重なるために、無血管野が認めれられない、つまり気胸を見逃してしまうこともあります。このよう気胸を潜在性気胸(occult pneumothorax)と呼ぶ場合があり、CT検査で初めて気胸の存在がわかります。

Q)CT検査は必要ですか?

A)気胸と診断するだけなら、ほとんどの場合不要です。

CT検査は、気胸の検査としては精密検査の位置づけです。レントゲンの次の検査として行うことが原則ですが、胸部レントゲン写真の読影に自信がない場合に、初診段階でレントゲンと同時にCTが撮影されることはあり、近年はそうした事例が増えています。外傷性気胸では、肺の損傷の原因となった肋骨骨折や、その他の外傷や出血がないか調べるため、CT検査は初診段階でよく行われます。

今日のCTでは、わずかな気胸の存在や、自然気胸の原因となる小さなブラも、かなり正確に描出できるようになっています。気胸の初期治療には、ブラの位置や大きさなどの情報は不要ですが、ブラ以外の病気が見つかれば、続発性自然気胸の可能性を考える必要があります。手術が必要な場合は、病変についての情報が有用になりますので、当科では自然気胸の方には、精密検査としてCT撮影を行っています。

CT検査は、撮影のタイミングが重要です。気胸のままで、肺が虚脱した状態では、虚脱した肺の中に病変があった場合に何も情報を得られません。病変に関する情報は、肺が少し膨張してからの方が多く得られます。

CTでしかわからないような潜在性気胸は、ほとんどの場合、緊急の処置を必要としませんので、(少なくとも当科では)レントゲン検査で気胸が認められない時は、X線被曝や検査費用のことも考え(過剰診療とならないよう)、念のためにCTを撮影するということはしておりません。

Q)気胸を起こしやすい、遺伝する病気があるのですか?

A)気胸が遺伝することはありませんが、遺伝する病気で気胸を起こしやすい病気は、少ないけれどもあります。

よく知られている疾患としては、マルファン症候群(Marfan syndrome)や、エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos syndrome)、バート・ホッグ・デュベ症候群(Birt-Hogg-Dube syndrome)、嚢胞性線維症(cystic fibrosis)などがあります。いずれも難病として国から指定されている病気です。異常を認める遺伝子が特定されていますが、まだ未解明のものもあるとされています。その遺伝子異常があれば、必ず気胸を起こすということではなく、その遺伝子異常があると、全身に病変や異常が生じ、そのうちの肺に生じた異常が、気胸を起こしやすいものだということです。気胸は、それぞれの病気の一症候として発症するものです。それぞれの病気についての詳細は、厚生労働省の難病に関するホームページをご覧になるか、各診療領域の専門施設でお尋ねください。これらの病気で気胸を発症した際は、呼吸器外科で気胸の治療をしますが、より重要な根本的治療は該当診療科で行います。

他に、結節性硬化症(tuberous sclerosis, TS)と言う遺伝性の病気(これも難病指定されています)の人では、気胸を起こしやすいリンパ脈管筋腫症(みゃっかんきんしゅしょう、lymphangioleiomyomatosis; LAM)と言う病気を合併することが知られています。

Q)気胸がきっかけで発見される、全身の病気があるのですか?

A)少ないけれど、あります。

続発性自然気胸は、多くの場合、肺の病気(呼吸器疾患)が進行して、肺が破れてしまいます。肺に生じる異常は、肺以外には生じないことがほとんどです。多くはありませんが、全身の病気の一つの病状として、肺に異常が生じ、気胸を発症する病気があり、気胸が初発症候となることがあります。将来、肺以外の臓器に病変が出現する危険性に、十分注意してください。気胸は治っても、後から見つかるかもしれない肺以外の病変が、命に係わる病気となることがあるからです。

上述のマルファン症候群(Marfan syndrome)やエーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos syndrome)では、大動脈瘤や大動脈解離などで突然死する可能性があり、バート・ホッグ・デュベ症候群(Birt-Hogg-Dube syndrome)では腎がんの発症が指摘されています。頭の皮膚に出来る血管肉腫(けっかんにくしゅ)と言う悪性の腫瘍はよく肺に転移して気胸を起こし、それがきっかけで、頭にあるニキビのような病変が、腫瘍(血管肉腫)とわかることがあります。白血球の一つであるランゲルハンス細胞と呼ばれる組織球が、腫瘍性に増えて、全身にこぶ状の病変を作るランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis)も、反復する気胸から診断されることがあります。子宮内膜症の一部でも、気胸がきっかけで見つかるものがあります。

Q)痩せていなくても、気胸になるのですか?

A)なります。

痩せていなくても、原発性自然気胸となる人はいます。原発性自然気胸で、多いのは「やせ」型体形の方で、胸郭の前後径が左右径より小さい、胸が薄い体形が、典型的な「気胸」体形といわれているものです。背が高いこととは関係ないのですが、こうした胸郭の方は、単に痩せているだけでなく、背が高いことが多いです。太れば再発しにくくなるというのは、科学的な立証のない通説で、当科ではこの説を支持していません。胸郭(肋骨より)外の筋肉や脂肪が、肺のブラ形成に影響しているとは考えにくく、また、大人になって骨格が形成された後に、胸郭外の変化があったとして、それが気胸の再発予防効果を持つかどうか疑問です。続発性自然気胸では、気胸と体形には関係がありません。

Q)女性でも、気胸になるのですか?

A)なります。女性にしか起こらない特殊な気胸もあります。

原発性自然気胸では、男性の比率が高いことは、今も変わりませんが、以前より女性の比率は高くなっている印象です。続発性自然気胸では、疾患ごとに性別の比率が変り、一定していません。女性にしかかからない病気の中に、気胸を合併しやすいものがあり、異所性子宮内膜症(いしょせいしきゅうないまくしょう)という病気では、月経に合わせて気胸を繰り返す(月経随伴性気胸、げっけいずいはんせいききょう)ことがあります。肺移植の対象ともなっているリンパ脈管筋腫症でも、頻回に気胸を起こすことが知られています。いずれも女性ホルモンの関与が考えられており、婦人科での治療が必要になる場合があります。

Q)生理のたびに、気胸になる病気があるのですか?

A)月経随伴性気胸と呼ばれる病気があります。

月経随伴性気胸は、子宮内膜症が肺に起きている病気と考えられています。子宮内膜は、生理の際に子宮から剥離して月経血として体外に排出されます。子宮内膜が子宮の内側以外のところに生着してしまう病気が子宮内膜症です。子宮内膜症のほとんどが、骨盤近くのお腹の中に出来ますが、稀に、横隔膜を貫通して肺に到達することが知られており、肺に生着した子宮内膜が生理の度に脱落して、肺に穴が開き、気胸となります。脱落した跡には、必ずしも子宮内膜を認めるとは限らず、線維組織しか残っていない場合もあって、診断が確定できない人もいます。月経随伴性気胸では、横隔膜に穴が開いていることが多く、子宮内膜が横隔膜に生着していることが原因と考えられています。肺の病変が認め難いこともあって、昔は、肺が破れて気胸となるのではなく、体外の空気が、膣から入って、子宮から卵管、お腹の中を通って、横隔膜の穴から胸腔に空気が入ってくるという説が信じられていました。もちろん、この説を信じている気胸の専門家は、今ではいないと思います。現在は、異所性子宮内膜症のうちの、胸腔内子宮内膜症として扱われており、気胸の初期治療に続いて、婦人科での子宮内膜症治療が行われています。必ず婦人科での治療を受けてください。気胸自体は、手術や癒着療法をしても、再発を繰り返すので、大変治療は難しいです。

Q)気胸を起こすのは、ホルモンの異常ですか?

A)特殊な続発性自然気胸を除き、これまでに何かのホルモンが、ブラの発生や気胸の発症に関与したことを証明した報告はありません。

現在のところ、体内のホルモンは、ブラの発生や成長、気胸の発症には関係していないと考えられています。

Q)小学生は、気胸にならないのですか?

A)ほとんど見られず、非常に珍しいです。もし気胸となったとすれば、先に原発性自然気胸以外の病気を調べたほうが良いかもしれません。

原発性自然気胸は、若い人に多い病気ですが、中学生以下の児童生徒にはあまり見られません。特に小学生以下ではほとんど見られず、気胸があるとすれば、原発性自然気胸よりも先に、他の病気を調べる方が良いといわれるほどです。なぜ小児期に少ないかはよくわかっていません。男子の場合、高校生ごろに身長が伸び、身長の伸びが止まったあとの18歳ぐらいから、ブラの発生や気胸を見ることが多くなります。最も成長が著しい小児期には、ブラの発生は殆どありません。骨格の成長に比べ、内臓器の成長の時期は少し遅れますので、見た目の成長よりも、両者のバランスが関係していると考える人たちもいます。これも説であり、小児に気胸が少ない理由は全く分かっていません。

Q)大人になったら、気胸にはならないのですか?

A)原発性自然気胸の場合、30歳代以降になると発症の頻度は下がり、40歳以上になると新規の発生は、ほとんど見られなくなります。ただし、80歳を過ぎても、初発の原発性自然気胸と思われるケースはあります。続発性自然気胸は年齢ともに増えます。

理由は分かりませんが、20歳代後半をピークに、原発性自然気胸の発症頻度は急速に減っていきます。40歳代以降で気胸を見たら、まず続発性自然気胸を疑うのが常道です。多くの続発性自然気胸は、年齢が増すに従って肺の病変が進行し、気胸の頻度も増していきます。気胸患者数は、年齢別のグラフにすると二峰性になることが知られています。しかし、非常に少ないとは言え、60歳、70歳をすぎても、小さなブラ1個しかない気胸で、原発性自然気胸と診断すべき例もあります。

Q)マルファン症候群の疑いは、ありませんか?

A)マルファン症候群の方が自然気胸になることはよくありますが、自然気胸の方がマルファン症候群である頻度は低いです。

高身長や側弯などの体形が、気胸体形とよく合うため、原発性自然気胸自体が、マルファン症候群(Marfan syndrome)との関連を疑われていた時代もありましたが、今日では異なる疾患群と捉えられています。マルファン症候群は、若い年齢で大動脈の破裂などを起こして突然死を来すような病気で、結合組織が脆弱となる遺伝病です。単に自然気胸と診断されただけなら、マルファン症候群の可能性を考える必要はありませんが、目に症状(水晶体脱臼)がある、大動脈に拡大などがある、あるいは家族に同様の病気の人がいるような場合は、一度、担当医か専門家に尋ねてみると良いでしょう。マルファン症候群は遺伝子の検査でもわかります。

Q)漏斗胸では、気胸になりやすいのですか?

A)漏斗胸では、ブラの発生や気胸の合併が良く見られます。

胸部の骨格異常の中で、前胸部が凹んだような変形を来す漏斗胸では、結果として胸板が薄い(胸郭の前後径が短い)体形になり、「痩せ」た体形と同じように、ブラの発生や気胸の発症が多いと言われています。胸郭の前後径が伸びるような体形(鳩胸(はとむね)や樽状胸(たるじょうむね))は、気胸と関係ありません。ただ樽状胸は、続発性自然気胸の原因疾患として最も多い慢性閉塞性肺疾患(COPD, chronic obstructive pulmonary disease)により形成されることがあり、COPDが進行すれば気胸を合併することはあります。

背骨が左右方向にS字に曲がったまま成長する側弯症(そくわんしょう)では、漏斗胸を併発していることが多く、結果としてブラの形成に関与していることがあります。

こうした骨格の異常があっても、直ちに気胸を起こすということではありませんので、気胸を一度も発症したことがなければ、特に予防的な治療は必要ありません。

Q)点滴や飲み薬で、気胸を治すことはできませんか?

A)できません。

自然に治ることはあっても、飲み薬や点滴などの注射薬で気胸を治すことはできません。瘻孔(ろうこう、体内にできた洞窟状の穴のこと)の閉鎖促進を謳う薬品はありますが、特殊な病態(傷を治すための血液の因子が欠乏している病気の方)用であり、気胸の治療には使いません。

Q)気胸が、自然に治ることがあるのですか?

A)あります。

かなりの頻度で、自然気胸は何もせず、自然に治っていると推測されます。

Q)空気が漏れている穴が、自然にふさがるのですか?

A)生体が持つ組織修復機能が働いて、塞がると思われます。

皮膚を切って傷ができても、生体の修復機能が働いて、少し跡が残ったとしても治ってしまいます。決して絆創膏や付けた薬のせいではありません。肺の病変に空いた穴も、人体の組織修復機能が働いて、塞がるものと思われます。空気漏れは、徐々に収まって止まるだけでなく、ある日突然止まることもあります。いつ穴が塞がるか、言い換えると、いつまで空気漏れが続くか、いつ止まるかの予想は難しく、確実に予想する方法はありません。

Q)気胸になった時は、どのように治療をするのですか?

A)気胸の初期治療の基本は、肺を修復することではなく、第一に「胸腔の機能を取り戻す」ことです。その結果、萎んだ肺が膨張し、呼吸が楽になります。「空気漏れを止める」ことは二の次です。

気胸による障害の多くは、胸腔と言う構造が機能破綻していて、肺が肺として機能していないことに起因します。胸腔の機能を取り戻すことは、すなわち肺を元の形に戻すという作業に他なりませんが、たとえ空気漏れが続いていても、肺が肺として機能すれば、ほとんどの自覚症状は消失します。

胸腔内に貯留している空気を排除して、胸腔内の気体を減らすことで、胸腔内を減圧し、その状態を維持することが目標です。漏れてくる空気があるならば、漏れてくる量以上の空気を、どんどん排除すれば同じように減圧できます。継続して漏れてくるなら、継続して空気を排除します。胸腔内が減圧されれば、肺は胸郭の方へ吸いつけられるように伸び、同時に呼吸の運動(横隔膜の動き)が(胸腔を介して)肺の動きとして伝わるようになります。このように、胸腔内を陰圧に保ち続けることが気胸の初期治療の基本です。

ちなみに胸腔内の空気を排除して減圧をする治療行為を、脱気(だっき)と言います。継続的に脱気することを、ドレナージ(drainage、排水)と言い、ドレナージは外科処置や手術でよく使う治療手技です。気胸では胸腔をドレナージするので胸腔ドレナージと言います。

治療としては、もっと単純に、もっとダイレクトに、空気漏れを塞げば良いように思われますが、肺に生じている空気漏れを塞ぐことは、手術なしでは不可能です。幸い、肺に開いた穴は、自然に塞がることも多く、病院で気胸と診断された時点で、(肺は萎んでいたとしても)すでに空気漏れが止まっていることもよくあります。気胸治療で、空気漏れを塞ごうとすることは、どうしても空気漏れが止まらない時の、どちらかと言えば最終手段に近いものです。

胸腔の余剰空気を排除している間に肺に開いた穴が塞がることを期待している、というなんとも牧歌的な治療が、21世紀の今日も行われ続けているのです。

Q)脱気(だっき)とは、何ですか?

A)圧勾配に逆らう方向へ、気体を移動させることを言います。気胸診療で脱気治療と呼ぶ場合、針を胸腔に刺して、中の空気を注射器で吸い出す方法を指すことが多く、穿刺(せんし、針を刺す行為)による脱気のことを言う場合が多いです。

物理法則では、気体は、気圧の高いほうから低いほうへ、自然に移動します。圧勾配に沿って気体を排出することを「排気」といいます。物理法則に逆らって、気圧の低い場所から高い場所へ気体を移動させることは「脱気(だっき)」と呼び分けます。気胸の治療で「脱気」が使われるのは、相対的に気圧の低い胸腔内の気体(肺から漏れ出た空気)を、気圧の高い体外(ふつうは大気圧)へ吸い出す必要があるためです。

吸い出す方法はいろいろあります。注射器と針を使って手動で吸い出してもよいですし、患者自身の「いきみ」を動力にして、押し出す方法もあります(この場合は、圧の関係が逆転するので、厳密には脱気とは言えないかもしれません)。特殊なポンプを使う方法もあります。

Q)チューブ(管)による治療とは、何ですか?

A)肺から胸腔へ漏れ出た空気を、体外へ排気(脱気)するための治療です。因みに、排気や排水のためのチューブを医療分野でも、ドレーン(【英】drain排水管)と呼び、チューブによる排気・排水のための治療法をドレナージと呼びます。

針を刺す方法(穿刺)でも、空気を抜くことはできますが、空気が抜けると肺が伸びて、針先にあたるようになり、新たな肺の損傷を起こします。脱気に時間がかかるような時や、針から抜ける脱気量では間に合わないような時、穿刺治療は不向きです。また、空気漏れが止まっていなければ、針を抜いてしまえば、またすぐに空気が溜まりますので、脱気が継続してできることが必要ですし、空気を抜く効率を考えると、針より太いもので、空気を抜くことが望ましいでしょう。そこで、柔らかくて、針より太いチューブを胸腔内に入れておき、このチューブ(ドレーン)を介して、しばらく継続して脱気し続け、余剰空気や液体を排出するようにします。ほとんどのドレナージではシリコン製のチューブが使われ、外径は1センチ前後です。もちろんチューブだけでは空気は抜けませんので、継続的に空気を抜くための装置(ドレナージシステムと呼ぶ)が必要です。

Q)チューブ(管)だけで、気胸が良くなるのですか?

A)よくなることが多いですが、工夫が必要です。

気胸をよくするためには、チューブ(ドレーンと呼びます)の大気側(体外側)の出口を、空気が一方向にしか流れない構造にしておくことが必要です。チューブの体外側の出口には、空気が体外に出て体内に戻ってこないような構造を持った一方向弁(フラッターバルブとか、開発した人の名前を付けてハイムリッヒ弁と言う人もいます)がついています。蓋のようなものでも、柔らかいゴム手袋に穴をあけたようなものでも、機能的には十分ですが、胸腔からは、空気以外にも、液体や少ないながらも固形物が排出されるため、一番よく使われるのは、水を入れた瓶を使う方法(水封式)です。瓶に溜まった水に、チューブの先を浅く浸けておくと、水が一方向弁の役割を果たします。詳細な説明は省きますが、瓶の数やつなぎ方を工夫すれば、体内から出てくる液体なども回収できます。何より簡便で、トラブルが少なく、優れた方法です。このような瓶を、一つのパッケージにして販売されているものがドレーンバッグで、箱型の容器になっています。こうした装置とチューブを含めた全体を胸腔ドレナージシステムと呼びます。胸腔ドレナージは気胸治療の主役です。

Q)短時間で、肺を膨張させることは良くないのですか?

A)長期間萎んでいた肺を、急速に膨張させると、再膨張性肺水腫と言う合併症が発生しやすいと指摘されています。

気胸の治療で、萎んでいた肺が膨張する際に、肺の中に炎症が生じてしまう合併症があり、再膨張性肺水腫と呼ばれています。気胸を治療しているのに、逆に息苦しさや咳が出てしまうような状況になり、ひどい場合は萎んでいなかった肺にも炎症が拡がります。なぜ起きるかよくわかっていませんが、長期間萎んでいた肺を、急速に膨張させようとすると発生しやすいという指摘があります。萎んだ肺はゆっくり膨張させた方が良いという指摘は、おそらくこの合併症を懸念されているものと推測します。再膨張性肺水腫については、予見する方法や効果的な予防法がありません。治療は一般的な肺水腫の治療が行われますが、自然に改善することもあります。

Q)トロッカーとドレーンは、違うモノですか?

A):トロッカーは、チューブの形態(構造)から見た分類名称のことで、ドレーンは目的(機能)から見たチューブの呼称です。胸腔ドレーンとして、トロッカーチューブを使うことが多いので、胸腔ドレーンのことをトロッカーと呼ぶ医師がいます。

体内に入れるチューブのうち、二重管構造の医療用具をトロッカー(trocar)と呼びます。ドレーンは、排液を目的とするチューブ全般を言う言葉です。トロッカーは、内側に先端をとがらせた金属製の芯(内筒、内套、ないとうと呼びます)があり、その周りはシリコン製チューブ(外套)となった構造をしているものを言います。内外套は密着しており、両者を持って体に刺し込み、目的の空間に入ったら、内筒だけを抜いて、外套のチューブは、そのまま目的の空間に留置します。点滴の際に刺される、留置針と同じ構造(針は残らず、細いチューブだけ残ります)です。胸腔ドレーンは、トロッカー式のチューブを使って留置することがほとんどなので、胸腔ドレーンのことをトロッカーと呼ぶ習慣がある医師がいますが、同義ではありません。

Q)チューブを入れただけで、肺に開いた穴が塞がるのですか?

A)チューブは、直接肺の穴を塞いだり、病変を消失させたりはしません。開いた穴は、自然に塞がるのを待つだけです。

手術でもしない限り、肺に開いた穴は、生体の傷を直す力で塞ぐしかありません。そこで、より上手く生体の組織修復機能が働くように、環境を整えるような工夫が必要です。チューブやドレナージ自体が穴をふさぐことは考えられませんが、チューブを挿入することで、肺を十分膨張させることができれば、空いた穴に対する修復機転は働きやすくなる、という考え方はあります。肺が伸び、胸壁(あばら)に密着するほど膨張していれば、穴の場所の肺も、胸壁に接するようになり、穴は蓋をしたような状態になります。この状態が続けば、穴はふさがりやすくなると言うのです。肺を上手く膨張させることができれば、空気漏れを早く止めることができると考える人たちは、気胸を専門とする医師にも多数おられます。しかし、この過程を実際に見た人はいませんし、肺が膨張していなくても、穴が塞がっていることはよくあります。

血液や胸水、特に生体のたんぱく成分を含んだ胸水が溜まっていると、穴が塞がりやすくなるともいわれています。そこで、これらの液状成分を胸の中に長くとどめておけるように、チューブの配置を工夫すると良いとする意見もあります。

こうした工夫が、どの人に、どの程度有効かはわかりませんが、ただチューブを入れておくだけではなく、何か積極的に工夫をしていこうという姿勢は、無駄ではないだろうと思われますし、気胸治療に興味を持つ医師なら、多かれ少なかれ、こうした努力をしていると思います。

Q)痛くないように、胸にチューブを入れられないのですか?

A)日々努力しておりますが、無痛というまではできていません。

チューブを入れる際は、局所麻酔(傷の周辺に麻酔薬を注射する方法)をしてから始めます。チューブ挿入の際の痛みは、様々な要素が関わりますが、確かに技量も大きな要素です。当科では手技の一つ一つを吟味して、より痛みを感じないように、また、より安全に治療を完遂できるよう、努力しており、他院で入れた時より楽だったなどの、お褒め言葉をいただくこともあるのですが、全ての方に、全く痛みを感じずにチューブを入れるところまでには至っておりません。今後の医療の発展に、ご期待いただくしかありません。

Q)もっと細いチューブでは、だめなのですか?

A)当科では、入院して行う気胸の治療では細いチューブでの治療はお勧めしていません。

チューブの太さは、治療効果に関係ないとの報告もありますが、細いチューブの管理は非常に難しく、トラブルの原因になりやすいので、当科では入院治療として行う胸腔ドレナージには、あまり細いチューブは留置していません。細いチューブは本来、胸水(きょうすい、胸腔にたまった水分)を排除するためのもので、細いがゆえに折れやすく、詰まりやすいです。細いチューブは入れやすいことから、気胸治療を専門としない医師には好んで使われる傾向がありますが、細いチューブによるトラブルは、少なからず見受けられます。胸腔ドレーンの治療効率は、流体の力学から考えて、チューブの断面積が広いほうが断然優れています。気胸では、チューブを機能させることが治療の全てですから、少しでもトラブルが起こらないようなチューブ、つまり細すぎないチューブを入れることが重要と当科では考えています。当科では、細いチューブを入れる場合は、どうしても細くないと入れることができないような特殊なケースや、主として排水が目的のドレナージに限っています。

Q)気胸の程度に、分類があるのですか?

A)肺の縮み具合を分けた分類はいくつかありますが、重症度の分類ではありません。

肺の縮み具合を正確に計算するためには、肺の容量を計算する必要がありますが、簡易的に、平面的な胸部レントゲン写真で、肺の縮み具合(虚脱率)を調べて、気胸の程度として記録することはあります。面積を計算して、比率で出すほうが、より正確と思われて、いくつかの方法が提唱されてはいますが、意外と肺の大きさを計算することは簡単ではなく、実践的ではありません。そこで、さらに簡易に、鎖骨の高さを基準として肺の虚脱を2つに分ける方法が、よく使われます。ただし、レントゲン上の鎖骨の位置は、撮影時の姿勢によって大きく変わるので、絶対的な指標にはなりません。

間違えてはいけないことは、気胸では、診断時の虚脱率より、発症からの時間経過のほうがより重要で、虚脱の程度だけでは、気胸の重症度にはならないという点です。虚脱の程度が軽くても、軽症と判断してはいけません。発症からの時間が短ければ、どんな気胸もまだ虚脱は軽度のはずです。

Q)軽症の気胸とか、重症の気胸とかあるのですか?

A)気胸には重症度を示す分類はありません。気胸の重症度は、簡単に表すことは意外と難しく、何をもって重症とするかが課題です。

肺の虚脱率を重症度とみなす人がいますが、このやり方は上手くありません。確かに肺の虚脱の程度は、症状に現れることが多いのですが、別項に回答したように、肺がほぼ完全に虚脱しているのに、ほとんど症状がない人もいます。肺が虚脱していても、すでに空気漏れが止まっていて、症状が軽い人にまで、重症と言うわけにいきません。虚脱の程度と症状の程度は必ずしも、相関せず、重症度分類と捉えることは異論が多いです。同じ理由から、症状をもとに、重症度を決めることも、行われていません。初診時の状態は、発症からの時間的経過も加味して見ることも重要です。

次に、空気の漏れ具合を、重症度としてとらえる考え方です。気胸の進行速度は、空気漏れの程度で決まり、空気漏れがひどいものは、肺が縮むだけでは済まないこともあります。この考え方は、気胸を治療するうえでは、とても有益ですが、漏れている空気の量を簡易に測定する方法がありません。治療開始しないと、漏れている空気の量そのものはわからないのです。また、気胸がどこまで進行するかは、漏れている空気の多寡だけでなく、空気漏れがどのくらいの期間続いているかにも依ります。わずかな空気漏れでも長期間続くと、肺の虚脱は進行してしまいます。

概ね、症状は治療の緊急性を、肺の虚脱率は空気漏れの総量を、空気漏れの程度は進行の速度を、それぞれ示す指標であり、どれかひとつで、重症度を示すことは難しいのです。

Q)空気漏れが続くかどうか、目安や基準はないのですか?

A)確実な方法はありません。

呼吸器外科医ならば、独自に目安を持っているとは思いますが、科学的に立証された普遍的な基準はありません。空気漏れがひどい場合や、数日間空気漏れの程度がひどい場合は、しばらく止まらないと思うことが多いですし、実際そうですが、2か月続いた空気漏れが、手術予定日の朝に突然止まって、そのまま治ったような事例も経験したことがあります。逆に、わずかな空気漏れなのに、何週間も継続していることもあります。空気漏れがある場合、初診時や翌日の段階で、空気漏れが止まるかどうかを判断することは不可能で、安易にすべきでもありません。

Q)空気漏れが続くかどうか、いつまでに判断したらよいですか?

A)期限はありませんが、チューブ留置の期間が延びると感染のリスクが増しますので、何週間も様子を見るようなことは避けたほうがよいでしょう。

何も障害が生じないなら、ずっと様子を見てもよいのですが、いつまでも様子を見ていると、感染(化膿)のために、気胸の治療だけでは済まなくなります。空気漏れがあるかどうかを見るため、チューブ(胸腔ドレーン)が留置されているはずです。このチューブの周囲には、胸の中と胸の外をつなぐトンネルが形成されます。このトンネルを伝って、体の表面(皮膚)に常在するバイ菌が、体内に入り込み、胸の中(胸腔)で増殖してしまうと、傷が化膿したり、胸の中(胸腔)が化膿したり(膿胸のうきょう、という病気です)します。特に膿胸は、非常に薬が効きにくい化膿性の病気で、重篤な場合は、菌が血液にまで入って(敗血症はいけっしょう、という状態です)、菌が全身の臓器まで回ってしまうと、死に至ることもあります。こうした現象を、逆行性感染(ぎゃっこうせいかんせん)と呼び、気胸治療では絶対に回避したい状況です。

どのくらいで、逆行性感染が成立するかは、ケースバイケースで、数日以内に感染となることもあれば、半年近く感染を起こさなかったケースもありました。一般的には2週間程度が目安ですが、空気漏れが数日継続する場合は、しばらく空気漏れが止まらないことを覚悟しておいたほうが良いでしょう。

突然、空気漏れが止まることもありますが、医学的に手術が困難という理由で、手術を回避しているのでない限り、2週間以上、空気漏れが続く場合は、手術などの治療を検討し、遅滞なく実施されることをお勧めします。

Q)空気漏れに程度があるのですか?

A)公式に定義された分類はありませんが、空気漏れの程度は治療をする上で、重要な情報になります。

空気漏れは突然止まることもありますが、多くの場合は、徐々に漏れ方が少なくなっていき、ついに停止するという過程を経ます。そこで当科では、空気漏れの程度を5段階にして、毎日の経過を記録しています。0:空気漏れなし、1:咳や深呼吸時に空気漏れがある、2:会話時に空気漏れがある、3:息を吐くとき(実際には息を吸うときに漏れるが、息を吐くときでないと外から検出できない)に空気漏れがある、4:常に空気漏れがある、です。当科では、空気漏れの程度の推移を見ることは、空気漏れの停止を予想するうえで、非常に有益であると考えています。

Q)空気漏れはどのように調べるのですか?

A)胸腔内にチューブを挿入して、胸腔内の圧力の情報を得ることで調べます。

現在の診断技術では、胸腔にチューブを入れずに、空気漏れの有無や程度を知る方法はありません。胸腔内圧が、呼吸や発語などの際に上がってくるようであれば、胸腔内に余剰の空気が漏れた証拠であり、空気漏れありと判断できます。胸腔につながるチューブ内の圧力を、直接調べるデジタル式の圧力計装置も開発されていますが、まだ使われているのは一部で、チューブの先端を水中に沈めて、大気圧との圧力差を見る水封式システムを使うのが一般的です。

Q)ドレーンバッグの水が入っているところに泡が出たら、空気漏れがあるということですか?

A)厳格に言えば、水封槽の胸腔側の水位が(呼吸で)下がれば、空気漏れがあります。泡の出る出ないだけを見て、空気漏れを判断することは、間違いのもとです。

水封ビンの体内側の水位をよく見てください。水位は呼吸の度ごと、あるいは時間の経過に従って下がっていませんか?どの時間幅であれ、水位が下がっていれば空気漏れはあります。空気が漏れていれば、水位が下がる>下がる>下がる>下がる…>下がる>(敷居を超えて)泡が出る>(泡となった空気の量の分だけ)水位が一時的に上がる>下がる>下がる…の繰り返しのはずです。「>」と「>」の間の数が異なるということは、一呼吸当たりに漏れる空気の量が違うだけで、空気漏れがあることは同じです。水位が下がっていても、泡が出るまでに、何分もかかることもあれば、呼吸の度ごとに泡が出ることもある、その違いにすぎません。空気漏れがあっても、ちょっと見では、泡が出ていない時間帯はあるので、観察時間が不十分であれば、「泡が出ていない」=「空気漏れがない」と、誤って判定する可能性があることが、お分かりになったでしょうか。十分な観察時間を、具体的な数字で決めることは難しいですが、短い時間で判断するなら、先に述べたように、水位が下がるかどうかを見ることです。「泡が出る」=「空気漏れがある」は、完全にイコールではありません。下の問答も参考にして下さい。

Q)ドレーンバッグの水が入っているところに泡が出ても、空気漏れがないことがあるのですか?

A)空気漏れとは無関係に、ドレーンバッグの水封ビンを通して、体内外に空気が出入りして、泡が出ていることがあります。泡の出る出ないだけを見て、空気漏れを判断することは、間違いのもとです。

泡が出ているということは、胸腔側に余剰な空気があることを意味しますが、肺から漏れた空気とは限りません。水封槽は水を入れたただの瓶ですから、空気が大気中から胸腔内に逆行することがあり、胸腔内の余剰空気となっていることがあります。大気中の空気を胸腔内に吸い込むのは、水封式のドレーンシステムの欠点です。多くは胸腔内の圧力が、システムの想定値より下がりすぎている場合(過陰圧になっている時)に起こりますが、水封が機能不全状態となるような状況、例えばドレーンバッグを倒したり、水封槽の水量が減っていたりしたときにも、大気が胸腔内へ逆流することがあります。大気が水封槽を逆行する以外にも、胸腔ドレーン周囲の傷の隙間から、空気が胸腔内に吸い込まれたり、チューブとドレーンバッグの接続部分が緩んでいて、大気が胸腔に吸い込まれたりすることもあります。

Q)癒着療法とは、何ですか?

A)癒着療法は、肺とあばらの壁の間に、何らかの手法を用いて炎症反応を誘発し、組織修復機能を活性化させることで、肺の穴が塞がりやすい状況を作るとともに、胸腔の隙間をつぶして、肺が虚脱するのを防ごうとする治療を指します。

肺とあばらの壁の間に炎症が起きると、組織を修復するための重要な素材である線維や、組織修復役の細胞を含んだ浸出液が、肺とあばらの間に大量に出てきます。修復材料が十分ある環境となり、肺の穴が塞がることを助けます。また浸出液が、肺やあばらの表面から吸収される過程で、線維素材によって肺とあばらの間に癒着が起きます。癒着は線維組織による肺とあばらの接着を言います。癒着により、肺は線維組織を介してあばらの壁に引っ付き、離れなくなります。線維の中には細い血管ができることもあります。ブラは肺の表面にできて、肺とあばらとの隙間で大きくなり破綻しますので、ブラが成長する空間を線維で埋めることで、ブラの発生や成長を防ぐとともに、たとえ癒着とは違う場所で、ブラが発生し破綻したとしても、肺の完全な虚脱を防ぐことができます。

炎症を引き起こす手法は、さまざまです。化学物質を注入する方法が一般的で、欧米ではタルクという粉をまくことも多いようです。欧米では、手術のときも、気胸の再発防止を目的に、癒着療法をブラ切除と同時に行うことが通例と言われています。その際の癒着の方法は、胸膜を意図的に切ったり、強く擦って炎症を起こしたり、タルクなど薬をまいたり、といろいろです。国内では気胸の治療として使える癒着剤が、保険で認められていないこともあり、積極的には行われていません。タルクについては下の回答も参考にしてください。今、国内では、生体内で分解吸収されてなくなる手術用の縫合糸を、網状に編んだネットを肺の表面に固定する方法が手術中に行う癒着療法の代わりとして行われ、大変良い効果を上げています。

Q)癒着療法に使われるタルクとは、何ですか?

A)鉱物の一種で、悪性胸水の胸膜癒着療法に使われることがあります。

タルク(滑石)は本来、鉱石(珪酸マグネシウム)の粉で、ベビーパウダーやファンデーション、チョークなどに含まれている工業用品です。胸の中(胸腔)に撒くと、強い炎症が起きて、肺とあばらの間(壁側胸膜と臓側胸膜の間)に強固な癒着を生じさせます。

低品質のものは、発がん性のあるアスベストが含まれていることがあると言われ、急性の呼吸不全(ARDS)などの危険性を指摘する意見があって、日本では長く医療用としての製品はありませんでしたが、最近、医療用としての使用が許可されました。外国では、気胸の治療用としても使われているようですが、日本の保険医療では、胸膜癒着療法自体は悪性胸水に対する治療に対してだけ認められており、気胸治療には使えません。

Q)癒着療法はよくないと聞きましたが?

A)おそらく、癒着がうまくいかなかったときの次の治療(多くは手術)が、より困難になることを嫌うことによるものですが、急性の呼吸不全で死亡するような合併症が知られており、ほかにもいくつか欠点を指摘されています。

癒着療法は、諸外国では気胸治療として一般的ですが、国内では他の治療が有効でないときなどに限って行われることが多いです。国内では気胸治療用として、保険で認められた薬物はありません。

短期的にみると、癒着療法は発熱を伴うことが欠点です。注入する化学物質によっては、強い痛みがあることもあります。発熱と痛みは、程度の差はあれ、ほとんど必発といえる副作用です。物質を注入する方法は、注入する物質が移動して、癒着を必要としない場所にも溜まり、肺の柔軟性が落ちて、将来的に呼吸に障害を与えることも指摘されています。特に外科医が嫌う理由は、癒着によって次に胸の手術が必要になったとき、手術が難しくなるからです。外科医の立場からすれば、再発防止に癒着療法するよりも、気胸が再発したらまた手術をすればよいという主張です。

Q)気管支を詰める気胸の治療があるのですか?

A)あります。

肺の末端で空気が漏れるのが気胸ですが、空気漏れしている肺の領域に通じる根元側の気管支を詰める治療があり、気管支充填術と呼ばれています。病変への空気の流れを止めることで、肺からの空気漏れを止め、止まっている間に肺に、あいた穴が塞がるのを待ちます。気管支を詰める栓(開発者の名前を取ってワタナベSpigot(栓)と言います)は、気管支鏡と言う『のどから入れる内視鏡』を使って、目的の気管支まで運びます。詰め物は1か所だけでなく、複数の場所に置かれることが多いです。

詰めている間、空気が通らない肺ができるので、肺炎などの合併症が心配されますし、気管支を詰めても、なかなか空気漏れが止まらないこともあり、あくまでも手術を回避する必要がある場合に選ぶ治療法です。最近、保険が使える治療として認可され、当院でも実施しております。気管支充填術については『気管支充填、気胸』などで検索してみて下さい。

Q)気胸に関するガイドラインは、ないのですか?

A)これといえるガイドラインはありません。

海外には、気胸のガイドラインとして公表されているものがあるのですが、国内の自然気胸の現状と合わない個所があり、参考程度に使われているにすぎません。自然気胸の治療は、がん治療と違って、最適治療の基準が定めにくいうえ、国内には保険診療という枠があるため、海外との比較も簡単にはできません。理由はよくわかりませんが、国内の自然気胸データと海外データを比較すると、国内のほうが自然気胸の再発率は高いと言われています。治療では、例えば海外では癒着療法が一般的ですが、国内での癒着療法は、普通は最終手段としての位置づけです。気胸の再発率は、胸腔鏡の方が開胸術よりも高いけれども、胸腔鏡の方が国内では圧倒的に需要は高いです。そもそも、未だに気胸の原因もわからず治療をし、空気漏れが止まるのは運任せというのが現状です。科学的根拠やデータ通りに、治療が進まないということが、ガイドライン作成に至らない理由かと思います。